食品ロス削減できるダイナミックプライシング(期限接近で自動値引)実証実験中ツルハドラッグへ行ってみた
ダイナミックプライシングとは?
需要と供給に合わせて価格を変動させる「ダイナミックプライシング(Dynamic Pricing)」。AI(人工知能)に基づき適正価格を決めるこの仕組みが少しずつ浸透してきている。消費者としては、航空券や宿泊予約の価格でおなじみかもしれない。閑散期と繁忙期では、倍以上、価格が違うこともある。
食品の場合、消費期限や賞味期限が近づくと定価から値引きされる。
このダイナミックプライシングの実証実験を行ったイスラエルの会社がある。「Wasteless(ウェイストレス)」だ。2018年1月、スペインの首都マドリードの小売店で実験したところ、食料廃棄量が32.7%削減され、収益が6.3%増加したそうだ。
日本でも、パナソニックと、福岡のスーパーのトライアルが、2018年2月に実証実験を行っている。
国(経済産業省)がダイナミックプライシングなど電子タグの実証実験を東京都内5店舗で2月28日まで実施中
その「ダイナミックプライシング」を含めた電子タグの実証実験が、経済産業省のプロジェクトとして、2019年2月28日までの期間限定で実施されている(経済産業省 2019年2月8日発表)。
対象店舗は全て東京都内で、以下の5店舗。
ダイナミックプライシングを実施している4店舗のうち、2店舗はLINE(ライン)ポイントの還元(上記表の「ダイナミックプライシング」の欄の星印)、2店舗は現金値引を採用している(上記表「ダイナミックプライシング」のうち、丸印)。筆者はLINEを使っていないので、現金値引採用の2店舗にご依頼し、うち、撮影を快諾してくださった、株式会社ツルハの目黒中根店へ行ってきた。
株式会社ツルハの関東第一店舗運営部スーパーバイザー、目黒区地区統括責任者である菊地俊幸(きくち・としゆき)さんが、お忙しい中、対応してくださった。
食パンとコッペパンなど5品目でダイナミックプライシングを実施
ツルハドラッグ目黒中根店で実施しているダイナミックプライシングは、パン売り場の、上から3番目の棚に置いてある、食パンとコッペパンなど5品目が対象。
消費期限表示の前日の夕方に20%引きに、当日に50%引きになる。棚の表示は自動表示。あらかじめ登録しておけば、消費者のLINE宛にも割引案内が流れるそうだ。
対象商品が5種類と限られることや、実証実験の最中なので、現時点でどれくらい食品ロス削減が達成できたかまではわからないとのこと。実証実験開始から見ていると、通常時の4〜5倍量のパンを納入しても、売れていく傾向にあるそうだ。ついで買いの需要もある。ただ、食品ロスを防ぐ役割はあるものの、店の利幅として大きいとは言えないようだ。
ツルハドラッグ目黒中根店は、今回の対象店舗5店舗の中で、唯一、食品・化粧品・オーラル(歯磨き関連)・柔軟剤・健康食品の5つのカテゴリで、広告最適化などの実証実験を行っている。
食品以外は「広告最適化」という内容だ。商品を手に取ると、商品についている電子タグが反応し、商品棚の前にあるサイネージ(液晶画面などを用いた電子媒体)に、その商品の紹介動画などが流れるという仕組み。
2日がかりだった棚卸しが数時間で!電子タグのメリットは「棚卸し」と「在庫管理」の効率化
なぜツルハドラッグ目黒中根店が選ばれたか。菊地さんによれば、業界の協会から立候補社を募る呼びかけがあり、ツルハドラッグとココカラファインとウェルシアが手を挙げた。目黒中根店は、上階に商品部などのオフィスがあり、すぐに手配できるなどの利点があるそうだ。
ツルハドラッグはもともと郊外型店舗が主流で、坪面積が200から300ある店舗も多い。この目黒中根店は100坪。近隣にも競合店舗やコンビニはあるが、特徴としては「食品が強い」こと。夕方から夜にかけては仕事帰りのお客さんも増える。他の店舗と比べての立ち位置は「標準的」とのこと。
今回、5つのカテゴリで電子タグを貼ったことによるメリットは、「棚卸し」と「在庫管理」の効率化、だそうだ。1品ごとに数えていたのが、スキャナーでなぞるだけで一気に数えられる。今まで2日間かかっていたのが数時間で出来るようになった。菊地さん曰く「画期的」。
検品も省けるし、期限表示も、2名以上で目視でダブルチェックする必要があったが、それも必要なし。作業効率が格段に上がったことが最大のメリットとのこと。
経済産業省本館1階ロビーでは電子タグ読み取り家庭用冷蔵庫の体験中(2019年2月28日まで)
ツルハドラッグの他に、経済産業省へも行ってみた。
5店舗での実証実験と並行し、実験の主体である経済産業省では、本館1階ロビーにおいて、電子タグを読み取る冷蔵庫と、電子タグを設置した食品サンプルが置かれ、体験できるようになっている。
同じ番号が数十万個以上の単位で存在するバーコードと違って、電子タグは、1個ごとの情報を読み取ることができる。
電子タグを読み取る機能の付いた冷蔵庫がどの家庭にも普及すれば、「あと何日でこの食材の賞味期限が終わるからこれを先に使おう」といった食品ロス削減が手軽にできるようになる。
何しろ、日本の食品ロス646万トンのうち、家庭からは半数近くにあたる289万トン(約45%)出ている。食材の在庫が溜まりやすい冷蔵庫は、ロス削減のキモだ。
東京ガス 横浜ショールームでは電子タグを用いた家庭内サービス体験実施中(2019年2月28日まで)
また、横浜にある東京ガスのショールームにも行ってみた。
東京ガスの横浜ショールームでは、電子タグを用いた家庭内サービスを体験できる展示がある。横浜ショールームは、神奈川県横浜市の「みなとみらい駅」に直結した「MARK IS みなとみらい」4階にある(タリーズカフェの向かい)。
テーマは4つあり、おもちゃ、ごみ箱、ストック(備蓄)、レシピ。
例えばレシピのコーナーでは、食品や調味料に電子タグが付けられ、どの順番でどれを使えばレシピ通りに料理できるかなどがタブレットに表示される。担当の方によれば「健康管理にも使える」とのこと。例えば塩のボトルを何回手に取ったかが記録されるので、あまりに取り過ぎていたら「塩分を控えよう」と意識できる、など。
ごみ箱に関しては、どれが燃えるごみで、どれが燃えないごみか、商品とごみ箱に付いていれば、タブレット上で、分別の仕方を教えてもらうことができる。
取材を終えて
実験に協力した店舗で、棚卸しと在庫管理の作業効率化が実現できていたのは、とてもよかった。働く人がラクになることは、今の日本では特に望ましい。
経済産業省が「2025年までに大手コンビニ5社に1000億枚の電子タグを」というプロジェクトを開始している。
今回、実験店舗や経産省、東京ガス横浜ショールームの3箇所を訪れることで、これまでは文字情報しか持たなかった電子タグについて、実際にそれを付けた食品や商品に触れてみる体験ができた。
この実験の裏側にはどれほどのコストと労働力が隠れているのか。とてつもない量であろうことが想像された。
食品ロス削減の観点では、ツルハドラッグの経営方針に好感を持った。コンビニなどは、当日期限のパンは販売していない。ツルハドラッグでは、この実証実験を行う以前から、当日期限のパンは販売しているとのこと。京都市の実証実験でも、消費期限・賞味期限ギリギリまで販売したことで、食品ロスは10%減っていた。ずっと手前で棚から撤去し捨てるより、ギリギリまで販売する方がいい。
ツルハドラッグでは、今回の実証実験の前から、食品ロスをいかに減らすかには努力してきたそうだ。売れると見込まれる時には発注を1.5倍に増やしたり、逆に給料日前は動かないので減らしたり、天候も売り上げを左右するので天気予報をチェックしたり、など。
担当の菊地さんは、北海道のご出身で、東日本大震災の時には岩手県遠野市で店長をされていた。本社に連絡が取れなくなってしまったため、店長判断で店を開けた。「困った時には店を開けろ」というかつての教えが頭にあったからだ。他の店長も同じように行動していたそうだ。他がどこも開けていない中、開店した。2018年9月、北海道地震の時、車のバッテリーを使って営業していたセイコーマートの姿勢が、そこに重なる。
実証実験は、言ってみれば、本業の他に現場負担が増えること。でも、その先には食品ロス削減や作業効率化など、社会に貢献できる何らかのメリットの可能性がある。
今回、実験に協力している企業がどこなのかということも、消費者目線ではチェックしておきたい。「忙しいからうちはお断り」という自社さえよければの考え方ではなく、ビジネスを支えてくれている社会への貢献の心がきっとあるはずだ。
取材日:2019年2月21日
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