伊藤圭

「天才」か「不器用人間」か――気持ち悪い、かわいい、理解できない。野性爆弾くっきーの魅力

8/5(日) 9:55 配信

芸人仲間から「天才」だと評される男がいる。目下ブレーク中の野性爆弾・くっきーだ。奇抜な設定のネタを披露するだけではなく、自らの手で絵画、映像、音楽、小道具を制作し、型にはまらない創作活動を展開している。

『超ハマる! 爆笑キャラパレード』『めちゃ×2イケてるッ!』(フジテレビ系)出演をきっかけにじわじわと支持層を広げていき、顔を真っ白に塗って有名人になりきる「激似顔マネ」はインスタグラムでも拡散されて話題となった。

長年、お笑い界の片隅で埋もれていた才能に突如としてスポットが当たった。本人はこの状況をどう捉えているのだろうか。(取材・文 ライター・ラリー遠田/写真・伊藤圭/Yahoo!ニュース 特集編集部)

「いずれゴリゴリに嫌われて、みんな去っていくと思う」

くっきーの手がける展覧会「超くっきーランド」シリーズは東京・原宿を皮切りに、岡山、千葉、福岡などで開催され、いずれも大反響を巻き起こした。2018年3月には台湾でも行われ、1カ月で約10万人を動員。その人気は海を越えた。だが、本人はいたって冷静だ。

「僕、『シザーハンズ』(人造人間と少女の交流を描いた映画)と同じルートを辿ってると思うんですよ。最初に出てきたときはバケモン扱いされて、その後で『あれ、実はこいつ、かわいいやつちゃうん?』って、みんながちょっと好きになるじゃないですか。今がその状態なんです。でも、結局『やっぱりこいつ、バケモンや』って追いやられる。僕もいずれゴリゴリに嫌われて、みんな去っていくことになると思います」

空前絶後のブレークにも全く動じていないのは、今でも本人が舞台に上がり、生の観客のシビアな反応を間近で見ているからだ。野性爆弾が登場すると「あっ、くっきーだ!」と観客たちは好奇の目を向けるのだが、いざネタが始まるとその和やかな空気は一変してしまう。

「ネタをやると客がホンマに引いていくんですよ。鎌で局部を切ったり、肥溜めで顔を洗ったりするネタばっかりですからね(笑)。テレビではいい面しか見えないけど、ネタだとリアルに気持ち悪いところも出てくるから引いてしまうんでしょうね。キレイやけど毒持ってるキノコみたいなもんですわ。かわいい言うて食べてみたらゲロ吐き倒すんです」

伝わりにくく、気持ちが悪い。見る人の想像力が試されるネタ

デビュー当初から、くっきーの生み出す笑いはほかの何ものにも似ていない、独創的なものだった。「ボケ・ツッコミ」「フリ・オチ」といったお笑いのセオリーに縛られず、自由な発想でネタが展開していく。

彼がそういうネタを作ることができた理由のひとつは、もともとお笑い志望ではなかったからだ。バンドを組んでいた仲間がお笑い芸人の養成所に入ったのがきっかけで、自分も一緒に入ってみただけ。その時点でお笑いの基本的な素養が一切なかった。

「たぶん、お笑いが好きで入ってくる人って、ちゃんとお笑いの勉強をやってくると思うんですけど、それを知らんままで入ってるんで、なんかいびつな変なコントになっていったんやと思います」

伝わりにくく、気持ちが悪い。自分の作るネタの弱点はわかっていたが、決してやり方を変えることはなかった。

「なんか、曲げるのはダセえな、と思って。折れず曲がらず、日本刀みたいな精神でやってるんで」

「爆弾コント」と称する野性爆弾のコントは日本刀のように切れ味抜群。何の説明もないまま唐突にネタが始まり、くっきーとロッシーの2人が織りなす摩訶不思議な世界に連れて行かれる。異世界への冒険に必要なパスポートは「想像力」だ。

「僕らのネタは、セットも置かんと私服でそのままやっちゃうから、わかりにくいんでしょうね。イメージだけで作ってるんで、お客さんも一緒になってその設定を想像してもらわないといけない。だからついていかれへん人が多いんですよ。野性爆弾のコントを面白いと思えるのは想像力の豊かな頭のいい人です(笑)」

ネタは見る人の想像力が試される。このことが足かせとなって、野性爆弾はずっとメジャー路線に乗れずにいた。

個展をやるのも芸のうち。人前でネタやるだけが芸じゃない

顔を白塗りにする「激似顔マネ」などのポップなネタが注目されて、世間にもようやく、くっきーの魅力が伝わり始めた。

「白塗りも最初は寄せる気がなくて、ただ白い顔面っていうだけやったんですよ。でも、ET-KINGのいときんさん(故人)をやったときにめちゃめちゃ似たんですよ。それで似せる喜びを知って、そこから似せるのをやり出したっていう感じですね。キレイな人はあんまり似ないんですよ。整いすぎてるよりは特徴のある人のほうがいい。だから、柴田理恵さんとかめっちゃ似るでしょ?(笑)」

くっきーは、その唯一無二の芸風を評価され、芸人の間では以前から「天才」と呼ばれていた。だが、自分ではそうは思わないという。

「ホンマに天才な人は、その場所場所で合わせられる人やと思うんですよ。でも、僕はそれがでけへんから、ただの不器用人間。こだわって自分流のお笑いしかせえへんやつみたいに思われがちですけど、実は対応でけへん鈍くさいやつなんです」

個展が開催されてアート系の活動にも注目が集まっているが、それらの根底にあるのはあくまでも「笑い」だ。笑いのためにあらゆる分野の作品が存在しているのであり、笑いなしの純粋なアート作品はひとつもない。

6月に発売されたアートブック『超くっきー図鑑 Wataridori 渡り鳥』(ヨシモトブックス)でも、「チェチェナちゃん」をはじめとする代表的なキャラクターに扮したさまざまな姿のくっきーを目にすることができる。

「お笑いじゃないものをやるってなんかこっ恥ずかしいんですよね。格好いいって言われるのは恥ずかしいです。かわいいって言われるのは平気なんですけどね。かわいいは笑いの要素になるじゃないですか。(『超くっきー図鑑 Wataridori 渡り鳥』のカバー写真を指して)こんなおっさんがかわいいわけないですから」

ネタ以外の活動に力を入れている芸人は「本業に専念しろ」と叩かれてしまうこともある。だが、くっきーの中ではブレはない。すべては笑いのためにあるのだから。

「個展をやるのも芸のうちやと思ってるんですよ。人前でネタやるだけが芸じゃないですから。テレビ出るのも、変な歌を作るのも、全部お笑いなんで。芸人としては芸で金稼げるのが一番幸せじゃないですか。だから、芸の幅を広げて、もっとほかにやりたいいろいろな芸を見つけていこうかな、って感じですね。物作るのは好きですから。言うたら、僕の脳みそを置いていってる感じです。その都度その都度。点ですよね、点。すべては点でしかないんで。……なんか天才っぽい言葉挟んでいこうかなと思って。ダセえけどな、点でしかないって(笑)」

1976年03月12日生まれ。滋賀県出身。
1994年 に野性爆弾結成。コンビ活動の傍ら、展覧会『超くっきーランド』を開催するなどアーティストとしても活躍中。
初のアーティストブック『超くっきー図鑑 Wataridori 渡り鳥』(ヨシモトブックス)が絶賛発売中。超くっきーランドを開催中。

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