支配下→育成→戦力外→裏方→独立リーグ⇒NPB復帰~破天荒な古村徹(DeNA)を支えた三つの思い~3

相棒の“誠グラブ”でキャッチボール(撮影:筆者)

 11月20日、横浜DeNAベイスターズ古村徹投手富山GRNサンダーバーズ)と2019年シーズンの選手契約を結んだことを発表した。

(写真提供:masake☆)
(写真提供:masake☆)

 並大抵のことではない。簡単に口にできるような生やさしいことでもない。しかし古村投手は、その“偉業”を達成した。

 一度は選手を諦め、打撃投手として裏方業に就いた。しかし心の奥底にくすぶり続けている自分の本心を鎮火させることはできなかった。

 そこで一大決心をして、夢に向かって走り出した。

 (これまでのいきさつ⇒「戦力外から裏方、そして再びプロ野球選手へ」【前編】 【後編】

 そして初志貫徹、夢を現実のものにした。

(撮影:筆者)
(撮影:筆者)

 その根底にあった「三つの思い」―。

 大先輩である西清孝さんから説かれた見返してやるという「反骨心」(参照記事⇒「1」)、それと背中合わせにある、関わってくれたあらゆる人への「感謝」(参照記事⇒「2」)。

 そしてもう一つ…、古村投手を奮い立たせる力になっているものがある。

■グラブに刻んだ「花は咲く」

相棒“誠グラブ”に刺繍された「花は咲く」(写真提供:古村徹)
相棒“誠グラブ”に刺繍された「花は咲く」(写真提供:古村徹)
“初代”には英語で「Flowers Will Bloom」(写真提供:古村徹)
“初代”には英語で「Flowers Will Bloom」(写真提供:古村徹)

 古村投手のグラブにはある言葉が刺繍されている。「花は咲く」―これは2011年、東日本大震災のときに作られた復興への応援ソングのタイトルだ。

 あの未曾有のできごとによって、古村投手も大切な人を失う悲しみを知った。古村投手のお母さん・幸子さんは福島県の出身で、母方の親戚の多くが被災したのだ。いとこが苦しい思いをしていることも聞いた。

 「いい意味で背負っていかないといけないという使命感があって。絶対に風化させちゃいけない」と、なにか形になるよう刻んでいきたいという思いを持ち続けていた。そこでまず、裏方になった2015年、はじめてグラブに刺繍をお願いした。

 そのグラブは古村投手の1年前に入団し、とてもかわいがってくれた小林寛投手(現在はJFE西日本)から「作ってあげるよ」とプレゼントされたものだ。最初は小指側に「Flowers Will Bloom」と英語で入れ、末尾にリンドウの花を配してもらった。リンドウは「花は咲く」のPVで使用されている花だ。

左は小林寛投手のグラブだったが、2014年に譲り受け、打撃投手のときにも使用していた(写真提供:筆者)
左は小林寛投手のグラブだったが、2014年に譲り受け、打撃投手のときにも使用していた(写真提供:筆者)

 大阪・堺にあるイクノ工房社はその思いを受け止めてくれ、些細なリクエストも聞き入れて自社ブランドの「」というグラブに希望どおりの刺繍を施してくれた。

 そして現在はタイトルそのままの「花は咲く」を入れ、ともに戦っている。決して忘れないように。なにか少しでも力になれるように。

■好きなことに「がんばる」は使わない、使えない

グラブが届いたとき、山崎康晃投手も興奮してはめていた(写真提供:古村徹)
グラブが届いたとき、山崎康晃投手も興奮してはめていた(写真提供:古村徹)

 また、そのとき古村投手が感じたことがある。全国各地から被災地に向けて「がんばろう日本」「がんばろう東北」と励ましのメッセージが叫ばれた。まさに命を懸けて頑張っている人たちを見て、「がんばる」という言葉は自分ごときが使う言葉ではないな、好きなことに使う言葉ではないな、と考えた。震災以降、「がんばる」とは口にできなくなった。

 「がんばる」のではなく、古村投手が使うのはスペイン語の「バモス」。もともとは英語の「let’s go」というような意味だ。あくまでも自分は好きなことをやらせてもらっている。だから「がんばる」は使わない。ありがたみを噛み締めて、「バモス」という。

(写真提供:masake☆)
(写真提供:masake☆)

 好きなことをさせてもらえている。好きなことに頑張ったり努力したりするのは当たり前のことで、そこにはなんの苦しみもない。好きなことができる喜び。生かされているありがたさ。

 「好きなことをしたくても、できない人がいる。野球ができることや、その環境が当たり前だと思っていたらいけない。野球をしたくてもできない人だって、たくさんいる。身体、能力、環境…。なに不自由なくできることに感謝したい」。

 それよりも、本当に苦しんで頑張っている人たちのことを忘れてはいけない。ときが経っても風化させてはいけない。その思いを背負って戦うことが、自分に課せられた使命だと感じた。これが常に古村投手の原点にある。

■さまざまなものを背負って戦う

現在は「捲土重来」と2つ使用している(写真提供:古村徹)
現在は「捲土重来」と2つ使用している(写真提供:古村徹)

 振り返れば、いつもなにかを背負ってきた。自分の生き方が何かしら後進の道を拓くことになればと、そんな思いをもって取り組んできた。

 無名の公立高校(茅ヶ崎西浜高)からプロ入りしたときもそうだった。甲子園に出ていなくても、全国的な注目を集めていなくても、公立高校からでもプロ野球選手になれるんだ。だから簡単に夢を諦めるなと、自分の進む道に希望を見出してほしかった。

(写真提供:古村徹)
(写真提供:古村徹)

 今もまた、同じような道を歩もうとする選手の指標になれればと願っている。「こういう道でも希望はある、望みの薄い道でも勝負できる、ってことを証明していきたい」。そう考えて挑んできた。

 だから「自分が失敗したり活躍できなければ、同じ道を歩む人も諦めてしまう」。そう責任を感じ、「結局、公立高校出身じゃダメか、選手復帰してもその程度か」と言われるようなことには絶対にしないと誓う。

 「決めるのは自分だけど、でも人は必ず誰かに影響を受けているから」。自分自身もそうだった。自分で考え、自分で決めてはいるが、そこには必ず影響を与えてくれた人がいた。だから自分も、誰かにとってのそういう存在になり得たらと願う。

(写真提供:masake☆)
(写真提供:masake☆)

 ここまで平坦な道のりではなかった。しかしたどり着けたのは、それだけのことをやってきたから。練習量、ハートの強さ、意識の高さ…これらを持続することのたいへんさも、身をもって知った。

 そして、その中で一貫して揺るがなかったのが、「野球が好き」ということだ。「好きじゃなきゃ取り組みや探究心は続かないから」。好きだからこそ、やり続けられた。

富山に入団時、球団のサイトに掲載されたもの(写真提供:古村徹)
富山に入団時、球団のサイトに掲載されたもの(写真提供:古村徹)

 「何もかもうまくいったら幸せを感じられない。9割は苦しくて幸せは1割。だから些細な幸せを感じられる。僕の野球人生も挫折の繰り返しだった。でも野球の神様はきっと見ている。乗り越えられる壁しか与えないから、その壁をこれからもぶち壊していきたい」。

 挫折を重ねて、やっとスタートラインに立てた。本当の勝負はここからだということはわかっている。また挫折が訪れても、必ず乗り越えてみせる。

 復活した姿を届けたい。「反骨心」を持たせてくれた人たち、「感謝」してもし尽くせない人たち、そして、今なお被災で苦しんでいる人たちにも―。

 古村徹はこれからもさまざまなものを背負って戦っていく。「バモス!」と明るくポジティブに口にしながら―。

古村 徹こむら とおる)】

茅ヶ崎西浜高⇒横浜DeNAベイスターズ⇒愛媛マンダリンパイレーツ(四国アイランドリーグ)⇒富山GRNサンダーバーズ

1993年10月20日(25歳)/神奈川県

180cm 78kg/左投左打/B型

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