「食品ロスを減らすと経済が縮む」は本当か スーパーで食品ロス10%削減、売り上げは対前年比5.7%増
賞味期限のずっと手前で返品・廃棄、年間1235億円のロス
あるスーパーマーケット勤務の方から「この取り組み知らなかったです」と連絡を頂いた。京都市が市内のスーパー5店舗で行なっていた社会実験のことである。食品業界の商慣習である「3分の1ルール」のうち、「販売期限」を延ばしたことで、食品ロスが減り、しかも売り上げが上昇したという。
われわれ消費者にとって「食品の期限」といえば、「賞味期限」や「消費期限」しか関係ないが、食品業界には、他にも期限がある。「納品期限」と「販売期限」だ。
食品業界の商慣習「3分の1ルール」って?
食品業界には、賞味期間全体を3分の1ずつ均等に区切り、最初の3分の1が「納品期限」、3分の1が「販売期限」と定める「3分の1ルール」という商慣習がある。1990年代に大手スーパーが始め、他の小売も追随したとされている(「日経MJ」記事による)。「できる限り新しいものを売りたい」というところが発想の一端でもあろう。
納品期限や販売期限が切れたものはメーカーへ返品、もしくは日持ちのしないものはスーパーなどの小売で廃棄する。これにより、一年間に1,235億円に及ぶロスが生じている(流通経済研究所推計及び経済産業省による製配販連携協議会報告より)。特に「納品期限」は先進国諸外国と比べても短く、食品メーカーにとっても負担になっている。2012年10月から、農林水産省・流通経済研究所及び食品業界の代表が集まるワーキングチームが開催されてきた。この取り組みのおかげで、大手を始め、少しずつ緩和されてきているが、現場に聞いてみると、3分の1どころか4分の1や5分の1の期限を課す小売もいるそうで、まだ十分とは言えない。
京都市のスーパー、イズミヤと平和堂の店舗5店舗での実証実験で10%の廃棄削減と対前年比5.7%増を達成
冒頭の社会実験は、3分の1ルールのうち、販売期限を延長し緩和することでどれくらいの食品ロス削減効果があるのか検証し、食品ロス削減をさらに進めていく目的で、京都市環境政策局が行なった。
京都市のスーパー大手であるイズミヤと平和堂の協力のもと、市内5店舗(イズミヤ高野店、カナート洛北、デイリーカナートイズミヤ桂坂店、アル・プラザ醍醐、フレンドマート梅津店)で、平成29年(2017年)11月1日から12月3日までのおよそ1ヶ月間に行なわれた。対象は、スーパーで廃棄することの多い牛乳やヨーグルト、洋生菓子、納豆、豆腐、油揚げ、かまぼこ、食パンなどの加工食品15品目である(イズミヤでは加工食品14品目、平和堂では加工食品4品目)。
その結果、廃棄した点数は対前年比(前年の同時期と比べて)約10%削減し(671点から606点へ)、5店舗合計の売り上げ金額は5,084万5千円から5,376万円へと約5.7%増加した。
2018年5月20日付の京都新聞では「食品ロス、期限延長で廃棄1割減 京都市実験、売上も増」(記事見出しのまま)と報じている。
前述のスーパー勤務の方は「捨てないで済むということは、色々効果が大きいと思います。会社で共有します」とおっしゃっていた。
「食品ロスを減らすと経済がシュリンクする(縮む)」は本当か
筆者は食品ロスをテーマに取材や講演や執筆を行なっている。よく言われるのが「食品ロスを減らそうとすると経済がシュリンクする(縮む)からやめた方がいい」「ある程度捨てる前提で大量に作って余ったら捨てる方が経済合理性があるからそうした方がいい」といった意見である。講演の時に直接、面と向かって言われたこともあるし、メールで頂いたり、書き込みで見つけたり、10回以上は経験した。たまたまかもしれないが、言ってきたのは全員男性だった。
京都市のこの結果を見ると、食品ロスを減らしながら売り上げを上げることは可能と言える。他にも、元気寿司は「まわさない回転寿司」の店舗にしてロスを減らし、売り上げを1.5倍に伸ばした実績がある。
「新しいもの」を買い求めることに躍起になると消費者自身の首を絞める
2030年までに達成すべき17の目標を掲げたSDGs(エスディージーズ:持続可能な開発目標)でも、12番目に「つくる責任 つかう責任」が挙げられている。適正量を作り、適正量を売り、適正量を買うということだ。
京都市は、この社会実験とともに、約1,000名への消費者調査を行なっており、9割以上から「販売期限の延長により食品ロス削減に取り組むことは良いこと」との賛成意見を得ている。
また、京都市内の約60事業者(食品スーパー)にもアンケート調査を実施し、「消費者の理解が得られ、行政が後押ししてくれるなど、環境整備された上で販売期限の延長に前向きな意見」が多かったという。
「3分の1ルール」は、小売が「できる限り新鮮なものをお客様に提供したい」というところが始まった理由の一つと思われる。だが、そうして設定された「納品期限」や「販売期限」が過剰に短すぎると、結局はメーカーやスーパーのコスト負担がかさみ、ひるがえって、それはわれわれ消費者自身に跳ね返ってくる。躍起になって「新しいもの」を買い求めようとすることは、食料品の値段に余計なコストが上乗せされ、消費者自らの首を絞めることになると、わたしたちも自覚すべきだろう。
参考資料: