1軍デビューした19歳ルーキー、山本祐大捕手(横浜DeNA)が“持ってる”ものとは・・・?

1軍デビューを果たし、ちょっぴり大人っぽくなった山本祐大捕手(撮影:筆者)

■“持ってる”男・山本祐大

 「持ってる」―スポーツ界ではしばしば用いられる言葉だ。かつて流行語大賞にノミネートされたこともある。この選手を見てきて、いつも思っていた。「持ってるな」と。横浜DeNAベイスターズ山本祐大選手だ。

“持ってる”男・山本祐大捕手(撮影:筆者)
“持ってる”男・山本祐大捕手(撮影:筆者)

 プロ野球選手を目指したが京都翔英高3年時はドラフト指名がかからず、大学進学を選択。しかし練習に参加しただけで入学を断念。苦悩のときを過ごしたが、知人の縁から独立リーグでプレーできることになり、チーム事情もあってすぐに正捕手の座を掴んだ。

 ゲームに出始め、ほどなくしてその強肩がベイスターズの小林晋哉スカウトの目に留まり、秋のドラフトで9位指名を受けた。

(撮影:筆者)
(撮影:筆者)

 新人合同自主トレでは初日にインフルエンザで離脱するも、復帰するやすぐに遅れを取り戻し、春季キャンプ中のファームの練習試合初戦やイースタン・リーグの開幕戦をはじめ、出場機会も数多く与えられた。

 3月にはベイスターズ球場のブルペンで、チームの守護神・山崎康晃投手のボールを受けられる恩恵にあずかった。これも類まれなるタイミングだった。

 そして5月には初の1軍昇格。19歳のルーキー捕手が、だ。“短期間の修行”の意味合いが強い中、またとない試合展開によって出場機会も訪れ、さらにはキャッチャーでありながらウィニングボールまでもらえた。

 もちろん、そのときどきで紆余曲折や挫折はあった。しかし総じて、野球の神様は頬笑み続けてくれている。

■1軍昇格前とファーム降格後

ファームでも生き生き(撮影:筆者)
ファームでも生き生き(撮影:筆者)
(撮影:筆者)
(撮影:筆者)

 1軍から降格してきた山本選手を見るファームの首脳陣は、一様の感想を抱く。万永貴司監督は「こっちに戻ってきてから表情が全然違う」と目を細める。

 「1軍とファームではすべてが違う。待遇も何もかも。それを味わったことでモチベーションもより上がっている。短い期間だったけど、プラスになっている。不思議な感じ。まさかこの時期に1軍でやれるとは思ってもみなかった。プロで一度も1軍に上がれず終わる選手もいる中でね」。万永監督にとっても驚きの昇格だったようだが、それが奏功していることを喜ぶ。

 「以前から前向きだったけど、より前向きになっている。そしてそれが結果として出ているし、頭の中も変わってきたのを感じる。もともと元気で素直、野球選手に大切な吸収力や学習能力がある。着実に成長しているし、吸収したことを実戦で出せている」と讃える。

寺田光輝投手とともに新沼慎二コーチの指導を受ける(撮影:筆者)
寺田光輝投手とともに新沼慎二コーチの指導を受ける(撮影:筆者)
(写真提供:池崎氏)
(写真提供:池崎氏)

 新沼慎二バッテリーコーチも同じく「『山本を上げたい』と聞いたときはボクらもビックリしたよ」と明かし、「とはいえ試合にも出てね。これまであんな大勢のお客さんの前で野球をしたことないだろうし、一度ああいう景色を見ると、絶対に戻りたいと思う。『これが1軍だ』と肌で感じるとね」とうなずく。

 「それが練習で生きている。より貪欲だし、話していても話し方、返答が変わってきている。やはり経験、環境の変化は大事だなと思う」。新沼コーチもあらためて感じたそうだ。

 柳田殖生打撃コーチも「1軍にいっていい意味で変わった」と異口同音だ。「恵まれた環境から騒がれて入ってきたわけではない。そういうやつらに負けるか、という気持ちはあると思う。ストイックさ、ハングリーさがある。戻ってきてから、よりやるようになった」。山本選手のその姿勢を高く評価する。

ブルペンにて(撮影:筆者)
ブルペンにて(撮影:筆者)

 そしてなにより山本選手本人が、昇格以前と降格後の自身の意識の違いを痛切に実感している。

 「1軍の雰囲気を知れたことは大きい。やることが明確になった。どうしたら1軍に上がれるか、レベルが多少なりともわかった。戦力になるにはどうしたらいいか、考えられるようになった。経験したことは生きているし、練習の取り組み方も自分なりに違う」。自身の想像以上に手応えを得られたようだ。

自信をつけた(撮影:筆者)
自信をつけた(撮影:筆者)

 そして「自分がある程度、通用するってこともわかった。もちろんボクの中の評価レベルに達してない部分もあるけど、試合に出てわかった。これから、つけいる隙はあると思う」と自信を覗かせる。

 3月の時点では「今もし上がっても恥をかくだけで経験にならない」と言っていた若者が、2ヶ月でここまで変わった。それだけやってきた裏付けがあるからだ。1軍でプレーすることは、もはや“漠然とした夢”でなく“明確な目標”になっている。

■打撃開眼

(写真提供:池崎氏)
(写真提供:池崎氏)

 違いはすべての動きに顕れているが、中でもバッティングの変化には目を見張るものがある。1軍で打席には立てなかったものの、練習時にはラミレス監督小川博文打撃コーチの指導を仰いだ。

 「監督からは右手の使い方を教わった。右手を巻き込むっていうか、そういう使い方をしたら引っ張れるからと。練習では引っ張る打球を増やすようにしとけって言われた。小川さんにも『インコースは思いっきし引っ張ったらいい、アウトコースは逆方向に強い打球を打て。軸を意識して』と言われた」。コースに逆らわないということだ。

 練習のティーバッティングから意識して取り組んだ。「それが今のところ、いい結果になってるというか、全然違ったんで、ただの意識不足だったんだ」と反省もした。

(写真提供:池崎氏)
(写真提供:池崎氏)

 ただ、これまでは「逆方向に打てたらベストだなというのもあったし、自分の中では非力で引っ張る力がないと思ってたんで。ポイントをめちゃくちゃ前にしないと引っ張れないと思ってたし、引っ張りにいこうとしたら空振りも増えた。だから自然と逆方向に打っていた。まぁ逆方向意識というか、センターに打ち返そうという感じで打ってたら空振りも減ったし、変化球もボール見れたんで」と振り返る。

 そこにはキャッチャーとしての心理も働いていた。「そういう空振りしたら、キャッチャーにしたら『こいつ、簡単だな』って思うじゃないですか。それは絶対に避けようというのもあった」。

 ところが、意識して取り組み始めて引っ張る打球が増えた。「引っ張ろうとして引っ張るんじゃない。ポイントを前にするんじゃなくて、自分の手が速くなれば引っ張れるってことがわかったんで。球が速かろうが遅かろうが、引っ張れてるんで。タイミングは間違ったらダメですけど。タイミングと自分の今の力量で引っ張れている。それは自信になっている」。やや得意げにこう話した。

(写真提供:池崎氏)
(写真提供:池崎氏)

 「この前のバッティング練習でスイングスピードとバットの軌道を計ってもらったんです。スイングスピードは1軍クラスって言われた。でもまだ軌道はよくないんで、そこで打ち損じが生じている」。

 1軍クラスとの評価をもらったスイングスピードは160キロと計測されたという。「実際(の試合で)はそれくらい出るかわからないけど、自信にはなった」と言い、もう“非力”だという自己評価はお蔵入りにした。

 柳田コーチも「一番は振る力がついたこと。本当にコツコツ一生懸命に練習する。ほかの同級生に見習ってほしいくらいだよ(笑)。いい刺激になってると思うよ。ここからまた落とし穴はあるだろうけど、あいつならまた這い上がれるだろうね」と、その力を認める。

■出るべくして生まれた初ホームラン

初ホームラン1(写真提供:池崎氏)
初ホームラン1(写真提供:池崎氏)

 そしてとうとう初ホームランが飛び出した。6月5日、北海道日本ハムファイターズロドリゲス投手からだ。柔らかく力みのないスイングで、しっかりと左翼スタンドに放り込んだ。ちなみにこの日はテレビ中継も入っており、CS放送で全国に放映された。こういうところ、やはり持っている。

 タイミングもドンピシャだったが、確実にスイングスピードも速くなっている実感がある。その後の実戦でも目に見えて左方向の打球が増えた。

 「今、強く打てるのはレフト方向っていうのは自分でもわかったし、逆方向に打つのは苦手じゃないんでそれは最終手段に置いといて、アウトコースにきたら逆、真ん中付近からインコースはしっかり引っ張れるというように意識してやっている」。その口調も力強い。

■スワローズ・雄平選手のバットと山田哲人選手のバット

初ホームラン2(写真提供:池崎氏)
初ホームラン2(写真提供:池崎氏)

 ところで、このホームランを打ったときに使用していたバットは東京ヤクルトスワローズ雄平選手のものだった。雄平選手がコンディショニング不良でファームにいたころ、交流のある新沼コーチが雄平選手にもらってくれたものだが、使ってみると思いのほかしっくり馴染んだ。

 これまでの「ヘッドに重りがあって、あんま操作できてなかった」という自身のバットとは違い、「雄平さんのバットはバランスいいんで」と使いやすく、初ヒット(4月5日、スワローズ戦)もこのバットから生まれた。「けっこういい当たりが増えて、自分に合ってるなぁと思って」と、すっかり“相棒”として大事な存在になった。

初ホームラン3(写真提供:池崎氏)
初ホームラン3(写真提供:池崎氏)

 実はもう1本、別の選手がバットをプレゼントしてくれた。なんとバッティングフォームのお手本である山田哲人選手だ。

 こちらは1軍に上がったときに坪井智哉打撃コーチが「今、うちの選手で(山田選手のフォームを)参考にしてるやつがいるんだけど」と青学大の後輩の石川雅規投手に話してくれたところ、伝え聞いた山田選手から「じゃあ、その子に渡しといて」とバットを託してくれたそうだ。

 ただ神宮球場では大学野球の練習との兼ね合いもあり、山田選手本人に直接は「挨拶にいけてないんですよ」と、お礼を言うタイミングを逸してしまったままだという。

初ホームラン4(写真提供:池崎氏)
初ホームラン4(写真提供:池崎氏)

 山田選手のバットは「ヘッドがしっかりして、バランス的にもいい感じ」だそうだが、メーカーが違うのでそのまま試合では使えない。現在、自身が契約するメーカーさんに“山田モデル”と同じ型で作ってもらっているところだ。

 今のところ“雄平バット”を使っていく方向だというが、“山田モデル”を「練習で打って、感覚よくて自分に合うなと思ったら替えますけど…」と、さまざまな方向から可能性を探っていくつもりだ。

 このように周りが何かとしてあげたくなるのも、山本選手の持つ強みのひとつだ。

■盗塁阻止率の目標は5割!「走られないキャッチャー」に

(撮影:筆者)
(撮影:筆者)

 キャッチャーとしても、より成長した姿を見せている。

 1軍を経験したことで知り得たことがある。「1軍に行ったら全然データとか違うんすよ。すっごく細かい」。出てくるデータの量、頭に入れるべき量がファームとは全く違う。

 「データを頭に入れながら試合するというのは難しい。でもそれをやらないといけない。いつ1軍に上がってもいいように、相手チームのデータとか頭に入れつつ今は試合している」。来るべきときに備えて、意識して取り組んでいる。

 配球においては、ファームでは多少違う部分はある。勝利を追求するだけでなく、「ピッチャーにテーマを置くこともある。たとえば今日はまっすぐで押したいと言えば、できるだけ押せるようにという配球をしたりして、そのピッチャーの特徴を生かしつつ、やりたいことを尊重しながら」と、投手の調整を重視したリードをすることも多い。

 しかし、そんな中でも「データに入れながらも頭がパンパンにならないように。試合中に思い出して生かせるように」と、1軍への準備として念頭に置いている。そこは明らかに昇格前とは違うところだ。そして、その配球にはすべて必ず“根拠”を持っている。

(撮影:筆者)
(撮影:筆者)

 さらに自身のもっともストロングポイントである「肩」の強化も図る。「今、盗塁阻止率が4割後半くらいなんですけど、目標は5割って言われてるんで」と、新沼コーチからはかなり高い数字を課せられている。もちろん投手との共同作業だが、山本選手の強肩に懸かる期待はとてつもなく高い。

 そのために「準備を大切にしています」と試合前練習ではスローイングを念入りに行う。試合で起こりうることを頭の中でしっかり想定して備えている。

 さらに究極は「走られないキャッチャー」だ。盗塁の企図すらされないということである。

 「やっぱりなんでもかんでも刺せるわけじゃないし、走られへんってことはフォークとかの配球も増えるんでバッターも打ちづらくなる」。

 実際に刺すだけでなく、「走りづらい」と相手に思わせることで配球面も変わってくる。「投手を助けたい」という女房役ならではの心理だ。

ミットの構え方などアドバイスを受ける(撮影:筆者)
ミットの構え方などアドバイスを受ける(撮影:筆者)

 技術面でも指導を受ける。キャッチャーとして手足が長いことによる弊害がある。「足幅が広く、お尻がペタンと落ちるし、肘が張る」と足幅や構えるミットの向きなどを修正し、素早いスローイングやブロッキングの改善を図っている。

 「今、いい形が続いているので維持してほしいね」と新沼コーチの見守る目も温かい。

■山本祐大選手が本当に“持ってる”ものとは・・・?

関根大気選手とタッチ(写真提供:池崎氏)
関根大気選手とタッチ(写真提供:池崎氏)

 次の昇格に向けて、今はすべてにおいてひたすらスキルアップを目指す。「ぬるいまま終わってたらダメ。高い意識を持たないと。常に準備して、今はファームの一番手になれるように。とばさん(戸柱恭孝選手)とかいいキャッチャーはいるけど、負けないようにしたいし、せっかく近くにいるんで盗めるものは全部盗んで自分のものにしようと思ってやっています!すごく勉強させてもらっています」。とことん貪欲だ。

将来の正捕手に向かって…(撮影:筆者)
将来の正捕手に向かって…(撮影:筆者)

 万永監督が「動じない精神力があるし、チームを盛り上げる力がある」と言えば、新沼コーチも「野球というのはキャッチャー発信でいくプレーが多いんだけど、発言力がある。先輩が多い中でもちゃんと会話できる。常にチームの輪の中心にいる」と口をそろえる。そういった周りの言葉を聞いて、わかったことがある。

 山本選手が「持ってる」とするならば、「ストイックに自分を追い込める」こと、「抜かずに努力し続けられる」こと、「常に意識高く取り組める」こと…そういう“己に克つ力”を持っているのだ。だから周りは彼のために何かしてやろう、助けてやろう、引き立ててやろうという気になるのだ。

 そしてそれはチームを活性化する力になる。そのことはラミレス監督はじめ首脳陣は気づいている。そう遠くない時期にまた1軍に呼ばれるだろう。そしてやがては「正捕手」というポジションも見えてくるだろう。

 来るべきときに向かって、今日も山本祐大選手は少しも抜くことなくキャリアップを目指して力を出し尽くす。

山本祐大*関連記事】

初の1軍出場

友だちだけどライバル《後編》

友だちだけどライバル《前編》

入寮直前の決意

横浜DeNAベイスターズ・新入団会見

ドラフト指名

ドラフトへ向けて

BCリーグ北陸選抜vs阪神タイガース・ファーム

NPBを目指す独立リーガー

救世主現るー18歳のラッキーボーイ