経済産業省 コンビニ電子タグ1000億枚宣言は実現可能か プロジェクトトップランナーのローソンに聞く
経済産業省は「コンビニ電子タグ1000億枚宣言」と銘打ち、2025年までにコンビニ大手5社の取扱商品に電子タグを付けることで合意した。ICチップとアンテナが内蔵された電子タグを付けることで、バーコードに比べて、決済や在庫管理が簡便化される。店員が賞味期限を確認する必要がなく、賞味期限が近づいた商品を自動で知らせる可能性もあり、食品ロス削減や人手不足解消など、様々なメリットがある。普及させるためには1枚あたり1円レベルまでコストを下げなければならない反面、現状ではその10倍程度のコストがかかるという。はたして2025年までの実現は可能なのだろうか。経済産業省に、どの企業にインタビューするのが良いかを伺ったところ、開口一番、ローソンの名前が挙がった。そこで、株式会社ローソンにこのプロジェクトの実現性について取材した。
用語:電子タグ(RFID:Radio Frequency Identificationの略)
ご対応者(本文中は敬称略)
株式会社ローソン
オープン・イノベーションセンターマネジャー 谷田詔一(たにだ・しょういち)氏
谷田:まず大きな流れとして、なぜこのような取り組みをしているかという背景について説明します。これまで具体的にどういうことをしてきたのか。それから、お客様が使ってどう変わるか、我々が最終的に何を目指しているのかを簡単にご説明できればと思っております。
電子タグ(RFID)が分断されたシステムを改善し無駄を省く
谷田:まず冒頭の、なんでこんなことをやっているの?というところなんですが、日本の仕組みが時代にそぐわなくなってきていると思っています。IoT(筆者注:Internet of Things、モノをインターネットで繋いで相互に情報交換することを指す)、いろんなものが繋がりますよ、と。モノ自体にデバイス(筆者注:コンピュータの内部装置や周辺機器を指す)が付いて繋がってますよね。一方、データのインフラは、モノが繋がる前提で作られていない。そこに乖離(かいり)があると思っていて、モノが繋がるんだったらそれを前提にしたシステムにしないといろんな無駄が起きます。
逆にいうと、チャンスだと思っています。こういう分断されたシステムじゃなくて、きちっと繋がる前提で、横通しのシステムを作ってあげることで、いろんな無駄が省かれて、日本の課題、人手不足だったり食品ロスだったりが全部解決しますよね、というのを仮説として持っているんですね。
食品の異物混入で「念のためすべて」を回収する必要がなくなる
谷田:たとえば食品ロスの具体例で言うと、食品の異物混入。30万個回収しますとか、100万個回収しますとか。もし電子タグ(RFID)がついて、サプライチェーン(筆者注:原材料の段階から、商品やサービスが消費者に届くまでの、一連の過程を指す)で情報が全部共有できると、いつ、誰が、どこで作った商品が、どこに何個ある、という情報が、全部、リアルタイムにわかるんですね。そうすると、食品に異物混入あったものというのがいつどこにあって・・・結論からいうと、ローソンのこのお店のこの棚の5個だけ回収すればいいよね、みたいな。そういう話になるんですね。
電子タグ(RFID)を付けて、全部、横連携でサプライチェーンで見える化すると、異物混入の際の一括廃棄がなくなって、結果的に食品のロスの削減にも繋がると思います。食品ロスの別の例でいうと、リコール(筆者注:自主回収)するときも、30万個とか40万個を回収するのって結構、人手がかかると思うんですが、5個回収するんでいいんだったら店員が5個(商品棚から)取ればいい、という話なので。
ポイントとしては、モノが繋がる前提でシステムを作り変えればいろんな無駄がなくなるよね、と。一つの例が食品ロスです。
バーコードとの違いは個品管理ができること
ー 先日、食品60万個回収っていうのがあって、現状だと、賞味期限とかロットナンバーで特定して、トレーサビリティ(追跡可能性)・・・という流れになるんですけど、電子タグの場合はそれ以上の(情報?)
谷田:そうです。そうですね。バーコードと電子タグの一番の違いは、個品まで管理できる、1個1個管理できるんですね。シリアルの例でいうと、チョコのシリアルが10,000個あったら、全部一括管理なんですね。それに対して、RFIDの場合は、個品まで見にいけますので、シリアル・チョコ1番からシリアル・チョコ10,000番まで全部特定できて、特定できた情報で、賞味期限管理とか、製造ロットとか、全部そこに書き込めるんですよね。そうすることで、先ほどの30万個を回収、じゃなくて、5個回収、という世界が実現する。
谷田:繰り返しになっちゃいますけど、まず単品を特定できますよっていうRFIDの仕組みそのもの、プラス、上で連携して、クラウド(筆者注:インターネットを通して、必要なサービスを必要なときに必要なだけ利用できる仕組み)で繋いでるんですよ。
ーわかりました。じゃあ、たとえば、備蓄の食品ロスについて、ある企業とお話したときも、クラウド化したら結構、無駄がなくなるよねっていう。
谷田:まさにそういう話なんですよ。今、本当に、メーカーさんからしてみたら、卸さんの中に、一体、どんな商品が何個あるかっていうのは、あんまりわからないんですよね。
ーそうですよね。
谷田:小売の棚にどんなものが何個あるかっていうのも、もちろんわからない、と。それが(クラウドで)つながることで、メーカーさんはここに何個(ある)っていうのがリアルタイムでわかりますので。さっきの備蓄なんかも、どの商品が、何個、どこにあるっていうのが、一気にわかるんですね。
ー大きいですね。
谷田:はい。もちろん、いいことづくめばっかりじゃなくって、情報のファイヤーウォール(筆者注:インターネットからの不正侵入を防ぐ仕組み)をどうするのとか。
ーええ。
谷田:たとえば、ローソンの在庫情報を、社外の人が見れちゃったら大変だよね、とか。情報のファイヤーウォールの問題はあるものの、理論的には可能です。
ークラウド化した中でも、社外秘のものは見せない、という。
谷田:そうです。そこはきちっと切り分けないといけないんですけど。
災害時の在庫管理に寄与する可能性も
ーこれ、災害時など、有事の際に行政でも使えるってことですよね?
谷田:もちろん。
ー震災支援の時に、県庁と市役所にそれぞれ電話したら、県庁は「スペースがあります」「今すぐ(支援物資)運んでください」って言われたんですけど、市の現場は全然(スペースが)無かったんですよ。
谷田:そういうことです。国が、この仕組みっていうのを補助金でβ(ベーター)版作ったんです。
ーそれが、あの、経産省の。
谷田:経産省の補助金で、DNP(大日本印刷)さんがベーター版(筆者注:正式版を公開する前のサンプル版の事)を作っています。ば、「ここの倉庫に全然在庫がないんで、こっちに送ったほうがいい」っていうのは、有事の際は、もちろん(できます)。
電子タグ(RFID)とこの仕組みが連携して初めてそれができますよという話で、タグはバーコードと違って、個品管理ができます。缶コーヒーの1番と賞味期限を紐付けることで個品管理ができる世界が実現するよ、という話です。
ローソンとパナソニックの実証実験が経済産業省の「コンビニ電子タグ1,000億枚宣言」につながった
コンビニ電子タグ1,000億枚っていうのを経済産業省が2017年4月に出したんですね。我々も、一緒に共同宣言して出したんですけど。一つポイントとして、そもそもローソンが大阪で実験をやった、あれがあったからこそ、いまのこの大きな流れに繋がっているんですね。
ーああ、そうなんですか。
谷田:本当の始まりは、経済産業省の方から、電子タグを日本に広めたいから、協力して欲しいっていうリクエストが来たんですね。日本の課題を大きな視点で解決していかなければいけないね、っていうことで受けたんですね。
ーそういう経緯があったんですね。
谷田:2017年2月にローソンの店舗で実験をして、電子タグ1,000億枚(宣言)につながったというきっかけなんです。
ーそうだったんですか。すごいですね。
お客様の理解を深めるため最初の実験はレジ作業に特化
谷田:最初の実験の時、店舗のレジ作業に特化してやったんですね。2つ理由があるんです。
一つ目は、お店の作業(品出しとか掃除とか)をブレイクダウン(筆者注:細かく分析)した時、一番、時間的に多いのが接客レジの業務です。そこを効率的にするのが一番というのが一つめの理由です。
二つ目は、世の中に対して電子タグ(RFID)というのがどういうものかを広く知って頂くために。レジは、お客様が一番接する部分です。お客様にきちっとアピールしたほうが今後いいよねということで、この二つの観点で、レジ作業に注力してやりました。
こちらがその時の写真なんですけど、店舗内すべての商品に手貼りしました。
ーすごいですね。。これ、チロルチョコにも貼ったんですか?
谷田:貼りました。プレハブを駐車場に建てて、アルバイトの方を雇って24時間シフトで回して1日1,000個の商品に手貼りするというのをやったんですね。その結果、売り上げが上がったよ、とか、たくさんのお客様に利用して頂いたよ、というのはあるんですが、我々として一番大きかったのは、RFIDってどういうもので、お客様の購買に関わるのかっていうのがきちんとPRできたと思っているところです。
実験期間中、対前年比で2割以上の売り上げアップ
ーその、売り上げの対前年比という数字、これはもう公開されているんですか?
谷田:2割以上は伸びました。
ー(レジロボで、カゴをセットし、会計を自動的にする時の袋について)あれって、マイバッグでもできるんですか?
谷田:いや、できないです。あれは専用のレジ袋が必要です。
実験中は地元のお客様、リピーターの方が来たり、週末になると家族連れのお子様がすごく喜ぶんですね。一日4回来たりとか。
ーええ?同じ人が?
谷田:はい、一般のお客様にも受け入れて頂き、売り上げ効果にも繋がりました。会計時間を削減したいと(当初は)思ってたんですけど、結果的には会計時間は有人レジと変わらなかったんですね。平均すると(25〜50秒)。レジロボが珍しいので、ジーッて見てて、財布出すの遅れてしまったりという理由もあったのではないかと思います。
慣れたお客様でいうと、一番早い方で18秒とかだったかな。慣れてくれば効率化というのは進められますね。
もう一つ、レジでの(タグの)読み取り率って、結構、カギなんですよね。電子タグがちゃんと読み取れないと、会計が合わなくなってしまう。きちっと読み取れることは至上命題だったので、一応100%目指してたんですが、1アイテムとか2アイテムとか、タグとタグが重なっちゃうと、読めなくなっちゃうんです。
ーそうなんですか。
谷田:パナソニックさんの技術で、(レジロボで)下にギューって商品が(カゴごと)降りる時に、カゴを揺らしてるんですね。
ー(互いに)重ならないように。
谷田:重ならないように、ずらしてるっていうふうにしたんですけど、100%じゃなかった。ただ、97.9(%)っていうのは、かなり、いい数字だと思ってまして。
電子レンジにかけても燃えない電子タグも試作済み
ーパナソニックさんに(食品ロスの観点からコンサルティングするため)伺った時、飲料で読み取りがしにくいって伺ったんですが、そんな感じでしたか?
谷田:今回の実験に関して言うと、水分(を含むもの)でも飲料でもやったので、対策はしてまして。今回、読めなかったのは、水分っていうより、(互いの商品の)重なりが(カゴを)揺らしてもどうしても起こってしまったというのが問題なんですね。一般論でよく言われるのは、ご指摘のように、水分に弱いっていうところと金属に弱いっていうところです。
ー電子レンジですよね?
谷田:そうです、そうです。
ー(レンジに)かけられないっていう。
谷田:そうですね。今は、タグのみを電子レンジにかけると、燃えます。
ーはあー。
谷田:ただ、お弁当につけると燃えないんです。
ーそうなんですか。
谷田:そうなんです。電磁波じゃないですか、電子レンジって。まず、水分量が電磁波で飛んでいくんですね。お弁当って、ご飯とか、具とかが水分含んでますので、そこにまずいくんですね。極論すると、お弁当が炭になって、全部燃えた後、タグが燃えるんで。
ー弁当が、(タグが)燃えるのを防いでくれるんですね。
谷田:はい。ただ、もちろん、タグメーカーさんからしてみると、保証できないですよね。燃えないっていうのはわかってるんだけども、それを保証するのはタグメーカーさんなんですが、我々あるタグメーカーさんに、一枚だけ(レンジに)入れても燃えないタグっていうのを開発してもらったんですね。メーカーさんが「絶対燃えない」という保証のあるタグも、実はできています。
電子タグメーカーは世界で5社に行きつく
ータグメーカーさんって、何社くらいあるんですか?
谷田:タグメーカーさんはですね、いっぱいいるんですけど、結局、世界で5社に行きつくんですね。
電子タグというのは、構成の部品として、
1、ICチップ
2、その周りに電子回路、アルミでできている
3、インレイ(ICチップと電子回路を繋ぐもの)
があります。5社って申し上げたのは、ICチップを作っているのが世界で2社で、残りの3社は、彼らのICチップを使って、周りに電子回路を書いてインレイを作っています。
ーそれが、(別の記事に)書いてあった・・・
谷田:そうです、そうです。1回目の実験の結果はちゃんと認知されてよかったよね、というのがありまして。波及効果で実験が好評で、経済産業省としても「これはいける」と。ローソンが最初の「ファーストペンギン」(筆者注:敵がいるかもしれない水の中に真っ先に飛び込む勇敢なペンギンのように、リスクを恐れず最初にチャレンジする者を指す)になって。最初の一歩はすごく大きかった。
次に、第二回の実験は2018年2月に丸の内でやったんですが、ご利益(メリット)はたくさんあるのでスコープ(筆者注:プロジェクトの範囲)を広げました。店舗だけじゃなくて、物流センターとメーカーさんのところもスコープに入れたのが大きなポイントです。
1回目の実験の目的は、レジ業務の効率化だったんですけど、2回目の実験は、サプライチェーン見える化のベータ版、DNPさんが、国の補助金を使って作ったシステムが動くのか、タグと連動してどこに何があるのかわかるのかを検証するのが一番大きな目的。
2番目としては、どうやって取れたデータを活用するのか検討するのかという。お客様サイドというよりビジネスサイドとしての検証。
次がタグ貼りのスキーム(筆者注:枠組み)なんですが、1回目の実験は、我々も全部、手貼り。アルバイトを雇ってやったんですけど、ちょっと限界を感じて。
ーそうですよね。あれ(実験動画)見て、すごいなって思いました。
メーカーは自社メリットが数字で見えないとタグ貼り役は・・・・
谷田:メーカーさんにやってもらわないと、この取り組みって広がらないということだったので、タグ貼りのスキームをちゃんと考えないと、という話で。おにぎりとかサンドウィッチっていうのは、我々がサプライチェーンをコントロールする側なんで、調整が間に合わなくてお店で貼ったんですが、NB(筆者注:ナショナルブランド・全国的知名度のあるブランド)の商品は、基本的にメーカーさんに貼ってもらう、ということになったんですね。
ーまあ、そうでしょうねえ。
谷田:卸の倉庫の中に、仮想のメーカースペースと仮想の卸スペースを作ってタグ貼りをしました。目的としては、システムがタグと連動して動いてるのを見ることでした。タグ貼りについてはメーカーさんがこのタグを使うことによってどういうメリットがあるかをきちんと説明しなければならないと思っています。メーカーさんから見ると(タグ貼りは)コストアップでしかない。その後、個別にメーカーさんと何社かお話することがあったんですけど、メーカーの担当としては「やりたい」っておっしゃるんです、みなさん。
ーへえ。
谷田:でも、具体的にメリットとして、数値としてこういうのがあって、ってならないと、進めていくことは難しいと思っています。
ー上(上層部)に上げるとそうですよね。
第三弾の実証実験のトピックスは「メーカーメリット」
谷田:そうなんです。なので、メーカーさんのメリットを定量化して、会社としてお願いしますというふうにしないといけないと思っています。第三弾の実験を、来年2019年の頭にする予定なんですけど、そこのトピックは「メーカーさんメリット」です。と、国も考えています。
食品ロスに関しては、トレーサビリティがこういうふうにして見えますっていうイメージで、RFIDを紐(ひも)付けると見える化できると申し上げたんですが、私たちはそれをお客様に開放すればいいじゃないと思っていまして。
今だと、実際に欲しい商品があっても、お店に行かないとわからないじゃないですか。そうすると、トンカツ食べたいと思って、店に行ったらシャケしか並んでないって、結構、あると思うんですよ。そういうのも、個品管理して、お店の在庫を見える化しちゃえば、お客様がスマホ使って、このお店の在庫、全部見える、と。
ーすごいですね。
谷田:RFIDって、個品管理できて、賞味期限と紐付けられますので、残り賞味期限(筆者注:弁当の場合は消費期限)が1時間切った瞬間に値下げをすることも可能になります。そうすると、売れる確率ってだいぶ上がると思いますんで、食品ロス削減にも繋がります。
ーかなりな可能性ですね、これは。
谷田:はい。これは本当、大きいと思います。
ーそうでしょうね。
谷田:さっきの食品の自主回収の話とかも減りますし、こういうことでも減りますし、メーカーさんがお客様の需要動向みたいなのをリアルタイムで把握できれば、ひょっとしたら生産調整みたいな感じで、作り過ぎてる部分って絶対あると思うんですね。バッファー、何かあったらあかんから、とか、そういうところもきちっと需要予測ができれば、原材料とかドーンと減らせるっていうのがあると思いますし。
ーそうですねー。今はコンビニの話ですけど、最近、飲食店で、余ったもの、閉店間際に価格を下げて(必要なところへ)繋ぐアプリが出てきているので、それも活用できそうですよね。
谷田:そうですね。それは活用できると思いますし、ポイントはスマホで見れるということだと思うんですね。今でもスーパーとか行くと、(値下げのための)シール貼ったりとかすると思うんですけど、お店行かないとわからないじゃないですか。そういうのが駅で(スマホで)わかれば、主婦とか行くと思いますし、これは相当減ると思うんです。
電子タグの課題
今までいいことばっかり言ってきたんですけど、課題もあって、いろいろあるんですけど、我々が思ってるのは2つなんです。1つはタグそのものの価格。これ、1枚だいたい安くて8円。平均的には10円から15円するんです。タグもいろんなスペックがあって、読み取りの精度とかいろんなのがあって。チロルチョコ10円のものが2倍になっちゃうのかっていう。(筆者注:チロルチョコの多くは現在20円以上)
もう1つは「誰が貼るの」問題。この2つなんですよ。この2つも、我々ローソンが主体的に解決しようとしてまして。
電子タグの価格は1枚2円までは下げられる
谷田:1つ目のタグの価格に関しては、タグの5社に、我々が直接、交渉してます。ただ単に下げてくれというのでは説得力ないんで、我々はきちっと、日本のタグの取り組み、1000億枚(プロジェクト)について説明しています。今、世界のタグの需要が100億枚なんですね。(市場が)10倍になる、と。
具体的に細かい話をすると、この電子タグの(構成の)中で一番高いのはICチップなんです。これ(の値段)を下げるのが一番ミッションなんですけど、具体的なソリューション(解決策)が出てきてまして。
ICチップって、だいたい2mmだとするじゃないですか。やり方は2つあって、1つは、チップの大きさを半分にする。2mmを1mmにする。今まで100枚取れてたのが200枚取れる、と。
もう1つは、ここの(指で示す)大きさを2倍にすると、今まで100枚取れてたのが(2かける2で)400枚取れるんですね。そういうふうにしてコスト削減すると。実際にそういうのをやってもらってるんですよ。そういうふうにして、タグの(会社の)人たちと直接交渉して下げてもらっているんです。
ーそうなんですか。それで「2円くらいまでは下げられる」と。
谷田:みんな言います。2円くらいまでは(できる)って。
ーじゃあ、(ターゲットの1枚1円までは)あと半分ってところですね。
谷田:はい。さすがに8円・10円をいきなり1円(に下げる)ってなると、みんなできるのか?ってなるけど、2円を1円ならなんとかなるんじゃないかって。
電子タグを誰が貼るかの方がコスト削減より難しい
谷田:もう1つは「誰が貼る」問題なんですけど、今までは、各小売も、国に任せきりだったみたいなんですよね。それで10年くらい進まなかったって言ってるんですけど、我々としては、そんなことやってても進まないので「貼らなくていい世界を作ればいいじゃないか」と考えています。
一つは、例えばペットボトルのキャップの上にキャンペーンシールを貼るような形でできるように作ってもらっています。あと、今、ティッシュの箱の内側にタグが製造ラインで勝手に貼られるというのを作ってもらってるんですね。そういう風にすると、今までメーカーさん「貼るのが面倒くさい」と言われてたのが、もう勝手に(自動で)貼られるよっていう世界を、グローバルのタグメーカーとのコネクションを使って、開発してもらってるんですね。そうすると、価格問題も解決して、誰が貼るの問題も解決して、いける、と思っています、という話です。
最終的には、サプライチェーンが見える化して、いろんな無駄が省ける世界にしたいなと思っています。メーカーさんのところで言うと、異物混入した時に、何十万個なんか回収しなくてよくて、サプライチェーンから無駄が省けます。これは食品ロスとは関係ないんですけど、(コンビニ店舗で)入荷検品、出荷検品って、結構やってるんです。それもRFIDだと、一括で、離れているところで取れますので、専用のトンネルみたいなのを通るだけで読み取れるようになるんです。サプライチェーンでいろんな無駄が省けるようになって、その無駄の具体例の1つが食品ロスですっていう話です。
慶應義塾大学SFCの三次(みつぎ)教授も含めた産官学の取り組み
ーありがとうございます。プレスリリースに「産官学の取り組み」ってあったんですけど、学ってどこですか?
谷田:食品ロスって限らないことでいえば、東京大学のAIチームですね。RFIDで言うと、慶應のSFC(湘南藤沢キャンパス)。三次(みつぎ)教授っていう教授がいらっしゃって、ずっとRFIDやってるんです。この方が、先ほどのDNPさんの組織図のところに出てくるんですけど、ここにいるんですね。
ーああ、じゃあ、有識者として、専門家としての立ち位置でいらっしゃるんですね。
谷田:そうです。有識者です。
ーあと、(タグって)再利用ってできないんですか?
谷田:再利用も、できると思います。そこのところは、そこまで検討できてなくて。今のところ多く流通してないんで、燃えるゴミになっちゃってます。ただ、リユース(筆者注:再利用)というのは一つ観点としてありますので。
スマホがそのままレジになる!コンビニの行列に並ばなくていい「スマホアプリ決済」
ー2018年の春にスマホアプリ決済っていう。
谷田:はい、今まで(行列の)列で並んで買うのをストレスに感じていた方もいらっしゃると思います。スマホペイを使えば列に並ばずスマホで決済できるので、間接的には食品ロス(削減)につながるのかもしれないです。
バーコード同様、将来的にはスーパーにも拡大の可能性
ーこれ(RFID)は、将来的にはスーパーにも拡大するのでしょうか。
谷田:そう思います。将来的には、バーコードと一緒ですね。バーコードはセブンイレブンさんが始めたんですよ。そこからバーって広がっていって。現時点ではコンビニですけど、あとはドラッグストア業界も、「業界あげてやる」って言ってます。
ーあ、そうなんですか。
谷田:検討されてますんで。広がっていくと思います。
課題の難易度は「誰が貼る」問題の方が高い
ーさっきの2つの課題というのも、すでに(解決の)見通しが立っているということですけど、あえて、難易度の差というのはあるんでしょうか。
谷田:そうですね。個人的には「誰が貼る」問題の方が(難易度が)高いと思っていて、ほんと、いろんなプレーヤーを巻き込まないといけないじゃないですか。
ーそうですね。
谷田:一足飛びに、全部のメーカーさんが一気に貼るっていうことはないと思ってますんで、これはバーコードと同じなんですけど、最初は、2割ぐらい(の商品)にバーコード貼られました、それがどんどん半分とかになっていって、聞いてる話ですけど、7割ぐらい・・・6、7割を超えた時点で、「もう、うちは、バーコードのない商品は納入しません」って言って。そこからバーって(広がったって)聞いてます。
ーへえー。
谷田:こういうご時世なんで、同じようなやり方ができるかわからないですけども、まあ、徐々に、徐々に、(タグが)付いていくと思うんですよね。そう言った意味で、誰が貼るの方が難易度が高いと思っています。
ー働き方改革にも貢献するっていうことですよね。
谷田:そうですね。(そう)思います。
これから期待される、情報に応じて価格を変えられる「ダイナミック・プライシング」
ーよく、消費者の声で聞くのが、鮮度(賞味期限)によって、価格を連動して安くして欲しい、と。
谷田:ダイナミック・プライシングという考え方ですね。
ーそれは可能ですか?
谷田:可能ですね。それはRFIDがキーになってくると思うんですけど、イメージで言うと・・
ー複数の方が「同じ値段だったら、(商品棚の)奥から(賞味期限日付の新しいのを)取る」って言っていて。それが、日付に連動して価格が比例して(賞味期限が近づいているほど)安くなっていれば買うよ、と。そういう消費者の意見をよく聞くんですけど。
谷田:これ、スペインで実験してるんですね。おっしゃったのが、これなんですけど、同じヨーグルトなんですが、賞味期限が5月4日より後だと価格が変わるんですね。これ、個品管理情報がタグに入ってますので、電子ペーパーを使った価格カードと連動することで、賞味期限と連動して価格がピュッと下がるという。
ーへええ。
谷田:そういうのを「ダイナミック・プライシング」というらしいんですけどね。
ーこれはどこかで公開されているのですか?
谷田:日本でやってるとこはまだないんで・・・
(筆者注)2018年2月にパナソニックとトライアル(株)協働で、 一部商品でのダイナミックプライスの実証実験を実施
ーハンガリーでも調査されていて、ブラインドテスト(目隠しテスト)で、賞味期限が今日っていうヨーグルトと、納品されてきたばかりのヨーグルトとで、味比べをしたんですね。
谷田:一緒でしょ?
ーそうしたところ、50%ぐらい(の消費者)しかわからなかった。結局、(味の区別が)わからなかったっていう。
谷田:そう思いますよ。
ーそれ(その結果)を元に、ハンガリーで「前から(取りましょう)」っていうポスターを作って、スーパーのSPARさんでやっているんです。
谷田:結局、それもポイントになってくるのは自動化だと思うんですよ。人が(値下げ)シール貼らないといけないと、忙しかったら貼れないですし、仕組みを作って自動化してあげれば勝手に(価格が)変わるんで。貼り忘れとかないじゃないですか。そういうのは仕組み化ができると思っていますし、実際にやろうとしている会社も出てきていますので。これは確かに大きな食品ロスの削減につながる取り組みだと思います。RFIDとこれが連動することで、より簡単に、抜け漏れなくできる。
電子タグが普及すれば家庭の冷蔵庫の食品も賞味期限管理でき、食品ロス削減に繋がる
ー家庭の冷蔵庫でもきっと同じですよね。
谷田:そうです。で、冷蔵庫とつながれば、タグついたものが冷蔵庫に入っていると、たとえば牛乳とか、気づいたら賞味期限切れてて捨てるとかあるじゃないですか。
ーありますね。
谷田:そういうのも、電子タグで冷蔵庫にRFIDのリーダー(筆者注:読み取り機)を入れておくと、明日賞味期限切れますって、携帯に通知飛ばしてあげることができるんです。それができると、確かに、家庭の中での食品の廃棄、食品ロスの削減にも繋がりますので。
ーもう全部ですね。メーカーさんから(フードバリュー)チェーンの。
谷田:お客様のところまで全部繋がって、気づいたら賞味期限切れてたっていうのは無くなります。
ーわかりました。どうもありがとうございました。
取材を終えて
コスト15円を1円まで下げるというのはどう見ても可能性が薄いのでは・・と想像していたが、実際に伺ってみて、可能性がかなり高く、コスト面の問題よりタグ貼りに関する課題の方が難易度が高いのだと理解した。電子タグは、すでにアパレル業界などで導入されており、初期投資はかかるものの、いったん導入すれば、労働力や人件費削減など、大きなメリットがある。単価の安い飲食品が対象だと課題はより大きいと思われるが、かつてバーコードのなかった時代が今では想像できないように、あって当たり前の世界が目の前にあるのかもしれない。電子タグ導入は、食品ロス削減はもちろん、高速決済やレジでの待ち時間短縮、クラウド化による情報共有と無駄の削減、自動棚卸し、万引き防止など、メリットは多い。また「ファーストペンギン」として本プロジェクトを牽引してきたローソンが、世界のタグメーカー5社と直接交渉を重ねてきた経緯も知ることができ、経済産業省の担当の方に取材先として適切な企業を問うたとき、なぜ迷いなく「ローソン」と回答されたのかがよくわかった。第三弾の実証実験の結果が期待される。
取材日:2018年5月23日
2018年2月2日 株式会社ローソン ニュースリリース<参考資料>電子タグを用いたサプライチェーン情報共有システムの実験
2017年(平成29年)4月18日 経済産業省 商務流通保安グループ 流通政策課 「参考資料」
2018年2月2日 経済産業省 電子タグを用いたサプライチェーン情報共有システムの実験を行います~サプライチェーンに内在する社会課題の解決に向けて~