再び輝く場所へ―。元阪神タイガース・西村憲投手の新たなる船出
■上園啓史監督の滋賀ユナイテッドへ
西村憲投手がまた新たなスタートをきる。今季、独立リーグのルートインBCリーグに新規参入した滋賀ユナイテッドBCに籍を移し、NPB復帰へ向けてさらなる挑戦をする。
2014年に阪神タイガースを退団し、NPBに戻ることを目指してBCリーグの石川ミリオンスターズでプレーした。
2015年にはクローザーとして防御率0.00という驚異の数字を記録し、翌2016年は故障で途中離脱もあったが状態を確実に上げてきた。
その年の11月、甲子園球場で行われたトライアウトでもその状態の良さは披露したが、NPBのチームからは声がかからなかった。
12月に受けた台湾プロ野球のトライアウトでは一旦は話がまとまりかけたが、不運に見舞われ成立しなかった。
そこに救いの手を差し伸べてくれたのが、タイガース時代の先輩であり、滋賀ユナイテッドの初代監督に就任した上園啓史氏だ。上園監督は西村投手を大きな戦力として必要としながらも、NPB復帰を強力にバックアップしてくれる。
再び輝く場所に戻るために―。滋賀ユナイテッドでプレーすることを決意した。
■新たなバリエーションを見せていく
上園監督の方針で、どうやら先発で回ることになりそうだ。「スタートの10試合くらいが特に大事。計算できる投手なので、西村には先発で助けてもらいたい」と話す上園監督。
タイガース時代は1軍公式戦での先発はなく、ミリオンスターズでも昨年のBCリーグチャンピオンシップで一度あっただけだが、上園監督は「先発してなかったっていうより、言われなかったからしなかっただけで、肩ヒジ大丈夫だし、できるでしょ」と問題ないことを強調する。
実はその裏には上園監督ならではの気遣いがある。「西村はとにかくNPBのスカウトに見てもらわないと。そのためには目先を変えないとね。リーグ変えるかポジション変えるか…となると、リーグが同じなんだから見せ方を変えないと」。つまり、西村投手の引き出しを増やし、違うアプローチでNPBから注目されることを狙っているのだ。
西村投手も「先発もいけるし、リリーフもしていたしで、チャンスの幅も広がると思う。上(NPBの球団)の人が何を求めているかが重要だし、違う自分も見せられれば」と自身のバリエーションを増やし、“使い勝手のよさ”をアピールしていくつもりだ。
3月27日の奈良学園大学戦で先発し、5回を投げ被安打1、無失点だった。「収穫を挙げるとすれば5イニング投げられたこと。49球だけど球数は投げられたし、投げてベンチでインターバルとってっていう、その流れはできた」。上園監督からも先発としてのテンポなどアドバイスももらい、一定の手応えは得た。
リリーフのときも初回からしっかりとゲームを見て、相手バッターの特徴など観察してきた。先発だとそれをマウンドでし、すぐに対応しなければならない。
また長い回を投げるスタミナも必要となる。「ペース配分とか考えているヒマはないと思う。初回から飛ばしていって、いけるとこまでいく。だんだんイニングも増やしていきたいし、スタミナも上げていければ」と意気込む。
さらに、試合中に同じ打者と二度、三度と対戦する。「そこも勉強ですね。リリーフのときも前回の対戦を頭に入れてやってきたけど、一試合の中でまた当る。結果球や攻め方を覚えて次の対戦…ってことになる。難しいところ」と明かす。
ただ「試合は生きものだし、自分の調子も日々違う。その中で自分のパフォーマンスさえ出せれば抑えられる。そこが一番大事。とにかく自分のパフォーマンスを上げること」と自信も覗かせる。
■より良くなるための変化を恐れない
常に高みを目指し、より良くなるための変化を求めている。
その一つとして、今季からピッチングフォームをワインドアップにした。大学1~2年生以来というが、大きな決断だ。
1月半ばに滋賀に合流し、自身のピッチングを寺尾元希トレーナーに動画撮影してもらったとき、見て愕然としたそうだ。「なんだ、これは…!こりゃ、ヤバイぞ」と。「少し年齢を重ねて、微妙に体が硬くなって粘りがなくなっている。淡白に感じた」という。そこでなんとか体を矯正しようと、ワインドアップを取り入れることにした。
腕を高く上げることで上半身が伸びる。「ストレッチも兼ねて、投げる前にクセをつける。『こういう意識で投げるんだぞ』と。動きが出ていなかったのを、動きを出したかったということですかね」。
ただ、すぐに効果が出るものではない。「いい方に出ればいいと思ってやっている」と言い、さらなるレベルアップを求め、今後も研究しながらいろいろ試していきたいと話す。
また、体への意識も高く持つ。昨年はグルテンフリー(小麦製品を食べない生活)にトライした。大好きな麺類やパンをいっさい口にせず、一年間すごした。「けっこうしんどかったけど、体調もよくなった」という。
そのほか、積極的にタンパク質を摂ったり飲料に気を配るなど、体の中に入れるものはできるだけ意識するようにしている。
■若い選手とともに
関西のチームだということも、滋賀ユナイテッドに入団する決め手だった。タイガース時代から変わらず応援し続けてくれるファンも、観戦に駆けつけやすい。
入団し、驚いたのはチームメイトの若さだ。「事務所でプロフィールを書いているとき、正面に座っている子のをふと見たら、生年月日のところに『2000年』って書いてあるんですよ。『2000年!?』って、思わず二度見しました(笑)。2000年生まれって、初めて見ましたよ」。
確かにプロ野球界にはまだ2000年生まれの選手は誕生していない。「そういう子たちと同じメニューをやっているんで、すごくハードですよ」。これまでにない刺激もあるだろう。
若い選手からすれば、生きたお手本だ。「素直に聞いてくる選手もいるけど、人見知りが多い印象かな。ボクの方から話しかけるようにしています。リリーフの調整の仕方を知らないピッチャーもいるし、そういうのも教えたり…」。
上園監督も「西村の方がボクより理論がしっかりしている」と、若手投手陣へのアドバイスなども期待しているし、ベンチで一緒に采配などを考えていけることを楽しみにしている。「それはありがたいし、ボクも勉強できるなと。一生懸命、野球と向き合って、濃い時間を過ごしたい」。
これまでにない経験が、より大きく成長させてくれるに違いない。
■常にガムシャラに勝利を目指す
ただ、忘れたくないのは「アピールする立場」だということだ。「最年長だからとかじゃなく、常にチャレンジする気持ちでいたい。ガムシャラにプレーでアピールしていくことは忘れずにやっていきたい。どこで誰が見ているかわからない。一日一日アピールしていくだけ」。ここで終わりではないのだ。ここは過程であり、目指す場所はほかにあるのだから。
もちろんチームスポーツだ。自分のことだけを考えているのではない。「上園監督がチームを勝たせたい、強くしたいと、いつも居残り練習に付き合っている。そういう姿を見ると、一つでも勝ちをプレゼントしたいと思う。自分が投げる試合は全部勝つ」。自分がガムシャラにアピールすることは、そのままチームの勝利に直結するはずだ。
「監督も野球が大好きで、点が入ったときはものすごく喜ぶし、勝ったときはそりゃもう…(笑)。ボクも監督のそういう顔をたくさん見たいので」。
野球をする場を与えてくれ、なおかつステップアップできるよう腐心してくれている上園監督。その思いには全力で応えていく。
■再び輝く場所へ―
昨年11月、2年半ぶりに上がった甲子園球場のマウンドで、割れんばかりの拍手と歓声を浴びた。あの感動は今も胸の奥に大切にしまってある。
3月には、変わらず応援し続けてくれているファンが激励会を開いてくれた。遠く千葉や埼玉、島根からも足を運んで、力強い励ましを送ってくれた。
多くの人々に恩返しするためにも、再び輝く場所へ―。
「ただ抑えるだけじゃなく、見ている人たちに喜んでもらえるような、『おぉ~っ!』と言ってもらえるようなピッチングができたらと思っている」。
体が壊れるまで、西村憲は高みを目指し続ける。
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