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「色白で目が大きく、少し面長の10代女性」金正恩の“お相手”選抜基準

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
金正恩夫妻とモランボン楽団(朝鮮中央通信)

北朝鮮の「喜び組」と言えば、江戸時代の大奥のように、将軍様の「お相手」というイメージが強い。実際には「6課対象」と呼ばれる彼女たちは、性上納を強いられる存在なのか、単に金正恩総書記一家の身の回りの世話をする存在なのか、よくわかっていない。

各地方の朝鮮労働党委員会には組織部6課という部署が存在し、若い男女から外見、思想などあらゆる面で「問題のない人」を選びぬき、平壌に送り込む役割を果たしている。

米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)は26日、咸鏡南道(ハムギョンナムド)の各市や郡の朝鮮労働党委員会が最近、女性の選抜作業に力を入れていると報じた。その選抜基準は次のようなものだ。

「色白で目が大きく、少し面長で10代の未婚女性」

この基準は変わらないが、どんな人を選ぶかは中央が毎年、具体的に指示をする。職業、教育レベル、身長、体重、顔型などが基準になる。

(参考記事:美貌の北朝鮮ウェイトレス、ネットで人気爆発

このような選抜作業は毎年行われている。対象者は高等中学校(高校)在学中から「青田買い」され、卒業後にさらなる審査を受ける。市や郡で数十人を選ぶが、最終審査までの過程でほとんどが振り落とされる。また、場合によっては一人暮らしの未亡人、電気技師、園芸師などの技術者も選ばれることがあるとのことだ。

情報筋の住む地域では、6課の幹部2人が大学、専門学校を回り、若い女性が多い工場も探したが、人材確保には至っていないようだ。

「市・郡の労働党委員会6課の職員は、自分が選抜した人のうち何人が最終合格したかによって人事評価を受ける。高い評価を受けると金正恩氏からプレゼントがもらえると聞いている」(情報筋)

咸鏡北道(ハムギョンブクト)の別の情報筋は、道内最大都市の清津(チョンジン)でも、6課対象の選抜作業が行われていると伝えた。

「市と区の労働党委員会の6課の職員が大学、専門学校、看護学校、教師養成所、輸出アパレル工場など若い女性の多いところを回って審査を行ったが、人材が見つからなかったので、今度は毎日午後に市場に行って、行き交う若い女性をチェックしている」(情報筋)

これではまるで、日本の繁華街にいる「スカウト」のようだ。もし的確な女性が見つかったとしても、美貌だけで合格になるわけではない。

「(6課の幹部は)背が高く健康で若い未婚女性が見つかれば呼び止めて、名前と身長、両親の名前、職場でのポスト、家の住所などを尋ねる。こうして選抜された対象者を出身成分や階級的基礎など身元調査、身体検査、学校や人民班(町内会)など様々な角度から調査し、選別し、また選別する」

成分(身分)の調査を行うのは、昭和の興信所を彷彿とさせる。スカウトと興信所、これが「偉大な首領がたを永遠に高く敬愛し、首領を中心に組織、思想的に強固に団結した労働者階級と労働人民大衆の中核部隊、前衛部隊」と規約で謳われた朝鮮労働党の幹部のお仕事なのだ。

路上で厳しい審査を突破した人物は、平壌で再び人物審査、身元調査を受けるが、最終合格できるのは100人に1人ぐらいに過ぎないという。

以前は一般庶民を対象にしていたが、今では末端機関の幹部の娘も対象になっていると情報筋は説明した。

「自分の娘が6課対象になることに、すべての親が賛成しているわけではない」(情報筋)

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家族が6課対象に選ばれるのは、思想的に問題がないと国からお墨付きを得たのも同然で、非常に名誉なこととされる一方、一度平壌に行けば、辞めるまでは家族と会えなくなり、手紙を書くことすら許されない。たまに6課の職員が元気な様子を収めた写真を届けてくれるくらいだ。

そんな生き別れを嫌い、娘を送り出そうとしない親が増えたことで、人材確保が難しくなり、対象を幹部にまで広げたようだ。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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