新人王が独立リーグの監督に!元阪神タイガース・上園啓史氏の開幕
■2007年の新人王が独立リーグの監督に就任
ルートインBCリーグに最年少の監督が誕生した。新規参入の滋賀ユナイテッドBC初代監督、上園啓史氏だ。32歳の青年監督である。
2006年、阪神タイガースに入団し、ルーキーイヤーの2007年に新人王を獲得。東北楽天ゴールデンイーグルスへ移籍した後、オーストラリアやオランダでもプレーした。
今季から滋賀ユナイテッドで指揮を執ることになったが、監督などもちろん初めてのことだ。好奇心旺盛で前向きな性格から「やりたくてもできないものだし、いい経験になる」と引き受けた。
すべてが初めての経験で、すべてが手探りだ。そんな中で徐々にチームを作り上げていっている。4月8日の開幕戦を前に、今は少し楽しむ余裕も窺える。
「現時点でもういい経験になっているし、楽しいですね。選手としても楽しかったけど、監督はまた違う楽しさがある。点が入ったときの喜びが違うんですよ、ピッチャーのときと。勝ったときの喜びもなんか違うんです、うまく言い表せないけど。まぁオープン戦の今だけかもしれないけど…(笑)」。しきりに“楽しい”を連発するが、本当に心底楽しんでいるようだ。
実際、どのような監督ぶりなのだろうか。
■監督は何でも屋
独立リーグの球団、ましてや新規参入球団である。“監督然”としてふんぞり返ってはいられない。練習中は打撃投手やノッカーを務めるだけでなく、ケージなどの用具の設営、球拾い、また後片付けなど何でもやる。グラウンド外では練習試合の交渉やスポンサー集めなどにも奔走している。
やはり関西で「元阪神タイガースの上園」と言えば話が通りやすい。スタッフに任せるより「話が早いから」と、監督自らが進んで動く。また道具類も旧知の選手に頼んで提供してもらったりもしている。名前や人脈、使えるものはすべて使う。
■選手時代との見え方の違い
BCリーグのオープン戦は、リーグ内のチームとではなく近隣の社会人やクラブチーム、大学生と戦う。滋賀ユナイテッドはカナフレックスや関メディベースボール学院、京都大学などと8試合対戦し、4勝4敗でオープン戦を終えた。
いきなり3連敗からのスタートだった。「最初はわかんないことだらけだった。簡単には勝てないし、勝つのが本当に大変だと思った」。しかし4試合目にようやく、しかも15-4の大差で勝った。「勝ったときは本当に楽しい」と正直な感想を漏らす。「これがオープン戦だからまだいいけど、公式戦で負けが込むと…と思うと、プレッシャーはありますよ」。今はまだ想像の域を出ない。
若いチームだ。最年少はなんと2000年生まれの17歳だ。「試合中、そりゃイライラはしますよ。元々ボク、落ち着きなくてイライラするタイプなんで(笑)。これがねぇ、『えっ!?』っていうプレーがあるんですよ、頻繁に」と明かす。
「自分が選手として見るのと、監督として見るのは違うんだな」と気づかされたという。「監督として見ると、どうしてもいいところより悪いところの方が目についちゃう。いいところが見えづらくて未熟なところの方が目に飛び込んで残りやすい」。新たな発見だった。
しかし決して頭ごなしに怒ったりはしない。「自覚を促すように話しますね。『こんなんでええの?』『こんなんでええなら辞めた方がいいよ』というふうに」。
また、試合後は選手同士で話し合わせる。「やるのは選手なんで。ボクらはサポート役だから」。あくまでも自分で考え、自ら変わることを促す。
けれどプレー以外の基本的なことや練習態度が緩かったりすると、しっかり指導する。道具をきちんと並べることなど「ボク、せっかちで細かいんですよ(笑)」と目を光らせるし、練習も気が入ってなければやり直しをさせたりもする。
■若いからこそのメリット
自身も“監督業”にはまだ不慣れだと自覚する。「展開が動いている中で、次の起用が頭にありながらも別のことに気を取られて、指示するのを忘れて準備させていなかったり…まだまだ慣れないですね」と反省点を挙げる。
しかし最年少の若い監督だからこそのプラス要素がある。上園監督はそれを「言いやすさ」だという。「サインの出し方ひとつでも、わかりにくかったら言ってもらいたいし、変なプレッシャーを感じる必要もない。選手に押し付けず、伸び伸びできるような環境を作っていきたい」。威圧感とは対極にいる。
「ボクらもマイナスばかり見ず、いいところを見ていくようにしたい」。選手と年が近いことで、いい意味でフレンドリーな関係を築き、信頼感を深めつつある。
■NPBへ向けてのバックアップ
個々の選手に関してはかなり把握してきているという。「『こういういいところがあるんや』とか『こういうことしそうなタイプだな』とか、桜井さん(バッティングコーチ)とも話しながら掴んできている」。練習から見える姿、実戦での能力の出し方…様々な観点から選手の力を見極めている。
打順もある程度、見えてきた。主なところでは1番の泉祐介選手。足が速く、NPBのドラフトにかかる可能性の高い選手だ。
3番の前本飛翔選手、4番の田中京介選手には長打力の期待が懸かる。3月27日の奈良学園大学戦では、この2人のアベックホームランで完封勝ちを収めた。
投手陣では鈴木志廣投手が軸になる。193cmの長身から繰り出すMAX145キロのまっすぐにフォーク、スライダー、ツーシームを持ち、まだまだ荒削りながら「使える。開幕戦の先発です」と監督期待の若手だ。今後、NPBのスカウトの目に留まるよう起用も考えていく。
また強力な戦力として、元阪神タイガースの西村憲投手を獲得した。「計算できる投手」として先発で回すことを考えているという。「まず、最初の10試合くらいが大事になってくる。早く一つ取りたいから、先発で助けてもらいたい」という思いもあるが、それは同時に西村投手に対する気遣いでもある。
これまでNPB復帰を目指し、同じリーグ内の石川ミリオンスターズでプレーしてきたが、未だNPBからの声はかかっていない。「何か目先を変えないとダメでしょ。チームだけ変わってもリーグが同じなんだから、じゃあ見せ方を変えないと」。西村投手がNPBのスカウトに注目されるようにという考えもそこにはあるのだ。
常にチーム全体と、選手個々を見ている監督だ。「NPBにいけるチャンスがあるやつは手助けしなきゃいけないし、まだまだというやつにもチームとして貢献してもらいたいし、関わっている時間は満足いく野球人生を送らせたい」。愛情たっぷりだ。
■首脳陣はチームワークもバッチリ
コーチ陣との結束も深まってきた。元阪神タイガースの桜井広大氏がバッティングコーチを、上園監督の高校・大学時代の後輩である平野進也氏がバッテリーコーチを務める。さらに「コーチという肩書きは付いてないけど、西村にはゲームで投げないときはベンチに入ってもらいたい。一緒に考えながらやり繰りしたら面白いし、いたら心強い。ピッチングに関してはボクより理論的にやっているし、なにより野球が好きなのがわかるから」と西村投手も含めた4人で相談し、戦っていくつもりだ。
「同世代だし、4人で一緒にやったらおもろいでしょ(笑)」。采配ミスがあると他の3人が突っ込む…なんて絵面、見ているファンもきっと楽しいに違いない。それだけ上園監督の器が大きく、柔軟性があるということだ。
■選手の可能性を最大限に引き出す
選手への様々な教育、体作り、意識づけなど、課題は山ほどある。その中で上園監督が心がけているのは「思ったことは全部、言うようにする。怒るとかじゃなく。言わないと伝わらないので」ということ。日を追うごとにコミュニケーションは深まっている。
目指す監督像はないというが、“国際派”らしく日本のいいところ、メジャーのいいところをそれぞれ取り入れていきたいという。メジャーが活用する数字の指標や統計なども参考にする。
まずは思いきりプレーさせ、「短所を打ち消すくらいの個性ある長所をいかんなく発揮して、見る人…スカウトもそうだけど、少しでも『すごいな』と訴えるものが見せられたら」と、選手の可能性を最大限に引き出すつもりだ。
背番号は19番。憧れの上原浩治投手と同じ背番号を背負い、4月8日、ホームで開幕戦を迎える。
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