西村 憲投手、母の日に捧げる3勝目―滋賀ユナイテッド、2戦連続の大勝で3位に浮上
■2試合連続で大量得点
大勝だ。しかも2戦連続で。東地区(FUTURE―East)との3連戦に臨んだ滋賀ユナイテッドBCは、初戦の対栃木ゴールデンブレーブス戦を14―2で勝ち、雨天中止の対群馬ダイヤモンドペガサス戦を挟んで5月14日の対武蔵ヒートベアーズ戦では16―3で勝利を収めた。
「これだけ点が入れば交代選手も使える。それぞれの選手が全然出られないということがない。誰を使うか、嬉しい悩み」と上園啓史監督も相好を崩す。
■切れ目のない打線
武蔵戦ではまず、先頭の泉祐介選手の足を活かして先制。直後に内野の2つのエラーで逆転されるも三回に2点、四回に3点と再逆転し、なおもリードを広げる。
さらに六回にはビッグイニングを作って8点を追加。七回にもダメのダメを押す2得点。合計16点を奪った。
野手14人中11人が安打を記録し計17安打、そして9人が計16打点を挙げるという荒稼ぎぶりだ。
好調の1、2番コンビに引っ張られるように、下位打線もこのところ元気が出てきて、切れ目のない打線に仕上がってきた。
■2番最強説を実現
中でも貴重な働きをしたのは杉本拓哉選手だ。再逆転し、3-2と1点リードした滋賀ユナイテッドは四回裏、追加点がほしい場面だった。
先頭の北條葵己選手が二塁打で出塁したあと、鍵田匡宏選手が四球で無死一、二塁。バントを多用しない上園監督ではあるが、ここは9番・松田裕司選手にバントを命じた。しっかりと決めて二、三塁となったところで1番の泉選手に回ったが、珍しく3球三振。
しかし次に控えるのは杉本選手だ。上園監督が「打たなさそうに見えて打つ(笑)」と評する杉本選手は、前試合まで打率こそ3割に満たなかったが、ここというときに打つ勝負強さが光るバッターだ。
カウント2―2、アウトコースから入ってきた変化球をとらえると、左中間を割った打球は外野の最深部まで転々と転がる。ランナーふたりを迎え入れたあと、自身も快足を飛ばして三塁を陥れた。
開幕は5番で迎えたが、打線を組み替えた5月7日から2番に上がった。開幕前、より多く打席が回ってくる2番に強打者を置く「2番最強説」を上園監督も口にしていたが、足も使えて打撃好調な泉選手を1番に固定することで、今、それが実現できている。
2番に関しては「どこの打順でもやることは変わらない」と話す杉本選手だが、「泉がよく塁に出てくれるんで、とにかく繋いでいこうと打席に立っている」という意識が、より集中力を生み出しているようだ。
■捕手の重圧から解放され…
「ピッチャーが頑張っているので、少しでも点を取ってあげたい」との思いが強いのは、捕手経験もあるからだろう。外野手登録だが、開幕からずっとキャッチャーも兼任してきた。4月は3試合でスタメンマスクもかぶった。
しかし5月からは山本祐大捕手の加入により、レフトに専念できている。「気持ちの余裕が全然違う。キャッチャーだとどうしてもリードのこととか気になって、ずっと考えてしまっていた。攻撃のときにも引きずってしまってたり…。今は打つ方に集中できています。防具の準備もいらないし(笑)」。
好調の要因は、自身の欠点の自覚だ。つい体の右側が伸び上がってしまうことでポイントがズレる。レベルで振れるよう、「下に下に」と常に意識して自分に言い聞かせる。
そんな杉本選手に対して上園監督は、「左(投手)でも右(投手)でも苦もなく入っていける。左ピッチャーにも、崩されることなく自分のスイングができる。怖さはないけど、タイミングの取り方が上手い」と絶大な信頼を寄せている。
この日の3安打(4打点)で打率も3割に乗せ、・309とした。
■一番の課題はヒーローインタビュー
泉選手とは花園大学の同級生でもある。同じ大学からまた同じチームに進み、そして同じくNPBを目指している。「刺激になっています」と切磋琢磨できる相手がいるからこそ、より頑張れているという。
この日も試合後、ヒーローインタビューを受けた。二度目だが「慣れないです…」と表情は硬く、言葉数も少ない。
「笑顔を作る余裕なんてないですよ」と言って、はにかんだ笑顔を見せた。打席で生まれはじめた余裕を、次はお立ち台でも発揮してほしい。
■マメを作った湖東スタジアムでの2度目の登板
もうひとり、一緒にお立ち台に上がったのは先発で3勝目を挙げた西村憲投手だ。湖東スタジアムでは2度目の登板となる。
前回の対信濃グランセローズ戦(4月20日)は調子がよく、指にかかり過ぎたがゆえに中指にマメを作ってしまった。それが苦闘の始まりだった。
そのマメの治癒が思ったより遅く、完治しないまま次の対福島ホープス戦(同29日・あづま球場)のマウンドに上がったが、やはりマメのせいでうまく指にかからず、さらに試合途中で再び同箇所が割れ、悪化させてしまった。
5月5日の対富山GRNサンダーバーズ戦では8安打4失点(自責3)ながら勝ち投手になったが、まだまだ本調子にはほど遠かった。
■格の違い
この日はようやく“らしい”球も増えた。それでも「いい球と、そうでない球があった」と本人も振り返ったように、もう一息といったところだろうか。
ただそんな中、雰囲気を察知し流れを引き寄せるべく意識的にテンポを変えたり、ゆる球を配して目先を変えるよう緩急を使ったりなど、うまく押し引きして格の違いを見せた。
味方のエラーで2点を失ったが(自責0)、上園監督は「本調子ではないと思うけど、それでも3つ勝ってくれている。ありがたい」と感謝の言葉を口にした。
「ニシのいいときを知っているから。今は慣れない先発をやってもらっているけど、もっと上がってくると思うし、楽しんでやってもらいたい。年齢的にもまだまだいける」と、スキルアップを信じている。
西村投手も「同じフォームで投げた球は1球もない」と言うように、さらなる上積みを自身に課し、試行錯誤を続けている。
「まっすぐだけで強弱つけてコントロールできた」ことや、「カーブやチェンジアップ、ツーシーム…いろんな持ち球をうまく使って幅広く投げられた」ことなど収穫もあった。
若き女房・山本捕手も「しっかり内を攻められたのでよかった。前回は単調になってしまったけど、今回はストライクとボールを投げ分けられた。ファウルを打たせる球、内で抑える球、外の決め球…やっぱり上の世界でやってた人は投げる球質が全然違うなって思います」と感じた手応えに白い歯を見せ、「配球も首を振って教えてもらってますし、うまく引っ張ってくれた」と、今後も生きた教材として懐に飛び込んでいくつもりだ。
■母の日だから、絶対に勝ちたかった
これまでのような身体の不安もすべて解消したという西村投手。「“邪魔”がなくなったのはよかった。投球に頭を使っていけるので」と、今後の自身への期待を高める。
ヒーローインタビューの最後、「今日は母の日なので、球場にお越しのお母さん、いつもありがとう!」と“みんなのお母さん”に向かって声を張り上げた。遠く福岡に住むお母さんには花束を送った。
何日も前からこの日は意識していたという。「ちょうど先発が回ってきたんで、絶対に勝ちたいなと思っていた。ボクだけじゃなく、チームメイトもお母さんに『勝ったよ』って報告できるかなと思ったんで」。最年長者として後輩たちのことも思いやる。
西村投手もチームメイトも、最高の形でお母さんに感謝の気持ちを伝えることができただろう。
■「ピッチャー、オレ」
2試合連続、大量得点で勝利したが「打線は水物」と上園監督も兜の緒を締める。「2、3点で頑張れば、なんとかなる」と、投手陣にさらなる奮起を促す。
ただ、投手の絶対数不足は否めない。現在登録している投手の数は8人だ。
ここ3戦は先発が8回、6回、6回と投げ、中継ぎの消耗を防ぐことができた。しかしこのあと16日のオリックス・バファローズとの練習試合を挟んで2連戦、2連戦、4連戦と続く。監督としては登板過多の疲労による故障だけは避けたい。
そこで、やむにやまれず12日、選手登録をして兼任監督となった。世間は早くも「現役復帰か!?」とザワザワしているが、そういう意味合いではない。あくまでも「選手にケガさせないために」という、“もしものとき”のための緊急措置で、選手を守るためなのだ。
しかし…少しは期待してしまう。「ピッチャー、オレ」に。
上園監督も負けることが大嫌いだ。きっと“コソ練”はしているに違いない。
チーム状態も上昇し、一気に巻き返せそうな5月。15日、西地区(ADVANCEーWest)の3位に浮上した。新しい話題も加わって、ますます滋賀ユナイテッドから目が離せない。
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(撮影:城 裕一郎)