藤原江理奈

「身がすり減るような、ハードな役を演じたい」女優・広瀬すず、20歳の決意

8/21(火) 9:00 配信

「根が負けず嫌いなんです」。そう話すのは、今年6月、20歳を迎えた女優・広瀬すず。14歳で芸能界デビューしてから、数々の映画、ドラマ、CMに出演し、雑誌モデルとしても活躍してきた。濃密な10代の日々を振り返り、女優業への熱い思いを語った。(撮影:藤原江理奈/Yahoo!ニュース 特集編集部)

(文中敬称略)

「広瀬すず」をすべてなくす

「『あ、自分がこの映画壊すな』って思ったんです」

「これから先、自分の中にずっと残り続ける感情を味わった」と振り返るのは、2016年に公開された映画『怒り』だ。李相日監督のもと、沖縄で残酷な事件に巻き込まれる17歳の少女・泉を演じた。

「嘘のないお芝居をしない限り、何時間経ってもカメラを回してもらえない。結局私は、感覚もしぐさも、瞬きの間(ま)も、全部『広瀬すず』なわけです。それをすべてなくし、カメラの前に立って、17年間生きてきた女の子を生きなきゃいけない。完全に役にならないと、監督にばれてしまうんです。逃げ道がなくて、ジリジリ、ジリジリ……と心がえぐられていきました」

李は演技指導が厳しいことで知られる。

「もう本当にボロクソ言われて。そこまで言ってくれた人は初めてだったから、『私今まで、調子に乗ってたのかも』と気付きました。これまで自分は気持ちよく演じていたけど、実はひどい演技を世の中に見せていたんじゃないか、と」

吉田修一の原作小説を読んで、「絶対自分がやりたい」とオーディションで勝ち取った役だ。この映画を自分が台無しにしてしまうのではないか――。不安が頭をよぎった。

「現場に入った後で、他の人のほうが良かったと言われることはないはず……と思いつつ、最悪の事態もいろいろ想像して。(役を降ろされるのは)『絶対イヤだ!』と火がつきました」

撮影を終えて時間を経た今も、李と会うと、どう話したらいいか分からないという。

「ずっと『泉』の話し方、テンションで接していたから、改めて会うと何を話せばいいのか、どういう距離感でいればいいのか、よく分からないんです。広瀬すずとしては『はじめまして』の感覚。監督には『怖がらないで』って言われるんですけど(笑)。私にとっては大きな、本当に大きな出会いですね」

バスケットボールで培われたもの

デビューは14歳。姉・広瀬アリスが芸能活動をしていたことがきっかけとなった。姉が専属モデルを務める雑誌『Seventeen』のイベントに来場した際、姉の所属事務所社長から声を掛けられた。

「自分で自分の人生を決めたことがあんまりないような気がします。流されやすいというか。でも根が負けず嫌いだから、『お姉ちゃんがいたから(芸能界に)入れたんでしょ』って言われると、『やってやる!』という気持ちになって(笑)」

何かに取り組んだら、とことんやらないと気が済まない性格だ。小学校2年生で始めたバスケットボールも、姉がきっかけだった。姉が入部していたため試合の人数合わせで入ったが、「負けず嫌いだから」、次第にうまくなりたい、試合に勝ちたいという気持ちが芽生えていく。「全国大会を目指したい」と願うほどに熱中し、中学校に入っても続けた。

バスケ部の経験は撮影現場でも生きているようだ。最新出演映画『SUNNY 強い気持ち・強い愛』の大根仁監督は、広瀬についてこう言う。

「全体を見渡しているというか、作品、チームのために自分に何ができるか、考えている感じがしますね。小学校の頃からやってきたバスケの影響が大きいんじゃないかと思うんです。共演者の精神状態が今どういう感じで、どうしたらよいかとか。積極的に声を掛けるわけではなく、物を言わずに空気をつくっていく」

バスケが現場での振る舞いに影響しているか、広瀬自身にも尋ねた。

「あると思います。自由にお芝居をする現場だと、少し空気が緩む瞬間ってあるんです。それを察するのは結構早いのかもしれません。『もうちょっと緊張感がほしいな』と思うと、言葉で伝えるのではなく、なんとなく場を引き締めるような“姿勢”を見せたりします」

周囲を見渡す性格は「バスケだけではなく育った環境も影響していると思う」と続ける。

「私は末っ子で、兄と姉のほうが自由奔放。自然と周りを見るタイプになったのかもしれません」

大根は広瀬の魅力を「正統派で、憂いやはかなさがある」と語るが、『SUNNY』では別の面を引き出した。「次女っぽい、“ちびまる子ちゃん”的なふざけた要素があるのではないか」と推察して、コメディー演技に挑戦させている。

舞台は1990年代。広瀬が演じたのは、淡路島から東京にやってきてコギャル文化と仲間に出会う女子高生だ。

©2018「SUNNY」製作委員会

あか抜けない姿や家族との軽妙な掛け合いが、笑いを誘う。広瀬自身、まさに「ちびまる子ちゃん」と呼ばれていたことがあるそうだ。

「姉が『まる子』って呼ばれていて、その妹だから『ちびまる子』。地元も静岡で、まるちゃんと一緒ですし」

初めて「芝居って面白い」と感じた時は

広瀬は大根と「やっと一緒に仕事をさせてもらえた」とうれしそうに話す。実はデビュー間もない頃、大根作品のオーディションに落選した。当時の印象を大根はこう語る。

「そのオーディションでは役柄と年齢の兼ね合いが悪く、『ごめんなさい』したんですが、すごい子が出てきたと思いました。抜群の存在感で、演技の“運動神経”がすごくいい。スポーツに例えると、経験のない少年サッカーチームでみんながいっせいにボールを蹴り始めた時、一人だけうまい子がいるという感じ」

広瀬はいくつものオーディションを受けているが、「受かっている数のほうが圧倒的に少ない」と言う。落選する気持ちについて聞くと――。

「ほかに受かった人がいるんだと思うと……。自分に足りなかったものを持っている人が受かっているわけですから。刺激になるし、落ちた作品は観に行きました」

活躍の裏に、生来の負けず嫌いな性格がある。初めて「芝居って面白い」と感じたのは、映画『ヒミズ』(2012年)を観た時。園子温がメガホンを取ったこの作品で、主演の染谷将太、二階堂ふみは、ベネチア国際映画祭で新人賞に当たるマルチェロ・マストロヤンニ賞を受賞した。

「染谷さんも二階堂ふみちゃんも当時10代で、映画を観ながら、自分とそんなに年齢が離れていないんだなって。『自分もこういう作品で、こういう表現の仕方をしてみたい』とその時思いました。今もまだできていないですけど」

身がすり減るような、ハードな役を演じたいという。

「観る人に“生っぽい”感情を届けられるようになりたいです。リアリティーのある演技で、作品で描かれていることを非現実的なものではなく、現実に起きていることとして感じてほしい」

4歳上の姉はシリアスな作品に多く取り組んでいる。

「姉がハードな役を演じていると、うらやましいなって思います。タイプややり方が違うから、役について相談し合ったりはしないんですけど、一番身近な存在だからすごく刺激になりますね」

孤独を感じる瞬間に支えてくれる人

一躍脚光を浴びたのは、是枝裕和監督の映画『海街diary』(2015年)。台本は渡されず、直前に監督から台詞を伝えてもらうという演出だった。その後、同じく是枝の『三度目の殺人』(2017年)で日本アカデミー賞最優秀助演女優賞を受賞する。

今年、是枝は『万引き家族』でカンヌ国際映画祭のパルムドールを受賞した。

「是枝組の皆さんを家族みたいに思っている感覚があって、自分のことみたいにうれしかったです。映画を観た後にすぐメールをお送りしました。『ちはやふる』で一緒だった松岡茉優ちゃんにも。『万引き家族』で茉優ちゃんが演じた役はハードだったし、『いいなぁ、茉優ちゃん!』って思いました(笑)。また監督の作品にご一緒させてもらうのは、目標の一つです」

是枝は、折に触れて広瀬にアドバイスを送り、ドラマの撮影現場などに顔を出すこともある。

「是枝監督は、この世界で一番、心強い存在です。役と向き合う時に、孤独を感じる瞬間が必ずある。自分とは違う誰か知らない架空の人物がいて、その人に急にのめり込まなきゃいけない。その人の人生を自分が代表して歩まなきゃいけない。監督に演出してもらっても、周囲の人からアドバイスをもらっても、結局その人物を生きるのは自分。ちょっとしたズレで孤独を感じたり、『疲れた』と思ってしまったりすることがあるんです。そんな時、是枝監督の存在で『まだ頑張る体力余ってるな、自分』って気付くことができる。なんとなく『監督が近くにいてくだされば大丈夫だ』と思えるんです」

ドラマ『anone』(2018年)に主演する際は、是枝から「(共演の)田中裕子さんはすごい女優さんだから、絶対にたくさんのものを吸収してください」と連絡が来た。

「裕子さんはすごかったです……。演技をしているという感じがまったくしなくて、たくさんの感情をくださる方。例えば泣くシーンを撮る時は、そういう心の準備をしておかなきゃいけないわけですが、裕子さんが台詞を話すと、準備とか関係なくリアルな感情がこみ上げて、自然と涙が出てくる。『anone』の現場は本当に楽しかったです。お芝居をすることがすごく楽しくて、今も『あぁ、あの中で生きたんだな、また生きたいなぁ』という気持ちがずっとあって……」

出演作品や監督、先輩俳優について尋ねると、言葉が次から次へとあふれ出す。「悩みはため込んで、解消もしない。でも大丈夫なタイプ」と自身を分析する。タフでしなやかな感性で、恵まれた出会いのなか、刺激を受けて吸収している。

2019年4月からのNHK連続テレビ小説『なつぞら』ではヒロインを務める。20歳を迎えた6月にクランクインした。「朝ドラが自分にとって、また一つ大きな転機になったらいいな」と明るく話す。

前出の大根は、これからの広瀬にこう期待する。

「自分の中で今はまだ抑えているようなものが、何年かしたらきっと出てくると思う。その時がまた変わる時期なんじゃないかな」

少女から大人へ、変化する姿を見逃せない。


広瀬すず(ひろせ・すず)
1998年生まれ。静岡県出身。2012年、雑誌『Seventeen』の専属モデルとなる。13年、ドラマ『幽かな彼女』で女優デビュー。映画『海街diary』『ちはやふる』(三部作)『怒り』『チア☆ダン~女子高生がチアダンスで全米制覇しちゃったホントの話~』『三度目の殺人』『ラプラスの魔女』、ドラマ『学校のカイダン』『anone』など出演作多数。映画『SUNNY 強い気持ち・強い愛』は8月31日(金)公開。

ヘアメイク:牧田健史
スタイリング:丸山 晃


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