横浜DeNAベイスターズ・ファーム対BCリーグ選抜【野手編】
■栃木・寺内崇幸監督(元読売ジャイアンツ)が選抜チーム指揮を執った
6月11日に行われた横浜DeNAベイスターズ・ファーム対BCリーグ選抜チームの試合、今回は野手編だ。
(投手編はこちら⇒投手編)
野手に関しては、それぞれのよさを生かそうと寺内崇幸監督(栃木ゴールデンブレーブス)は配置に苦心した。特別ルールを採用し、守備位置も打順もコロコロ変えて、まんべんなくチャンスを与えるよう苦慮していた。
では、数人の野手をピックアップして紹介しよう。
■神谷塁選手(石川ミリオンスターズ)
「9番・セカンド」で先発出場した石川ミリオンスターズの神谷塁選手は、ほかにもサード、ショート、そして昨年以来のセンターやライトの外野にも就き、ユーティリティぶりを存分にアピールした。
そして、“今年の本職”であるショートでは3度のファインプレーを見せて、スタンドを沸かせた。
攻撃では敵失と二飛で快音は奏でられなかったものの、出塁するや次打者の初球に盗塁するなど、持ち味は発揮した。
「パッとはしなかった…」と試合後、顔を曇らせた神谷選手。しかし自分ではアウトだと思ったスチールがセーフになり、「スライディングは自信につながる」と胸を張る。
打席では「球数をあまり投げさせられなかったのが反省。でも当てるより、しっかり振れたのはよかった」と言い、初見の投手をどう打ち崩すかを課題に挙げていた。
めったにない展開だ。試合中、こんなにも守備位置が変わることはなかなかない。
「気持ちのつくり方が難しかった。ピッチャーも一生懸命アピールしている。ミスしたら申し訳ない。ピッチャーも人生が懸かってるので」。
なんと、自身のこと以上に投手のことを気遣っていたのだ。己が試される場で、こんなふうに他人を思いやれるというのはなかなかできることではない。神谷選手の器の大きさを感じずにいられない。
そんな中、しっかりと仕事はできた。「いろいろ守れたのはいい経験になった。久しぶりの外野は、周りがよく見えるなぁって思った」と、守備での対応力に手応えを深めていた。
そして、もっとも大きな収穫を得たと明かす。
「プロのシートノックとか、試合以外のところがすごく勉強になった。送球、ボール回し、タッチのしかた…。見ててカッコいいし、1コ1コしっかりやっている。練習から取り入れてやっていきたい」。
目を輝かせながら、早くも次に視線を向けていた。
■澤端侑選手(福井ミラクルエレファンツ)
福井ミラクルエレファンツからは3選手が参戦した。自チームでは不動の「1番・ショート」の澤端侑選手は、「2番・サード」でのスタメンだった。その後、ファースト、ショート、セカンドと内野をすべて守った。
打席結果は中飛、一ゴロ、四球で、盗塁を1つ決めた。
「こないだのタイガース戦(5月22日の福井ミラクルエレファンツ対阪神タイガース・ファームの交流試合)では粘り強いバッティングができなかったので、なんとか粘って粘ってと意識した」と話すとおり、2打席目は6球、3打席目は7球放らせた。
盗塁も「思いきっていった」と胸を張る。
ただ、試合前に課題に挙げていた送球難が顔を覗かせた。サードにて、レフト前に抜けそうな当たりを好捕したまではよかったが、ファーストへの送球が浮いてしまった。
しかしその後、ガックリくるところを即座に切り換え、次の打者の打球をジャンプ一番、しっかりとキャッチした。
慣れないサードの守備だ。ショートと比べると打者との距離も近く、打球も速い。待っている時間はない。
「打球が強烈でした」と苦笑し、「はじめてで感覚が違ったけど、怖いじゃダメ。思いきっていこうと思った」と、攻めの姿勢を貫いた。
今後に向けて「キャッチボールから胸にちゃんと投げることを意識して取り組みたい」と、引き続き送球を課題に挙げていた。
その後、嬉しいできごとがあったと明かす澤端選手。「金本(享祐=栃木)さん、社会人チーム(深谷組)の先輩なんです。久々に会えた」と頬を緩める。
「前は金本さんが投げているマウンドの後ろで守っていた。今日も懐かしい感じでショートを守った」。
目まぐるしく守備位置の変更があったにもかかわらず、金本投手の登板時にショートに就けた。まさかのタイミングに感激し、笑顔を弾けさせていた。
■須藤優太選手(福井ミラクルエレファンツ)
須藤優太選手は三回裏の守備から出場した。「あまり打席が回ってこないと思ったので、淡白にガンガン振って雑なバッティングにならないようにしよう」と臨んだのに、1打席目は4球で空振り三振に倒れた。
2打席目は「その反省を生かそうと思ったら、逆に消極的になってしまって…」と、結果は四球だった。満足いくアピールはできなかった。
「こんなプロとやるという貴重な経験だし、ほかのチームの人と一緒にやれることもなかなかない。でもコミュニケーションは難しい」。
はじめてのことに戸惑いのほうが大きかったのかもしれない。
開幕から全試合、センターでの出場だ。レフトに就いたのははじめてだった。「プロに入るには、いろんなところを守れないといけない。あらためてそこも練習していきたい」。
今後の練習から意識を変えて、取り組んでいくつもりだ。
■坂本竜三郎選手(福井ミラクルエレファンツ)
坂本竜三郎選手も途中出場だった。六回裏に指名打者の位置に入り八、九回にマスクをかぶって、2人の投手を無失点リードした。
練習中から投手に話しかけ、念入りに打ち合せをしていた。それ以外にも積極的に他球団の選手に話しかけるシーンが見られた。
「人見知りではないんで…」とはいうものの、最年少でありながら年上の選手たちによく話しかけられるものだと感心する。
しかし本人は意に介さず、「ほかの人から参考になる話が聞けると思って」と、あどけない笑顔を見せる。
相手のシートノック中もベンチの外に出てガン見していたし、試合前のブルペンにも足を運んで、先発投手のことも受ける捕手のこともじっくりと観察していた。
「学べるところがたくさんあって、しっかり見ようと思った」。
このはじめての機会を何ひとつ見逃すものかという姿勢が、随所に顕れていた。
そのおかげで収穫もたくさんあったようだ。「相手ピッチャーの球種もわかった」とニヤリ。どうやら今後の公式戦で活かすことができそうだ。
打席が回ってきたのは1度だけ。結果は空振り三振だった。
「ドタバタしたので、いつもみたいにピッチャーにタイミングを合わせたりっていうバッティングの準備ができなかった。準備が安心材料だから」と、通常の動きができなかったことを悔やむ。
準備はもっとも大切なことだが、こういう状況の中でもアピールできなければならないということを知れたのも、坂本選手にとっては勉強になっただろう。
そして宮本秀明選手に盗塁を許した場面を振り返っては、「もう一回やり直したい。(ボールが)握れなかった。捕ったときは余裕だなと思ったけど…すんごい後悔した」と悔しさをにじませる。
ふと、「(ゲームの)はじめからマスクかぶりたいなぁ」と無邪気につぶやいた。
次の選抜試合で先発マスクに抜擢されるためには、今後の公式戦で精進していくしかない。それは本人も重々わかっている。
「プロって2軍でも裏方さんがいて、いろいろやってくれる。すごくいい環境で羨ましいと思った。1年でも早くNPBに行きたい」。
そう決意を新たにする19歳だった。
■ひとりでも多くの選手がNPBでプレーできるように・・・
はじめて選抜チームの指揮を執った寺内監督は、こう語る。
「この時期にアピールすることで、見てもらう機会も増える。こうしてBCの選手のために試合をさせてもらえることに感謝している」。
試合後、出場した選手たちの力みを指摘し、「こういう見られている中で力を発揮できるかどうか。それも経験。そういう意味でもいい経験になった」とうなずいた。
「ポジションがかぶる選手が多くてバタバタしちゃった」と苦笑する寺内監督。すべての選手を活かしアピールさせようと必死であるがゆえに、選手交代に頭を悩ませたことが窺えた。
「実際に戦って、NPBとの違いを目の当たりにして、通用する部分と足りない部分がよりわかったと思う。今日学んだこと、自信になったことを後期に活かしてほしい。打席での球、投げているときや守っているときの相手打者…そういう空気感は、僕ら首脳陣が見るより本人たちが一番感じたと思うから」。
選手たちはそれぞれ課題というお土産を手にして帰宅した。見つかった課題は伸びしろともいえる。それを克服し、さらにレベルアップすることが夢に近づく手だてだ。
今後もBCリーガーたちの戦いは続く。ひとりでも多くの選手がNPBへ進めることを願う。
《全野手の成績》
(打数―安打―打点 K…三振 B…四球 S…盗塁)
〈捕手〉
速水隆成(群馬) 3-0-0 2K
坂本竜三郎(福井) 1-0-0 1K
茨城智也(滋賀) 2-0-0
〈内野手〉
谷津鷹明(栃木) 2-0-0 1B
青木颯(群馬) 3-0-0 1K 1B
神谷塁(石川) 2-0-0 1S
澤端侑(福井) 2-0-0 1B 1S
湯井飛鳥(滋賀) 2-0-0
〈外野手〉
カレオン(福島) 3-1-0 1K
加藤壮太(武蔵) 4-0-0 2K
石森亨(新潟) 3-0-1 1K
須藤優太(福井) 1-0-0 1K 1B
BC 001 000 000=1
DB 010 003 000=4
*6月11日 ベイスターズ球場*
(表記のない写真の撮影は筆者)
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