上本博紀コーチが新加入!「阪神タイガースジュニア2021」のセレクション
■多くの選手を輩出しているジュニアトーナメント
今年も12月末に、全国の野球少年少女が注目する大会が開催される。「NPB12球団ジュニアトーナメント」だ。
この大会は「NPB(日本プロ野球機構)とプロ野球12球団が連携し、子どもたちが“プロ野球”への夢という目標をより身近に持てるように」と2005年に創設されたもので、12球団がそれぞれジュニアチームを作って日本一を目指して戦う。
チームの監督やコーチは各球団のOBが務め、選手は小学5、6年生で編成される。選ばれたジュニアの選手たちにとって、プロ野球選手と同じユニフォームをまとって戦う晴れ舞台は自信になるし、彼らの野球人生においての勲章にもなる。
現役のプロ野球選手の中にもこの大会の経験者が多い。2011年の3人に続いて毎年1人、4人、6人、5人、4人、5人、5人、5人、そして昨年は最多の11人がドラフト指名され、合計49人にも上る。おもな選手は以下のとおり。(頭の数字は指名年)
’11 北海道日本ハムファイターズ・近藤健介(マリーンズジュニア)
’13 東北楽天ゴールデンイーグルス・松井祐樹(ベイスターズジュニア)
’13 埼玉西武ライオンズ・森友哉(バファローズジュニア)
’14 東京ヤクルトスワローズ・田口麗斗(カープジュニア)
’14 北海道日本ファイターズ・浅間大基(スワローズジュニア)
’14 北海道日本ハムファイターズ・高濱祐仁(ホークスジュニア)
’15 東北楽天ゴールデンイーグルス・オコエ瑠偉(ジャイアンツジュニア)
’16 東北楽天ゴールデンイーグルス・藤平尚真(マリーンズジュニア)
’16 福岡ソフトバンクホークス・九鬼隆平(バファローズジュニア)
’17 横浜DeNAベイスターズ・桜井周人(スワローズジュニア)
’17 横浜DeNAベイスターズ・楠本泰史(ベイスターズジュニア)
’17 オリックス・バファローズ・西浦颯大(ホークスジュニア)
’18 千葉ロッテマリーンズ・藤原恭太(バファローズジュニア)
’18 中日ドラゴンズ・根尾昂(ドラゴンズジュニア)
’18 中日ドラゴンズ・石橋康太(マリーンズジュニア)
’19 中日ドラゴンズ・石川昂弥(ドラゴンズジュニア)
’19 中日ドラゴンズ・郡司裕也(マリーンズジュニア)
’20 中日ドラゴンズ・高橋宏斗(ドラゴンズジュニア)
’20 オリックス・バファローズ・元謙太(ドラゴンズジュニア)
’20 オリックス・バファローズ・来田涼斗(バファローズジュニア)
’20 福岡ソフトバンクホークス・田上奏大(バファローズジュニア)
’20 東京ヤクルトスワローズ・木澤尚文(マリーンズジュニア)
’20 北海道日本ハムファイターズ・五十嵐亮汰(スワローズジュニア)
’20 埼玉西武ライオンズ・若林楽人(ファイターズジュニア)
阪神タイガースにも高山俊選手(マリーンズジュニア)、浜地真澄投手(ホークスジュニア)、及川雅貴投手(マリーンズジュニア)らジュニア出身者がおり、タイガースジュニアからも安田尚徳選手(千葉ロッテマリーンズ)、林晃汰選手(広島東洋カープ)、内星龍投手(東北楽天ゴールデンイーグルス)、嘉手苅浩太投手(東京ヤクルトスワローズ)らがプロ入りしている。
そしてとうとう、タイガースジュニアからタテジマ戦士が誕生した。佐藤輝明選手である。今、「佐藤選手のようにタイガースジュニアに入って、将来はタイガースで活躍したい」という子どもたちが増えているという。
■阪神タイガースジュニアのセレクション
そのタイガースジュニアに入るためのセレクションが開催された。昨年同様、まずは1次の動画選考を通過した選手が2次の実技テストに進める。
動画選考には、「ピッチング、フィールディング、セカンドスロー、バッティング、自己アピール動画」などを撮影し、90秒以内にまとめて送付する。撮って編集するほうも大変だろうし、それをすべて見て審査するコーチ陣も相当な労力だ。
しかし、代表を務めるタイガースの中村泰広氏が「一カ所に大勢の子どもを集めるより安全に実施できるんで、そっちを重視したほうがいいという判断です」と語るように、このコロナ禍において、最善の策であろう。
まずは動画応募の約300名を96名に絞った。続いて2次の実技テストも大勢が一度に集まらないよう、8つのグループに分けて行った。キャッチボール、ノック、ポジションに分かれてピッチング、キャッチング、セカンドスロー、シートノックなど2日間にわたって審査し、28名が残った。そしてシートバッティング形式のテストで通過した24人が、最終テストの紅白戦に挑んだ。
2チームに分かれての紅白戦は十回まで実施し、それぞれがいくつかのポジションに就き、幾打席かずつ立った。初顔合わせながらチーム内で声をかけ合い、励まし合いながらプレーしている姿が印象的だった。やはり最終審査まで来るような逸材たちは、物怖じしないのだろう。
「それぞれみんな個性があっていい」と中村代表も頬を緩める。この中から「阪神タイガースジュニア2021」の16選手が決定する。
ではセレクションにあたった「阪神タイガースジュニア2021」の首脳陣に、紅白戦直後の声を聞いてみよう。
■白仁田寛和 監督
監督は昨年に続いて白仁田寛和氏だ。昨年の本大会では悔しい思いをした。その経験が選考にも反映されそうだ。
「やっぱり去年の大会では守備から崩れたんで…。慣れていないポジションを慣れないままやらせてしまった」と自身の責任として受け止め、「専門職というのは大事かなというのはあった」と考える。
大会では得失点差も大きなウェイトを占める。昨年は1勝1敗ながら得失点差に涙を呑み、決勝トーナメントに進めなかった。
「やはり0でいけるチームは強いし、残っていた。失点が少ないほど残る確率は上がる」。
そのためにミス撲滅を掲げる。
「野球はミスが少ないほうが勝つ。守備のエラーだったり、打ち損じもそう。バッティングのアウトもミスだから。全体的にミスの少ないチームが勝つ。すべての成功率を上げる。セレクションでも体格の大きな選手がバントでサードに転がしたりしていたけど、『こういうのもできる』というアピールをしていた。確率の高いことをチョイスして、自分なりに結果を出すということを考えてやってるんだろうなというのがわかった。そういうことも大事」。
そのような視点で選考し、チーム結成後もそれは伝えていきたいという。
昨年は初の監督業だったが、「子どもたちが前向きにやってくれるのが一番。この先も目標がバチッと決まって、『タイガースジュニアに入れたから、今後も高いところをもっと目指そう』ってなってくれたらいいなと思っている」と、慣れない役職ながらも愛弟子たちの成長に目を細めていた。
この夏、8カ月ぶりに昨年のジュニアたちと再会したというが、「みんな元気そうで、あまり変わってなかった。体は少し大きくなってるけど、中身はいつもの感じで…それがよかった」と目尻を下げる。
また今年のジュニアたちとも、思い出を積み重ねる。
■岩本輝 投手コーチ
岩本輝投手コーチは、ジュニアで2年目の投手コーチとなるが、「選考は難しい」と頭を悩ませている。
「去年は少年野球自体の感じがわからなかったから、一回経験したのは大きいかな」と言いつつも、「セレクションで打てる打てない、抑える抑えないも大事だけど、持ってるものを出せていないとか、そういうところも見ておかないと。今日は調子よかったけど、その後は全然ダメじゃ困るし。僕らも動画から見てきて、『これくらいはできるな』というのも話し合う」と、広い視野で選考する難しさを明かす。
「紅白戦の結果だけを見るわけじゃない。でも結果が要らないわけじゃない。同じレベルの選手で迷ったら、結果出してるほうが…ってなるし」。
岩本コーチも「そりゃ、めちゃくちゃある」と昨年の大会の悔しさを口にし、「やっぱり失点が多かったし、そういう“防げる点”というところを逆算しながらピッチャーを選びたい」と今年に懸ける気持ちを表す。
さらに「周りとの兼合いもあるから…その選手がよかったとしてもね」と話す。同じポジションに何人もいい選手がいると、落ちてしまうこともある。16人の中でポジションのバランスがあるからだ。
また、その年の巡りあわせもある。たとえば年によって、受験者の中に極端に左投手が多いときもあれば、全然いないというときもある。そうなると「運」というしかない。
「でも、これからもそういうことは起こる。どこに行っても」。
中学でも高校でも、さらにその先でも…。だから今回選ばれなかった選手も決して悲観する必要はないし、最終テストまで進めたことに胸を張ってほしいと強調する。
さらに選ばれた選手に対してはこう語る。
「これまで自分よりうまい人ってあまり見たことないだろうし、ベンチで応援なんてたぶん経験したことないと思う。ジュニアではうまい人ばかりが集まって、自分がレギュラーで出られないこともある。そういうのを感じて、レギュラーで出るためにはどうしなきゃいけないというのを考えることが大事」。
自チームでは“お山の大将”な選手が、初めて当たる壁になるかもしれない。上には上がいることを思い知らされるのだ。
「受かったら、そこからが勝負。小学生ってすごく成長するから、本戦の12月くらいになったらまた違う人間になってるってこともある。体も大きくなるし、チームメイトとも打ち解けてくると、本来の力ももっと出るだろうし」。
期待を膨らませて選考にあたった。
■柴田講平 コーチ
ジュニアでは4年目となるのが柴田講平野手コーチだ。毎年「選考は難しい」と口にする。
「その年その年で違うし、ずっと一緒にやるわけじゃないから。短期決戦でどれだけ能力を発揮できるか。最終まで残ってる子は基本的に技術があるっていうのはわかっているけど」。
技術に加え、必要なのは精神力だという。
「緊張感の中でどう気持ちをコントロールして力を発揮することができるのか、そういうところを見たりはしているけど…難しいですね」。
野球に限らずスポーツはメンタルが大きな影響を及ぼす。子どもとはいえ、それは変わらない。セレクションという独特な雰囲気の中で、いかに持てる力を出せるか。それを見て、本番でどういうことができる選手なのか推測する。そこが難しいのだ。
そして決定したメンバーに対してのメンタルケアも、コーチとしての大事な仕事だという。
「ずっと3年連続で初戦に負けてるので、何が原因なのか考えている。結局、緊張感。『もっとこうしとけばよかった』とかあるんで、こっちがもっと注意というか、気を配らないと。でも気持ちの面でどういうふうに試合に臨むのがいいのか、正解がないから難しい。能力があるから強いっていうわけでもないんで」。
これまでの大会の経験があるからこそ、考えることも多いようだ。
「でも僕らにできる最善のことをする努力はしていく。緊張感を保たせながらも、ほぐす。子どもたちのモチベーションを上げて、能力を発揮できるよう最善のことを」。
そのあたりは個々の性格も見ながら接していく。そして「言わなくてもわかるだろう」ではなく「言って気づかせる」という。
「監督が優しいんで、僕が締めるところは締めます!」と今年も“鞭”の役目を担う覚悟だ。
■上本博紀 野手コーチ
初めてジュニアのコーチに就いた上本博紀氏は、今年から阪神タイガースアカデミーでもコーチを務めている。
セレクションで子どもたちにお手本を見せる姿は、まだまだ現役で活躍できそうなくらい溌溂としていた。中でもベースランニングの速さは、いまだ健在だ。現役選手でも敵う選手はそう多くないだろう。
子どもたちへの接し方も優しく、細やかだ。合間合間に声をかけ、安心感を与えていた。
背番号を見て、なつかしくなった。「4」を着けているのだ。入団から8年間背負った番号だが、さまざまな思いもあってか9年目の2017年から引退までの4年間は「00」に変更した。しかしやはり「上本博紀」といえば「4」のイメージが強いし、しっくりくる。
「4番のほうが好き。このほうがいいでしょ」。
やはり本人もそのようだ。
さてセレクションを終えての印象はどうだっただろうか。
「レベルが高い。緊張もしてるんだなとは思うけど、レベルが高いなと。僕は田舎のチームでやってたんで、こんなレベル高い感じじゃなかったと思う」。
そう謙遜はするが、上本少年はきっと飛び抜けてレベルが高かったのではと想像する。なんせ野球センスの塊なのだから。
初のセレクションではどのような視点で審査をしていたのか尋ねると、「一番はやる気のある子。意欲のある子を優先的にと考えている。一生懸命に頑張っている子。ずっと声出してる子もいたし」と即答だった。上本コーチのプレースタイルとも重なる。
アカデミーとはまた違ってトーナメントを戦うことになるが、上本コーチがジュニアたちにどんなことを授けてくれるのか楽しみだ。
「トーナメントの試合なので勝ち負けがついてくるんで、勝つためにどうしたらいいとか伝えたい。野球ってほんと難しいから、子どもにはちょっと酷かもしれないけど、野球のルールというか“野球”っていうものをちょっとずつでも教えていけたらいいなと思う。これから中学、高校でステップ踏んでいくと思うんで」。
たしかに野球は奥が深い。この時期から“野球脳”を育てていくと、とんでもなくスキルアップができるだろう。そういう頭を使った野球を教えてもらえることは、今後にも役立つ。
さらに子どもたちに対して願いがあるという。
「個人がしっかりバット振ったりとか、思いきりのよさかな。今のうちに小っちゃくまとまってほしくない。思いっきりホームラン狙ったりとか、小学生のうちはそれでいいと思う、まずは」。
今年のジュニアチームでは、上本コーチの奮闘にも注目したい。
■今年こそ悲願の初優勝へ
大会創設以来、阪神タイガースジュニアの最高成績は準優勝だ。12球団で優勝経験がないのはタイガースを含め3球団だけである。毎年「悲願の初優勝」を掲げているが、今年こそ…!
本大会は12月28日から30日、明治神宮球場と横浜スタジアムにて開催される。そこに向けて練習試合を重ね、成長していくであろう「阪神タイガースジュニア2021」のメンバーたちを、今後も見守っていきたい。
(写真撮影は筆者)
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