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銀座の400席・フード150品目のブッフェレストランが大盛況 40歳中国人女性経営者の手腕とは

千葉哲幸フードサービスジャーナリスト
銀座の400席のブッフェレストランのオーナー、孫芳さん(筆者撮影)

今年の2月、東京・銀座に250坪400席という巨大なレストランがオープンした。場所は、銀座通り、銀座八丁目交差点から築地方向へ50mほど、ドン・キホーテの地下にある。店名は「海鮮ブッフェダイニング 銀座八芳」。店名の冠にあるとおり、業態はブッフェで、フードの品目数は150以上。ずばりなんでもそろっている「食べ放題・飲み放題」のレストランである。料金は平日100分間9800円、土日祝日は120分間1万2000円(税込)となっている(5月1日より、全曜日で「120分間1万2000円」〈税込〉食べ放題飲み放題)。

同店を経営するのはFANG DREAM COMPANY(本社/東京都中央区、代表/孫芳)。こちらの女性経営者、孫さん(40歳)は、飲食業の夢を抱き行動力にたけた人物である。まずは、この銀座の店のダイナミックな営業状況を紹介しよう。

食べたいご馳走が何でも揃う店

フード150品目以上とはどれほどのものか。まず、これらの一部を書き上げるので、その迫力をイメージしてもらいたい。

・「蟹」タラバ蟹、ズワイ蟹、毛蟹、花咲蟹

・「焼肉」サーロイン(焼きすき)、牛タン、牛カルビ、牛ハラミ、牛ロース、豚トロ、豚バラ、豚ホルモン、豚ガツ、マルチョウ、ミノ、ハチノス、ソーセージ、など

・「比内地鶏焼き」比内鶏もも肉、比内鶏むね肉

・「馬肉焼き」馬肩ロース、馬バラ肉、馬ハツ

・「江戸前すし」まぐろ、白身、寒ブリ、サーモン、煮穴子、ボイルエビ、玉子焼き、など

・「手巻きすし」ネギトロ巻き、明太子巻き、トロたく巻き、鉄華巻き、ツナコーンマヨ巻き、など

・「箱すし」鰻、〆鯖バッテラ、ズワイ蟹

・「海鮮浜焼き」殻付き帆立、殻付きカキ、サザエ、蝦夷アワビ、有頭エビ、ハマグリ、イカ身、ゲソ、シシャモ、ムール貝、など

・「豊洲市場直送 お造り」マグロ赤身、マグロとろ、サーモン、寒ブリ、カツオ、赤エビ、真タコ、帆立、甘エビ、金目鯛、など

・「天ぷら」エビ、穴子、キス、イカ、シイタケ、マイタケ、ナス、さつま芋、レンコン、など

・「中国料理」北京ダック、エビのチリソース、エビのマヨネーズ和え、麻婆豆腐、青椒肉絲、黒酢酢豚、小籠包、鶏肉のカシューナッツ、牛肉のオイスター、ちまき、肉焼売、海鮮焼売、春巻き、イカとキクラゲの炒め、など

このほかにも「揚げ物」「サラダ」「スープ」「デザート」「食事」が、上記と同様のバラエティでラインアップしている。ソフトドリンク、アルコールも同様。とにかく「食べたい、飲みたいと思うもの」はすべて揃っている。

蟹や刺し身を満載したコーナーがひときわ存在感を放ち人気となっている(筆者撮影)
蟹や刺し身を満載したコーナーがひときわ存在感を放ち人気となっている(筆者撮影)

焼肉用の肉のコーナーでは、上質の食材がそろっている(筆者撮影)
焼肉用の肉のコーナーでは、上質の食材がそろっている(筆者撮影)

テーブルには焼き台が設置されていて肉やシーフードをフリーに楽しむことが出来る(筆者撮影)
テーブルには焼き台が設置されていて肉やシーフードをフリーに楽しむことが出来る(筆者撮影)

これらのフード、ドリンクは、店内奥に設けられたスペースに集約されている。ここはさながら「市場」にやってきたような雰囲気だ。人気メニューは、タラバ蟹、和牛の焼肉、北京ダック、江戸前すし、海鮮、焼肉など。お客は9割が日本人。予約で毎日350人以上が来店し、オープンの17時前には地下にある店舗の入口から地上につながる階段に行列ができる。食べ放題飲み放題だが、食べることに集中しているシーンが多い。

400席の客席の様子。ゆったりとした間取りで落ち着いて食事をすることが出来る(筆者撮影)
400席の客席の様子。ゆったりとした間取りで落ち着いて食事をすることが出来る(筆者撮影)

これからはやる中国料理を探し求めて

FANG DREAM COMPANY代表の孫さんは1983年11月生まれ、中国の河南省で飲食業を営む家庭で育った。子供の頃から日本のアニメやポップスなどに親しんで、2002年2月に留学生として日本にやってきた。それ以来、日本での生活が大好きになった。

大学卒業後、本社が中国にある日本支社に就職し、通訳・翻訳の仕事に従事した。中国の実家での経験から「いずれは自分も飲食店を営むもの」と考えていて、2013年10月に現在の会社を設立、2014年1月に創業の店である中国料理の「GINZA芳園」をオープンした。

1号店を銀座にした理由は、会社員だった当時に接待で銀座の飲食店を利用する機会が多かったから。そこで「人が集まる町の銀座は素晴らしい」と思うようになった。同店は広東料理で客単価は1万5000円程度と、銀座としては親しみやすい価格の店だ。料理長は、中国人の経営者のコミュニティで知ったホテルの料理長の紹介。この料理長はさまざまな業者とのつながりがあって、幸先よくスタート。テレビをはじめ、さまざまな媒体で紹介されるようになった。

2016年8月、2号店となる「銀座夜市」を同じ銀座にオープン。客単価6000円程度で居酒屋づかいもできる店である。「GINZA芳園」よりもカジュアルで利用パターンも多様なこの店も大層繁盛するようになった。

孫さんはこのようなヒットを続ける中で「日本でこれからはやるカジュアルな中国料理はないか」と考えるようになった。そこで中国本土での食べ歩きを続けた。そして初めて潮汕エリアに赴き潮汕料理の「鍋」を食べた。「これは火鍋の次の新しい人気をつかむことができる」と確信。魚介類のメニューが多いことも日本で親しまれると考えた。そこで日本で広めようと準備をしていたらコロナ禍になってしまった。2020年春の話である。

しかし、コロナ禍となり孫さんは出店攻勢をかける。一時期消極的になったが、いい立地で家賃が低い物件を紹介されるチャンスに恵まれ、不動産業者の人が「頑張ってください」と背中を押してくれるようになった。

コロナ禍がチャンスとなり店舗展開が加速

孫さんが東京・銀座で飲食店を繁盛させているという評判は中国でも知られるようになって、孫さんに新しいチャンスが次々と巡ってきた。

「火鍋」は中国でも人気を博すようになり、本店が四川省にある「賢合庄」という店が大きく隆盛、世界7か国に約1000店舗を構えるようになった。

そしてコロナ禍にあって、孫さんは同チェーンの本部から「日本で『賢合庄』を展開してほしい」とオファーを得た。同チェーンは中国のタレントなどが共同で起こした火鍋のブランドで店舗の内装や商品構成は若者向けのセンスにあふれている。2021年2月高田馬場にオープン、このエリアは中国人の留学生が多く、たちまち狙いどおりに中国人の若者に親しまれる繁盛店となった。

新規出店に際しては、中国人の料理長の伝手で中国人の料理人が集まってくる。このような人員の体制によって中国現地の店のような雰囲気が醸し出されて、ガチ中華をより魅力的にしていった。

そして、この間に新しい業態をつくった。それは「乾杯500酒場」。卓上にレモンサワーとハイボールのタワーを設置して、どちらかを60分間550円(税込)で楽しむことができるというもの。フードのメインは焼鳥だが、鮮魚や牛ステーキもある。この装置のある店は焼肉・ホルモンの店が多いが、「乾杯500酒場」の登場でこのジャンルが多様化してきている。この業態は新橋、神田、船橋に出店した。

さらに「孫二娘」ブランドで麺をメインとしたファストフードの展開に着手、高田馬場と船橋に出店した。

そして、上野広小路の物件所有者から出店の相談をされる。そこで、コロナ前に想定していた「火鍋」トレンドの次にくる鍋料理として、潮汕牛肉しゃぶしゃぶの「孫二娘 潮汕牛肉火鍋」を2022年12月にオープンした。同店は客単価6000円程度で、日本在住の中国人やガチ中華ファンの日本人で連日満席の店となっている。

コロナ禍にあってオープンした「孫二娘 潮仙牛肉火鍋」は「ガチ中華」のトレンドをつかみ取って大繁盛を続けている(「孫二娘 潮仙牛肉火鍋」提供)
コロナ禍にあってオープンした「孫二娘 潮仙牛肉火鍋」は「ガチ中華」のトレンドをつかみ取って大繁盛を続けている(「孫二娘 潮仙牛肉火鍋」提供)

こうして、2024年2月の「海鮮ブッフェダイニング 銀座八芳」のオープンに至る。孫さんが大好きな日本での、人々がハッピーになる飲食のビジネスの夢は膨らみ続けている。

フードサービスジャーナリスト

柴田書店『月刊食堂』、商業界『飲食店経営』とライバル誌それぞれの編集長を歴任。外食記者歴三十数年。フードサービス業の取材・執筆、講演、書籍編集などを行う。

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