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ネリを倒してフルトンに敗れた魅惑の男がドネアに勝った元王者と明日対戦

三浦勝夫ボクシング・ビート米国通信員
フィゲロア(右)vs.マグサヨ(写真:Esther Lin/SHOWTIME)

フルトンに惜敗。大魚・井上を逃す

 井上尚弥vs.ルイス・ネリまでまもなくとなった。ネリ(35勝27KO1敗=29歳)が唯一、敗北を喫した相手であるブランドン・フィゲロア(米)が明日4日(日本時間5日)ラスベガスでジェシー・マグダレノ(米)と12回戦を行う。試合はフィゲロア(24勝18KO1敗1分=27歳)が保持するWBCフェザー級暫定王座がかけられる。T―モバイル・アリーナで行われるイベントのメインではスーパーミドル級4団体統一王者サウル“カネロ”アルバレスが同じメキシコ人のハイメ・ムンギアと防衛戦に臨む。

 テキサス州ウェスラコ出身の長身痩躯のスイッチヒッター、フィゲロアは2021年5月、ロサンゼルス近郊カーソンでWBA世界スーパーバンタム級王者としてリングに上がり、WBC同級王者ネリと2団体統一戦を行った。6ラウンドまでスコアカードは2-0でネリがリードしていたが、乱戦に持ち込んだフィゲロアが7回、左ボディー打ちでネリにテンカウントを聞かせた。

 余勢をかってフィゲロアは同年11月ラスベガスでWBO世界スーパーバンタム級王者スティーブン・フルトン(米)と2団体統一戦を行った。本来なら3団体統一となるべき一戦だったが、WBAは指名試合を回避したフィゲロアからベルトを取り上げていた。試合はラッシャースタイルで押し込むフィゲロアに対し、テクニシャンのフルトンは迎撃しながらポイントに結びつける戦法で対処。フィゲロアのアグレッシブさを評価するかフルトンの的確さを選択するかで採点が分かれる攻防となった。そして2ジャッジがフルトンを支持し、もう一人はドロー。2-0のマジョリティ・ディシジョンでフルトンの手が上がった。

 私は以前も記したが、フルトンvs.フィゲロアはフィゲロアが勝ったと思っている。「いや、試合を吟味するとやっぱりフルトンだよ」という意見も耳にするが、私の信念は変わらない。WBO・WBC統一王者に就いたフルトンはその後、井上尚弥とのビッグマッチを実現させてビッグマネーを稼いだ。もし判定が逆に出ていたら、フィゲロアが井上の対立コーナーに立っていたはずだ。しかしスコアカードに泣いたフィゲロアは井上という大魚を逃してしまった。

ルイス・ネリvs.ブランドン・フィゲロア

フェザー級最強の声も

 失意のフルトン戦から8ヵ月後、上位ランカーだったカルロス・カストロ(米)に6回TKO勝ちで復帰したフィゲロアは昨年3月、元WBCフェザー級王者マーク・マグサヨ(フィリピン)との激戦を3-0判定勝ちで飾り、同級暫定王者に就いた。今回のマグダレノ戦は14ヵ月ぶりの試合となる。ブランクに見舞われた原因としてWBCフェザー級正規王者レイ・バルガス(メキシコ)との団体内の“統一戦”が、バルガスが乗り気でなく交渉が進展しないことが挙げられる。そして有力視されていたフルトンとの再戦が具体化しないことも影響したと思われる。

 復帰にあたりフィゲロアは「私はファンが喜ぶ、とてもユニークなスタイルを持ったボリューム・パンチャーだ。試合が待ち遠しくてたまらない」と自己アピール。ステイタスは暫定王者ながらフェザー級最強に推すメディアもあり、実力評価は高い。井上がフェザー級へ進出した時、ターゲットになる可能性も大きいのではないだろうか。

 一方、相手のマグダレノ(29勝18KO2敗=32歳)は元WBOスーパーバンタム級王者の肩書を持つ。16年11月、地元ラスベガスで当時の王者ノニト・ドネア(フィリピン)に挑戦。8ポイントから4ポイント差の3-0判定勝ちでドネアを攻略してベルトをつかんだ。私はこの一戦を現場で取材したが非常に拮抗した内容に見えた。もしかしたらドネアに分があるのではとも思えたほどだが、スコアカード上はマグダレノの快勝だった。

 サウスポーのパンチャータイプで、初防衛戦も2ラウンドで楽勝。しかし続くスター候補と呼ばれたアイザック・ドグボー(ガーナ)との防衛戦で11回KO負けで無冠。その後4連勝したが、昨年4月、レイムンド・フォード(米=現WBA世界フェザー級王者)に2度ダウンを奪われ大差の判定負け。限界説もささやかれた。

 カムバック戦でフィゲロア挑戦が実現したのは敏腕マネジャー、フランク・エスピノサの力によるものだろう。正直、いきなりフィゲロアに挑むのは荷が重いのではないだろうか。「ドラフト・キングス」というブックメーカーが出しているオッズは14-1でフィゲロア有利、マグダレノは7倍となっている。

ザ・ハートブレイカーのニックネームを持つ27歳フィゲロア(写真:BoxingScene.com)
ザ・ハートブレイカーのニックネームを持つ27歳フィゲロア(写真:BoxingScene.com)

ネリは穴が多すぎる

 この数字は井上vs.ネリよりも開いている。ラスベガスに居を移して「キャリアを進める上で快適な環境をつくった」と充実ぶりを明かすフィゲロアは井上vs.ネリの勝敗予想を聞かれ、次のように述べた。

「単純にイノウエの方がより完ぺきな選手だと感じる。それに比べるとネリのスタイルには穴がたくさんあると思う。ネリとの試合では彼のサイズに戸惑った。でもチャンスを待って戦力低下させ、最後に捕まえた」

 先ほど行われた試合の計量でフィゲロアは125.4ポンド(56.88キロ)を計測しフェザー級リミットの126ポンドに合格した。対するマグダレノは128.6ポンド(58.33キロ)をマークし再計量を断念。タイトル獲得の権利を失った。まずはフィゲロアのパフォーマンスに注目。先にネリを倒した“ザ・ハートブレイカー”(魅力的な人)がモンスターの前に立ちはだかる。

ボクシング・ビート米国通信員

岩手県奥州市出身。近所にアマチュアの名将、佐々木達彦氏が住んでいたためボクシングの魅力と凄さにハマる。上京後、学生時代から外国人の草サッカーチーム「スペインクラブ」でプレー。81年メキシコへ渡り現地レポートをボクシング・ビートの前身ワールドボクシングへ寄稿。90年代に入り拠点を米国カリフォルニアへ移し、フロイド・メイウェザー、ロイ・ジョーンズなどを取材。メジャーリーグもペドロ・マルティネス、アルバート・プホルスら主にラテン系選手をスポーツ紙向けにインタビュー。好物はカツ丼。愛読書は佐伯泰英氏の現代もの。

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