BCリーグ開幕戦―長谷川潤(元読売ジャイアンツ)が帰ってきた石川ミリオンスターズが初白星

開幕勝利のウィニングボールを手にする武田勝監督(石川ミリオンスターズ)

■武田勝監督(石川)に表情筋を崩される二岡智宏監督(富山)

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 ルートインBCリーグの開幕戦をもう1試合お届けする。

 4月7日、金沢市民球場で行われた石川ミリオンスターズ富山GRNサンダーバーズの一戦だ。

 試合前のメンバー紹介で最後にコールされた石川・武田勝監督は、ベンチから軽快なスキップで飛び出した。こんな監督、なかなかいないだろう。

 これには先に整列していた富山・二岡智宏監督も吹き出し、自軍の選手たちとハイタッチしてきた武田監督に流れのままハイタッチを求められ、爆笑しながら応じていた。

試合前の開幕セレモニー
試合前の開幕セレモニー

 二人は北海道日本ハムファイターズでチームメイトだった。二岡監督は「意識は特にない。同じチームでやってたっていうことくらいで」とクールに話すが、武田監督の前では笑顔が多くなるようだ。

 試合とは別のところでも、ファンにとっては楽しみな対戦になるに違いない。

■おかえり、“はせじゅん”(長谷川潤)

帰ってきた長谷川潤投手
帰ってきた長谷川潤投手

 石川の先発は3年ぶりに帰ってきた長谷川潤投手だ。初回にアウトコースを狙い打たれ、味方の守備のミス(記録は二塁打)から失点はしたが、そのあとは思惑どおりに打者を仕留めた。持ち味の制球力で打者を翻弄した。

 5回1失点。存分に“らしさ”を発揮し、3年ぶりの公式戦での74球に笑顔がこぼれた。

長谷川潤投手
長谷川潤投手

 2015年ドラフトで読売ジャイアンツから育成8位指名を受け、2016年3月に支配下登録された。同年5月6日、1軍で初登板初先発し、惜しくも勝利を逃した。その試合を含め3試合の登板に終わり、2017年に戦力外通告を受けた。昨年はジャイアンツの打撃投手として契約した。

 しかし自身の中に燻る種火が残っていたのだ。ファームでともに戦ってきた若い野手が1軍に上がってくる。自分の仕事はその選手に練習で投げることだ。打ってもらうことだ。単純に思った。「いいな」。そして「やっぱりまだ選手としてできるんじゃないか」。そこで選手復帰を決断した。

背番号は「馴染みのある番号」とジャイアンツ時代と同じ「96」
背番号は「馴染みのある番号」とジャイアンツ時代と同じ「96」

 当初は海外に渡ることを考えていた。しかし、ひじに痛みを抱えていた。実はジャイアンツ在籍当時から、骨片(ネズミ)を抱えながら打撃投手をしていたのだという。

 1月の自主トレ中に状態が上がれば海外にと指標を立てたが、上がってこなかった。そこで海外は一旦諦めて、手術に踏み切ることにした。「ミリオンスターズが『練習生でもいいなら』って言ってくれたので」と1月31日、内視鏡のクリーニング術を受け、古巣でリスタートする決意をした。

長谷川潤投手
長谷川潤投手

 そのときから照準はこの開幕戦だった。「気持ちはここに合わせて、あとは体と相談しながら…。間に合ったのは気合いっす」と笑う。

 それでも開幕投手を告げられたときは「プレッシャーがえぐかったっす」と振り返る。「抑えて当然」と見られるだろう。そんな中、「とにかく今できることをひとつずつやっていくしかない」と腹をくくって、まっさらなマウンドに上がった。

長谷川潤投手
長谷川潤投手

 内容は実質、無失点だ。「そこはやっぱプロでやってきて、いろんなこと勉強させてもらった部分が出せたかな。球の強さとか、そういうのはまだまだだったけど」。

 まだ万全とはいえない状態の体でもこれだけのピッチングができたのは、「ジャイアンツでやってきたから」と、NPBで学習してきたとの自負からだ。試合前にシミュレーションし、喜多亮太捕手とも戦略を立てる。試合に入ると冷静にバッターを観察し、相手の狙いを見通す。そしてしっかりと相手と勝負する。さらに試合中も喜多捕手と意見をすり合わせる。

■過去を乗り越える

五回二死のピンチをベンチから見守る武田勝監督
五回二死のピンチをベンチから見守る武田勝監督

 ポイントは五回だった。簡単に二死を取ったあと、連打されて一、三塁になった。4番・榎本葵選手を迎えたところで武田監督がマウンドに足を運ぶ。思うところがあってのことだ。

 2016年5月6日。中日ドラゴンズ戦で初登板初先発をした長谷川投手は、初回のピンチを切り抜けると五回まで無失点でこぎつけた。途中の三回、自らも犠打を成功させ、1点の援護をもらっていた。

 しかし一死一、三塁から犠飛で同点、続いて連打で逆転を許した。勝利投手の権利を手にする寸前で、悔しい降板となった。

乗り越えた長谷川潤投手
乗り越えた長谷川潤投手

 「ジャイアンツの1軍で先発したときのことがフラッシュバックしてきて…。まったく同じシーン。バッターも4番だったんで。また自分の新しいスタートを切るには、ここは乗り越えなきゃいけないんだなと、あらためて思った」。

 以前から武田監督はこう話してくれていたという。「あそこで勝てれば、また違った野球人生になっていたかもしれない」と。だからこそマウンドに来て、あらためて言葉をかけてくれた。「この場面を乗り切れば、ジャイアンツでのことは乗り切れるから」。新しい野球人生に向けて、背中を押してくれた。

長谷川潤投手
長谷川潤投手

 「本人もやっぱりあと1アウトで勝ち投手を逃したっていう苦い経験があるので、あの4回2/3のときはわざとマウンド上に行って、『払拭してほしい』と。やっぱりあの1アウト取ることによって、これからまた本人の野球人生が変わってくると思うので」。こう言って武田監督は嬉しそうにうなずいた。

 そしてしっかり払拭した愛弟子に対し、「期待以上の好投だった。今日の好投を自信に変えて、今年1年、先発の柱としてやってもらいたい」と讃えた。

 さらに「ミリオンスターズでもう一度『長谷川潤』というピッチャーをとり戻してほしい。経験は十分あるので、ピッチャー陣のまとめ役として背中で引っ張るような、これからは自分だけではなくて周りをしっかり見ながら、人間的にも成長してほしい」とおおいに期待を懸けていた。

■女房役は新入団の喜多亮太

喜多亮太捕手
喜多亮太捕手

 喜多捕手とも、とことん話をした。「最初は潤さんらしい攻め方で外中心でっていう話だった。でも初回、向こうのバッターが徹底して外に踏み込んできてたんで、『インコースいこう』って内を使いだしてから打たれなくなった」と、喜多捕手は振り返る。

 そして長谷川投手のピッチングに舌を巻く。「若い子とは全然違う。カウント、状況、展開、ピンチになったときとかで、潤さんは投げ分けられるんで」。ピンチでのギアの上げ方は、受けているからこそ感じるという。

 「潤さんはほとんど構えたところに投げてくれるんで、打たれたら潤さんは悪くない。僕の責任っていうくらいのところに投げてくれる。僕としてはやりがいもあるし、勉強になる。楽しい」。キャッチャーとしての醍醐味を、存分に味わっている。

 試合後、「ナイスキャッチャー!おまえのおかげや!」と長谷川投手から声をかけられて、笑顔を弾けさせていた。

■ジャイアンツで得たもの

背番号96
背番号96

 長谷川投手の現在の投球術は、ジャイアンツ時代に習得したものだ。

 「コントロールもそうだし、野球を知ることができたというか。独立時代はただ投げてただけだったけど、NPBに入ってからはバッターを見て、バッターがどういう球を打ちにきてて、どういう球を狙っているのか、また試合状況によって、ここではどういうことをしなきゃいけないのか、そういう野球の基本的な部分を学ぶことができた」。

 加えて1年間投げられる体力の重要性にも気づかされた。「そこはまだまだやっていかないといけないところ」と今後の課題でもある。

 初先発した件(くだん)の試合についても「いろいろもっとできたなってのはある。もっとキャッチャーといろいろ話してとか、あの時点で僕がもっと野球に詳しく、いろいろ考えてできてればなって思う部分はある。でも、それがあったおかげで、後にこういうことを考えながら過ごすことができたんで、それはそれでよかった」と前向きにとらえ、糧としている。

■ミリスタで“勝さんの野球”を楽しむ

 先発ローテの柱として、投手陣のリーダーとして期待が懸かるが、次の登板に向けては「一番は体の状態。体をちゃんといい状態にもっていって、なおかつレベルアップしていかないといけない。そこをうまく体と相談して、トレーニングもやりながらケガしないように」と見据える。

まずは野球を楽しむ
まずは野球を楽しむ

 今後の進路については未定だ。「目の前のことをひとつずつやっていって、そういう選択の時期にきたら、またそこで考えればいいかなと。今からまたNPBに絶対に戻るとか、海外に挑戦するとか、そういうこと考えてると気持ちばかり焦る。とにかく今はいっこずつ」。一歩一歩、確かなものを掴んでいき、その上であらためて考える。

 「今はミリスタで野球を楽しむ。勝さんの野球を」。そう言って微笑む。石川の若手にとってのお手本になることがまた、長谷川投手にとっての肥やしになる。

■富山の新外国人・ホセ フローレス

ホセ フローレス投手
ホセ フローレス投手

 そんな長谷川投手の好投に応えたいところだが、石川打線は富山の新外国人・ホセ フローレス投手をなかなか打ち崩せない。

 5回を3安打、5三振、4四球、無失点のフローレス投手について二岡監督は「ボール自体は非常によかった。多少課題はあるけど、投げることに関してはそれなりにしっかり投げてくれた。全体的にはいい」と一定の評価を与えた。ただ、クィックには注文をつけた。

 受けた林崎龍也捕手も「日本で初実戦だったので、最初のほうは少し力が入ってた。でも自分のボールが投げられてたので、相手バッターの狙い球だけ外してあげれば、コントロールが崩れることがない」と手応えを感じたようだ。

■林崎龍也の反省

 再び試合が動いたのは六回裏だった。スミ1で継投に入った富山は「勝利の方程式」の一角、山本雅士投手を送ったが、二死から四球を与え、2連続二塁打で2点を失い逆転された。

林崎龍也捕手
林崎龍也捕手

 2者連続三振を奪ったあとの四球、その次の打者への入りを林崎捕手は悔やむ。「2-2からのまっすぐがけっこう外れた。引っ掛けた感じのボール球で。あのときにちょっと欲を出したかなって、僕も『ん?』と思った」。

 三振を狙って、力んで引っ掛けての四球。「四球を出したのはしかたないけど、次のバッターにはフォークから入ていれば長打はなかったんじゃないかな。まっすぐ、まっすぐでいきすぎた。僕の配慮が足りなかった」。

 山本投手の球質やこの日の傾向、さらには風の向き。すべて気づいて頭に入っていた。なんとかできたと思うだけに、自身の配球を深く反省する。

■進化した有吉弘毅

進化した有吉弘毅投手
進化した有吉弘毅投手

 その後、八回にも無死満塁の好機を作った石川だが、追加点は奪えず。九回には二死一、三塁のピンチを招いた。この絶体絶命の場面で送り出されたのは、有吉弘毅投手だった。

 武田監督が「ゆ~っくり1年かけて成長して、オープン戦でも成長した。自信をもってマウンド上で本来のスタイルを出してくれている。これを今度は1年間通してどこまでできるかっていうのが首脳陣としても楽しみな投手」と、自信をもって送り出した左腕だ。

有吉弘毅投手
有吉弘毅投手

 「得点圏に走者が進んだら」と事前に登板を告げられていたという有吉投手は、非常に落ち着いていた。「オープン戦がけっこう自分の中では安定してたから、そのいいイメージのまま試合に入れたかなって感じ」と満足げに答える。

 今年のテーマは「相手と勝負するということ。自分じゃなく。もし自分の思うような球を投げられなくても、その球を次に生かすっていうふうに考えるようにしている」という。これまでと違い、投げミスも生かした配球を考えられるようになったと胸を張る。

 この日も二死一、三塁。カウントが3―1になったが「四球を1人出してもいい場面」と割り切り、「インコース要求だったけど、当ててもいいやくらいの気持ちで」厳しく投げきった。結果は二ゴロで、ゲームを締めた。

■試合後の両監督

 試合後、二岡監督は「序盤のチャンス。そこでしっかり点が取れなかったのが、こういう結果になった」と9安打しながらもホームが遠く、1点しか奪えなかった打線を振り返った。ただ、フローレス投手は収穫だった。

神谷塁選手、この日2つ目の盗塁
神谷塁選手、この日2つ目の盗塁

 一方、武田監督は「五回までよく我慢した。守りでしっかりリズムをキープしながら、外国人が降りたあと、集中力を切らさずよく対応した。ただ、今日は開幕だったので五回で降りたと思うけど、今後は六、七回と投げてくる。課題としてはひとつのチャンスをモノにする、ひとつのミスをこぼさないような攻撃の仕方が大事になってくる。足を絡めたりバントしたり、そういう細かな野球が外国人に対しては必要になってくるので、そこだけは徹底させていきたい」と、早くも次の対戦を睨む。

金山開選手、決勝タイムリー
金山開選手、決勝タイムリー

 さらに「ピッチャーの代わり端っていうのは、ひとつのメンタルで崩れることが多いので、そこで1本出てくれたっていうのはウチに流れがきたということ。逆を言えばウチのピッチャーはそうしないように。今日いい試合が見れたと思うので、投げなかったピッチャーはそれを参考にしてほしい」と、勝って兜の緒を締めた。

 「初戦でこういう緊張感のある試合展開を経験できたので、この1勝を忘れずに。これを継続しながら1年間戦い続けるってことが大事になってくる」。2019年シーズンの健闘を誓っていた。

(撮影はすべて筆者)

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