「阪神タイガースジュニア2020」1カ月半遅れのセレクションでメンバーが決定!
■「NPB12球団ジュニアトーナメント」とは
例年に比べて1カ月半遅い実施だった。阪神タイガースジュニアのセレクションだ。9月19日、20日の2日間、西宮市内の野球場にて行われ、2020年の“ちびっこ虎戦士”が選出された。
毎年12月末に開催される「12球団NPBジュニアトーナメント」は今年で16回を数える。NPB各球団が小学6年生を中心にジュニアチームを結成して戦うこの大会は、一般社団法人日本野球機構とプロ野球12球団が連携し、子どもたちが「プロ野球への夢」をより身近に持てるようにとの思いから創設された。
チームの監督やコーチは各球団のOBが務め、セレクションで選ばれた選手たちは現役選手と同じユニフォームで戦う。
現役プロ野球選手の中には、このジュニアトーナメント経験者が多くいる。阪神タイガースでは高山俊選手(千葉ロッテマリーンズジュニア)、浜地真澄投手(福岡ソフトバンクホークスジュニア)がおり、他球団でも埼玉西武ライオンズ・森友哉選手(オリックス・バファローズジュニア)、東北楽天ゴールデンイーグルス・松井祐樹投手(横浜DeNAベイスターズジュニア)、読売ジャイアンツ・田口麗斗投手(広島東洋カープジュニア)、中日ドラゴンズ・根尾昂選手(中日ドラゴンズジュニア)、千葉ロッテマリーンズ・藤原恭太選手(オリックス・バファローズジュニア)などなど、33人にも上る。
阪神タイガースジュニアからも安田尚憲選手がプロ入りし、今や千葉ロッテマリーンズの4番として活躍している。若手の成長株として期待されている広島東洋カープの林晃汰選手も2012年のタイガースジュニアメンバーだった。
今年は新型コロナウイルスの感染拡大により大会開催も危ぶまれたが、なんとか遂行できそうだ。
■「阪神タイガースジュニア2020」のセレクション
阪神タイガースジュニアは2016年、2017年の準優勝が最高位で、今年も優勝は悲願である。
そのメンバーだが、例年は8月初めに3日間かけてセレクションを行うが、今年はコロナ禍で選考方法が変わった。1次は動画選考、2次が実技だ。応募者はまず、各自で動画を撮影して送るところからになる。
投手はピッチング、スローイング、バッティング、野手はフィールディングとバッティング、捕手はセカンドスローも加える。そしてさらに全員、自己アピール動画を約20秒プラスしてトータル90秒以内の動画に仕上げる。
関西圏だけでなく山陰や四国などからも広く応募があり、62名が動画選考をクリアして実技へ。まず初日終了時に26名が残り、2日目の最終選考で今年のメンバーが選出された。
■白仁田寛和監督
では今年の阪神タイガースジュニアの首脳陣を紹介しよう。監督は白仁田寛和氏。2007年、大学生・社会人ドラフト1位でタイガースに入団し、2勝を挙げた。2014年、バファローズにトレード移籍し、2016年に引退。昨年から阪神タイガースアカデミーのコーチを務めている。
人生初の監督に「やったことないから(笑)。もうチャレンジしかない。そういう気持ちで自分自身も勉強したい」と驚きを隠せないながらも、やる気に満ち満ちている。
セレクションの間中、精力的に動き、受験者たちに小まめに話しかける姿が印象的だった。フリーバッティングでは打撃投手まで務め、終了後にはマスクから滴るくらいに汗だくになっていた。
受験者たちを見て「技量はすごくレベルが高い」と目を丸くする。
「僕が小学6年生のとき、全然こんなんじゃなかった。僕だったらすぐ落ちてるだろうな、いや、受けてもないな(笑)。それくらいレベルが高いと思った」。
白仁田寛和監督がこんなにも真剣に驚くくらいだから、相当ハイレベルなチームになりそうだ。
選ばれたメンバーには「個々に考えられるように。自分自身のしっかりした考えを持てるような選手に育てていきたい」という。その真意はこうだ。
「目的を持って行動できるかどうかが、この先必要だと思っている。なんとなく練習や試合に臨むのではなく、何か目的を持ってやる。そこをしっかりやらせたい。これから指導者が3年で代わる時期に入る。中学3年、高校に進んでも3年。その度に教えが変わっても、自分自身がしっかり考えられたら…。そういう根っこの部分を育てたいなと思う」。
さまざまな指導者に出会い、それぞれ違う教えがあるだろうが、その都度、自分で考えられるかどうかは重要なことである。
そして、「やるからには優勝」と、その方向も定まっている。
「みんなその気。とくに子どもたちは勝ちたいと思う。やるのは僕らじゃないんで、子どもたちにしっかり目標を持たせて、優勝を目指して頑張りたい」。
端正な笑顔を輝かせながら、強く誓っていた。
■岩本輝コーチ
投手コーチの岩本輝氏は2010年のドラフト4位右腕だ。2年目に1軍昇格し通算4勝をマークしたが、右肩痛で退団。しかし独立リーグ・福井ミラクルエレファンツで復帰し、球速を150キロまで上げた。そして再びバファローズに入団して“NPB復活星”も挙げた。今年からはタイガースアカデミーのコーチとして古巣に帰ってきている。
岩本コーチもまたジュニアチームに関わるのは初めてで、セクションにも初参加だが、白仁田監督と同じく「いい選手が多かった。自分が小学生のころとか考えたら、比べられんくらいにいい選手ばかり」と舌を巻く。
さらには最終審査まで残った受験生を「バケモンみたい」と最上級の讃え方をし、「可能性は無限だと思う」と彼らの夢広がる将来に思いを馳せていた。
昨年引退したばかりの岩本コーチは、指導者としてはルーキーだ。コーチ業について「難しい」と眉をしかめる。
「これまでは自分の体で考えてやってきたから。自分のことなら、あってるあってない関係なく、自分で理解してやればよかったけど、人に教えるとなったら体も感覚も違うし、伝え方が難しい。成長過程の小学生だからよけいに」。
一人一人の体を見て、最適な方法は何かと考え、またそれを理解できるように伝えなければならない。
「ジュニアチームとは毎日一緒に練習できるわけではないので、個人でどれだけやってもらえるか、そこをしっかりアドバイスしていきたい」。
限られた時間の中で、次に繋がることを教えていく。
「いいから入ってくるわけだから、何かを変えるということはしないし、それよりもいいところを引き出せればと思っている。その子のベストが出せるように。それを一人でも多くって感じかな」。
これから結成される2020チームとともに歩んでいく覚悟だ。
■柴田講平コーチ
ジュニアコーチを請け負って3年目となるのは野手コーチの柴田講平氏だ。2008年、ドラフト2位でタイガースに入団し、俊足巧打の外野手として活躍した。マリーンズでも1年プレーしたあと、一昨年から古巣タイガースに復帰してアカデミーのコーチとして奮闘している。
「ジュニアは3年目だけど、今年は選考方法も違って動画審査は初めての経験だった。動画と実際に見るのとではどれくらい差があるのか。動画のまま『いいな』という子もいれば、『ちょっと違うな』という子もいて、難しさはあった。でも一つの選考としてアリだと思う」。
そして動画審査、実技初日を経ての最終選考でもまた、難しさを感じたという。
「絞れば絞るほど、難しくなるっていうか…。最終選考が一番難しい。実力も拮抗してくるから。監督、コーチ、3人それぞれの思いもあるし、それがマッチすれば16人ができるのかなと思う」。
首脳陣3人とメンバー。ここに柴田コーチは運命を感じるという。
「もしこの3人じゃなかったら、また違う答えが出てくると思う。審査に正解はないし、(首脳陣も)一人一人違う感覚を持っているから、100人が100人同じ答えを出すわけじゃない。だから、選ばれた子たちはある意味、運命だと思う。たまたまこの3人の相性に合ったメンバーなので」。
つまり最終選考に残った選手たちは実力的に大きく差があるわけではなく、メンバーに選ばれなかったとしても悲観する必要はないということだ。そして選ばれたメンバーとは運命をともにしていく。
過去2年、柴田コーチも大会で涙を飲んできた。自身が現役で戦ってきたときとはまた違う悔しさだと振り返る。
「僕らがやるわけじゃないんで、子どもたちをどう動かすかが鍵になる。大会までにどう作り上げていくか。ほんとパズルみたいな感じ。最終、16コのピースをどううまくはめて完成させられるか。そこがすごく重要」。
そして監督の意向に沿った自身の指導。さらには野球だけではなく人としての教育も大事だと語る。
「ただ野球をうまくするだけじゃなくて、人間的にも成長してほしいと思っているので。そういった面でも教育者というより父親のような立場で見ないとね。子どもたちはもちろん今もだけど、この先が大事になってくる。この先に繋がるような今という意味で、しっかりといろいろなことを教えていきたい」。
過去2年のジュニアコーチの経験を踏まえて、愛情深くさまざまな面からメンバーにアプローチしていく。
■中村泰広代表
今年はチームのサポート体制にも変化がある。昨年マネージャーだった中村泰広氏(2002年ドラフト4位)が代表となり、チームを先導する。
「実技初日は動画だけではわからない基本的な部分を見た。30m走を計って、キャッチボール、正面のノック、そしてフリーバッティング。そのほかバッテリーはピッチングとキャッチングも見て。2日目の最終審査はキャッチボール、シートノック、紅白戦、フリーバッティングで審査した」。
セレクションを振り返って「すごくいい。とくにバッテリー。キャッチャーにもいい子がいるし、すごく楽しみ」と白い歯をこぼす。
「勝てるチームを作りたい」と意気込み、「今年はここにも注目してもらいたい」と言って紹介してくれたのが、新マネージャーの福田伸綱氏だ。
「彼はトレーナーの資格もあるし、マネージャーだけでなくトレーナーとしても支えてくれているので。アカデミーでもコーチとして頑張ってくれている」。
トレーナーを兼任するマネージャーを迎え、優勝へ向けての強力な体制が整ったようだ。
■福田伸綱トレーナー兼マネージャー
福田トレーナー兼マネージャーも初めてのジュニアチーム参加に意気込む。
「代表はじめ監督やコーチが本来するべきことに注力できるようにサポートしていきたい。ジュニアチームは、野球振興を目的としているアカデミーとはまったく違う。僕はトレーナーの立場として、選ばれたメンバーたちが選手生命に関わるような大きなけがをしないようにということに注意したい。素晴らしい素材の子ばかりで、これから中学、高校と野球を続けていけるように体を守りたい。それが一番かなと思っている」。
もちろん、それだけではない。
「やはり勝負ごとなんで、勝ちたい。タイガースは優勝したことないので」。
メンバーたちがけがなく、持てる力を存分に発揮して、それが優勝に繋がることを願っている。
■悲願の初優勝へ
選ばれたメンバーは肩と肘の検診をクリアすると、そこから忙しくなる。ユニフォームの採寸、練習、そして練習試合…。例年より1カ月半遅いスケジュールだが、12月末に向けて急ピッチで仕上げていく。
「NPB12球団ジュニアトーナメント2020」は12月29日から31日までの3日間、明治神宮球場と横浜スタジアムで開催される。
今年こそ悲願の初優勝へ―。阪神タイガースジュニアの健闘を祈る。
(撮影はすべて筆者)
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