初の決勝進出なるか。阪神タイガースジュニアチームが「12球団ジュニアトーナメント」に挑む!
■12球団ジュニアトーナメント
「今年はいけるのではないか…」。そんな期待を抱かせるチームに成長していた。阪神タイガース・・・のジュニアチームだ。
一般社団法人日本野球機構(NPB)が開催する「12球団ジュニアトーナメント」は、プロ野球12球団がそれぞれ小学5、6年生18人でジュニアチームを編成し、年末に開催される大会で優勝を競う。監督、コーチは各球団のOBが務める。
試合方式は12球団を3チームずつ4つのグループに分け、グループ内で総当り戦を行う。それぞれのグループの1位チームが最終日の決勝トーナメントの準決勝に進み、そこで勝ったチーム同士が決勝で戦う。(組み合せ)
今年12回目を迎えるが、タイガースジュニアはこれまで一度も決勝トーナメントに勝ち進んだことがない。関係者も願う「今年こそ」と。その悲願が成就するのではと思わせてくれるのが、今年の阪神タイガースジュニアの面々だ。
■大会前、最後の練習試合
本大会に向けて、最後の練習試合となったのが12月17、18日の対オリックス・バファローズジュニア戦、対中日ドラゴンズジュニア戦だ。1日に2試合ずつ対戦し、2日間の4試合で最後の仕上げとした。
1日目の第1試合、対バファローズ戦は12-0の完封で圧勝、第2試合の対ドラゴンズ戦は2-3で惜しくもサヨナラ負け。2日目の第1試合の対ドラゴンズ戦は2-3で敗戦、第2試合の対バファローズ戦は8-0の完封勝利で締めた。
今年のタイガースジュニアチームの指揮を執るのは八木裕さんだ。そしてバッテリーコーチの中谷仁さん、バッティングコーチの庄田隆弘さんが脇を固める。その首脳陣が選手に徹底させているのが「積極性」だ。ゲームを通じて見られるのが、常に先の塁を狙う姿勢。隙あらば盗塁を仕掛けるのはもちろん、シングルをツーベースに、ツーベースはスリーベースにと、とにかく走る。
積極的なのは足だけではない。八木監督は「打つ、投げる、走る、すべてに積極性を求めている。試合の中で忘れないよう、それは徹底して言っている」と話す。と同時に「チームの雰囲気を作りたいから」と、一塁までの全力疾走や攻守交代時のダッシュも口酸っぱく説いている。「ずっと一緒にやっているチームじゃないからね。必ず毎回、言うようにしている」。
「サインも徹底させないといけない。小学生なので、わかっているようでわかっていなかったりする。こっちも『わかっているだろう』じゃダメ。何度も言わないと」。試合中も監督やコーチの声が響く。「チャンスで甘いストライクを見逃すのは勇気がないから。それはオレらが後押ししてやらないと。アウトになった後じゃなく、その都度、打席の中でもベンチからどんどん声をかけるようにしている」。選手に後悔させたくないし、首脳陣も悔いを残したくないという思いが強くあるのだ。
昨年の経験がある中谷コーチも「後手を踏んでしまったらダメ」と語る。「本大会はあっという間に終わる。したいことなんか、全然できなかった」と省みる。だから「どれだけ自分から仕掛けられるか、向かっていけるか。様子見てなんかしていられない。ガンガン自分からアピールしたヤツが活躍している」と、やはり「積極性」を求めている。
そういった首脳陣の意図も伝わってか、チームも一つにまとまっている。「夏のセレクションのときから比べたら、体もどんどん成長しているし、練習もよくしてたくましくなってきた」と八木監督が言えば、中谷コーチも「基本的なことしか言ってないけど、個々が刺激を受けて、自分で練習してくれている結果じゃないかな」と口を揃える。そして「お互いどんなヤツかわかってきて、チーム内での役割が見えてきた。チームという形になってきた」と嬉しそうに目を細めた。
■バランスのとれたチーム構成
ではタイガースジュニアの主な選手を紹介しよう。
主戦ピッチャーは左の橘本直汰投手だ。「コントロールがいいし、気持ちの強さがある。どんどん向かっていける精神力もある」と中谷コーチもその能力を高く評価している。この4試合でも10イニングスを投げて14奪三振を記録するなど、キレのいいボールでエースの名にふさわしい働きを見せた。
右の沖 寛太投手のコントロールとテンポのよさも買っているという中谷コーチは、「ピッチングだけでなく打線でも軸になってくる」と大きな期待を寄せている。球威のある球は奪三振能力も高く、また、スコアリングポジションにランナーを背負っても動じない落ち着きぶりが光る。
その他、山平柚斗、田中晴太、永谷天太ら粒ぞろいの投手陣が失点を最小限に防ぐ。
主戦捕手の寺川裕也選手を「キャッチャーらしいキャッチャー」と中谷コーチは評する。「キャッチング、スローイング、バッティングもいい。“間”やね。ピッチャーのタイミングをうまく引き出せる。相手と呼吸を合わせる能力があるね」という。ただ寺川選手、この2日は故障があり、「絶対に無理はさせない」というチームの方針からベンチで戦況を見守ることしかできなかった。どうか本大会には間に合ってほしい。
もう一人、中谷コーチの口から出たのは「春山はいい選手やね」だった。「色んなところを見ているし、よく気がつく。器用やね」。常に大きな声でチームを鼓舞している春山陽登捕手。「ああやって言葉にできる、しかも大きな声で。あれはすごいこと」とコーチも感心するほどだ。気づき、率先して動く。チームメイトからの信頼は絶大だ。
打つ方ではキャプテンの正重恒太選手を中心に長打力のあるスラッガーが揃う。特に正重選手については「力もあるし、結果が出て自信がついてきた」と4番に抜擢した八木監督も勝負強さに期待している。正重選手本人も「4番のプレッシャーを感じている」とは言うものの、「4番になったことで毎日の素振りの量が増えた」と、しっかりと責任感を背負って練習に取り組んでいる。
また、八木監督がキーマンとして挙げたのが、1番を打つ安西洸晟選手だ。とにかく足が速い。加えて、日々のバッティングセンター通いが実り、「バッティングもよくなってきた」と八木監督も認めるパンチ力だ。この4戦でも三塁打を4本記録している。“お約束”はベースランニングの途中でヘルメットが脱げて飛んでいくこと。本大会でもヘルメットがぶっ飛ぶ快足を見せてくれるに違いない。
そしてもう一人、チームの鍵を握る選手がいる。キャプテン・正重選手が「最初はボロボロだったけど、今は連携もしっかりできるようになった。個人のレベルアップと仲のよさでまとまってきた」とチームワークのよさを明かしてくれたが、そこに欠かせないのが藤井一太選手のパフォーマンスだという。
“持ちネタ”のレパートリーが広く、常に周りを笑いの渦に巻き込んでいる。その藤井選手、「やれって言われてしかたなくやってるんですよ」と話すが、目が笑っている。明らかに本人も楽しんでいる。「ムードをよくしよう?もちろん、そうです!」と、モノマネを披露しては笑いをとり、チームを盛り立てている。これもタイガースジュニアの強さの秘訣の一つだろう。
■保護者の思い
張り切っているのは選手だけではない。保護者のみなさんの熱心さには頭が下がる。5年前に続いて今年も息子が出場するという“ジュニア兄弟”の母・寒川 桜さんの経験を頼りに、意見を出し合い、子供たちのバックアップに務める。
選手個々ののぼりや親用のお揃いのTシャツを作ったり、鳴り物の手配、応援歌の考案、facebookページを作成したりするなど、できることは次々やっていく。相手の応援に気圧されて子供たちが萎縮することがないよう、保護者も必死だ。
大太鼓を借りてきてくれたのは、春山真美さんだ。それを見事に黄色と黒の“タイガース仕様”に仕上げた。「子供もうるさけりゃ、母もうるさいんで(笑)」と、大きな声で応援も仕切っている。Facebookページも彼女の発案だ。「奈良県から初めてジュニアに選ばれたんです。奈良ではジュニアトーナメントのことを知っている人がなかなかいなくて、もっと広めたいと思って…」。自らジュニアトーナメントの“外部広報員”を買って出ているのだ。(Facebookページ「阪神タイガースジュニア 2016」)
練習試合の皆勤賞である正木隆夫さんは岡本 尊選手のおじいちゃんだ。「男の子が欲しかったけど恵まれなくて、孫にやっと男の子が誕生した」と、野球好きのおじいちゃんはグラブとバットをプレゼントして、小さい頃から庭でキャッチボールの相手を務めてきた。
ジュニアに選ばれたことは「団体スポーツは礼儀作法が身につくから」という理由のほかに、自身がタイガースファンであることからタテジマでプレーする孫の姿を見られることが嬉しくてしかたない。「地元だと天狗になってしまう。上には上がいると勉強できていることが、将来プラスになる」と、孫の成長を願ってやまない。
前出の寒川さんも言う。「ジュニアに選ばれ、プロ野球選手と同じユニフォームを着て戦えることはいい思い出になるし、一生のお守りにもなる。このことが一つの武器にもなりますから」。もちろん、保護者にとっても誇りだ。
■いよいよ集大成だ
スタートは8月8日からの3日間にわたるセレクションだった。185名の受験者の中から18名が選出された。同月24日から一泊二日で淡路島にて合宿。初練習を行った。
8月31日の練習を経て、9月25日にはユニフォームの採寸を行い、憧れのプロ野球選手と同じユニフォームに袖を通すことができる感激に胸が高鳴った。その後、タイガースの選手が使用している室内練習場での練習も行った。
10月30日の練習ののち、11月5、6日に初の対外試合を行った。4試合の戦績は2勝1敗1分。翌週も4試合行い、2勝1敗1分。
親睦会も開き、選手同士はもちろん、保護者同士の距離も一気に縮まった。首脳陣も一人一人の性格や特性をしっかりと把握できた。
11月19日、甲子園球場の三塁側ブルペンで背番号の発表があり、その後、隣の素盞嗚神社で必勝祈願を行った。タイガースのファン感謝デーを見学したあと、聖地・甲子園球場で練習。雨上がりのグラウンドで思いきり暴れまわり、新品のユニフォームが泥んこになった。
そして12月17、18日に大会前の最後の練習試合を行った。シートノックからきっちりやること、準備を怠らないこと、勝ちにこだわることなどが確認され、最後に中谷コーチから「エラーがあるのが野球。試合中に反省していたら2コ目、3コ目が出てしまう。すぐに切り換えて目の前に集中しよう!」と実戦に即したアドバイスが送られ、解散した。
大会まで1週間。18名すべての選手が万全のコンディションで臨み、自身の持てる力を存分に発揮できることを願う。
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