「NPB12球団ジュニアトーナメント」まで1ヶ月!阪神タイガースジュニアの現在の状態は?
■阪神タイガースジュニア
本大会まで1ヶ月を切った。「NPB12球団ジュニアトーナメント」だ。
12球団それぞれが小学6年生を中心に16選手によるジュニアチームを結成し、12月29日からの大会で優勝を目指して戦う。
阪神タイガースジュニアもセレクションを経て決定した16人のメンバーが、毎週末に練習試合を重ねてチーム力を高めている。
コロナ禍の今年は、練習試合にも変化がある。例年は福岡ソフトバンクホークスジュニア、中日ドラゴンズジュニア、オリックス・バファローズジュニア、それぞれと練習試合を行ってきた。しかし移動は感染症の危険を伴う。そこで今年は近隣のチームとしか練習試合はできないのだ。
ここまでタイガースジュニアは練習試合において、中学1年のチームと2試合して2連勝、バファローズジュニアとは3勝3敗とまずまずの成績を収めている。
そこで、本番まで約1ヶ月となった今の状態を、首脳陣に語ってもらった。
【白仁田寛和 監督】
◆「考える」ということ
いつも穏やかだが、ミーティングでの言葉には強い力がこもっている。白仁田監督が常々求めているのは「考える」ということ。
「もうちょっと一人一人考えてほしい。今はまだ自分だけに集中していてもいいけど、やはり本選になったら、それでは難しい。状況を見られる子は一人か二人くらい。それ以外の子は、もう少し変わってくれたら」。
高みを目指すからこそ、求めるレベルも高いのだ。
「ある程度、課題は持たせている。ピッチャーだったら絶対に低めにと。ずっと同じコースばかり投げるなということも。高めばっかりになるとタイミングもとりやすいし、連打も怖い。低めなら大胆にいっていいからと言っている」。
バッターも考えるべきことは多々ある。
「カウント有利なときに絶対集中しろよと。あとはランナーがいる場面で還そうとしているのか、最低でも進めようとしているのか。たとえばノーアウト三塁で外野フライでもいいと思いきりいくのがいいのか、転がしたほうがいいのか。相手ピッチャーの能力も見て、どういうバッティングができるのかっていうのを考えてスイングしてほしい」。
結果ではなく、どうしたいのかという意図のあるプレーをしてほしいと望んでいるのだ。
◆可能性を広げるための複数ポジション
ポジションに関しては「可能性を広げてあげたい」という方針から、ここへきてピッチャーをする選手が増えたり、内野だった選手に外野をやらせたりもしているという。
「やっぱりポジションはたくさんできたほうが絶対に有利なんで。子どもたちにはいろいろ興味を持ってもらいたいし」。
選手のほうから「ピッチャーをしてみたい」と言ってくることもあった。その選手は自チームでは投手だが、このジュニアでは外野に回っていた。
「投げさせたら、しっかり抑えたんでね。これで8人かな。ピッチャーできる子はいっぱいいたほうがいいから。でも、みんな優秀。四球を出さないし大崩れしない。素晴らしい」。
セレクションで選ばれたメンバーだ。能力は高いのだ。だからこそ、さらに求める。
「自分の考えをしっかり持つこと、工夫すること。みんなの能力ならできるから」と、繰り返し語りかけている。
◆準備の重要性
さらに「準備の重要性」も何度も伝えている。
「シートノックでポロポロこぼしていた。シートノックのためのシートノックじゃないから。シートノックからすでに試合は始まっているという意識を持たないと。ピシッとやっていれば相手にプレッシャーをかけることもできる。そこから頑張ってほしい」。
これはきっと、今後も本番まで何度も言い続けるのだろう。
さらに声を出すこともたいせつにしている。アウトカウントやランナーの位置の確認なども、声を出すことで間違いを防ぐことができるし、それぞれの意識も高まる。
◆起用の意図
悩みどころは選手起用だ。「ほんとは全員出してあげたい」というが、スタメンは9人だ。1日に2試合ある中でメンバーを変え、選手の意識を高めるようにしている。
「選手に(起用の意図を)言ってはないけど、気づいてると思う。でもそこで頑張ってくれて、相乗効果が生まれるんじゃないかと…」。
監督の思惑を汲み取り、負けじと結果を出している選手もいる。チーム内で切磋琢磨し、チーム内競争が活性化することで、チーム力は上がっていく。
【岩本輝 投手コーチ】
◆これまでにない壁
ここまでの投手陣の仕上がり具合について「順調。あんまり点も取られてないし」と、岩本コーチは笑顔を見せる。しかし「“ここ”っていうところはある」と課題を挙げる。
「ただ投げてるだけというか、コースだったり低めということがわかっていなかったり…」。
白仁田監督の言う「考えてほしい」という部分だ。
「今まで力だけで抑えてきたんだなという感じ。たしかにこれくらいの力があれば、自分のチームなら打たれないと思う、普通に。でも相手も選抜チームだから、それは打たれる。(バファローズ戦で)すごい打球があった。今まであんなの打たれたことないと思う」。
これまで周りからは抜きん出て活躍してきた選手にとっては、当たったことのない壁ということだ。レベルが上がった中でどうすればいいのか、もがいているところだろう。
「もう、そのまま言ってる。『ただ投げてるだけやったら打たれるよ』って。こっちもいい選手が集まってきているけど、相手も一緒だから。それに対して今までの野球をしとったら、きついよって」。
岩本コーチも同じだ。できる能力があると思うからこそ、厳しい言葉も投げかける。
「ここっていうときに低めで抑えられたりとか、コースをしっかり守れている選手は結果として出ている。こうやったら抑えられるというのがわかっていけば、これからにも繋がるから」。
◆抑えた、打たれた、その理由を考える
このジュニアチームでは「集まって期間が短いし、週に1度だけだから、投げ方をいじったりはしない。タイプもいろいろいる。クセ球や速球派、高めが有効だったり両サイドが得意だったり、それぞれ投げ方も違うから。それより今の力を出せるように、もっとこうしたほうがいいよという伝え方をしている」という。
「ただ全力で投げて抑えた、打たれた、じゃダメ」。
なぜ抑えられたのか、なぜ打たれたのか、そこには必ず理由がある。それを教え、選手の引き出しを増やす。
そういったことを重ねてきたことで、近ごろは選手も「こうしないといけなかった」と、自身の考えを言葉にして出せるようになってきているという。
◆アピールは結果で
「これまでも『結果でアピールして』っていうのはずっと言ってきた。出られる数は限られているから。みんな平等じゃないし、思い出作りにやるわけじゃない。勝つためにやる。だから無理に全員は使わないと言ってある」。
自チームでは主軸という選手ばかりだ。常に“選ばれる側”だった。控えとしてのベンチでの過ごし方も知らない。そんな選手たちにとっては、かなり厳しい現実に直面しているかもしれない。
しかしだからこそ、今、成長するチャンスではある。
【柴田講平 野手コーチ】
◆失敗を怖がるな
柴田コーチが選手に求めるのは「失敗することを怖れるな」ということだ。
「守備にしても消極的なプレーが見られる。構えの時点で“守り”に入っている。失敗するのが怖くて、もともとできることができなくなっている。そんな窮屈な野球をして、力を出しきれずに試合が終わったら、なんも意味ない」。
失敗したくない気持ちは十分に理解しているが、それが強すぎてマイナスに働いているという。そして、いざミスをしたら、そのあとも引きずる選手が多いと指摘する。
「守備もファインプレーをしろと言っていない。捕れるものをしっかり捕る。たとえ失敗しても、次に絶対いい守備してやろうとか、打って取り返そうとか、そういうのがほしい」。
消極的なプレーはチャンスが減ると、口酸っぱく言い続けている。それもやはり「技術とか、そういうのはある程度できる。あとは気持ちの面とか、技術以外のところ」と認めるからだ。
「やっぱり本選に入ったら緊張しまくって、足は震えるし頭も真っ白になるのは間違いないんでね。早いうちに自分をコントロールできるようになってほしい」。
◆どんな準備をしたのか
そして白仁田監督と同じく「準備」を強調する。
「打席に入る前のネクストで、ピッチャーの投球練習を見ていたのか。前のバッターの打席でタイミングを合わせてスイングしていたのか」。
結果を問うよりも、どんな準備をしていたのか、そこに重点を置いて指導している。
◆自分の役割とチームワーク
さらには自分自身の役割を自覚しろという。
「わかってきてるはずだとは思う。自分の役割っていうか“仕事”っていうものを。試合に出ていなくても役割というのがあるし。試合に出ているのは9人だけど、ほかの7人にもやることはある」。
ボールを渡したりバット引きをしたり、そういったことは言われなくてもやれるようになってほしいと願う。
これまで地元ではお山の大将できたであろう選手たちだが、周りに目が配れるようになることは、プレーにもプラスの影響が出ることだろう。
昨年からジュニアを担当している柴田コーチは「今年はより仲がいい」と評する。
「掃除とか何かするときに、みんなまとまって一緒にやる。違うことやる子とかいない。こういうのも結局、チームワークに繋がる。チーム内での気配りだったりとか、そういう野球以外のところでもできるようになれば、さらにチーム力は上がると思う」。
一人一人の性格を見ながら助言し、チームとしてまとまるよう力を尽くしている。
■優勝を目指して
小学6年の選手たちに対して「まだ子どもだから」と言いつつも、首脳陣の求めるハードルは高い。それだけ能力の高い選手が集まっているからだ。
毎週、乾いたスポンジのごとく、さまざまなことを吸収しているちびっこ虎戦士たち。これが本大会で活かされ、健闘することを楽しみにしたい。
(撮影はすべて筆者)
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