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ラーメン店無料ライス食べ残し問題 食べ残しやコンビニの売れ残りも含め2兆1,519億円の税金がムダに

井出留美食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)
豚骨ラーメン(写真:イメージマート)

2024年10月23日、ABEMA Prime(アベマプライム #アベプラ)(1)に出演した。テーマは「ラーメン店 無料ライス食べ残し問題」。ある横浜家系ラーメン店で、若い女性客2名が無料ライスを残して去り、店主がXに「見てたらDM(ダイレクトメッセージ)ください」と投稿した件だ。

背景がわからないと「怖い」と思うかもしれないが、そもそも、この無料ライスは自己申告制だった。お客の側が「食べられない」「食べたくない」と思えば「要りません」と言えば済んだ話だ。店内には「残したらお代をいただきます」という注意書きがあった。それなのに、もらっておきながら食べ残し、何も言わずに立ち去ったという。

店には「クズ」「潰れろ」といった非難のダイレクトメッセージが来ているそうだ。だが、自己申告制だったにもかかわらず、黙って残して立ち去る方に非があるのではないだろうか。

「金払ったら何してもいい、というのは違う」

一緒に出演していたカンニング竹山さんは、私と同様、「自己申告制なのに残すのはおかしい」という意見を言ったあと、「金を払ったら何してもいい、というのは違うと思う」という趣旨のことを話した。

これは、まさに私が話そうとしていたことで、番組側にフリップも準備していただいていた。

放送時間が足りなくて話せなかったが、中学校の家庭科の教科書に載っている内容で「消費者の8つの権利と5つの責任」というのがある(2)。これは、1982年に国際消費者機構(CI)が提唱したものだ。消費者には権利があるが、責任もある。

長崎県の「ながさき消費生活館」の公式サイトにわかりやすくまとめてある(2)。たとえば、消費者として心がけておきたいこととして

必要がないサービスは断る

というのがある。まさに、今回のラーメン店の無料ライスがそうではないだろうか。食べきれるか食べきれないかわからないなら、「要りません」と言えばよかった。あるいは「そんなに食べられないので小盛りでお願いします」と言うとか。

消費者の権利と責任(ながさき消費生活館)
消費者の権利と責任(ながさき消費生活館)

「消費者の5つの責任」の中には「環境への自覚の責任」というのがある。食べ残しをしたら、店がそれを処分しなければならない。食品ロスを含む生ごみというのは、重さの80%以上が「水」だ。燃えにくいものを、わざわざ大量のエネルギーとコストをかけて燃やさなければならない。多くの人が気づいてはいないが、店が処理コストを払うだけでなく、わたしたちが市区町村に納めた税金も使って燃やされている自治体がほとんどだ。

消費者の権利と責任(ながさき消費生活館)
消費者の権利と責任(ながさき消費生活館)

2兆1,519億円の税金が廃棄物処理に費やされるままでいいのか

毎年3月末に、環境省が一般廃棄物の発生量や、その処理にかかったコストを発表している。2024年3月28日に発表されたコストは2兆1,519億円だった(3)。これは、われわれが納めた税金の結集そのものだ。

一般的に、自治体の「燃やすごみ」のうち、40%は食品ロスを含む生ごみ(厨芥類:ちゅうかいるい)だ。この2兆1,519億円には、ごみ焼却施設の維持費なども含まれるが、単純計算で40%が食べ物関連だと考えると、8,000億円以上の貴重な税金が食べ物を燃やすために使われていることになる。

給料もあがらない、食費や光熱費は値上がりする。そんな中で、決して安くはない税金が、単に食べ残しや売れ残りの処理に使われていていいのだろうか。

消費者の中には、食べ残しをしない、食品ロスを出さないように気をつけている人もいる。

一方で、「金を払えば食べ残ししても構わない」と考え、平気で食べ残す人や、「発注すれば売り上げが上がる」とばかりに大量の恵方巻や季節商品を店に発注させる企業もある。どちらの人も、一律、同じ税金をとられるのは公平ではないように思う。

ちなみに韓国・ソウル市には、郵便ポストならぬ生ごみポストがあり、生ごみを多く入れた人ほど多く支払わなければならない。いわゆる従量課金制だ。このような制度はイタリアなどヨーロッパにもある。

処分された恵方巻やおにぎりなど(日本フードエコロジーセンター提供)
処分された恵方巻やおにぎりなど(日本フードエコロジーセンター提供)

食べ残しや売れ残りは店だけでなく自分たちの納めた税金も膨大に浪費される

今回のラーメン店の無料ライス食べ残しは、他人ごとではない。貴重な税金がムダに使われるという問題だ。

東京都世田谷区は、毎年、事業系一般廃棄物ガイドブックを公表している。2024年10月に公開された中で、事業系一般廃棄物、つまり飲食店の食べ残しやコンビニ・スーパーなどの売れ残りは、家庭ごみと一緒に処理され、そのコストは1kgあたり61円と書いてある(4)。毎日、何キロ、何トンと捨てていれば、そのコストは膨大だ。それは、われわれが働いて納めた貴重な税金でまかなわれる。

これまで数百回と、食品ロスの講演をしてきて「税金がムダに使われることには気づかなかった」と言われることがとても多い。今月は食品ロス削減月間で、企業や行政、消費者、大学など、多くの組織に呼ばれているが、行政の担当者も「これまで税金のことはまったく意識していなかった」と話していた。

誤解のないように書き添えておくが、体調が悪くなってまで食べきれ、と言っているのではない。食べようと思っていて食べきれないことはある。そうではなく、食べられないことがわかっていながら意図的に食べ残すことはよくないということだ。

食料品価格と税金で二重に損している

食品ロスは、わたしたち消費者がダブルで(二重に)損している。

一つは食料品価格に間接的に含まれている廃棄コスト。

もう一つは、結局は燃やされるために使われる税金。

このことに、いますぐにでも気づいてほしいと願っている。

参考情報

1)ABEMA Prime(#アベプラ)

2)消費者の権利と責任(ながさき消費生活館)

3)一般廃棄物の排出及び処理状況等(令和4年度)について(環境省、2024/3/28)

4)事業系一般廃棄物ガイドブック(東京都世田谷区、2024年10月)

食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)

奈良女子大学食物学科卒、博士(栄養学/女子栄養大学大学院)、修士(農学/東京大学大学院農学生命科学研究科)。ライオン、青年海外協力隊を経て日本ケロッグ広報室長等歴任。3.11食料支援で廃棄に衝撃を受け、誕生日を冠した(株)office3.11設立。食品ロス削減推進法成立に協力した。著書に『食料危機』『あるものでまかなう生活』『賞味期限のウソ』『捨てないパン屋の挑戦』他。食品ロスを全国的に注目させたとして食生活ジャーナリスト大賞食文化部門/Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018/食品ロス削減推進大賞消費者庁長官賞受賞。https://iderumi.theletter.jp/about

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