「恵方巻の大量廃棄問題」はどうなったか 124店舗調査と3年データ推移で探る
恵方巻には罪はないのに、節分の時期になると廃棄のニュースが流れ、あたかも食品ロスの代名詞のようになってしまっていた恵方巻。2016年2月3日にはフランスで世界初の食品ロスを防ぐための法律が成立したため、日本の恵方巻大量廃棄と対比して、フランスの先進性がSNSで話題になった。2021年は、124年ぶりに2月2日が節分となった。閉店間際の売り切り状況はどうだったのだろうか。また、処分される恵方巻を受け入れているリサイクルセンターでの受け入れ状況は、ここ3年間で変わったのだろうか。
食品工場から不要になった食品を受け入れている、株式会社日本フードエコロジーセンターの高橋巧一社長にお願いし、2019年の節分前後の時期の受け入れ量と比べて2020年、2021年がどうだったのか、データを提供していただいた。
また、大学生インターン3名と友人1名に調査をお願いし、筆者を含めて5名で合計124店舗のコンビニ・スーパー・百貨店・寿司店の、閉店間際もしくは夜間の売り切り状況を、定量・定性の両面から調査した。
まず、結果について、数字で表すことのできる定量データを見ていこう。
2019〜2021年まで3年間の食品リサイクルセンターでの受け入れ量の変化
企業名は伏せて、3つの工場の2019年から2021年まで、日本フードエコロジーセンターで、節分前後の6日間の食品の受け入れ量の変化を見てみる。
まずA工場。2019年から2021年まで徐々に減っており、2021年には2019年対比で35%減となった。
次に大手コンビニに納品しているB工場。ここも徐々に減っており、2021年は、2019年対比で39%減。
最後に大手コンビニに納品しているC工場。ここは2021年には2019年対比で57%の減少となった。
では、節分の1日だけのA・B・Cの3工場の合算を見てみるとどうなるだろうか。
2019年は7,685kg、2020年は6,536kg、2021年は5,013kg。2021年は、2019年対比で35%減っている。
とはいえ、処分するすべての恵方巻がリサイクルセンターに入ってくるわけではない。その多くは、「事業系一般廃棄物」として、自治体の財源(税金)を使って、家庭ごみと一緒に焼却処分されることがほとんどだ。
124年ぶり、2月2日の節分となった2021年の夜、124店舗の売り切り状況は?
それでは、店頭の様子はどうだったろうか。東京都・千葉県・神奈川県・埼玉県の首都圏と沖縄県の、合わせて124店舗の夜の時間帯の売り切り状況を調査した。売れ残り数は216本。
2021年は、2019年・2020年に比べて売り切る(完売)店舗が増え、完売する時間帯が早まる傾向が見られた。
業態別比較
コンビニの完売率は78%
スーパーは96%
百貨店(デパ地下)と寿司店は100%の完売率だった。
コンビニ企業別比較
大手3社の中ではローソンが最も高い完売率だった。
セブン-イレブン・ジャパン 79%
ファミリーマート 75%
ローソン 88%
その他(ミニストップなど)75%
立地別比較
駅ナカで100%の完売率と高く、駅前は88%、駅からやや離れたところで90%だった。
時間帯比較
19時前には53%だった完売率が、19時から20時には79%、20時から21時には86%、21時から22時には100%となった。
以上の結果を表で示すと次のようになる。
コンビニ・スーパーの完売時間が早いため、寿司店に行列
ここまでは、数字で表すことのできる定量データを見てきた。ここからは、数字で表せない定性データも含めて見ていく。
筆者は2017年から恵方巻の食品ロスに関する記事を書いてきた。2019年の節分の夜には35店舗、2020年の節分には大学生インターンの協力を得て101店舗の調査を行った。
2019年には、閉店5分前の百貨店(デパ地下)で、272本の恵方巻が売れ残っていた。
2020年は、食品ロス削減推進法が施行されたこともあってか、完売店舗は増えた。だが、100本単位で売れ残っている店も見受けられた。
そして2021年。百貨店では、14時の時点ですでに恵方巻売り場に行列ができており、予約分を受け取る人、当日決めて買う人がいた。夜19時以降に調査を開始したところ、すでにほとんどの店で完売していた。仕事帰りにスーパーやコンビニで買おうとして売り場に来て「あ、ない」と言って別のところへ行く人も何度も見受けられた。
ここ何年かで初めて見たのは、寿司店に行列ができていたことだ。スーパーやコンビニが早めに売り切れたため、寿司店が店の外で売っている恵方巻に行列ができており(19:43)、その数分後には完売した(19:47)。
首都圏では、13時台にすでに売り切れとなっているコンビニもある一方、20時ごろになっても30本近く残っている店もあった。
どの店でも完売御礼や「お詫び」のふだが目立った。
節分用の豆やイワシ、スイーツは売れ残っていても、恵方巻は完売しているケースが多かった。
節分が終わったらすでにひな祭り、ということで、催事コーナーにひな祭りの展示ができているスーパーもあった。
沖縄県那覇市や浦添市でも完売
ここまでは首都圏の様子を見てきた。では、それ以外の地域ではどうだっただろうか。Twitterでは恵方巻の「売り切れ」がトレンドに上がっていたところを見ると、全般的に完売が多かったようだ。47都道府県すべてを調査するわけにはいかなかったが、沖縄県那覇市安里(あさと)と浦添市のスーパー、4店舗について、2月2日夜21:30から22時まで調べていただいた。その結果、4店舗とも完売だった。
利用客の多い活気のあるお店で、店の人によれば「夕方には完売していましたよ」とのこと。沖縄は、緊急事態宣言のため、夜は人通り少なく、スーパーも静かな雰囲気だそうだ。
考察とまとめ
以上、124店舗の調査結果と3年間の食品リサイクルセンターでの3社からの受け入れ量の推移について見てきた。毎年、継続して調査を続けてきた者としては、2019年、2020年、2021年と、少しずつ改善のきざしが見られることに感慨深い思いだ。
もっとも、今までと違うのは、2021年の節分が「コロナ禍」であることだ。2020年2月には、すでに新型コロナウイルス感染症の患者が日本で発見されていたものの、まだ影響は限定的だった。今は緊急事態宣言が出され、飲食店は時短営業となり、人々はテレワークで、コロナ前に比べたら外出をしなくなってきている。そのことが、発注数を減らし、廃棄量の減少に繋がったということもあるだろう。
気になったこととしては、完売の札に「お詫び」と書かれていたことだ。
「完売御礼」とはいうが、店は、売り切ったことに対し、客に「お詫び」しないといけないのだろうか。SDGsのゴール12番の「つくる責任、つかう責任」を果たしたとは言えないだろうか。
調査に協力してくれた長谷拓海さんは、コンビニの店員さんに「恵方巻、売り切れましたか?」と尋ねると、毎回「申し訳ございません」と謝られたそうだ。
あくまでTwitter上や店頭での反応しか見ていないが、ないならないなりになんとかしているようだ。恵方巻の代わりに具材を買って自分で手巻き寿司を作って食べたり、かぶりつくものとしてハンバーガーやホットドッグを買ってきたり、家の冷蔵庫にある残り物で乾杯したり、家にあるものを適当に巻いたり、恵方巻スイーツを買ってきたり。ないことで創意工夫が生まれるという面もある。
恵方巻に限らず、その日しか売ることのできない食べ物をきちんと売り切ったことを店が誇り、お客である我々も店の売り切る姿勢を寛容することが大切ではないだろうか。
ご協力いただいたみなさま
今回の調査には下記のみなさまにお世話になりました。感謝申し上げます。
株式会社日本フードエコロジーセンター代表取締役社長 高橋巧一さん
沖縄県在住 本永明子さん
大学生インターン3名
上智大学総合グローバル学部3年 大田美月(みづき)さん
一橋大学経済学部3年 長谷拓海さん
法政大学人間環境学部3年 樋口彩加(さやか)さん
参考情報
コンビニ恵方巻「大量廃棄」問題の解決が難しい事情(ダイヤモンドオンライン、2017.2.3、井出留美)
2020年、恵方巻の食品ロスはどう変わったか?101店舗の調査結果
2020年の恵方巻、大手コンビニの食品ロスはどうだったのか?SDGs世界レポ(6)(2020.2.25、井出留美)
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