滋賀ユナイテッドBC、信濃グランセローズに初勝利!勝負強さが光る北條葵己《BCリーグ》
■対信濃10連敗を止める
勝った!勝った!信濃に勝った!やっと勝てた!!
8月12日、対信濃グランセローズ戦11試合目にして、滋賀ユナイテッドBCは1勝を挙げることができた。しかも7勝を献上していた樫尾亮磨投手にようやく土をつけることができたのだ。
滋賀の上園啓史監督は「これまでいい戦いはしても勝てなかった。ギリギリで負けることも多かった。だから今日は特に意識しないようにした。やることやった上での勝ち負けはしかたない」と言いつつも、その表情には安堵感が浮かんでいた。
対信濃10連敗もそうだが、7月21日から今季最大の7連敗を喫し、その後1勝するも引き分けを挟んで連敗。そんな重い空気を一掃する、価値ある勝利だった。
「勝ててよかった…」。上園監督の顔にもようやく笑みが浮かんだ。
■先制し、逆転され、再逆転
珍しくオーダーを大きく動かした。打撃の調子を鑑み、これまで不動の1番だった泉祐介選手を2番に下げ、山本祐大捕手の体調を考慮してDHで3番に入れた。マスクは新加入の東屋宏明捕手に任せた。
序盤から積極的に攻めた。一死からでも犠打を用い、エンドランで動かした。選手もボールに食らいつき、足を使って執念を見せた。
初回と三回ともにケビン・モスキート選手の犠牲フライで得点。七回表に4点を取られて逆転されるも、その裏、先頭打者への四球を皮切りに攻め立て、山本選手の犠牲フライを挟む4連打で一挙4点を奪って再逆転に成功した。
■勝負強い北條葵己選手
試合を決める一打は北條葵己選手のバットから生まれた。
同点に追いついて、なおも一死一、二塁という場面。代打で打席に入った北條選手は、2-1のバッティングカウントから「まっすぐ1本で狙ってた。少々のボール球でも」と、高めのストレートを運んで右中間を割り、二走の泉選手をホームに迎え入れた。
「代打なので積極的に、思いきっていこうと思ってました」。高揚した顔で息を弾ませる。
無死満塁で降板した樫尾投手に代わり、マウンドにいたのはアンダースローの浅見修兵投手だった。「クイックも速いし、構え遅れだけはしないようにと頭に入れていた」。加えて「下から上がってくる球に対して叩きつけようと思っていた」と、冷静に頭の中をしっかりと整理して打席に入れたことも勝因だった。
「北條は打ってほしいときに期待どおり打ってくれる」。愛弟子の活躍に目を細める上園監督。「ここへきて慣れてきた。状況による球種、コースなどケースごとのアドバイスが生きてきた」と、その成長を認める。
桜井広大打撃コーチも「夏場で疲れも出てくる中、打席で粘り強い。球数を投げさせて、簡単にアウトにならない。追い込まれてもボール球を振らない。なんとかバットに当ててくれる」と、選球眼のよさを讃える。
そして「努力家だから。今日も実は(起用を)迷った。でも練習を見て、そのひたむきな姿から監督が起用を決めた。そういうのが最終的にああいう結果を出してくれるわけやから」と、その練習姿勢を高く評価していることを明かした。
「足は速くならないですから」と、本人もアピールするのはやはり打撃だ。しかも勝負強い打撃だ。
北大津高校、花園大学と学生時代は4番を張ってきた。チャンスで回ってくるおいしい場面は、舌なめずりしてモノにする。
7月7日の対読売ジャイアンツ3軍戦でも、勝負を決したのは北條選手のバットだった。
両先発が粘り、五回まで膠着状態だった。ゲームが動いたのは六回表。ソロ弾でジャイアンツに先制されたのだ。
その裏、二死一塁で打席が回ってきた北條選手は、ベンチで杉本拓哉選手にこう言って向かったという。
「ホームラン狙ってくるわ」
ここが勝負どころだと察知した北條選手は「長打がほしかったんで、思いきり振っていこうと思ったんです」と、2ボールからインコース高めのストレートをとらえ、ライトフェンスにアーチを架ける逆転の決勝2ランとした。
打撃だけではない。ムードメーカーとしても、その存在感は際立っている。「声でも、できるだけチームを盛り上げたいって思ってるので。ベンチがシーンとなったとき、自分が一番、声出そうって思ってます」。アンパンマンのようなその風貌も相まって、北條選手の一言が肩の力を抜き、ムードを盛り上げてくれるようだ。
独立リーグにきたのはやはりNPBでプレーしたいから。家に帰っても素振りに余念がない。部屋の中では「折れたバットを再利用してるんです。自分でグリップにテーピングを巻いて(笑)」と、半分サイズのバットを片手で振るなど、寸暇を惜しんで振り込んでいる。
「練習のための練習にならないようには心がけています。1球1球を無駄にしないよう、練習でも試合でも1球を大事にしています」。とにかく必死だ。残り試合、NPBへ向かって食らいついていく。
■課題は残ったが、好投した平尾彰悟投手
先発は平尾彰悟投手だった。6回を無失点で勝ち投手の権利を得て交代したが、残念ながら白星を手にすることはできなかった。
「もう1イニング投げたかった…」。試合後、非常に悔しがった。五回まで1安打のみに抑えていたが、六回二死無走者から連打と死球で満塁としてしまったのだ。
「リリーフに迷惑をかけるから、この回まではどうしても」と、なんとか次打者を一塁ゴロで凌いだが、しかしそこまでという判定が下った。99球だった。
自身の反省点も多々ある。「カウントを作ることを意識したんですけど、そこから三振を取りたいところで取れなかった。ファウルやフライになって、バットに当てられていた」。
さらには「クイックも遅かった。長くボールを持ったりしても走られたし、意識してるけどまだまだ…」と、課題克服とまでいかなかった。
「ストライクとボールが半々だと、先発としてリズムが作れない。クイックもまだまだ遅いし。でも本人は興味を持って取り組んでいるし、今日はとにかく粘り強く投げてくれた」と上園監督も平尾投手と同じような見解だった。
ただ「バッターが嫌がるフォームなんだから、もっとどんどんストライクゾーンで勝負すれば簡単には打たれない。上を目指すにはもっともっとやらないと」と、期待すればこその苦言も呈した。
監督の思いに応えるべく、平尾投手は「次はもっと長い回を、失点少なく」と、さらなる目標を立て、レベルアップを誓っていた。
■新加入の東屋宏明捕手が健闘
この日、スタメンマスクは新加入の東屋宏明選手だった。4人の投手陣をリードし、滋賀での初めての勝利を噛み締めていた。
関西国際大学を卒業し、今春から同じBCリーグの群馬ダイヤモンドペガサスでプレーしていたが、練習生への降格を打診され、もう一度勝負したくて移籍を決意したという。
信濃に未勝利であることや、樫尾投手に毎回やられていることなどの情報は入手しており、自身もチームの一員としてその悔しさを晴らしたかった。
先発の平尾投手には「ところどころ力みがある」と、なんとかリラックスさせることを考えた。「試合中にも声をかけたり、ジェスチャーでも1球1球伝えるようにしました」。
ストレートの力強さは感じていた。ただ力むと抜けてしまう。六回の与死球は追い込んでいただけに「もったいなかった。そういうのを防げるようにしたい」と、自身の力不足だと悔やんだ。
最終回はソロ本塁打で1点差まで詰め寄られ、一死から三塁打を許した。ここから執拗に落ちる球を要求し、ワンバウンドを前に落とし続けた。
「自分が後ろにやってしまうかもと、ビビッてサインを出したらピッチャーも不安になる。体を張ってなんとか前に落とせば、ピッチャーも安心して投げられる。ピッチャーに余計なことを考えさせずに、開き直って自信をもって投げてもらいたかった」。
平野進也バッテリーコーチも「落ち着いてやってくれている。急に(試合に)出してもアタフタしない。最終回もワンバンをしっかり止めてくれてたしね。キャッチャーとして大事なこと」との評価を与えた。
今後は「お互いを意識しながら、協力しながら、チームをいい方向にもっていってほしい」と、山本捕手と切磋琢磨して互いに成長してくれることを望んでいる。
■今日からビジター5連戦
「今日も相手の四球から流れがきた。野球にミスはつきものだけど、ミスを重ねると勝てない。点を取られたあとに取る、取ったあとは必ず抑える。そういうところを気をつけてやっていきたい。まだまだ(順位が)一番下だし、どこ相手というより、しっかり勝ちきれるようにやっていく」と上園監督。
連敗を止めた翌日の試合でまた負けてしまった。しかしシーズンはまだ残っている。残り試合、一つでも多く勝ち星を重ねられるよう、ガムシャラに戦っていく。
今日からビジター5連戦。必ず勝ち越して帰ってくるつもりだ。
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