10年目の石川ミリオンスターズ。阪神タイガースとの記念試合でアピールしたドラフト候補生たち

阪神タイガースと石川ミリオンスターズの記念撮影

■趣旨は「NPBへの輩出」

独立リーグは夢を諦める場所でもある」。そう語るのはルートインBCリーグ・石川ミリオンスターズの取締役である佐野慈紀氏(近鉄バファローズや中日ドラゴンズ、またアメリカでも活躍)だ。「自分に自信を持っている選手はたくさんいる。裏付けできる自信ならいいけど、そうでないのはただの過信。そこを勘違いしてはいけない」と言い、チームをあくまでも「NPBを目指すための“踏み台”」と位置づける。

掛布雅之監督と談笑する佐野慈紀取締役
掛布雅之監督と談笑する佐野慈紀取締役

それは代表取締役の端保聡氏の考えでもある。「ウチの趣旨は『プロ野球選手の輩出』ですから。もちろん勝負は勝たないといけませんが、それ以上にどれだけNPBに送り出せるかが重要なんです。(独立リーグでの)試合に勝とうと思えば、選手に長く続けさせればいいんです。ある程度、在籍年数の長い選手が多くいるチームは強いですからね。でもウチはNPBに送り出すことが第一で、無理な選手をいつまでも引っ張らない」。

チームの勝利のためだけに選手を長く在籍させることはありえないと、端保氏はきっぱりと言い切る。

■「勝ちながら育てる」―その中から生まれたドラフト候補生

目指すはNPB選手
目指すはNPB選手
試合前の整列
試合前の整列

石川に誕生し、今年10年目を迎えた。年々ファンも増えている。認知度も上がってきている。当然、ファンの期待に応える試合をし、勝利を届けたい。しかしそれ以上に選手にとっての“進路決定の場”でありたいのだ。

とはいえ、今年の石川は強かった。今年はADVANCE-Westにおいて前期が20勝12敗4分け、後期が21勝14敗1分けでいずれも1位。さらに地区優勝し、FUTURE-Eastの王者・群馬ダイヤモンドペガサスとのチャンピオンシップに臨んだ。残念ながらグランドチャンピオンシップには進めなかったが、大いに健闘した。

勝ちながら育てる」―最も難題といわれることだ。それを在籍年数の浅い選手が多い中で実践できたのは、ひとえに今年就任した渡辺正人監督の方針によるものだと佐野氏は明かす。

石川ミリオンスターズの選手の中には、懐かしい顔も!西村憲投手!
石川ミリオンスターズの選手の中には、懐かしい顔も!西村憲投手!

「ウチの選手は、技術はあっても応用力が乏しいという選手が多かった。試合慣れしていないというか、ゲームの中で考えることが幼いというかね」。そこで渡辺監督は前半戦、ほとんどサインを出さなかったという。「選手自身にどう戦うか、勝つためにどうしたらいいか考えさせた」。そして試合後に気づいたことを意見する。それをまた次の試合で生かす。その繰り返しで「技術だけでなく、野球における思考力の成長があった」と、選手個々の“野球偏差値”が上がったことがチーム力アップに繋がったと語る。

そして「確実に勝てる投手がいた」ことも要因に挙げた。安江嘉純投手だ。22試合に登板してハーラートップの16勝(1敗)、防御率1.79はリーグ2位、奪三振数はダントツの131だ。今年のドラフトでの注目選手でもある。

趣旨は「一人でも多くNPBへ輩出」だが、しっかりと勝ちながらその目的達成に向かっているのだ。

■4人のドラフト候補生

では佐野氏推薦の「ドラフト候補生」をご紹介しよう。

10周年記念試合グッズーボール
10周年記念試合グッズーボール

まず件の安江嘉純(やすえよしずみ)投手。中京高校から愛知学泉大学を経て、石川で2年を過ごした。185cmの長身から投げ下ろすストレートは最速151キロを誇る。スライダー、フォーク、チェンジアップ、カットボールの変化球に、安定したコントロールも備えている先発完投型の右腕だ。

1年目の今季、クローザーとして躍動した寺田光輝(てらだこうき)投手。40試合に登板し、防御率は1.11。リーグ2位の19セーブの成績を残した。筑波大出身の変速サイドスロー右腕は、頭もいいと評判だ。

10周年記念試合グッズーキャップ
10周年記念試合グッズーキャップ

内野手の坂本一将(さかもとかずまさ)選手は浦和学院―東洋大からセガサミーに進んだが、自らの意志で石川にやってきた。50m5.8の俊足に高い守備力。加えて、1年目でありながらチームの空気を変えられるムードメーカーでもある。

大村孟(おおむらはじめ)捕手は東筑高―福岡教育大から九州三菱自動車を経て、NPBを目指して石川入りした。強肩がセールスポイントだが、左打者としてバッティングも魅力だ。佐野氏によると「日ハムの近藤捕手タイプ」とのことだ。

■阪神タイガースとの10周年記念試合

阪神タイガースとの10周年記念試合
阪神タイガースとの10周年記念試合

そんな彼らがNPB指導者の前で猛アピールした。石川ミリオンスターズは10周年の記念試合に阪神タイガースを招いて9月29日、金沢市民球場で開催した。「ペレスが入団したり、一二三の派遣を受け入れたりでご縁ができたからね。それに石川ではジャイアンツより断然タイガースの方が人気ある。掛布さんが監督というのもあるから、多くの人が来てくれるんじゃないかな」と、佐野氏は開催の意図を語る。

朝から大奮闘のグラウンドキーパーさんたち
朝から大奮闘のグラウンドキーパーさんたち

心配された雨も昼前に上がり、グラウンドキーパーさんの尽力で練習もゲームもできるよう整えられた。

事前に募集した「練習見学ツアー」も好評だった。一塁側、三塁側のベンチ横からタイガースの練習を見学し、自由に写真も撮れる。間近で見るプロの姿に、参加者は大興奮だった。

また10周年の記念グッズも作製した。通常のミリオンスターズのロゴマークの横にタイガースのそれを並べ、帽子とボールにプリントして販売した。いずれも飛ぶように売れていた。

■4選手それぞれのアピール

ゲームは安江投手の先発で始まった。緒方森越今成と1軍経験選手から3連続三振を奪って立ち上がると、3イニングスを横田選手の右前打1本に抑え、“売り込み”に成功した。気温の低さもあり球速は146キロ止まりだったが、キレのあるスライダーや落ち方にバリエーションがあるフォークなど、1安打5奪三振、無失点で存分にアピールできた。

安江嘉純投手
安江嘉純投手

試合後、安江投手は「去年カープと対戦したとき、自分の力が全然足りないと痛感した。自分のいい球が真芯に当てられてヒットにされた。でも去年より確実に球が良くなったと思う。ファウルで自分の有利なカウントにもっていけたし、三振も取れた。今年たくさん経験させてもらったことが出せた。空振りは自信になりましたし、大きな1試合になりました」と振り返った。

寺田光輝投手
寺田光輝投手

1点リードの九回にマウンドに上がった寺田投手は無安打1四球、横田選手と坂選手からそれぞれ空振り三振を奪い、無失点でチームの勝利を確定させた。

「自分たちのチームのやってきたことを出せてよかった」とホっとした表情の寺田投手。タイガースの選手に対して「やはり体が大きくてスイングが速いですよね。いつも以上にコースを狙って投げました」と慎重に攻めたことを明かした。「体が大きい選手には力では勝てないので、細かいコントロールとバッターとの駆け引き、それに気持ちでは絶対に負けたくないんです」。気持ちの強さは、クローザーらしいといえる。

「頭がいい」という佐野評を伝えると、「ボク、意地悪なんです」とニヤリ。「頭がいいというより、勝負事ではどうやったら勝てるか、意地悪に考えるんです」と楽しそうに笑った後、「あ、でも普段は違いますよ」と付け加えた。受け答えからも、確かにクレバーさを感じさせた。

高校の先輩である今成選手からの贈りものに、笑顔の坂本一将選手
高校の先輩である今成選手からの贈りものに、笑顔の坂本一将選手

「お客さんがたくさん入ってくれて嬉しいし、タイガースファンの記憶にも残るプレーがしたい」。試合前、泥臭く熱くやるのがウリだと話していた坂本選手。そのバットから快音は聞かれなかったが、3打席すべて内野ゴロを打ち、駆け込んだ一塁での判定は際どいものだった。堅実な守備とともに、その“足”もしっかりと見せられた。

「追い込まれる前に仕留められなかった」と本人は省みるが、ファウルで粘って球数を投げさせるなど、先頭打者としての意識は伝わってきた。

「タイガースの選手は体の大きさ、厚みがすごい。プロは試合数も多いし、1年間戦える体は違うなと思いました。食事も工夫して、もっともっと力をつけないと」。得た課題はたくさんある。その一方で自身のスピードには自信を持てた。今後に向けて、やるべきことはハッキリと見えたようだ。

大村孟捕手は小豆畑選手から色々貰っていました
大村孟捕手は小豆畑選手から色々貰っていました

1―1の同点から試合を決めるソロホームランを放ったのは大村選手だ。「シーズン最後の打席でもあったので、後悔だけはしたくないってまっすぐを思いきって振った結果、いい方向に飛んでくれました。NPBの選手には何も勝てていない。三振してもいいや、上から叩こうって、それだけを考えて」と爽やかな笑顔で答える大村選手。

この日はタイガースの先発・横山投手から2三振していた。「いいピッチャーですよね。まっすぐの伸びが全然違う。格上だし、胸を借りるつもりでいったんですけどね…」。力の差を思い知らされた。

しかし逆に“指標”を得た。「あの球が打てないとNPBではプレーできない」と。「全体的にもっとレベルアップですね。守備もバッティングも。絶対NPBにいきたいし、いったら2軍で終わりたくないから」。新たな誓いを胸に、今季最終戦を締めくくった。

■これまでの10年、これからの10年

「この10年で認知度は確実に上がっている。選手の力、フロントの努力、市民の地道な活動…。この試合を境に、今度はこれからの10年を考えていかないと。タイガースさんに協力してもらえて、これをきっかけにさらに野球に目を向けてもらいたいし、もっと地域に根付いてほしい」と佐野氏は訴える。

西村憲投手、一二三慎太選手がそれぞれ懐かしい再会に笑顔
西村憲投手、一二三慎太選手がそれぞれ懐かしい再会に笑顔

昨年は長谷川潤投手がジャイアンツの指名を受け、育成枠で入団した。今年3月に支配下登録されると、5月6日に1軍で初登板初先発も果たし、フレッシュオールスターにも選出された。「次の10年を目指す上でいいきっかけになった。今年、来年とまたNPBに入ってくれれば、さらに認知度は上がる」。どんどん期待は膨らむ。

一人でも多くの選手をNPBへ」―しっかりとしたビジョンが選手を育て、チーム力を向上させる。そしてNPBに入る選手が増えれば注目度は上がり、さらにより良い素材が集まるだろう。そんな好循環を生み出し、石川ミリオンスターズは次の10年に向かう。