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日本「報道の自由度ランキング」70位 ハンガリーやコンゴ共和国より低い理由は?

木村正人在英国際ジャーナリスト
ロンドンでも行われた2024年「報道の自由度ランキング」の記者会見(筆者撮影)

■G7の中で最下位

[ロンドン発]国際NGO「国境なき記者団」(本部・パリ)英国支部は5月3日、ロンドンで2024年の「報道の自由度ランキング」を発表した。調査対象の180カ国・地域のうち日本は70位と前年68位から2つランクを落とした。主要7カ国(G7)の中で最下位だ。

(1)ノルウェー(昨年同)(2)デンマーク(同3位)(3)スウェーデン(同4位)と上位3カ国は北欧諸国が占めた。

G7ではドイツ10位(同21位)、カナダ14位(同15位)、フランス21位(同24位)、英国23位(同26位)、イタリア46位(同41位)、米国55位(同45位)だった。

欧州連合(EU)内部からロシアのウラジーミル・プーチン大統領を援護するオルバン・ビクトル首相が強権主義を強めるハンガリーでさえ67位(同72位)。アフリカのコンゴ共和国は日本よりランクが1つの上の69位である。

■特定のテーマについて報道するのが難しい

「国境なき記者団」のフィオナ・オブライエン英国支部長に日本のランキングがどうしてそんなに低いのか理由を尋ねてみた。

フィオナ・オブライエン英国支部長(筆者撮影)
フィオナ・オブライエン英国支部長(筆者撮影)

オブライエン支部長は「日本は昨年68位、今年は70位と非常に安定している。日本が報道の自由の原則を支持しているのは理解している。しかしランキングが低くなりがちなのは、ジャーナリストが特定のテーマについて報道するのが難しいからだ」と答えた。

「ジャーナリストがよりデリケートなテーマについて報道する自由に伝統の重みや経済的利益、政治的圧力が影響を与え、政府の責任を十分に問うことを妨げている」と解説する。

ジャニーズ王国の創設者ジャニー喜多川(本名・喜多川擴=ひろむ、故人)の児童性的虐待について昨年3月、英BBC放送がTVドキュメンタリー『J-POPの捕食者 秘められたスキャンダル』を放送するまで週刊文春や告発本を除き、日本の主要メディアはダンマリを決め込んだ。

これは日本メディアの本質をあらわしているように筆者には感じられる。ジャニーズ事務所(SMILE-UP.に社名変更)に睨まれると所属人気タレントに出演してもらえなくなる。公然の秘密だった児童性的虐待は当人の死後もタブーとして封印された。

■5大コングロマリットによって支配される日本のメディア

日本のランキングは政治指標73位(昨年83位)、経済指標44位(同47位)、法的枠組み指標80位(同73位)、社会指標113位(同105位)、安全指標71位(同60位)。

「国境なき記者団」の評価は次の通りだ。

日本は「議会制民主主義国家で、メディアの自由と多元主義の原則は尊重されている。しかし伝統的な利害関係やビジネス上の利害関係、政治的圧力、男女間の不平等が、ジャーナリストが監視者の役割を果たすのをしばしば妨げている」という。

メディアの状況について「伝統的なメディアはニュースサイトよりも依然として影響力が強い。主要な新聞社や放送局は国内の5大メディア・コングロマリットによって所有されている。読売、朝日、日本経済、毎日、フジサンケイだ」と解説。

「世界一の発行部数を誇る読売新聞は1日当たり620万部、朝日新聞は360万部。一方、日本放送協会(NHK)は世界最大級の公共放送局だ」

■2012年以降、右派ナショナリストが台頭

日本の政治的背景について「2012年以降、右派ナショナリストが台頭して以来、ジャーナリストは彼らに対する不信感、さらには敵意さえ抱く風潮に不満を抱いてきた」と故・安倍晋三元首相とリベラルの朝日新聞の対立を示唆した。

しかし筆者に言わせれば、英国のメディア事情も似たようなものだ。保守系のデーリー・テレグラフ紙や大衆紙デーリー・メールは右派ナショナリスト・メディアに分類できる。気分が悪くなるので筆者は両紙の移民・難民の記事やコラムは読まないようにしている。

日本の悪名高い記者クラブ制度について「記者会見や政府高官との接触を既存の報道機関にのみ認めており、記者を自己検閲に追い込み、フリーランスや外国人記者に対する露骨な差別となっている」(「国境なき記者団」)という。

しかし記者クラブ制度のような仕組みは英国の政治記者、王室担当記者にもある。

■政府や企業が主要メディアの経営に日常的に圧力

法的枠組みについては「安全保障上重要な施設の周辺や国境離島を対象とする重要土地利用規制法が施行され、原子力発電所や基地など583カ所でジャーナリストを含む一般人の立ち入りが制限される。違反した場合、2年以下の懲役か200万円以下の罰金が科せられる」と指摘。

14年に施行された特定秘密保護法では特定秘密を漏らした場合は最高で懲役10年の厳罰を科せられる。しかし、こうした国家安全保障上の規制は米英を中心とした電子スパイ同盟「ファイブアイズ」の基準に合わせたものだ。

「日本では政府や企業が主要メディアの経営に日常的に圧力をかけており、その結果、汚職、セクハラ、健康問題、公害など、センシティブとみなされる可能性のあるテーマについて激しい自己検閲が行われている」

「大規模な国家的危機が発生した場合に“指示”に従うよう求められる組織のリストに公共放送NHKを加えた」と「国境なき記者団」は付け加えた。「政権を批判するジャーナリストに対して、ナショナリストグループが日常的に嫌がらせを行っている」と警鐘を鳴らす。

パレスチナ自治区ガザや中国での報道規制と闘うジャーナリストたちの話を聞いてジャーナリスト歴40年の筆者は穴があったら入りたい思いだった。

日本もそろそろ記者クラブにどっぷり浸かった御用聞きや音声ファイルの文字起こし、自己目的化した夜討ち朝駆けはやめにした方がいい。

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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