まるで林昌勇(イムチャンヨン)!武蔵のサイドスロー・松岡洸希の奪三振率に注目《2019ドラフト候補》

林昌勇(イムチャンヨン)そっくりな投球フォームの松岡洸希投手、素顔はあどけない

(撮影:Yoshioka Taira《埼玉武蔵ヒートベアーズ》)
(撮影:Yoshioka Taira《埼玉武蔵ヒートベアーズ》)

 「林昌勇イムチャンヨン)だ!」

 6月11日、ベイスターズ球場で行われた横浜DeNAベイスターズBCリーグ選抜の試合で4番目にマウンドに上がった投手を見て、驚いた。

 かつて東京ヤクルトスワローズのクローザーとして活躍した160キロ右腕そっくりのフォームだったからだ。

 キレのある球、落ち着いたマウンドさばき、堂々とした立ち居振る舞い、投げっぷり…。ああ、ベテラン選手か。そう思い、あとで名鑑を開いてさらに驚いた。

 18歳である。今春、高校を卒業したばかりのルーキーだ。

(撮影:Yoshioka Taira《埼玉武蔵ヒートベアーズ》)
(撮影:Yoshioka Taira《埼玉武蔵ヒートベアーズ》)

 埼玉武蔵ヒートベアーズ松岡洸希まつおか こうき)―。

 聞けば、投手を始めたのは高校3年のときだという。しかも野手との二刀流だった。

 おもしろい。俄然、興味が湧いた。

 どうやらNPBのスカウトも注目し始めている。そんな松岡洸希を追った。

■選抜試合の前と後

トレーニング
トレーニング

 ここまで23試合に投げて、防御率は4.12。奪三振率は10.71を誇る。

 実は先述の選抜試合をきっかけに、松岡投手は大きく飛躍している。選抜以降、奪三振は毎試合記録し、いまだ無失点だ。(詳細は後述)

 NPBの選手を相手に戦って、大きな自信をつけたことがその要因である。「選抜試合のおかげです」。そう言って無邪気に微笑む。

 この選抜試合を含め、これまで松岡投手には4つの大きな転機があった。そしてその転機を自分のモノにしてきた。

 では、それらを振り返ってみよう。

■松岡洸希、4つの転機

グラウンド整備も自分たちの手で
グラウンド整備も自分たちの手で

 野球を始めたのは小学1年のときだ。きっかけは、メジャーに渡る前の青木宣親選手だった。

 「ヤクルト対巨人のチケットをお父さんが持って帰ってきて、神宮球場で青木選手が活躍してるのを見た」。

 目に映ったそのかっこよさは鮮烈で、野球がしたいと思い、すぐに地元のチームに入ったという。

 高校は地元の公立校、桶川西高校に進んだ。理由は明確、「家から近いから(笑)」だ。2つ上の兄・立将(りゅうすけ)さんも通っていた。「強豪校に行きたいとかはまったくなかった」とキッパリ言いきる。

 というのも、この時点での松岡投手は身長154cm。「僕、そんなレベルじゃなかったし、強豪校に行ってもレギュラーになれないと思っていた」との考えもあった。

(撮影:Yoshioka Taira《埼玉武蔵ヒートベアーズ》)
(撮影:Yoshioka Taira《埼玉武蔵ヒートベアーズ》)

 野球人生最初の転機が訪れたのが高校3年の春だった。それまでショート、サードを守る内野手だったのが、チーム事情から投手も兼任することになった。“二刀流”である。

 夏の北埼玉大会、花咲徳栄高校戦ではサードでスタメン出場し、3打数3安打でタイムリーも放った。さらに2番手でマウンドに上がった。しかし敗れ、それが高校最後の試合となった。

 高校入学時は体も小さく、とてもじゃないがプロなど頭になかった。しかし投手を始めて北埼玉大会で143キロをマークし、注目されるようになった。身長も3年間で25cm伸び、179cmにまでなっていた。

■投手に絞って武蔵へ

(撮影:Yoshioka Taira《埼玉武蔵ヒートベアーズ》)
(撮影:Yoshioka Taira《埼玉武蔵ヒートベアーズ》)

 「上(NPB)でやってみたいな」―。

 頭をもたげた“夢”を、“目標”に変えたかった。そこで松岡投手が考えた進路が、高3のはじめにその存在を知ったというBCリーグだった。

 「大学に行くと4年、社会人でも3年かかる。力をつけて早く行きたかった」と、1年後にもドラフトにかかる可能性のあるBCリーグを希望した。

トレーニング
トレーニング

 投手か、はたまた野手か。

 「バッターへの未練もちょっとはあった」と明かし、「野手で」と希望してくれた球団もあって少々迷った。しかし最終的に投手1本に絞った。

 「最初は野手だけでよかったけど、ピッチャーをやるうちにどんどんピッチャーがやりたいと思うようになった」と、投手としてのやりがいを見出した。

 「(試合は)ピッチャーから始まるんで、自分がちゃんとやらないとプレーが成り立たない。球は速くないけど、三振を取ったときは嬉しい。それにまだ始めたばかりで、どこまで伸びしろがあるのかわからないから」。

 慣れ親しんだ野手より、ほぼ一から始める投手のほうが大変なのはわかっている。しかし、それでも未知数の可能性に賭けたかった。自分自身への挑戦だ。

 投手1本に絞り武蔵に入団したこと、これが2つ目の転機だった。

■サイドスローに転向

(撮影:Yoshioka Taira《埼玉武蔵ヒートベアーズ》)
(撮影:Yoshioka Taira《埼玉武蔵ヒートベアーズ》)

 続いての転機は入団直後だ。

 夏の大会後もしっかりトレーニングし、投げ続けていた松岡投手は10月に肘を痛めてしまった。幸いにも手術に至るほどではなかったが、2月にチームに合流した当初はまだ回復途上だった。

 それを見た片山博視ヘッドコーチ(元東北楽天ゴールデンイーグルス)から提案された。「サイドにしないか」と。

 体の使い方、骨盤の回転などから、横振りの松岡投手にはサイドのほうが合うという見立てだった。もちろん肘への負担も考慮されてのことだ。

トレーニング
トレーニング

 そこで動画を見て研究した。NPBでも数多いる横手使いの投手の中で、松岡投手が惹かれたのが林昌勇だった。

 「かっこよかったんで(笑)。まず一番いいなと思ったのが160キロ。サイドで160キロはなかなか投げられない。フォームも綺麗だし、よくあの細い体であそこまで投げられるなと思って。自分も体がデカいほうじゃないので、マネしてみようと思って」。

 完璧にコピーし、ブルペンに入った。そして一度のブルペンのみで翌日、オープン戦で投げた。「僕はこっちのほうがよかった、上よりも」と、すぐにしっくりハマった。

(撮影:Yoshioka Taira《埼玉武蔵ヒートベアーズ》)
(撮影:Yoshioka Taira《埼玉武蔵ヒートベアーズ》)

 その後、4月12日に公式戦デビューをしたが、最初は球がバラつきまくった。

 4月の4試合はすべてで四球を出して合計7つ、防御率は16.20だった。

 しかし、投げるごとに落ち着いてきた。5月になると9試合で四球は3つに減り、防御率0.00と得点を許さなかった。

 試合数を重ねて、フォームが安定してきたからだという。

■選抜試合がもっとも大きな転機に

片山博視ヘッドコーチ
片山博視ヘッドコーチ

 そしてもっとも大きな転機となった4つ目は、先述した選抜試合だ。

 実は伏線があった。松岡投手はこう明かす。「あの前の試合で片山さんに怒られたんです…」。

 同9日の対群馬ダイヤモンドペガサス戦、3番手で登板した松岡投手は2つの四球を与え、一死も取れずに降板した。

 「『恥ずかしい!正直、お前を選抜に連れていきたくない』って言われて…」。

 この日はNPBのスカウトが見にきていた。アピールしたいと意識するあまり力んでしまったようだ。

ストレッチは念入りに
ストレッチは念入りに

 それでも片山コーチは「今日のことはしょうがないから、切り替えていけ」と励まし、送り出してくれた。そこで奮起した。

 「相手はプロ。自分の持ってるものを出して打たれたなら、しょうがない」と、いい意味で開き直り、スカウトの目も気にしなかった。

 結果は、ヒット1本許したものの、3つのアウトをすべて三振で斬った。「自分の攻めができたんじゃないかな」。納得の投球に、思わず頬が緩んだ。

(撮影:Yoshioka Taira《埼玉武蔵ヒートベアーズ》)
(撮影:Yoshioka Taira《埼玉武蔵ヒートベアーズ》)

 ここで大きな自信を掴んだ松岡投手は、その選抜試合を境に以降8試合、1点も取られていない。四球はわずかに2コ。さらには毎試合、奪三振を記録している。それもマルチが5試合にも上る。

 「三振はあまり意識していなかったけど…。イニングより三振が多いとは、人から言われて気づいた」。

 本人は無欲であるが、その数字に驚かされる。選抜試合以降、8回で14奪三振、奪三振率はなんと15.75なのだ。

選手会主催の抽選会
選手会主催の抽選会
トレーニング
トレーニング

 「最初のころは球に自信がなかったので、打たせて取るようにしていた。でも選抜のときに三振が取れたことで自信が持てたので、そこからはしっかり投げられて自分の球がいけば三振が取れるってことに気づいた。最近はランナーが出たときは狙うこともある」。

 伸び盛りの若人というのは、ここまで変わるものなのか。この三振奪取能力は大きなアピールになる。

 しかし、そう言いつつも浮かれず冷静な部分も持ち合わせている。

 「早く追い込むことは意識しているけど、狙いすぎると力んで三振も取れないと思うんで、あまりカウントを意識せず、2ストライクでも1ストライクのイメージで投げている。そしたら力みなくいい球がいく」。

 メンタル面でも成長しているようだ。

■“まっシュー”を生かす

(撮影:Yoshioka Taira《埼玉武蔵ヒートベアーズ》)
(撮影:Yoshioka Taira《埼玉武蔵ヒートベアーズ》)

 オーバースローのころは5種類の変化球を操ったが、“スリークォーターよりのサイド”に変えた現在は、「まっすぐ、スライダー、チェンジアップ。あとカーブもあるけど、まだ全然投げてない」という。中継ぎなのでカーブを投げる機会はあまりないだろう。

 「勝手にシュートしてくれる(笑)」というストレートが、打者にとっては厄介なようだ。キャッチボールの相手からは「シュートして伸びる」と言われるそうだ。

 実際に浮き上がるわけではないが、終速の落ち幅が小さいからだろうか、バットがボールの下を空振りしてくれる。

 「左バッターだったら、一番遠い外のまっすぐはベースをかするだけでいい。右バッターのインコースだったら、手元で動いてけっこうバットが折れる」と、特有のシュート回転をうまく生かしているという。

(撮影:Yoshioka Taira《埼玉武蔵ヒートベアーズ》)
(撮影:Yoshioka Taira《埼玉武蔵ヒートベアーズ》)

 現在の最速は145キロ。しかし、まだまだ伸びる気配がある。

 7月15日の対新潟アルビレックスBC戦では2点ビハインドの九回に登板。ラストバッターを145キロで空振り三振に抑えたが、試合後の松岡投手は「えっ。そんなに出てたんですか!」と驚いていた。

 バランスがよくなかったようで、そこまで力が伝わっていない感じがあったようだ。しかしそれでも数字は出た。本人の中の“ベース”は明らかに底上げされているのであろう証しだ。

 ストレートはもちろん、スライダーのキレもよく、簡単に3人で片づけた。ボールのバラつきもなくなり、狙ったところに投げきるコントロールも身につけていた。

■助けてくれる周りの人々に感謝

トレーニング
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 最初のころは自分を出せず、配球はすべてキャッチャー任せだったが、今は「バッターの雰囲気を見て感じて」サインに首も振り、自分の投げたいボールが投げられるようになった。

 また、ホームゲームでは親御さんが動画を撮ってくれる。降板後「あのときの球はなんであんなうまくいったのかフォームをしっかり見て、次の日に前日に出た課題をしっかりキャッチボールとかで修正するようにしている」と、よかったところも悪かったところもきっちりと洗い出している。

(撮影:Yoshioka Taira《埼玉武蔵ヒートベアーズ》)
(撮影:Yoshioka Taira《埼玉武蔵ヒートベアーズ》)

 NPB出身のコーチやチームメイトからも恩恵を受ける。

 「スライダーがよくなったのは宮川さんに教わったから。最初は手だけで投げてストライク入んなかったけど、一番大事なのは下半身って言われて、意識するようになってからよくなった。握りも教わった」。元東北楽天ゴールデンイーグルス宮川将投手兼任コーチに感謝している。

 元広島東洋カープ辻空投手からも何か盗もうと観察した。

 「空さん、すごく体が柔らかい。球が速いので柔軟性が大事だと思って、そこも取り入れて。風呂上りに股関節、肩周りのストレッチは欠かさないようにしている」。貪欲に吸収する。

■「ドラフト指名」という転機が訪れますように・・・

野球以外の“お仕事”もしっかりやる
野球以外の“お仕事”もしっかりやる

 最短の1年でNPB行きを目指す。ここからの登板はますます重要になってくる。

 「中継ぎでしっかり投げられるっていうところをアピールしたい。1試合1試合、しっかり自分の持ってるものを最大限に出して、結果がついてくればNPBの道もついてくると思う」。

 これからもまた、いくつもの転機が訪れるだろう。そしてその都度、松岡投手は成長する。

 次の転機はなんだろうか。さらにその次の転機は…。

 「ドラフト指名」が、松岡投手の転機に加わることを願う。

松岡 洸希(まつおか こうき)*プロフィール】

2000年8月31日生(18歳)/埼玉県出身

179cm・83kg/右投右打/A型

桶川西高校→埼玉武蔵ヒートベアーズ(2019~)

《球種》ストレート、スライダー、チェンジアップ、カーブ

《最速》145キロ

松岡 洸希*今季成績】

23試合 0勝1敗 19・2/3回 被安打18 被本塁打1 奪三振25 与四球14 与死球2 失点10 自責9 暴投2 ボーク0 失策0 防御率4.12 奪三振率10.71

(数字は7月18日現在)

(表記のない写真の撮影は筆者)

【2019 ドラフト候補】

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