石川ミリオンスターズの若き主砲・今村春輝、いま覚醒の予感(BCリーグ)
好調な滑り出しで戦っているBCリーグ・石川ミリオンスターズ。1分けを挟んで5連勝で、7月1日現在、西地区(ADVANCE―West)の首位だ。
では前回に続いて6月25、26日の対福井ミラクルエレファンツ2連戦で活躍した選手を紹介しよう。
■1試合2ホーマー
開幕から4番に座り続けている今村春輝投手のバットが火を吹いたのは1戦目、25日のゲームだ。
まずは三回。先頭の神谷塁選手が二塁打で出塁し、盗塁で二死三塁を作ると、フルカウントから左翼越えの2ランを叩き込んだ。
続いて八回は先頭で打席に入ると、カウント2-2から振り抜き、勝利をほぼ確定させるソロ弾とした。
今村選手自身、1試合2ホーマーははじめてのことだ。2本とも“これぞホームランバッター”という、どデカイ当たりだった。
「1本目はまっすぐ。スライダーを待っていたけど、うまく回転というか反応で打った感じ。2本目はスライダー。あの打席はピッチャー(楊鑄真投手)の前のイニング、ストレートがめちゃめちゃきてたんで、追い込まれたら最後は外のまっすぐかなぁと思って、まっすぐに張っていた。そしたらスライダーがきたけど、反応できた」。
そうセルフ解説をつけてくれた。
これに驚いたのは山出芳敬 野手総合コーチだ。
「追い込まれてああやってホームラン打つっていうのは、僕はびっくり。これまでは、三振しないようにやっていたと思う。外のスライダーを見極めるとか、っていう考えだったと思うけど、その中でホームランを打てるようになっているっていうのは、すごい成長」。
■大学時代の試合を見てきた山出芳敬コーチ
山出コーチは今村選手のことを、金沢星稜大時代から見てきたという。
「大学の試合を見にいったけど、バッティングはひどいものだった(笑)。“ザル”というか…。たしかに当たれば飛ぶけど、当たらないっていうのは瞬間にわかった」と苦笑する。
山出コーチは思案した。「ただ、入団してきて、あいつのいいものを消さずにやらないと、あいつが納得して試合に出られないだろうというのがあった。だから最初は我慢した」と振り返る。
そして、まずは見守った。「とにかく打てなくても自分の思うようにやってみて、これじゃ打てないっていうのをわかってから変えていかないと、納得できないだろうなと思ったんで」。
すると、今村選手はすぐに気づいたという。「このままじゃ打てない」と。
そこで「一番合うんじゃないか」と教え込んだのが、桑原凌マネージャーの現役当時のバッティングスタイルだ。
桑原マネージャーは昨年まで石川でプレーした、今村選手と同じ右のスラッガーである。奇しくも、背番号1は桑原マネージャーが着けていたものだ。
山出コーチが心掛けたのは、一度にあれこれ言わないことだという。
「1つのことをやるだけにして、シンプルにシンプルにバッティングをやらすことから始めた。回転を意識させて、構えからトップを作って、そして下から順番に回っていくっていうように」。
しかし、やろうとしてもなかなかできなかったという。山出コーチも頭を抱えた。
「タイミングがとれない、スイングもつねに手から始動する。だから、まず先にトップ作りなさい、タイミングがとれないからノーステップにしなさい、と。あとはボールに対して体を回すだけっていう状態から始めた」。
そうしてようやく今、自分でタイミングがとれるようになり、「その中で始動を早くしたりっていうのを、考えてやらせている」という。
そんな中で生まれた2本のホームランだが、山出コーチは「今が完成形ではない」と、まだまだ進化の途上であると強調する。
■“野球脳”も鍛える
技術面だけではない。“野球脳”も特訓中だ。
山出コーチは言う。「学生時代、どうやって考えて打っていたのか。スライダー投げとけば打てないし、スライダーを生かすために1球ストレートをポンと投げられたら、勝手にスライダーに泳いで三振っていうのをずっと見てきた」。
打ち取られ方が同じだったという。
「それを学生時代、ずっとやってきたことが逆にすごいなと思って。誰も何も言わなかったんだなって」。
そこで、常に配球を考えて打つようにと指導した。試合後にチャートを見て振り返ることはもちろんだが、試合中も打席ごとに「こういうピッチャーだよ」と教え込み、状況による配球を伝え、「打席でどれを待つんだっていうのを、自分で選択させる」という。
先述したように、今は配球を考えて待ち球を絞っている。少しずつ結果に顕れはじめているのだ。
■不動の4番に君臨
開幕から全試合で4番として名を連ねている。
「使ってもらってることに感謝すると同時に、やっぱり4番という場所で打たせてもらってるのはありがたいことだし、やっぱりもっともっと打ちたい」と、今村選手の鼻息も荒い。
ここまで本塁打数7はリーグ6位タイ、打点32はリーグ10位とランキング外ではあるが、いずれもチームトップの数字である。
「西武の山川選手のように、打率というよりはホームランと打点が多いほうがいいんじゃないかなというのがある」と“4番像”を語るように、本塁打と打点でチームを引っ張ることを目指している。
打点を稼ぐには、チャンスで打たねばならない。今村選手の得点機での考え方はこうだ。
「場面によるけど、1アウトとかノーアウトの場合は三振オッケーというのを常に思ってて。僕の後ろに小林恵大さんがいるので。後ろにいいバッターがいるんで、それだけ余裕持ってできている」。
自分ひとりで背負わなくていい。その気持ちのゆとりが、平常心で打席に立たせてくれている。
また、特筆すべきは四球の数で、32はリーグ5位タイだ。もちろんチーム1である。
「選球眼は悪かった」という今村選手だが、これもまた「三振オッケーと思うからできていること」と“小林恵大効果”を強調する。
自分が決めなきゃいけないと強引なバッティングをすることなく、余裕をもってボールを見ることができているのだ。
そういった気持ちの整理について「やっぱそこが一番できているんじゃないかな」と胸を張った。
■二岡智宏監督(富山GRNサンダーバーズ)から伝授されたこと
タイミングのとり方など、他球団の選手に自分からアドバイスを求めることもある。そんな折、なんとも貴重な指導を受ける機会に恵まれた。
後期初戦、対富山GRNサンダーバーズ戦でのことだ。その日は試合前練習に金沢市民球場が使えず、別グラウンドで行った。
石川の練習が終わり、富山と入れ替わるそのとき、二岡智宏監督から呼び止められた。
「すごかった!」と、そのときのことを思い出してニヤニヤする今村選手。そりゃ読売ジャイアンツの、日本球界の、スター選手だった人だ。さぞかし舞い上がったことだろう。
「二岡さんから言われたのは『結果を求めるというよりも、4番なんでフライというか、角度のある打球をもっともっと打てるように』ということ。それと右足のタメとか体の使い方とかを教えてもらった」と明かす。
教わったポイントは2点だ。
まず1つ目は「僕、打ったときに右足がちょっと伸びるというか、ちょっと前にズレる。それだとためた分の力が使えないと言われた」と、スウェーしないようにということ。
2つ目は「どっちかというとコマというか、その場で回る」という軸回転だ。
「そんな感じで打ったらホームランになった」と即、ゲームで実践した結果が25日の2本のホームランだったという。なかなかの吸収力だ。
そして翌26日に放った逆方向へのタイムリー二塁打も、その効果と無縁ではないだろう。
■キャラクターもウリのひとつ
今後については「ホームランと打点は一番こだわりたい」と、チームの勝利に直結する結果を求めていきたいと意気込む今村選手。
しかしそんな今村選手の抱負とは裏腹に、山出コーチの考えは少し違う。
「やっぱり率が残らないと、ただデカい当たりだけで確率がなかったら、きつい部分があると思う。カウントによってはホームランを狙って大きいスイングしながら、追い込まれてからも粘り強くヒットを打つとか。チャンスの場面でピッチャーが外外ってなっているときは、しっかりライト方向に打てるとか。そういうバッティングができないと上(NPB)では通用しないんだろうなとは思う」。
NPBに行くために、状況に合わせた対応力を身につけてほしいという“親心”だ。
もう一つ、山出コーチが「あいつの持ち味」と推すのがキャラクターだ。「いつもいじられている」と頬を緩める。
“お笑い担当”なのか、今村選手の一発ギャグや円陣の声出しなどの動画が、球団公式のSNSでしばしばアップされる。
そのギャグのクオリティは“凡打”の日もあれば、“クリーンヒット”を飛ばす日もある。“ホームラン”は・・・どうだろうか。
今村選手のギャグも、ぜひ一度チェックしてみてほしい。
(石川ミリオンスターズ公式インスタグラム⇒石川ミリオンスターズ)
次回は対福井2連戦の2戦目に活躍した2選手(野口稔陽投手、神谷塁選手)をピックアップする。
【今村春輝*今季成績】
42試合 打率.266 打数139 安打37 二塁打7 三塁打0 本塁打7 打点32 三振34 四球32 死球6 犠打0 犠飛4 盗塁0 失策2 併殺4 出塁率.414 長打率.468
(数字は7月1日現在)
(撮影はすべて筆者)
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