BCリーグ・滋賀ユナイテッドの開幕戦―元阪神タイガース・上園啓史監督の最初の一歩
■BCリーグ開幕
4月8日、ルートインBCリーグが開幕した。新規参入の滋賀ユナイテッドBCも第一歩を踏み出した。
開幕戦の相手は、滋賀の上園啓史監督と同じく阪神タイガースOBである北村照文監督率いる福井ミラクルエレファンツだ。
天候の影響で開催も危ぶまれたが、なんとか30分遅らせて始めることができた。
■前半は滋賀がリード
開幕投手に抜擢された鈴木志廣投手は上園監督イチオシの投手だ。193cmの長身から投げ下ろすMAX145キロのストレートに落差のあるフォークが持ち味だ。しかしこの日は雨も影響したのか、球速は140キロに届かなかった。
制球も定まらず三回までに72球を要したが、なんとか野手の失策による1失点のみで凌ぎ、四、五回は立ち直って、テンポもよくなった。
一方、攻撃では三回裏、キャプテン・北本亘選手の三塁打を起点にケビン・モスキート選手の同点打、田中京介選手の犠飛、杉本拓哉選手の右前打で勝ち越しに成功した。
さらに五回裏にも二死からランエンドヒットで好機を作り、またもや杉本選手のタイムリーで加点した。
積極的に先の塁を狙うアグレッシブな姿勢や、常に声を出す活気あふれるスタイルが徹底されており、前半の五回が終わって4-1。勢いは滋賀にあった。
■開幕戦で初黒星
しかし野球はそんなに甘くない。インターバル明けの鈴木投手はコントロールを大きく乱してしまい、そこにつけ込まれて一気にノックアウト。2番手の保田拓見投手も流れを断ち切れず、六回表に6点を献上してしまった。
その後は両チームともにピッチャーが粘って互いに得点できず、4-7で滋賀は開幕星を落としてしまった。
「勝てる展開だっただけに…」。上園監督の悔しさが手に取るように伝わってきた。敗因に挙げたのは四死球だ。トータルで12コを献上し、「打たれる分にはいいけど、四球は野手はどうすることもできない。残念な試合だった」と唇を噛むしかなかった。
そして「鈴木には自覚を持ってほしい。野球はピッチャーなんだということを。中心になってもらわないといけないピッチャーなんだから」と期待すればこその苦言を呈した。
■開幕投手の鈴木志廣投手
その鈴木投手の口からは「初球の入り方ですね。マウンドで気持ちがついていっていない。ブルペンからしっかり意識してやらないと。気持ちの持ち方で、『真ん中に放っても打たれない』と思って投げないと…。逃げのピッチングになるとボールになってしまう」と、反省の弁が溢れ出た。
上園監督と初めて対面したときに開幕投手を告げられ、嬉しくてそれを意気に感じてやってきた。それだけに悔しさもひとしおだ。
さらに試合後のお見送りで握手を求められ、ハッとした。「雨の中、こんなに手が冷たくなるまで応援してくれていた。そういうのを考えたら、自分のピッチングが恥ずかしかったし、申し訳ない気持ちでいっぱいになった」。応援してくれるファンから大事なことを気づかせてもらった。
■好調な2番・3番コンビ
チームに初の得点をもたらせた2番のモスキート選手は、打った次の瞬間、バットをぽーんと放り投げた。「同点になって嬉しかったのもあるけど、意図的に盛り上げるためにやっているんだ」と胸を張る。チームのムードメーカーだ。
「MLBやNPB、上にいきたいという夢もあるけど、とにかく今は勝ちたい。勝つために日本にやってきた」と話す。
スピード、パワーを併せ持ち、「打つところは打って、小技も使えるオールラウンドプレーヤーだ。その時々で自分で考えてプレーし、勝利に結びつけたい。若い選手を引っ張っていく」と、牽引役を担っていくつもりだ。
ちなみに徐々に日本語を覚えようとしており、なぜか「アイス、クダサイ」がお気に入りの言葉だという。いちご味のアイスが大好きだそうだ。
打線の中心となっている3番の前本飛翔選手はこの日もマルチ安打で好調を維持している。「初球からどんどん積極的にいく」と安打はいずれも初球をとらえたもので、とにかく勝負が早い。
「徐々にチームがひとつになって勝ちにこだわりだしている」。自身もこれからチームの勝利に貢献ていくことを誓いながらも、「監督も桜井コーチも自分が目指しているNPBでやっていた方たちなんで、今までの経験とかを教わっていきたい」と、自らの目標もしっかり見据えている。
■打撃コーチも元タイガースの桜井広大氏
「選手は一生懸命やっているんで、いいモノを引き出すのは首脳陣の仕事」と語るのは桜井広大打撃コーチだ。
「打つだけじゃない。ヒット1本でも点は入るし、そういう面ではもっと点は取れた。1点でも多く取れるようにしていきたい。流れに乗っているときは取れるけど、しんどいときに取れるよう力をつけていきたい。調子いい選手は維持できているし、今なかなか打てていない選手が打ちだせば線になる」と次戦へ向けて意気込んでいた。
上園監督より一歳年上になるが、常に監督を立てている。もちろん話す言葉は敬語だ。立場をわきまえ、監督を盛り立てようと尽くす姿は、タイガース時代のやんちゃなイメージからは想像つかないかもしれない。チームを愛し、勝たせたいという熱い思いは人一倍だ。
自身もかつて四国アイランドリーグの香川オリーブガイナーズでプレーした経験もあり、独立リーグについてはある程度わかっている。
「オリーブガイナーズのときはすべて出来上がっていたけど、今はすべてが初めて。産みの苦しみかな。でも希望も何倍もある」と、やり甲斐を感じているという。
「選手も初めてでわかっていないけど、なんとか自分で考える力をつけていけるよう手助けしたい」。コーチとして、技術指導だけではなく人間形成にも尽力していく。
■滋賀県民に愛されるチームに
この日は2,253人のファンがスタンドから声援を送ってくれた。「(観客の)数ではNPBとは比べものにならないけど、熱意は伝わってきた。これからも県民に愛されるようなチームにしていきたい」と、改めて誓った上園監督。
32歳の青年監督のもと、滋賀ユナイテッドは今、大海原に漕ぎ出した。
【滋賀ユナイテッドBC 関連記事】