日本初!ごみも食品ロスも出さない京都のスーパー「斗々屋」その工夫と最新鋭の量り売りシステムとは?
2005年にオーガニック食材やワインの輸入の卸事業としてスタートし、東京・国分寺で量り売り専門店を営む株式会社斗々屋(1)が、2021年7月31日、京都御所の東側に、ゼロ・ウェイストのスーパー「斗々屋京都本店」を開業した。およそ700品目あるオーガニックの生鮮食品やフェアトレードの食料品、洗剤やシャンプーなどの日用品を扱い、量り売りで欲しい分だけ購入できる。個包装は一切しない。また、有料・無料問わず、使い捨ての容器や紙袋は提供しない。1925年創業、秤(はかり)メーカーの株式会社寺岡精工(2)が、最新鋭の計量システムを店舗に導入した。古材を活用し、将来的に分解・再利用できる店の設計は、一級建築士事務所、株式会社NoMaDoS(ノマドス)(3)が担当。処分する場合のリサイクル可能性まで考えて、世界初のプラスチックフリー量り売り専門什器、ドイツ製のGlasbin(4)を導入した。
「新グローサラント」はスーパー・レストラン・瓶詰めの三毛作
斗々屋京都本店は、スーパーで残った食材を惣菜にし、夜に営業する飲食店で調理して使い切る。それでも余った場合、真空の瓶詰め加工にすれば、常温で一年でも二年でも持つという。
今回の取材は合計6回行った。
-開店前の2021年6月3日に日本とフランスをつないでのオンライン取材
-開店前日の7月30日の朝10時からのメディア説明会(於:soco kitchen & bar(5)と斗々屋京都本店にて)
-開店前日の夜19時、斗々屋京都本店にて
-開店当日7月31日の朝10時、斗々屋京都本店にて
-7月31日夜18時、斗々屋京都本店にて
-8月14〜23日、開店後の状況についてメールで
株式会社斗々屋 代表取締役社長でフランス在住の梅田温子(あつこ)さん、斗々屋広報のノイハウス萌菜(もな)さん、斗々屋京都本店店長の堀真理子さん、株式会社寺岡精工 代表取締役会長の寺岡和治(かずはる)さんにお話を伺った。
―ごみゼロ、食品ロスも一切出ないのですか?
梅田温子さん(以下、敬称略、梅田):小売業で一切食品ロスを出さないことを目指しています。野菜や肉、魚に関して廃棄が出るのが小売業で問題になっています。斗々屋京都店は、昼はスーパー、夜はレストランに変身します。新鮮な食材を新鮮な状態で、ロスが出る前においしいお料理にして提供していきます。
パートナー企業、寺岡精工の寺岡和治さんによれば、斗々屋は新しい「グローサラント(grocerant)」だという。グローサラントは、アメリカでできた造語だ。グローサリー(grocery)とレストラン(restaurant)が統合してグローサラント。スーパーの店内や店舗に併設したレストランで食事を提供する。日本にも出店している、イタリアのイータリーなど(6)が知られている。
寺岡和治さん(以下、敬称略、寺岡):斗々屋は「新グローサラントモデル」。僕らは勝手に「三毛作」と呼んでいます。アメリカのグローサラントは、スーパーとレストランが並列していますが、斗々屋の場合、垂直に統合されています。
1)スーパーマーケットで売る。賞味期限が近づいた食品が出れば、廃棄/見切り販売する前に
2)レストランの食材として使って消費する。それでも残ったら
3)瓶詰めにする。
理論的にはゼロ・ウェイストになります。食品ロスがゼロになる。
真空で瓶詰め加工すれば1年でも2年でも持つ
日本の家庭では、食材の長期保存方法というと、冷凍が主流ではないだろうか。ドイツやフランスではガラス瓶を使い、真空で煮沸消毒する瓶詰め加工による常温保存法が、昔から一般家庭で使われているそうだ。肉なら30分、野菜なら15分など、煮沸時間は素材によって異なる。斗々屋京都本店では、この真空瓶詰め加工を駆使して、食品ロスゼロを実現していく。
梅田:100年の歴史があるドイツのWECK(ウェック)の(7)やフランスのLe Parfait(ル・パルフェ)(8)など、ガラス瓶を真空にして煮沸消毒して密閉する方法だと、野菜のスープや肉のパテも、常温で1年でも2年でも持たせることができるんです。瓶とふたの間にシリコンとクリップを噛ませて、ひたひたにお湯をかぶせて煮沸消毒します(9)。
梅田:自家製野菜のインゲン豆が採れ過ぎてしまったとき、瓶に熱湯とお塩を入れてインゲン豆を入れて、ふたして15分煮る。トマトとかナスが採れすぎたのを瓶真空で加工すれば、冬場にサラダとして食べられます。2020年の初旬に仕込んだ鹿肉のパテを、20度くらいの常温に置いて、ほぼ一年後の2020年冬に開封して食べましたけど、全く問題ありませんでした。
コロナ禍での量り売り、衛生面は?
コロナ禍では、他人の手が触れることに対して神経を使うようになった。量り売りの衛生面は大丈夫なのだろうか。
ノイハウス萌菜さん(以下、敬称略、ノイハウス):一般のスーパーで買う個包装の商品は、かなり多くの方が触ったものが多いと思います。商品を触って棚に戻す。でも、量り売りの店は、触る部分が決まっています。什器のふたやレバーは店員が消毒して清潔に保つことができます。そのようなことを徹底して、営業を続けています。
寺岡:会計はコンタクトレス会計です。キャッシュレスであってもキャッシュでも、店の人は一切タッチしません。クラウドによる商品管理で売り上げと粗利をリアルタイムで管理します。
筆者が取材に伺ったのは2021年7月末。その後、京都ではまん延防止対策で、夜の飲食店の営業が8月2日からできなくなってしまった。はたして、食品ロスはゼロにできているのだろうか?
ノイハウス:夜のお酒とディナーの提供が急遽できなくなったのは残念でした。でも、変わらず食品ロス対策はできており、お惣菜のイートインも開始しております。「斗々屋カート」(後述)をテーブルに変えてお使いいただき、カウンター周辺、入り口前の外でもお召し上がりいただけます。瓶詰めなどの対応で、食材を長持ちさせることに成功しています。
ちなみに、アルコールに関しては、ワインはボトルでの販売で、イタリア・シチリア産ワインの赤と白なら量り売りで購入できる。
「面倒くさい」を超える楽しさを創る
量り売りと聞くと、環境にいいのだろうけど、どうしても「面倒くさい」が先に立つ。
寺岡:私たちの挑戦は、量り売りでごみを出さないお店をつくること。量り売りの楽しさを提供する。量り売りは本質的に楽しさがあるのです。けれども、楽しさが面倒くささによって打ち消されちゃっている。
寺岡:昔からある対面販売は、本来、楽しいところ。店員さんといろいろ会話をしながら買うお店。量り売りでかかる手間を極力なくして楽しさに変える、そういう方向での実装ができたと考えています。
店内には、ナッツをその場で好きな量だけ「ナッツバター」にできる機械もある。食品加工を楽しめる、いわば体験型ショッピングの一環だ。
斗々屋は、ワンウェイ容器(使い捨て容器)を使わない。容器を持参していないお客には、デポジット制で貸し出すか、何度でも使える瓶やステンレス容器、コットンバッグを販売する。その一つが、カリフォルニアで誕生した、100%天然素材から作られたスタッシャー(stasher)(10)だ。電子レンジやオーブン(250度)、冷蔵・冷凍(マイナス18度)にも耐えうるプラスチックフリー。
ところで、量り売り食品を自分で量るときは両手を使う。かごを持って、容器を持って、量って・・・って、一度にできるのだろうか?
ノイハウス:こちらが斗々屋カートです。
ノイハウス:量り売りは、容器を持って、買い物かごを持って、量って・・・と、かなり手がふさがれるので、それを解決するために、飲食する際にはテーブルに変わるようなカートを開発しました。
斗々屋カートは、組み立て次第で移動式テーブルに変身する、斗々屋と寺岡精工との合作だ。最初は畳んである四角いテーブルを出し、買い物かごをセットすれば買い物カートになる。量り売りの容器は四角いテーブルに載せることができ、滑り止めがついているので瓶がすべることはない。夜はこの上に古材で作った丸いテーブルを載せればレストランの可動式テーブルに早変わり。
実際に斗々屋カートを使ってみた。通路の幅が限られており、オープン当日だったので混雑してはいたが、荷物も容器も置けるので、量り売りの作業はとてもラクだ。しかもイートインや夜の飲食店では、これが可動式テーブルに変身する。うまく考えてある。
メニューのないレストラン
斗々屋の東京・国分寺店では加工食品のみの販売で、生鮮食品は扱ってこなかった。だが京都店では生鮮食品も扱う。中でも持続可能な魚を扱うのはとても難しいそうだ。
梅田:お魚の食品ロス対策は本当に難しくて勉強中です。大量生産・大量消費・大量廃棄につながるものは扱いたくないので、サステイナブルな漁業は何だと考えたら、仕入れ先も難しくて。全国の漁業さん、漁師さんと直接つながりがある仲買さんに相談して、脂ののっていない小さいサワラや、数がそろわないからといってポイと捨てられてしまう魚を優先で買います、とお願いしています。
―(筆者、以下同様)京都大学のカンフォーラというレストランがブルーシーフードカレー(11)を出しているんです。持続可能な方法で獲った魚や、資源が潤沢にある、サバやホタテをカレーにのせている。メニュー化に1年以上かけたそうです。
梅田:持続可能な漁業は難しくて。魚の生息区域の海は境界線がないから、魚が行き来する。資源管理できているお魚、漁師さんが分かって捕っている魚を使いたいけど、世界的にはとても少ない。世界中が連携しないと資源管理は難しいらしいんです。
―東京だと、魚治(うおはる)(12)さんが、当日の競りで残ってしまった魚、たとえば大き過ぎるもの、北海道では主流だけど首都圏で出回らない八角(はっかく)などを仕入れて、当日、居酒屋で出す、というのをやっています。当日メニューを作るのがすごく大変だったみたいで。
梅田:実はうちのレストランもメニューないんです。
―その方が食品ロスを減らすにはいいんじゃないかと思います。
梅田:じゃないと、食品ロスを出さないためには無理だと思うんです。シェフが店内にあるもので、今日はこれを使おう、と選んで、お客さんに「今日はこの食材使いますけど何が食べたいですか」みたいな感じで考えていて。
梅田:着席11席ならメニューなしで回せると思うし、発想がどんどん湧いてくるシェフが何人もいれば賄えると思うんです。食品ロスを出さないことを視野に入れたメニュー開発ができるシェフを常にお店に置いておくのも難しい。ピーマンやパプリカならヘタや種も廃棄せず、調理するとか。野菜は全部オーガニックなのでニンジンの葉っぱまで食べられますし、皮もむかなくていいので、仕込みの時間も減らせるな、と。
あと、薪(まき)の調理場を入れる予定です。京都で廃材を扱ってる業者さんが薪をいつでも出せると言ってくださっているので、多少なりとも出る紙のごみを火種にしてお料理すれば、薫製や保存食、温燻もできますし、ごみも減らせると思って導入予定です。
畑の都合、農家の都合にあわせた仕入れはシェフの力量が問われる
―東京のターブルオギノの荻野伸也さん(13)という方も……
梅田:荻野さん。
―ご存じです?農家さんに「どんな野菜でも全部送って」と言って、即興でメニューを考えて出しておられるから。
梅田:シェフの腕がいいとそれができるんですよね。私は2005年に会社始めたんですけど、当時、荻野さんがレストランキノシタでスーシェフ(副料理長)をやられていたんです。荻野さんがヤギのチーズを大好きだったの、覚えています。
―私が取材したのが2018年ぐらいかな。この前「SDGsのテレビ番組に出ます」と言って、荻野さんが出たとこ勝負でメニューを作っておられるのを観て、すごくよかったなと。
梅田:これができたら本当に食品ロスを減らせるんですよ。料理人の腕次第。ただ、席数が多いと厳しいし、シェフがいなかったら成り立たないから難しいですよね。ラタトゥイユなど瓶真空加工しておけば、シェフがいなくてもソースに使えば味のブレもなくなります。
―梅田さんが「農家さんに合わせた仕入れ」とおっしゃいました。荻野さんも、「ニンジン料理作るからニンジン1万円分ちょうだい」というやり方じゃなくて、今、畑に植わっているのを1万円分注文する。「畑の都合に合わせた仕入れ」だと思って、そこも共通点だなと思いました。
梅田:本当ですね。農家さんに、3日後ぐらいに駄目になりそうなのを教えてくださいと言っています。「明日トマト80キロいけますか」と言われたとき、人員も調理場も必要になるので「畑の様子を見ながら教えてください」とお願いしています。
―どのくらいの人数の農家さんとやりとりしていらっしゃるんですか?
梅田:京都で3、4軒ぐらいをメインにしています。近隣だけだと、台風が京都に来たら一切うちのスーパーには野菜が並ばない、となってしまうので、九州や東北の自然栽培の農家さんともつながっています。小さい生産者さんが多くて品切れが多いので、熊本の菊池(きくち)市で農園をやっている方が中心になって、いろんな生産者さんから集めて斗々屋に送る連携もしてもらったり。
梅田:農家さんでは割れたトマトがロスになるので、優先的に買い取ってお店で瓶詰め加工します。そのために総菜免許も取得しています。今週雨が降って来週の収穫のナスビが小さくなるから他には売れないとなれば声掛けてくださいね、とお話ししています。
―デンマークにセリーナ・ユール(Selina Juul)という女性がいて、5年間でデンマークの食品ロス25%減少という成果を出していて(14)。彼女もスーパーで規格外のトマトをケチャップにして売りさばきました。京都のスーパーの八百一本館は、発注を1個2個単位でできて、多品種少量という感じ(15)です。発注単位はどうですか?
梅田:発注単位は結構大きくて、バルク商品なのでキロ単位です。野菜もキロ単位で入荷し、レジでも仕入れの入庫作業でもキロ単位で入れます。トマトも10キロ20キロ単位で発注します。農家さんに「トマト100キロ取引先から断られてしまった」と言われれば、厨房でトマト100キロをさばける仕組みをつくったり。トマトソースやケチャップ、ラタトゥイユもできますし、瓶詰め加工さえできれば一切ロスにしなくて済むので。農家さんでコーペラティブ(加工所)みたいなものを作ってもらって、私たちが加工の指導やマニュアルを出せば、食品ロスはだいぶ減ると思うんです。
梅田:ワンウェイ(使い捨て)瓶はできるだけ扱いたくないので全国発送は難しいと思っています。京都の洗瓶工場さんと話を進めているんですが、調味料系は量り売りが難しい。メーカーさんは小瓶に詰めて、1回使ったら捨ててしまう。リサイクルはすごくエネルギーかかりますよね。洗瓶にかけられるリターナブル瓶(客が返却し、店が回収して再利用できる瓶のこと)をメーカーさんに提案しています。瓶代として30円か50円お客さんにいただき、瓶を持ってきてもらい、洗瓶工場で洗ってもらい、メーカーさんに瓶を返して詰めてもらうことを考えています。
従来の小売業の「欠品ペナルティ」や「3分の1ルール」、季節商品は?
日本の小売業のルールは「欠品禁止」(15)。他にも「3分の1ルール」(16)や季節ごとのイベント関連商品が毎月のようにある。このあたりはどうだろうか。
―日本の小売業は欠品禁止。このお店は売り切り御免ですか。
梅田:売り切り御免ですし、昨日お魚食べたんやったら今日食べなくていいんじゃないですか、ぐらいの気持ちで売ろうかなと思っています。
―恵方巻も1日しか売れないですよね。欠品しないようたくさん並べる(17)。季節商品に関してはどんな考え方ですか。
梅田:ゼロ・ウェイスト業界から見ても、イベントに乗せた商売の仕方は否定的に捉えています。恵方巻を食べたいならご家庭で作ったらどうですかと提案はすると思うんです。食べられる分だけ自分たちで作るのが一番いい。消費者に提案する小売業側、企業側の責任やと思っていて。スーパーでもコンビニでも好きなときに好きなだけ食べられる選択肢がおかしいと思うんですよね。
―小売業の3分の1ルールも改革、チャレンジしていく感じですか。
梅田:決まっていることはある程度守らないといけないですけど、小売しながら加工も飲食店としての提供もできるので、お総菜とレストランと瓶詰め加工があれば、ほぼ食品ロスを出さずにできると思います。普通のコンビニやスーパーは加工や飲食を併用せず、小売だけにビジネスを絞っています。コンビニも、ロスが出るのが分かっていて作り続けるじゃないですか。フランチャイズのオーナーさんに「陳列しろよ」「棚を埋めておかないと駄目だぞ」みたいな経営の仕方が間違っていると思うので。大手さんが改めていってくれたら、と思うんですけど。
家畜に負担をかけない肉を
梅田さんによれば、アニマルウェルフェア(動物福祉)の基準値が日本は非常に低く、希望する基準で取引できるところがほんの数件しかない。その数件から仕入れるには問屋を介さなければならず、取引条件も一頭買いや数ヶ月に一度の仕入れなど厳しいのが現状だ。マイナス60度の冷凍庫で食品ロスを出さないよう保存して提供する方法を考えているという。お肉のショーケースに鹿肉を並べる予定で、毎日、肉や魚を食べる生活から少しずつ切り替えることを提案したいという。
梅田:大量生産の畜産業は、心が痛くて取り扱いできないです。全国の地方行政が、猟師さんに「畑に被害を与える動物はどんどん殺して」と依頼をしているんです。野生の鹿とかイノシシの肉は、殺しても、食肉に加工する予算も場所もない。行政が加工所を作り、法律を作らないと、9割が捨てられている状態です。殺すだけ殺して捨てる。
全国どこでもスーパーに鶏や豚や牛が24時間並んでいる現状、おかしいじゃないですか。不自然です。工場生産で無理やり動物を育て、人間の欲望のままに好きなだけやりたいことをやって、その結果、気候変動が起こり、畑に下りてくる動物も殺して捨ててしまう、明らかに持続可能じゃないやり方。
京都ならではの良さ
―なぜ京都を選択されたのでしょう?
梅田:関西出身で、2005年からやっていたオーガニックワインや食材の輸入会社は大阪にあり、取引先も京都に多かったんです。東京でも探したけど家賃が高い。京都は東京の4分の1ぐらいの家賃で契約できる。京都市は、食品ロス対策の活動をたくさんされてらっしゃる。
梅田:3年前からおつきあいのある余野(よの)ファームさんは、京都の右京区で、余野をサスティナブルな町にする活動をされています。たまねぎの皮をスープに入れても、だしを取った後、皮が残ってしまう、その生ごみを、余野ファームさんが野菜配達のたび、週2回ほど回収くださっています。ミミズコンポストもやっている。全部整ったのが京都でした。
―京都はこの店にふさわしい土地ですよね。八百一本館さんでも一部量り売りをやっているし、マラソン大会も環境に配慮しています。京都市は20年かけてごみを半分に減らした全国のロールモデル。2000年に82万トンだったのを41万トンまで20年かけて減らしました(18)。宴会で幹事が声がけした場合としない場合でどれくらい食べ残しが違うか(19)とか、スーパーの販売期限で棚から撤去しないで消費期限か賞味期限ぎりぎりまで売ったら食品ロスが10%減って売り上げが5.7%増えた実証実験(20)をやっています。自治体で、京都市のように能動的にやっているところは少ないと思うんです。
梅田:京都市のエシカル消費を推進している方、ごみ課の方など、4つの部署の方とお話しさせてもらいました。コンポストを地域の人と連動してやるとか、一緒にやっていけたらなと思っています。
量り売りの新システム
1925年創業、100年近い歴史のある寺岡精工が、いわばベンチャーの斗々屋とコラボすることになった経緯はどのようなものだろうか。
寺岡: 2020年2月7日、朝日小学生新聞に量り売り特集が掲載されました。量り売りを実験する場と書いてあったので飛び込みで行ったのです。驚いたことに、斗々屋は、われわれ秤メーカーより熱い熱量で、量り売りの社会的な意味や、地球に何がいいかを宣教師のごとく話をしているのです。心意気に打たれて、テクノロジーパートナーとして技術面は全部われわれが受けるから一緒にやりましょう、と始まりました。
斗々屋では、客が持参する容器の重量を、あらかじめRFID(電子タグ)に記録しておく。
秤にのせると、容器の重さ(=風袋:ふうたい)が自動的に減算される仕組みを導入している。
RFIDについても3点伺った。
1)コストは安くても一枚あたり2円以上するのではないか。
2)消費者が負担するのか、斗々屋か。
3)中国製や米国製などあるが、どこの国製か。
寺岡:RFIDは風袋の重さを記録するために使っています。半永久的に使えて、書き込みと読み出しが両方できて、電池も内蔵しており、図書館で使っているものと違ったタイプなので、コストはそこそこかかります。でも1回当たり計算したら無視できる金額になっていて、お店(斗々屋)がコストを負担しています。RFIDのデバイス自体はシンガポールの拠点で開発し、インドネシアのバタムの自社工場で作っています。
お客さんが持ってくる容器を秤に載せて重量を登録いただいて、RFIDを瓶の底に貼り、防水加工します。瓶に風袋量が記録されていますから、秤に載せると無線で飛んで自動的に風袋量が引けるのです。同じ容器なら次回から量らなくて済みます。
なぜ日本では量り売りが廃れてしまったのだろうか。かつて対面販売で量り売りが主流だったが、その後、大量生産・大量販売が主流になり、生産者も販売者もロジスティクスもそれに慣れてしまったと寺岡氏は語る。
寺岡:量り売りは欲しい物を欲しいだけ買えるので、理屈上は合理的な販売方法です。食品ロスも減らせるし容器なしで買えるわけですから、地球にもお財布にも優しい。でも日本はサプライヤーが個包装の販売や生産に慣れて、ロジスティクスが全部それ用に組み立てられているから量り売りは進まなかった。大量生産、大量販売に慣れてしまっているし、面倒くさいことはやりたがらないメンタリティもあります。
課題はないのだろうか。寺岡さんによれば、消費者に「容器持参」という行動変容を起こすこと、実際の商品とラベルを間違えて貼ってしまう価格のつけ間違いで店に損失が出てしまうことが課題とのこと。
寺岡:BYOC、Bring Your Own Container(容器を持ってきてください)(21)(*)という社会運動的なことをしなきゃいけない。ペイする事業として実証しないとサスティナブルじゃない。
*BYOC=自分の容器を持参して、店で好きな量だけ買う量り売りスタイル
秤の画面から自分が買ったもののボタンを探さなきゃいけない。ところが、ピーナッツは100グラム当たり200円、隣のピスタチオは100グラム当たり2,000円、10倍違う。ピスタチオを買ったのにピーナッツのボタンを押しちゃった。ピーナッツの値段で計算して貼ってレジを通っちゃう。こういった間違いが、アメリカでもヨーロッパでも、ものすごく起きていて。小売業に聞くと、これが一番の問題です。
これを解決するために、容器のふたにモーションセンサーを付けました。
寺岡:商品を買うためには、ふたを開けたり、ディスペンサーのレバーを下げて商品を出したりします。
寺岡:買うために必要な動作をキャプチャーし(とらえ)、無線で秤に飛ばし、出した商品だけがリストとして表示されるので、ボタンの押し間違えがほぼないのです(モーションセンサー:動作を感知し、電子秤に情報を飛ばす)。
イタリアやデンマークには量り売り店があった(22)。量り売り店は世界的に増えているのだろうか。
寺岡:日本では「無印」の良品計画が、菓子やナッツのディスペンサーを使った量り売りを数十店舗で始めています。コンビニのローソンは洗剤とナッツ類で展開を始めて数店舗になります。ただ、外国で量り売りを仕掛けてきた経験からしても、ここまでゼロ・ウェイストにコミットした量り売りはないです。この店は食品ロスも包装ごみも出さないことを公に宣言している。世界的に見ても先端。誰もやったことがない未踏の領域に挑戦している店だと思います。
斗々屋は、京都店を軌道に乗せたらフランチャイズ化を目指している。それは「斗々屋を全国チェーンにしたいから」ではない。「ゼロ・ウェイスト店をマニュアル化できれば大手も真似できるモデルになる」からだ。斗々屋だけでなく、他企業もゼロ・ウェイストなビジネスに踏み込んでもらう方が、社会がよりよく変わるスピードが速いから。自社のことだけでなく、社会全体を考えているのだ。
追記(2021/8/25 7:43am)
2021年7月30日のメディア説明会の会場にもなった、斗々屋と同じ並びにある「soco kitchen & cafe」を営む水野啓さん(SOCOフーズ株式会社)によれば、オープンから1ヶ月近く経つ8月下旬の雨天の中でも、斗々屋は、常に賑わっているという。小学生の自由研究から関連事業者の視察に至るまで、大きな反響を呼んでいるそうだ。socoでも、近々、上階にオープンする宿泊施設(soco rooms)のゼロウェイスト化や、近隣の事業者や住民、学校を巻き込んだ、地域ぐるみの取り組みを立ち上げる予定とのこと。斗々屋と、その地域の活動や、全国への広がりが、今から楽しみだ。
Zero Waste Market 斗々屋(ととや)京都本店
店長:關(せき)つぐみさん・堀真理子さん
京都市上京区(かみぎょうく)河原町通丸太町上る出水町(でみずちょう)252番地 大澤事務所ビル1階
交通アクセス:
ー河原町通、丸太町の交差点を上がったところ(下記、地図)
ー京阪本線 神宮丸太町駅から徒歩6分
ー京都駅からはバスで20分、京都駅バスのりばA2から京都市営バス4、17、205甲などに乗り、河原町丸太町で下車、徒歩3分
営業時間:スーパー:10:00-19:00、レストラン:18:00-23:00(予約制。8月23日現在は20:00まで。閉店時間は政府の発令に準ずる)
定休日:毎週水曜日
SNS:
日本初のゼロウェイスト・スーパーを京都に!(2021年7月5日に終了したクラウドファンディング。京都店の取り組みが詳しく書かれている)
参考情報
4)完全プラスチックフリーなディスペンサーシステム”Glasbin”(株式会社斗々屋公式サイト)
6)ビュッフェの残りをなぜ寄付できるか イタリア食品ロス削減の最前線(Yahoo!ニュース個人、井出留美、2018/11/19)
10) stasher 公式サイト
11)「ブルーシーフード」ってなに?京都大学ではカレーライスで提供、レストランや社食もパートナーとして参加(Yahoo!ニュース個人、井出留美、2018/11/13)
12)島根の漁師町のもったいない魚に育まれ 築地もったいないプロジェクト魚治 年100回通うリピーターも(Yahoo!ニュース個人、井出留美、2018/6/3)
「ありがとう」がいっぱいもらえる仕事 もったいない魚を活かす豊洲もったいないプロジェクト魚治 中目黒(Yahoo!ニュース個人、井出留美、2019/8/23)
13)「人間の都合でなく畑の都合。採れた野菜を見て料理を考える」規格外を捨てずに活かすターブルオギノの挑戦(Yahoo!ニュース個人、井出留美、2018/10/15)
14)たった5年で食品ロス25%も削減 デンマーク王室をも動かしたある女性の怒りとパワー(Yahoo!ニュース個人、井出留美、2019/9/13)
15)食品ロスを生み出す「欠品ペナルティ」は必要? 商売の原点を大切にするスーパーの事例(Yahoo!ニュース個人、井出留美、2017/8/6)
16)「食品ロス」の一因は「3分の1ルール」 日本の悪しき習慣とは?(アエラドット、2017/3/28)
17)「恵方巻の大量廃棄問題」はどうなったか 124店舗調査と3年データ推移で探る(Yahoo!ニュース個人、井出留美、2021/2/4)
18)ごみ少ないランキング 全国上位30自治体は?年間2兆円のごみを減らす5つの要因とは(Yahoo!ニュース個人、井出留美、2021/6/18)
19)16年でほぼ半減 京都市の530(ごみゼロ)対策は なぜすごいのか?(Yahoo!ニュース個人、井出留美、2017/5/30)
20)「食品ロスを減らすと経済が縮む」は本当か スーパーで食品ロス10%削減、売り上げは対前年比5.7%増(Yahoo!ニュース個人、井出留美、2018/5/22)
22)フランス人がヒュッゲの国デンマークで始めた量り売りの店「ロス・マーケット」食品ロス削減にも貢献(Yahoo!ニュース個人、井出留美、2019/11/12)
RFID(電子タグ)関連記事
「定価より高くても売れる」経産省RFID実験にみる消費者ニーズの多様性(Yahoo!ニュース個人、井出留美、2021/3/18)
コンビニで「期限迫るおにぎり」最大50%値引き 食品ロス対策への効果と課題 (Yahoo!ニュース個人、井出留美、2020/12/23)
「手ぶらで買い物可能」生体認証と電子タグ(RFID)による無人販売の実証実験、東京大手町へ行ってみた(Yahoo!ニュース個人、井出留美、2019/3/14)
食品ロス削減できるダイナミックプライシング(期限接近で自動値引)実証実験中ツルハドラッグへ行ってみた(Yahoo!ニュース個人、井出留美、2019/2/22)
経済産業省 コンビニ電子タグ1000億枚宣言は実現可能か プロジェクトトップランナーのローソンに聞く(Yahoo!ニュース個人、井出留美、2018/6/5)