新潟の153キロ右腕・長谷川凌汰、指名漏れからの進化《2019 ドラフト候補》

長谷川凌汰投手(撮影:Yoshioka Taira《埼玉武蔵ヒートベアーズ》)

(撮影:Yoshioka Taira《埼玉武蔵ヒートベアーズ》)
(撮影:Yoshioka Taira《埼玉武蔵ヒートベアーズ》)

 圧巻だ!

 6月30日、ハードオフエコスタジアムでの読売ジャイアンツ3軍戦。2番手でマウンドに上がった新潟アルビレックスBC長谷川凌汰は、2回をパーフェクトピッチ。

 一飛と5つの三振。五回から回をまたいで4者連続三振と、「ドラフト候補」の名に違わぬ投球を見せた。

 そしてその後、2戦続いた埼玉武蔵ヒートベアーズ戦で、完投勝利(7月6日)に次いで今季初の完封勝利(同15日)も収めた。

 そこには昨年とは違う、いや、ひと回りもふた回りも大きく進化した153キロ右腕の姿があった。

■昨年「足りなかったこと」

(撮影:Yoshioka Taira《埼玉武蔵ヒートベアーズ》)
(撮影:Yoshioka Taira《埼玉武蔵ヒートベアーズ》)

 今年こそは―。

 そんな思いが長谷川投手を衝き動かす。

 昨年のNPBドラフト会議。その会場で、「新潟アルビレックスBC・長谷川凌汰」の名前がコールされることはなかった。

 並みいるスカウト陣の前で自己最速の153キロを叩き出した。4球団から調査書も届いた。メディアにも度々取り上げられた。指名はほぼ間違いないだろうという空気が漂っていた。

 しかし、その手につかめると信じた夢は、するりと指の間をすり抜けてしまった。

 「ショックでした…」。

(撮影:Yoshioka Taira《埼玉武蔵ヒートベアーズ》)
(撮影:Yoshioka Taira《埼玉武蔵ヒートベアーズ》)

 ただ、切り替えは早かった。「人が評価すること。純粋にそのレベルじゃないんだと思った」と、次の日にはもう前を向いていた。

 「ドラフトが終わった瞬間から、次のドラフトまで364日しかない。足りなかったことをやれば、チャンスはある」。

 立ち止まっている時間など、長谷川投手にはなかった。

(撮影:Yoshioka Taira《埼玉武蔵ヒートベアーズ》)
(撮影:Yoshioka Taira《埼玉武蔵ヒートベアーズ》)

 「足りなかったこと」を冷静に分析した。昨年はストレートが速ければNPBに行けると思っていた。しかし高校生でもザラに150キロオーバーする時代だ。「153だけじゃ魅力はないな」と気づいた。

 そこで思い至ったのが、変化球の重要性だ。「変化球が弱い、安定しない」ということが課題だった。「ストレートと何か1つ、ウィニングショットがほしい」。

 昨年はカットボールを多用したが、福井ミラクルエレファンツ戦で片山雄哉選手(現阪神タイガース)に同点3ランを喫した。そのとき「見やすいよ」とアドバイスをもらった。フォークは抜けて真ん中に入って打たれるということも多かった。

 変化球の精度を上げることは急務だった。

ゴロ捕のあと、照れ笑い
ゴロ捕のあと、照れ笑い

 さらには「再現性」が大切だと考えた。「試合ごと、1球ごとのバラつき、ズレが大きかった」との反省からだ。

 「フォームはもちろん、スピード、フィールディング、佇まい…毎試合、同じパフォーマンスを出さないと」。

 いつ、どこで、誰が見ていても変わらず、常に最上の自分を出していくことが必要だ。

■腰痛のピンチからの収穫と清水章夫監督の助言

(撮影:Yoshioka Taira《埼玉武蔵ヒートベアーズ》)
(撮影:Yoshioka Taira《埼玉武蔵ヒートベアーズ》)

 ところが開幕直前、ピンチに見舞われた。腰痛だった。

 開幕に出遅れはしたが、しかし長谷川投手はそのピンチをみごとチャンスに変えてみせた。ポイントは使う筋肉の部位だった。

 「野球だけやっててあの張り感にはならないっていう話になって、トレーナーさんから『歩き方、走り方がちょっと悪い』って指摘された」。

(撮影:Yoshioka Taira《埼玉武蔵ヒートベアーズ》)
(撮影:Yoshioka Taira《埼玉武蔵ヒートベアーズ》)

 昨年までの長谷川投手は、猫背ぎみで膝を曲げたままで歩いていたという。「スクワットがかかった状態で歩いていた感じ(笑)」。

 この歩き方だと体の前の筋肉を使うことになる。そしてそれはそのまま走るときにも、さらには投げるときにもあてはまるという。

 「ピッチングでも前(の筋肉)優位になってしまって、疲れるとバランスを崩す。なので踵から入って、後ろの中臀筋やハムストリングを使いながら歩く。走るときも。後ろの筋肉を使って蹴ることで、自分が前に送られるように」。

先発直前、球場の外でストレッチ
先発直前、球場の外でストレッチ

 トレーナーの教えと同じようなことを、NPBのキャンプのお手伝いに行っていた宮沢直人選手もポロッと口にした。「NPBはランニングでも、お尻に刺激が入る走り方をするんだ」と。

 そこで、腰の痛みも治まってきたころからウォーキングやランニング、また普段の生活の中でも意識して取り組んだ。

 さらには可動域を広げるために初動負荷のトレーニングやストレッチ、また減量にも務めた(昨年103kg→今年97kg)。

(撮影:Yoshioka Taira《埼玉武蔵ヒートベアーズ》)
(撮影:Yoshioka Taira《埼玉武蔵ヒートベアーズ》)

 もともとは腰痛予対策のつもりだったのが、思わぬ“副産物”が付いてきた。疲れがたまらなくなったのだ。

 「去年は五回で代わっちゃうこともあったけど、今年は長いイニングが投げられるようになった」と、ここまですでに完投が3度、加えて延長十回引き分けゲームで九回まで投げたことも1度ある(昨年は2完投)。

 特筆すべきは、九回でも球の力が落ちなくなったことだ。さらに、この時期に先発で150キロ出るというのも、昨年にはなかったことである。

 また、課題だった変化球も精度が上がった。昨年のカットボールのスピードを落とし、130キロほどのスライダーで緩急を生み出している。フォークもワンバウンドになるくらい、よりベース板を狙って投げることで安定してきた。

(撮影:Yoshioka Taira《埼玉武蔵ヒートベアーズ》)
(撮影:Yoshioka Taira《埼玉武蔵ヒートベアーズ》)

 ただ、形として試合で顕れるまでには時間を要した。

 「前を使っての投げ方は体にメモリーされてるけど、後ろを使って投げるっていうメモリーがなくて。それで最初のほうはちょっと苦しんだ」と振り返る。

 筋肉の使い方が変わるということは、バランスも変わる。

 「以前だったら太ももの前の筋肉が発達していたから、(大腿)四頭筋を使ってグンって勢いで投げていた。でも今年は後ろのハムストリングのほうがちょっとパワーが出てきた中で、どこを意識してどうやって使って投げればいいのか悩んじゃって」。

 試行錯誤した。

ゴロ捕もきっちり
ゴロ捕もきっちり

 さらに別の悩みも出現した。今季は「いかに力感なく強いボールを投げるか」ということもテーマにしていた。打者も詰まっているし、昨年に比べてしっかりとらえられることも少なく、自分では手応えが出てきた。

 しかし6月11日に行われたBCリーグ選抜の試合で、周りからフォームについて「怖さを感じない」や「去年みたいな投げ方のほうがいい」などと言われ、自分の感覚と周りの評価のギャップに戸惑った。

清水章夫監督
清水章夫監督

 そんなとき「そうじゃないよ」と答えをくれたのが清水章夫監督北海道日本ハムファイターズオリックス・バファローズ)だった。

 「フォームじゃない。周りの目どうのこうじゃない。結果やで。結果を出すしかないんちゃうか」という言葉だった。

 「監督にそう言ってもらって気が楽になった。それでより試合に、よりバッターに集中できるようになった」。

■やってきたことは間違っていなかった

(撮影:Yoshioka Taira《埼玉武蔵ヒートベアーズ》)
(撮影:Yoshioka Taira《埼玉武蔵ヒートベアーズ》)

 そしてすべてがバチッと形になったのが先述のジャイアンツ3軍戦だった。当初、前日の先発予定だったが、雨で流れて翌日の中継ぎで投げた。

 「今日、めっちゃいいじゃん。なんだこれ、みたいな(笑)。NPBとの試合なので気持ちが入っているし、フォームのことも考えず、リリーフなので目一杯いける。その中でバランスというか、これでいいんじゃないかっていうのが見つかった」。

 ストレートもフォークも手応えアリアリで、打たれる気がしなかった。

(撮影:Yoshioka Taira《埼玉武蔵ヒートベアーズ》)
(撮影:Yoshioka Taira《埼玉武蔵ヒートベアーズ》)

 そのときに感じた感覚をたいせつに、それを持続させたのが次の武蔵2戦につながった。武蔵戦では2戦とも完投、2戦目は今季初の完封を成し遂げた。

 1戦目で気づいたことを“餌撒き”にして、2戦目は頭脳投球で散発の5安打、三振は2ケタの10コに上った。

 九回はクリーンアップ相手に3者連続三振で締めたが、空振り三振を奪ったラストボールは149キロ、渾身のストレートだった。

 「完封は狙っていた。チームが3連敗していたので、どうしても0で抑えたかった。九回にギアを上げられたのは、自分的にもよかった」。

 エースとしての役割が果たせたことは、心地よい充実感をもたらしてくれた。

(撮影:Yoshioka Taira《埼玉武蔵ヒートベアーズ》)
(撮影:Yoshioka Taira《埼玉武蔵ヒートベアーズ》)

 ここまでやってきたことが間違いではないということが立証された。これを“メモリー”として保存していくことが重要だ。

 「やっぱり無意識で投げてるフォームが一番いいフォームで、意識しちゃったら意識した分だけバランスって崩れていく。自分の外に意識を出してあげたほうがハマる」と気づいた。

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 それもまた、長谷川投手にとって一段階、ステップアップしたところだ。フォームや球速など自分と戦っていたところから、バッターとしっかり勝負できるようになったのだ。

 だからこそ、宮沢選手や樋口龍之介選手ら先輩野手からの“バッター目線”の話がすんなり自分の中に落とし込める。そういった話を頭に入れてマウンドに立つとまた、打者の見え方、感じ方も変わってくる。

■より高いものを己に求める

(撮影:Yoshioka Taira《埼玉武蔵ヒートベアーズ》)
(撮影:Yoshioka Taira《埼玉武蔵ヒートベアーズ》)

 今季も残り2ヶ月弱。アピールの時間も限られてくる。

 「まだまだアバウトなところが多々ある。立ち上がりの不安定さや変化球の弱さがまだまだ課題だと思っている。曲がり幅だったりキレだったりっていうのは、もっと上げいきたいし、まっすぐももちろんもっと上がると思っている」。

エースとして
エースとして

 昨年は夏場、調子を落とした。知識もなくコンディションの戻し方も知らなかった。しかし今年は違う。対応できる知識を得て、体もしっかり作り上げてきた。

 「このままパフォーマンスを落とさずに、逆に上がってくようにしたい」。

 1ミリたりとも隙は作らない覚悟だ。そしてそれがチームにとっては主戦ピッチャーの役割でもあると思っている。

 「僕が負けなければ、チームにとってマイナスになることはないんで」との自覚をもって戦う。

(撮影:Yoshioka Taira《埼玉武蔵ヒートベアーズ》)
(撮影:Yoshioka Taira《埼玉武蔵ヒートベアーズ》)

 昨年ドラフトにかからなかったことは本当にショックだったが、だからこそ、ここまでできた。

 「行けなかったからよかったわけじゃないけど、それは違うけど、でもより野球に没頭できているというか、より野球を知ろうとしている自分がいる」。

 マイナスをプラスに転じて、今年のドラフトに懸けている。

(撮影:Yoshioka Taira《埼玉武蔵ヒートベアーズ》)
(撮影:Yoshioka Taira《埼玉武蔵ヒートベアーズ》)

 2年目の今年、スカウトからの見られ方も昨年とは違い、求められるものはより厳しくなっていることもわかっている。

 「社会人2年目の同級生たちと一緒になるタイミング。去年なら『ここまであったら行ける』っていうラインを、たとえ今の自分が超えているとしても、今年の(自分に求められる)ラインはもっともっと上がっていると思う」。

 だからこそ、己に求めるラインを高く設定する。そしてそれをクリアすることで、NPBに一歩でも近づくと信じて臨む。

長谷川 凌汰(はせがわ りょうた)*プロフィール】

1995年11月8日生(23歳)/福井県出身

188cm・97kg/右投左打/A型

福井商業高校→龍谷大学→新潟アルビレックスBC(2018~)

《球種》ストレート、フォーク、スライダー、カットボール

《最速》153キロ

長谷川 凌汰*今季成績】

13試合 5勝1敗 完投3 67回 被安打47 被本塁打1 奪三振63 与四球13 与死球1 失点16 自責13 暴投3 ボーク1 失策0 防御率1.75 奪三振率8.46

(数字は7月20日現在)

(表記のない写真の撮影は筆者)

【2019 ドラフト候補】

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