滋賀ユナイテッドBC、読売ジャイアンツ3軍とのホーム3連戦は2勝1敗で勝ち越し!
■地元で大暴れした西野 颯選手
その手に残った感触は悪くなかった。7月9日、守山市民球場で開催された対読売ジャイアンツ3軍戦で、ルートインBCリーグ・滋賀ユナイテッドBCの西野 颯選手は3安打目をライトへのホームランで締め、満面に笑みをたたえてダイヤモンドを一周した。
実家は同じ守山市内にある。スタンドにはご両親やご親戚の方々、また小学、中学時代のチームの指導者の方、地元の友人や高校の野球部のチームメイトたち、さらには小さいころから応援してくれているご近所の方々や古くからのファンの方など、数多くの“応援団”が駆けつけてくれていた。そういった人々に結果で応えられたことが、西野選手は嬉しくてたまらなかった。
■ジャイアンツ戦に懸ける思い
大当たりの一日だった。きっかけは第1打席だ。「中途半端なスイングになってしまった…」。低めの変化球にバットが出て、ハーフスイングを取られた。しかし、この空振り三振が目を覚まさせてくれた。
後悔だけはしたくない、そんな思いから「しっかり絞って振ろう。ゾーンを上げて、低めの変化球は振らないように」と自分に言い聞かせた。
頭の中を整理した2打席目以降は、意図を明確にして打席に入った。そうして左、中、右と打ち分けた3本はそれぞれ、先制されての勝ち越し打、同点に追いつかれての勝ち越し打、そして2点差に詰め寄られたあとのトドメの一発と、どれもが効果的な当たりとなった。
西野選手のこのジャイアンツ戦に懸ける思いには、並々ならぬものがあった。「正直、年齢も年齢なんで、絶対に結果を出そうという気持ちで臨みました」と表情を引き締める。
北大津高校、大阪産業大学を卒業後、兵庫ブルーサンダーズ(ベースボール・ファースト・リーグ)、信濃グランセローズ(ルートインBCリーグ)を経て、今季から地元の滋賀ユナイテッドでプレーしている。独立リーグで3年目、4月に25歳になった。
■手書きのチャート
開幕当初はなかなか思うようなアピールができず、4月は打率1割台で終えたが、前期終了時には.273まで上げてきた。そこには西野選手なりの地道な努力があった。
「1打席1打席が勝負なので」と、打席を終えるごとにベンチでメモをとっている。配球のチャートだ。自ら手書きした9分割のマス目に1球ずつ記す。球種、コース、高低、そしてその配球。
「キャッチャーによって配球が違いますから」と、打席に入る前に自身への攻められ方の傾向を頭に入れておく。その積み重ねが今、結果として顕れてきているのだ。
25歳。背水の思いで今季に懸けている。「自分の納得した打席内容にしたい。アウトになるにしても、なり方が納得いくように」。そのための準備は決して怠らない。
すべては上のステージで野球を続けるために―。
■先発に転向した平尾彰悟投手
先発は平尾彰悟投手だった。立ち上がり、3連打で幕を開けたが無失点で切り抜けた。二回に先制点を与えるも1点止まりで持ちこたえ、その後は打たせて取るピッチングで五回まで0を並べた。六回、二死三塁となったところで交代を告げられた。
「勝ち投手になれなかった…」。悔しそうに唇を噛む。権利は手にしていた。しかし降板後、三塁ランナーがホームベースを踏んだ瞬間、その権利は煙のように消えてなくなった。
投げ切れたはずだった、自分さえしっかりしていれば。周りの指示が耳に入っていなかったことや、バックの位置の確認不足だったことなど、ピッチング以外の自身の動きに反省すべき点が多かった。だから余計に悔しかった。
■桑田真澄氏からの金言
しかし収穫は山ほどあった。実は今回、ジャイアンツ側には田原誠次投手が帯同していたのだ。同じサイドハンドのお手本として、田原投手のピッチングが見られることを楽しみにしていた。
田原投手の出番は八回だった。じっくり正面から見ようとネット裏の部屋へ行くと、なんとそこには始球式を終えた桑田真澄氏がいた。投球を見てくれていた桑田氏からは、すぐに自身の弱点を指摘された。
フォームのいいとき悪いときの違いや、いい確率を上げるにはどうすべきか。また、初球が外れてボールになったとき、2球で1-1というカウントを作るよう練習から意識してクセづけるように…など、期せずして桑田氏からの金言を授かることになったのだ。
「まさか話していただけるなんて…」と感激しきりの平尾投手だが、「うまくなりたい」という意思をもって自ら動いたことによって、このような幸運を呼び寄せたのだ。きっと野球の神様からのご褒美に違いない。
■“ニュー平尾”の誕生
収穫はまだある。この日の先発は2度目だ。前回6月29日の富山GRNサンダーバーズ戦では約6年ぶりに先発で投げた。
先頭から二者連続で死球を与え、二回までに5失点した。しかしそこから立ち直り、三回から5回までは無失点で投げ終えた。
このとき、今までにはなかったものが自分の中に生まれた。
大学でも後ろで投げてきた。滋賀でも前期はクローザーとして防御率0.75と好成績を残した。奪三振率9.38が示すように狙って三振を取りにいき、実際に取れていた。(平尾彰悟投手・参照記事⇒☆)
しかし先発で長いイニングを投げるとなると、そうはいかない。「毎回三振を狙っていては肩にも負担がかかる。抜くとこは抜いて、ピンチでギアを上げるようにしないと」。三振を意識せず、コースはアバウトでも緩急を使って打たせて取る。前回生まれた感覚をジャイアンツ戦でも実践し、確信を得た。
「打たせて取ろう、なんて考えたことなかった」というかつての平尾投手とはまるで“別人の投手”が誕生した。
「全然違う自分が見つかった。先発をしなければ見つからなかった新しいスタイル」に、かつての三振を狙いにいくスタイル。今後、状況に合わせて使い分けることで、ピッチャーとしての幅も大きく広がる。
左打者対策や球速アップなど課題はあるが、幸いにも先発に回ったことでこれまでより時間ができた。この時間を自身のスキルアップのために有効に使うつもりだ。
桑田氏の助言も生かしながら、さらなる進化を目指す。
■上園監督も選手たちの成長に手応え
指揮を執る上園啓史監督も選手たちの躍動に目を細める。「ピッチャーもよく粘ってくれたし、攻撃陣もそれに応えてくれた。このジャイアンツ戦は2勝1敗。一昨日、昨日は3安打と4安打。少しはいいところを見せられてよかった」と頬を緩めた。
BCリーグの各チームと読売ジャイアンツ3軍との対戦は公式戦としてホーム3試合、ビジター2試合が組まれているが(詳細は⇒★)、5月に行われたジャイアンツ球場でのビジターゲームでは2連敗して帰ってきた。
しかしこの7月7日からのホーム3連戦では勝ち越すことができた。「2つ勝てたのは大きかった。ヒットがなかなか出ない中、ワンチャンスをモノにして勝てた。ピッチャーさえしっかりしていれば試合になるということもわかった」と、上園監督も選手たちの成長を認める。
■地元に愛されるチームに・・・
この3連戦には合計6,223人の観客が詰めかけた。スタンドに目をやった上園監督は「(大観衆の前での勝利は)気持ちよかった。これだけの多くの人の前でプレーするのは経験したことない選手が多い。選手もモチベーションが違うし、いい集中力で臨んでくれた」と観客に感謝し、「桑田さんも始球式に来てくださったり、この取り組みは素晴らしいこと。これを続けることが野球界の発展につながると思う」と、このカードの意義を大いに讃えた。
実際、見にきた人々からは「おもしろかった」「独立リーグがこんなにレベルが高いとは知らなかった」「滋賀ユナイテッド、イケメン選手が多い」などの声が聞かれ、「また見にきたい」と今後に期待する人が数多くいた。
“おらが街のスター”を育てようという機運が、確かに芽生えつつある。
そうした“新規ファン”に恒久的に応援してもらうためにも「これからも必死でくらいついてやっていく。勝つ試合をたくさん見せられるように」と改めて奮闘を誓った上園監督。
そして選手に向けては「何か秀でたもの、ひとつでもズバ抜けたものがあればプロ(NPB)に行ける。それをアピールしてほしい」とさらなる奮起を促した。今後もチームの勝利を求めつつ、選手へのバックアップは惜しまない。
【後期の試合日程】
☆ルートインBCリーグ⇒試合日程
☆滋賀ユナイテッドBC⇒スケジュール
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