プロ初打席でホームラン!山本祐大捕手(横浜DeNA)は野球の神様に愛されている

プロ初打席を代打での2ランで飾り、笑顔が弾ける山本祐大捕手(写真提供:佐藤氏)

■山本祐大はびっくり箱だ

直後は驚きの表情(写真提供:佐藤氏)
直後は驚きの表情(写真提供:佐藤氏)

 ハマの夜空に高く高く舞い上がった打球は、そのまま大きな弧を描いてレフトスタンドに突き刺さった。

 代打での初打席本塁打。プロ野球史上16人目、セ・リーグの新人では3人目となる快挙を成し遂げた若武者は、驚愕の表情から一転、笑顔を弾けさせてダイヤモンドを一周し、祝福で沸き返るベンチに帰還した。

 出迎えたチームメイトたちは、“末っ子”の偉業を我がことのように喜んでくれている。この一発でスタジアムのムードは一気に様変わりした。

 横浜DeNAベイスターズ山本祐大捕手。弱冠19歳のドラフト9位ルーキーは、まるでびっくり箱である。何が飛び出すか予想もつかない。

(写真提供:佐藤氏)
(写真提供:佐藤氏)

 8月19日の対広島東洋カープ戦。前日に今季2度目の昇格をし、1軍で初めてもらえた打席はスコア2-9の7点ビハインドの八回裏、無死一塁。伊藤光捕手の代打としてコールされた。ラミレス監督のひらめきだった。

 昇格前のイースタン・リーグで打率 .184、1本塁打(51試合)という成績のルーキーをこの場面で使ったラミレス監督は「クレイジーと言われるかもしれないが、あそこで(起用が)よぎったので使った」と明かした。

■3球三振の覚悟

打席に向かう山本選手(写真提供:佐藤氏)
打席に向かう山本選手(写真提供:佐藤氏)
打席で(写真提供:佐藤氏)
打席で(写真提供:佐藤氏)

 対峙するのは左腕の飯田哲矢投手だった。

 「ファームでもあんまり代打からという経験がなかったんで、逆になくてよかったかな。あったらあっただけ考えてしまう性格なんで。(経験が)なかったから思いきっていけたかなと思う」。

 初球からスイングした。外の140キロまっすぐを空振り。経験者でもなかなか初球から振れないものだが、「やっぱ1軍で1打席も与えられるか与えられないかくらいだと思ってたんで、1打席もらったからには初球バーンと見逃してストライクとか、そういうのは絶対に嫌だなと思ってたんで。もう3球振って空振り三振なら仕方ないっていうくらい割り切って、それくらいの気持ちで初球から振っていきました」と振り返る。

ベンチに帰還(写真提供:佐藤氏)
ベンチに帰還(写真提供:佐藤氏)

 2球目の内に入るスライダーは見送った。そして3球目。

 「まぁ、スライダーかチェンジアップで三振は仕方ない。まっすぐを打ちにいこうと思った」。

 3球三振の覚悟も腹に据えつつ、インコースにきた142キロまっすぐに反応した。

 まさしく“反応”だった。腕をたたみ、うまく左肘を抜いて振り切った。“その球”を狙っていたわけでも読んでいたわけでもなかった。ただ「イメージはついていた。(ベンチで)『インコースに入ってくる球を引っ張る感じでいったほうがいいんじゃないか』と言われてたんで」。

■チームの輪に入れた実感

西川龍馬選手と(写真提供:佐藤氏)
西川龍馬選手と(写真提供:佐藤氏)

 芯に当たった手応えはあった。しかし上がり過ぎた打球を見て「入らないかなぁ、レフトフライかなぁ」と思いながら走った。走りながら、(左翼手の)野間峻祥選手がフェンスに張りついたのが見えた。「あれ?いや…でも、入りはせんやろなぁ」。そう考えて、さらに加速した。

 するとセカンドベースを回る直前くらいで打球がフェンスをまたいだことがわかった。

 「『え?』みたいな(笑)。ビックリしました。たぶんボクが一番ビックリしてました(笑)」。

入団祝賀会に西川選手から贈られた花(撮影:筆者)
入団祝賀会に西川選手から贈られた花(撮影:筆者)

 サードベースに到達すると、西川龍馬選手に「ナイスバッティング!」と声をかけられた。出身の大正リトルシニアの先輩である西川選手には、日頃から可愛がってもらっている。

 「龍馬くんがめちゃくちゃ笑ってたんで、ボクも笑ってもーて…(笑)」。帽子のツバに軽く手をやり「あざーす」と返した。

歓喜のハイタッチ(写真提供:佐藤氏)
歓喜のハイタッチ(写真提供:佐藤氏)

 ベンチはお祭り騒ぎだった。それまでの劣勢が嘘のように沸いていた。端から順にハイタッチを交わしていったが「いやぁ、あのときは嬉しかったですね」と白い歯をこぼす。「あれでチームの輪に入れたような気がしました」。安堵の表情を見せる。

 前回の昇格でも存在感をアピールできたし、今回もチームの面々はウェルカムの状態だ。しかし本人の気持ちの中ではまだ、完全に馴染めているわけではなかったようだ。

 「まだみんなと慣れてなくて。多少なりとも浮いてたっていうか…いや、浮いてたっていうのでもないけど、やっぱり1軍にいって間もないというか、一番年下だし、気軽に接せられるというのがなかったんで。あそこでちょっと溶け込めたというか、(チームは)馴染もうとさせてくれてたんですけど、やっぱり野球でのプレーで溶け込めた気がします」。

 そういうものかもしれない。目に見える形でチームに貢献できたことで、やっと一員になれたと実感が湧いたのだ。

(写真提供:佐藤氏)
(写真提供:佐藤氏)

 その後、表の守備に就く予定で防具を着け、キャッチボールを始めた。そのときだ。ソト選手が2ランを放ち、ベイスターズは一気に3点差まで詰め寄った。

 「あのときの球場の高ぶりはすごかったですね。ボルテージが上がってましたね」。思い出し、高揚した表情を見せる。

 しかし点差が縮まったことにより、守備機会はお預けとなった。すごすごと防具を外し、ベンチで声出しに徹した。

■感謝の気持ちを忘れない

ラミレス監督 左は大和選手(撮影:筆者)
ラミレス監督 左は大和選手(撮影:筆者)

 そんな山本選手にラミレス監督は直後に「スゴイ!」と日本語で声をかけた。そして後にこんなふうに語った。

 「ベリーハッピー。ものすごく嬉しかったよ。初打席で初ホームランなんてなかなか打てるものじゃない。それをやってくれて、多くの人の心にあの光景は残ったと思う。どれだけ歴史に名を残した選手でも、あれをやった人はほとんどいないので、それをやり遂げたというのは素晴らしいこと」。手放しで讃える。

 小川博文打撃コーチも「あの場面で、あんなきれいな打ち方でああいう対応して打ったのはオマエが持ってるっていう証拠やから。それは自信にしたらいい」と言葉をかけ、大きくうなずいた。

(写真提供:佐藤氏)
(写真提供:佐藤氏)

 山本選手自身も「インコースは狙ってないとプロの球は打てない。でもあんなきれいに反応できたのは自分でも初めて。あんなん練習でもしないし」と驚く。そしてこう続けた。

 「自分の力ではないと思うんで。周りのスタッフの方のサポートであったり、ファンの方たちの応援であったり、そういうのがあったからホームランが生まれたと思うんで。自分の力だけでは打ててなかった」。どこまでも謙虚だ。

 19歳のルーキーが代打のプロ初打席で本塁打を放ち、もっと有頂天になってもおかしくない。しかし山本選手は常に浮かれず足元をしっかり見つめている。いつも口にするのは周りへの感謝の気持ちだ。

■野球の神様に愛され続ける

(写真提供:佐藤氏)
(写真提供:佐藤氏)

 初めて昇格したのは5月だった。「前回はバタバタして、緊張してって感じだった。『上がるぞ』って言われたときに『えっ。どうしよ、どうしよ』みたいな感じで思って、『挨拶いかないとあかん。声出さないとあかん』って感じやったんですけど…」と振り返る。

 しかし二度目となる今回は落ち着いていた。それはファームの首脳陣から降格後、「1軍で上がるときのための準備をしとかないとあかん」と言われ、常に準備をしていたからだ。

 「いつ呼ばれてもいけるという気持ちでやってたんで、呼ばれたときは『よし、やってやろう!』という気持ちになりました」。

 一度1軍を知ったことで、より具体的にイメージして準備できたという自信も備わっていたのだ。

素顔はまだまだあどけない(撮影:筆者)
素顔はまだまだあどけない(撮影:筆者)

 これまで山本選手のことを「救世主」「ラッキーボーイ」「持ってる男」「びっくり箱」…などとさまざまな表現を用いてきたが、やっとわかったことがある。とどのつまり彼は野球の神様に愛されているのだ。

 しかし、これほどまでにその寵愛を受けるには、理由がある。それは万永貴司ファーム監督の言葉に集約されている。

 「日頃から本当に一生懸命やっているからですよ」。

 常に抜かない。誰かが見ていようが見ていまいが変わらない。自分のやるべきことを理解し、邁進する。それに加えて、決して驕らず感謝の気持ちを忘れない。そんな選手を野球の神様が愛さないわけがない。

キャッチャーとして(撮影:筆者)
キャッチャーとして(撮影:筆者)

 先発投手の登録の関係で再びファームに降格となったが、今はさらにやるべきことを見つけ、次の昇格に向けて準備をしている。

 今後、次々と試練は訪れるだろう。それらをひとつひとつクリアした山本選手は、その度に進化していくに違いない。

 「やっぱりキャッチャーなんでね。経験も大事になると思うし、1年間戦い抜く体力も要る。まだまだそれに達してないと思うんで、しっかり体づくりをしないと。それに技術面も。これに浮かれることなく、こういうときこそ初心に戻って、誰にも負けへんという気持ちでやっていきたいなと思います」。

 こういう姿勢でいる限り、これからも山本祐大は野球の神様に愛され続けるのだろう。

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