BCリーガー(福井&富山)が阪神タイガース・ファームとの練習試合で得たものとは
■阪神タイガース・ファームとの練習試合
独立リーグの選手にとって、NPBのチームと試合ができる機会というのは、非常に貴重だ。
BCリーグの石川ミリオンスターズは5月21日、福井ミラクルエレファンツは同22日に阪神タイガースのファームを迎え、交流試合を行った。(参照記事⇒交流試合)
また6月11日にはBCリーグ選抜がベイスターズ球場に集結し、横浜DeNAベイスターズのファームと一戦を交えた。(参照記事⇒投手編 野手編)
ある選手はそこでつけた自信によって、飛躍的に成長した。ある選手は己の実力を知り、何が足りないのかを痛感した。選手それぞれがさまざまな収穫を手にしている。
7月24日、阪神タイガース・ファームの本拠地である鳴尾浜球場に赴いたのは、福井と富山GRNサンダーバーズの合同チームだ。
タイガースの選手が試合前練習に汗を流している時間に到着し、まずはそのスイング、動きなどに熱心に見入った。
福井からタイガースに入団した片山雄哉選手が、バットなどの道具を両手いっぱいに抱えてBCベンチに運んできてくれた。先輩たちからも提供してもらったようだ。こういうことも、BCのチームにとっては非常にありがたい。
■タイガースの投手陣に対して・・・
タイガースの先発は岩貞祐太投手だった。5月の石川戦でも先発したが、石川の選手たちはそのキレや球の質に感嘆していた。
はたして今回もそうだった。3イニングス中、岩貞投手から安打を記録できたのは福井の澤端侑選手と清田亮一選手、2人だけだった。
初球からどんどん振っていきたかったという澤端選手だが、「できなかった。初球から準備はしていたけど、NPBの投手の球はそれ以上にキレがあって、差されてしまった。球の質が違う」と省みる。
ベイスターズ戦以降、「早いカウントから打ちにいくようにしている。自分から仕掛けていくことが大事なので」と、公式戦でも意識してやっているという。しかしこの日は対岩貞だけでなく、その後の谷川昌希投手、横山雄哉投手に対しても初球は見送ってしまった。
最終打席の牧丈一郎投手に対しては、初球を振ることができたが結果はファウル。「1球で仕留められなかった」というのも反省点に挙げる。
ただ、岩貞投手からヒットを放てたことは自信になる。
カウント3―1から岩貞投手のストレートをセンター前に運んだ清田選手も「1打席目、2打席目は一発で仕留められずファウルにしてしまった」と悔やむ。
谷川投手にはファウルで追い込まれて三振。「1コ差し込まれてしまっている。振り出しのスピードが足りなかったので、ヘッドが返る前に当たってファウルになってしまった」。
タイガース打線を見て「ファウルが少ない。捕られる、捕られないは別として、前に飛ばしている。しっかり振れている」と感心していた。
3番手の横山投手から右越え二塁打を放ったのは中村辰哉選手。しかし「実力はまだまだ。1球も無駄にしないようにしたい」とやはり凡打を反省だ。
今後に向け、「試合で感じたことを反映させていきたい。ピッチャーのボールにアジャストするとか、常に先の塁を狙うとか、そういうところも。過程も大事にしていきたい」と、5月の交流試合のときはケガをして出場できなかっただけに、この日は貴重な場となったようだ。
ラスト2回を投げた牧投手の145キロをとらえ、逆方向に打ち返した坂本竜三郎選手。中村選手のあと、途中からマスクをかぶっていた。
「牧さんは知らないと思うけど、僕は知っていたので絶対に打ってやろうと思っていた」と白い歯を見せる。歳は牧投手が1つ上だが、「啓新の牧」といえば同じ福井県内の高校生の間では有名だ。その牧投手の速球をヒットにできたことで自信を深めた。
このところ、バッティングはめきめきと上達している。「(田中雅彦)監督からは『タイミングの取り方がうまい。始動が早い』と褒められる。だからあまり球が速く見えない。どん詰まりとか、あまりない」と胸を張る。
そのあたりはキャッチャーをしていることと連動しているのだと、自己分析している。
以上の散発4安打のみで、得点は内野ゴロでのわずか1点に終わった。
ヒットは出なかったものの、「ダメ元というか、勉強しにきた」と富山のロイ鈴木選手は謙虚に話す。
「今年はそんな調子がよくない。自分らしいバッティングがしたいと思っていたけど、最初の2打席は自分らしさが出せなかったので悔しい」と顔を曇らせる。
しかし「3打席目はいい感じで初球から振っていけた。これからのシーズンにつなげたい。田中監督からも、1球目から様子見でなく、振っていく意識が大事だと教わった」と、しっかりと勉強はできたようだ。
■BCバッテリーはどうだったか
片や、守りでは被安打12で13失点した。与四球が合計9というのも大きな反省材料となった。
まずマウンドに上がったのは福井の園田彪投手だ。1週間前に先発を告げられたそうで、「2回と短いイニングなんで、まっすぐ中心でいこうと思っていた」と語り、1つの四球のみで無安打無失点だった。
「甘い球は逃さないって感じた。結果的に打ち損じてくれたけど、もっと厳しいコースにいかないと」と、結果だけに満足せず、その内容を自身に求めていた。
楊鑄真投手は味方の3失策に泣いた。そもそもクィックが苦手で、課題にしている。「なかなか修正できなかった…」と振り返った。
初球の入りもほぼボールからというのも悔いた。「初球、ストライクが取れるようにやっていきたい」。
味方の失策をカバーできる力をつけることも誓っていた。
富山から参戦した投手陣は4人だった。ウーター投手は先頭を四球で歩かせたものの、そのあとは3人でピシャリ。
「最初のバッターをきちんと取りたかった」と反省しつつも、「そのあと切り替えられた。リセットできた」と笑顔を見せた。
マウンドや審判の違いなど戸惑ったようだが、「そのせいにはしたくない」と言い訳はしなかった。
有馬昌宏投手は2四球を悔やんだ。「ふわふわしていた」というベイスターズとの選抜戦のときよりは落ち着いて投げられたことに安堵はしたが、「落ち着きを意識しすぎて、逆に自分の思いきりの良さが出せてなくて、丁寧にいきすぎた」という。
やはり対NPBというのは、「心のどこかで『いいとこ見せよう』って、平常心でなくなる」ようだ。しかし、それを乗り越えて結果を出さないことには、その世界には行けないのだ。
次の対戦ではまた違う姿を見せてくれるだろう。
山本雅士投手にとっては苦いマウンドとなってしまった。まず藤谷洸介選手には、追い込んでから2ランを浴びた。「決めにいった変化球が抜けて、真ん中にいってしまった…」。
それ以上に悔やまれたのは、横山投手への四球だった。「打つ気ないのはわかってたので、タイミングを変えてしまった。変に変えることなくいけばよかった…」。満塁にしてしまい、2連続押し出しと走者一掃の三塁打で「反省の多い1イニングだった」と唇を噛んだ。
しかし「投げた感触はいいほうではなかったけど、その中でそこまで崩れることなくできた」というのは、自分の中でたいせつにしたい部分だ。
六回からマスクをかぶった坂本選手は、同い年の小幡竜平選手に二盗、三盗され「(走ってくるのが)わかってる中で刺せなかったのは悔しい」と、闘争心を隠さない。
しかし「バッターの反応を見ながら配球できた」と、手応えを得たようだ。
ジェスチャーも大きくわかりやすく、ピッチャーに伝えた。「いつもやってるつもりだけど、やっぱり片山さんを生で見ると、自分ももっとやらなあかんと刺激される」と、5月の対戦に続いて、今回も片山捕手からいろいろ盗めたようだ。
しかし「いっぱい訊きたいことあったけど、挨拶だけしかできなかった…」と、しょんぼりする。素直である。またその機会があることを願う。(坂本選手 参照記事⇒交流試合)
■メジャーリーガー・ソラーテ選手の“日本デビュー戦”でもあった
この日、虎打線の中にはバリバリのメジャーリーガーがいた。タイガースの新外国人、ヤンハービス・ソラーテ選手だ。来日直後で、この試合が日本での初実戦だった。
実は富山のブラソバン投手はサンディエゴ・パドレス2Aでチームメイトだったそうだ。よく一緒に食事や買い物をした仲だったというが、この日は話す時間もなく「手を振っただけだよ」と、ちょっぴり淋しそうだった。
はじめての対戦には「楽しかったよ。打ち取りたいって、アドレナリンが出たよ」と嬉しそうだったが、「ソラーテはパワーヒッターというよりも、うまくコンタクトしてくるタイプ。チェンジアップを投げたけど、崩れずにコンタクトするうまさがある」と犠牲フライを許してしまった。
だが、150キロ超えを連発し、自身のアピールは忘れなかった。
先発の園田投手は初回に当たったが、「オーラがありました」と、はじめて対戦したメジャーリーガーに興奮ぎみだった。
「まっすぐ中心でいったけど、浮いてしまってボール先行になった」とカウント負けし、四球で歩かせた。
しかし「こんな機会はなかなかないので、貴重です」と笑顔で振り返っていた。
楊投手は一ゴロに打ち取ったものの、「甘いボールはホームランにされそうな感じだったので、まっすぐで勝負するのが怖かった」とカーブを選択した。「変化球を狙って思いきりきた。高めにいったので振ってくれたけど」と胸をなでおろしていた。
リードした中村捕手も「選球眼がいい。BCはどんどん振ってくる外国人が多いけど、ソラーテは見る余裕があるように感じた。打席に入る前は毎回笑顔だった」と驚いていた。
対ブラソバン投手のシーンを振り返って、「まっすぐを待ってて変化球にしっかり対応できる。遅いチェンジアップだったので犠牲フライで済んだけど、まっすぐだったらセンターから逆にもっていきそうなスイングだった」と分析する。
「スイングの当たる幅が広い。嫌らしいバッターじゃないかな。淡白な感じがなかった。ミスショットしないイメージ。追い込まれても自分のポイントに呼び込めるバッター」と、さらなる“ファイリング”を明かしてくれた。
そして、ソラーテ選手から“おもしろい絡み方”をされた選手がひとりいた。福井の工藤祐二朗選手だ。
第4打席、四球で出塁したソラーテ選手は突如、いたずら心が湧いてきたようだ。一塁を守る工藤選手の肩や頬っぺをつついては笑っている。
「1球ごとに場所を変えて、いじられた~」と、試合後の工藤選手。「最初、『よろしくお願いします』って言ったら無視されて、そのあとお尻触って『よろしく~』ってカタコトで言ってきて…。そこからちょっかいが始まった(笑)」。
ある意味、“貴重な経験”をしたようだ。
■アピール不足に終わったBCリーガーたち
13-1で敗れた試合後、この合同チームを率いた福井の田中雅彦監督は嘆いた。
「技術的な部分は到底(かなわない)、差があるけど、なんとかアピールしようという気持ちが…。あるとは思うけど、それが表現できていなかった。声を出すとか、もっと見た目の部分でアピールができたんじゃないか」。
選手たちを鼓舞するため、混合チームだが試合前に円陣も組ませた。しかし…
「相手を目の前にすると、引いてしまっている。そういうところが淋しい。自信がないからだと思う。それだけ練習して、『ここで出すんだ』という気持ちがあれば、もっともっと出せたんじゃないか。そういうふうになってくれるよう、指導していきたい」。
たしかに、決して元気があるようには映らなかった。覇気が感じられないと受け取られてもしかたない。
ただ、NPBと試合をすることで刺激を受け、その後の公式戦で様変わりする選手も多い。そしてまた次のNPBの試合で、取り組んできたことの“答え合わせ”ができる。それがレベルの底上げになる。
今後もこういう機会が増え、プロ野球界全体が活性化されることが望まれる。
(撮影はすべて筆者)
【BCリーグ*2019ドラフト候補】
【BCリーグ*関連記事】
*横浜DeNAベイスターズ・ファーム対BCリーグ選抜【野手編】
*横浜DeNAベイスターズ・ファーム対BCリーグ選抜【投手編】
【福井ミラクルエレファンツ*関連記事】
*方向転換と大松尚逸の加入で好転!福井ミラクルエレファンツの逆襲がはじまる
*まさに“ミラクル”サヨナラ劇!福井ミラクルエレファンツが上昇気流に乗ってきた
*育成初のトリプルスリーを目指す!東京ヤクルト・育成2位、松本友
*阪神・鳥谷敬選手のように―福井の背番号1・松本友選手はNPBで鉄人を目指す
*BCリーグ新監督に聞く―田中雅彦監督(福井ミラクルエレファンツ)
*“野球好き女子”の野球との関わり方―福井ミラクルエレファンツの女性スタッフ
【片山雄哉*関連記事】
*崖っぷちからプロ野球選手という夢を掴んだ男・片山雄哉(阪神タイガース・育成1位)
*「絶対にプロに行く!」―片山雄哉(福井ミラクルエレファンツ)
*母の日
【富山GRNサンダーバーズ*関連記事】
*新監督対決を制した二岡智宏監督(富山GRNサンダーバーズ)
*BCリーグ新監督に聞く―伊藤智仁監督(富山GRNサンダーバーズ)
*BCリーグトークショー・伊藤智仁(富山)×村田修一(栃木)×佐野慈紀(石川)
*戦力外から裏方、そして再びプロ野球選手へ―150キロ左腕・古村徹(元DeNA)の復活と進化【前編】
*戦力外から裏方、そして再びプロ野球選手へ―150キロ左腕・古村徹(元DeNA)の復活と進化【後編】
*支配下→育成→戦力外→裏方→独立リーグ⇒NPB復帰〜破天荒な古村徹(DeNA)を支えた三つの思い〜1
*支配下→育成→戦力外→裏方→独立リーグ⇒NPB復帰〜破天荒な古村徹(DeNA)を支えた三つの思い〜2
*支配下→育成→戦力外→裏方→独立リーグ⇒NPB復帰〜破天荒な古村徹(DeNA)を支えた三つの思い〜3
*支配下→育成→戦力外→裏方→独立リーグ⇒NPB復帰〜破天荒な古村徹(DeNA)のエトセトラ
【湯浅京己*関連記事】
*鉄の意志を持つ“富山の末っ子”・湯浅京己がたった1年でプロ野球の扉を開いた(阪神タイガース6位)前編
*鉄の意志を持つ“富山の末っ子”・湯浅京己がたった1年でプロ野球の扉を開いた(阪神タイガース6位)後編
【石川ミリオンスターズ*関連記事】
*“石川のシュワちゃん”・永水豪が無尽蔵のスタミナでBC無双中《2019 ドラフト候補》
*後期優勝を狙う石川ミリオンスターズに死角なし!武田勝監督の手応え
*BCリーグ新監督に聞く―武田勝監督(石川ミリオンスターズ)
*10年目の石川ミリオンスターズ。阪神タイガース戦でドラフト候補がアピール
【寺田光輝*関連記事】
【山本祐大*関連記事】
*初の関西凱旋!ハマの正捕手を目指す山本祐大、いま試練のとき
*「ここじゃ終わらへん!」―ルーキーイヤーを終えた山本祐大(横浜DeNA)の中に今もあるもの
*プロ初打席でホームラン!山本祐大捕手は野球の神様に愛されている
*1軍デビューした19歳ルーキー・山本祐大捕手が“持ってる”ものとは