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16年でほぼ半減 京都市の530(ごみゼロ)対策は なぜすごいのか?

井出留美食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)
COP3(コップスリー): 地球温暖化防止京都会議(1997年12月9日)(写真:Natsuki Sakai/アフロ)

5月30日は「ごみゼロの日」。京都新聞は5月23日の記事で、京都市のごみ量について「16年連続して減少」と報じた。私はここ数年、京都市の「ごみ(ほぼ)半減」に着目し、全国の講演で紹介している。先日も「京都市は食品ロス削減対策がすごい」「ごみを半分に減らすという数値目標を立てて取り組み、しかも結果を出している行政はなかなかいない」と宣伝していたら、「行政がごみ削減やるなんて、そんなの当然(珍しくもなんともないん)じゃないんですか」というご意見を頂いた。私は、ごみが減るのが理想だけれど理想通りにはいかないのがデフォルト(標準)だと思っていたので、「当然」と言われて逆に驚いた。全国には多くの民間企業があるが、業績のいい会社もあれば、そうでない会社もある。目標を立てても、到達できる会社もあれば、到達できない会社もある。ではなぜ、行政だけが「できて当たり前」と言われるのだろう。

新・京都市ごみ半減プラン(平成27年3月)(2016年2月取材時、筆者撮影)
新・京都市ごみ半減プラン(平成27年3月)(2016年2月取材時、筆者撮影)

住民がやらなければ減らない「ごみ」、分別の指示に対して怒号も

行政が理想的な目標を立てても、住民が従わなければ、ごみは減らない。翻って、われわれ生活者は、ごみを減らすために毎日躍起になって何かに取り組んでいるだろうか。ごみを減らしたからといって、何の得になるの?と思っている人も多いのではないか。住民全員が取り組むのが難しいのがごみ問題である。実際、京都市とは別のある自治体では、住民の捨てたごみの分別ができていない家庭を判別し、家庭訪問し、分別の仕方について指導しているという。取材したときに聞いた話では「8割、9割は怒鳴られる」とのことだった。「ごみなんて何捨てても勝手だろっ!」というわけである。その怒号に疲弊し、精神を病んでしまう行政職員もいるという。

京都市が作成した啓発資料(2017年5月取材時、京都市より提供、筆者撮影)
京都市が作成した啓発資料(2017年5月取材時、京都市より提供、筆者撮影)

京都市がごみ半減に取り組むきっかけとは

京都市も、最初からごみ削減が実現できていたわけではない。平成12年度(2000年度)までは、ごみ量は、右肩上がりの一方だったと言う。だが、燃やして埋める場所がなくなった。平成12年度のごみ量は、82万トンだった。

2016年2月と5月、京都市環境政策局循環型社会推進部ごみ減量推進課へ取材に行ってきた。一番のきっかけになったのは、1997年12月に京都で開催されたCOP3とのこと。(COP3:通称「コップスリー」、または「京都会議」、気候変動枠組み条約第三回締約国会議)この会議で採択された京都議定書を受け、京都市は「世界一美しいまち・京都」を目指し、翌年1998年度から「世界の京都・まちの美化市民総行動」を実施している。

全国の大都市20市中、家庭ごみは最少

2017年5月、三度目の取材に行ってきた。5月22日、京都市は、平成28年度のごみ量を発表した。生活者から出される「家庭ごみ」が21.8万トン、事業者から出される「事業ごみ」が19.9万トン、合計で41.7万トン。ピーク時だった平成12年度の82万トンからマイナス49%。ほぼ半減している。平成27年度、全国の大都市(政令指定都市20都市)の中で最少だった、家庭ごみの量(417グラム/日/人)は、平成28年度にはさらに減少し、406グラム/日/人となっていた。ちなみに環境省の2012年度「一般廃棄物処理事業実態調査」によれば、家庭ごみの最少量は京都市の445グラム。最多は静岡市の695グラム、京都市を除く平均値が595グラムである。

「ごみ」問題というと、どうしても敬遠されがちだが、とっつきやすくする目的か、いわゆる”イケメンキャラ”のイラストを用いた啓発活動もおこなっている。市民向けの啓発資料「きょうと市民しんぶん」に、3人のイラストが描かれている。

きょうと市民しんぶんに描かれている3人のキャラクター(2017年5月取材時、筆者撮影)
きょうと市民しんぶんに描かれている3人のキャラクター(2017年5月取材時、筆者撮影)

ピーク時から139億円のごみ処理費を削減できた京都市

京都市は、クリーンセンターと言われる清掃工場を、ピーク時の5機から2機減らしている。1機あたり約400億円のコストがかかるというこの清掃工場は、ごみ半減プランの策定当初から「将来的には5機を3機に減らす」という目標を設定していた。結果的に、平成14年度に367億円かかっていたごみ処理コストは、平成27年度に229億円となり、ピーク時からマイナス138億円となった。減らせたこの予算は、福祉や教育など別のことに活用することができることになる。平成26年から紙ごみの分別が始まり、平成27年(2015年)10月の「しまつのこころ条例(京都市廃棄物の減量及び適正処理に関する条例)」施行を機に、食品ロス削減やごみ削減の啓発活動が盛んになってきた。

京都市ごみ量推移(2016年2月の取材時、京都市より提供)
京都市ごみ量推移(2016年2月の取材時、京都市より提供)

京都市内の事業者(食品関連企業や宿泊業者)へは義務化

「しまつのこころ条例」は、一般市民とともに事業者を対象としている。京都市内の製造業者や食品小売業者、ホテル・旅館などの宿泊業者や、土産物の製造業者、小売業者、催事主催者、大学、共同住宅の所有者など、京都市の定める規模要件を満たす事業者に対して、2R(Reduce=廃棄物の発生抑制・Reuse=再利用)の取り組みの実施状況を伝える報告書と計画書の提出が求められている。京都市によれば、事業系のごみの削減は、事業者の義務と考えており、あまりにもその義務を果たしていない事業者は、公開するという。環境のキーワードは「3R」が主流だが、京都市では、優先順位の3番目である「Recycle(リサイクル)」を除いた「2R(Reduce, Reuse)」を使用している。ものづくりには多大な労力とコストが費やされており、リサイクルは、さらに労力やエネルギーやコストが投入される。その手前で、できる限り廃棄物を発生抑制し、使えるものは再利用する、という考え方である。

京都市が取り組む2R(京都市情報館 公式サイトより引用)
京都市が取り組む2R(京都市情報館 公式サイトより引用)

京都市認定の「食べ残しゼロ推進店舗」はこの1年で倍増

京都市は、2014年12月から「食べ残しゼロ推進店舗」の認定制度も設けている。食品ロスを含むごみや廃棄物を減らすための8項目を設定し、うち2項目以上を実施する飲食店や宿泊施設のうち、申請し、認可されれば認定する、というものだ。京都新聞2017年5月12日付の記事によれば、一年前には256店舗だった推進店舗は、今年4月で518店舗と2倍以上に増えている。

京都市が認定する「食べ残しゼロ推進店舗」のロゴマーク(京都市情報館公式サイトより)
京都市が認定する「食べ残しゼロ推進店舗」のロゴマーク(京都市情報館公式サイトより)

京都大学など学術界のサポートも後押し

民間企業の取り組みと並行して、京都市がラッキーなのは、アカデミックな分野のサポートもあることだろう。京都大学名誉教授、高月紘(たかつき・ひろし)先生の存在や、准教授である浅利美鈴先生の存在も大きい。家庭ごみの調査は著しい手間がかかるが、京都大学では継続的に家庭ごみに含まれる食品ロスの調査を続けてきた。

京都大学准教授 浅利美鈴先生が監修された書籍『ごみゼロ大作戦!』(表紙、左の写真は筆者撮影)
京都大学准教授 浅利美鈴先生が監修された書籍『ごみゼロ大作戦!』(表紙、左の写真は筆者撮影)

「ごみ」を習う小学校4年生や保育園への取り組み

「ごみ」について習う小学校4年生に対しては、「3キリ(使いキリ・食べキリ・水キリ)をイラストで説明した両面カラーの下敷きを配付している。すなわち「食育」である。

市内の小学4年生に配られる下敷き(2016年5月取材時、筆者撮影)
市内の小学4年生に配られる下敷き(2016年5月取材時、筆者撮影)

小学校などの学校給食の残渣(食べ残しなど)は、以前はモデル校5校で肥料化し、学校の花壇などで使ってきたが、現在は100%飼料(家畜などのエサ)にしているという。また、保育園に対しては、半額を助成し、残渣を肥料化している。

市内の小学校4年生に配られる下敷き(2016年5月取材時、筆者撮影)
市内の小学校4年生に配られる下敷き(2016年5月取材時、筆者撮影)

京都市が今年実施した飲食店とスーパーでの実証実験

京都市は、今年1月に面白い実証実験をおこなった。飲食店での宴会で、幹事から「食べきり」を声がけした場合としない場合とで残渣がどう変わるかを調査したのだ。京都新聞が2017年4月17日付の記事で報じている。居酒屋、食べ放題の居酒屋、中華レストラン、おばんざい(お惣菜)食堂の4種類の店舗で実験をおこなったところ、声がけしない場合は一人あたりの平均食べ残し量が31グラムだったが、声がけをおこなった場合は7.1グラムと4分の1だった。もちろん、実施店舗が少ないということや参加人数の多少など、いわゆる「臨床実験」に比べると粗い実験条件の設定ではあるが、市区町村が自らこのような取り組みを行なうというのは全国でも珍しいのではないか。また、飲食店だけでなく、スーパーマーケット2店舗でもおこなった。形が悪く、色落ちした農産物の売り場に「もったいないので食べてください」というPOP(掲示)をつけると、つけない場合に比べて1割ほど廃棄商品が減ったそうだ。

京都市が推奨する「マイボトル推奨店舗」

京都市寺町の上島珈琲店では、京都市が作成した「マイボトル推奨店」のポスターが貼られていた。マイボトルを持参すると、50円安くなる。私も京都滞在中の4日間、ここに通い続けた。

上島珈琲店 京都寺町店の店内に貼られていたマイボトル推奨ポスター(2017年5月、筆者撮影)
上島珈琲店 京都寺町店の店内に貼られていたマイボトル推奨ポスター(2017年5月、筆者撮影)
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上島珈琲店京都寺町店では中庭の緑を眺めながら飲食できる(2017年5月、筆者撮影)
上島珈琲店京都寺町店では中庭の緑を眺めながら飲食できる(2017年5月、筆者撮影)

市内のお店では、包装しないで販売する「はだか売り」や、決まった量ではなくお客さんがのぞむ量を売る「はかり売り」も推進している。

京都市が推進する2Rの一環、「はだか売り」と「はかり売り」(京都市情報館公式サイトより)
京都市が推進する2Rの一環、「はだか売り」と「はかり売り」(京都市情報館公式サイトより)

京都市の今後の取り組みとは

京都市の今後の新規事業としては、まず、1月に実験したような「飲食店」への働きかけと、スーパーマーケットでの再度の実証実験がある。全国の大都市の中で、家庭ごみに関しては全国最小だが、事業系はそこまで達成されていない。今後は、飲食店、特に宴会時の食べ残しの防止や、スーパーマーケットでの売れ残り防止などが望まれる。

同じく新規事業として、「しまつのこころ楽考(がっこう)」という学びの場の、年間140回の実施が予定されている。京都市内には、2010年4月に環境行政の拠点窓口として設置された「エコまちステーション」が11区3支所、合計14カ所にある。1カ所あたり年間10回ずつ実施していけば、年間で140回の実施が実現できるという計算だ。また、フードバンクへの支援も今年度から始まっている。京都市のごみ袋は、植物由来のポリエチレン使用のものへと、2017年6月から順次切り替えていく。

2017年6月より順次切り替えられる、京都市のごみ袋(植物由来のポリエチレン使用)
2017年6月より順次切り替えられる、京都市のごみ袋(植物由来のポリエチレン使用)

京都マラソンでは、ランナー向けの飲食物(バナナやチョコレートなど)を集めて寄付し、トピックスとして注目を集めた。市の備蓄食品は、ぞうすいやアルファ米、乾パンなど。賞味期限が接近してきたものについては活用しているという。

京都市以外の市会議員「うちは無理」

京都市の取り組みについて話したところ、ある市会議員の方は、「京都市と同じことをやるのは(うちの市では)無理」と答えた。同じようなことを、ごみ問題についての書籍を出版したことのある出版社の方も話していた。議員の方は、私の話を聞いて、実際に京都市へ取材に行った。その上での「無理」という回答である。現時点においては、それだけ京都市の取り組みはレベルが高いということではないだろうか。全国の大都市の中でも、市民一人一日あたりの家庭ごみの排出量が少ないという実績からも、その事実が伺える。大都市でそれを実現するのは難しいし、理想論を語るだけでなく、行動・実践しているのが素晴らしいと思うのだが。3刷となった拙著『賞味期限のウソ』では、新書編集長の方が、大量の情報の中から取捨選択する中、京都市の原稿については9ページ分まるまる残して下さった。

「当たり前」って本当に「当たり前」のことなのか

ここまで書いて、そういえば、世の中には「やって当たり前」と思われ、評価されない仕事がたくさんあることを思い浮かべた。私がかつて兼務していた「お客さま対応業務」もその一つである。お客さまからのお申し出(いわゆるクレーム)を、上手く対応し、処理できて当たり前。できなくて、お客さまが立腹してしまい、二次クレームになれば、担当者の落ち度だけで済まないばかりか、企業としての信頼性の失墜や売上の低下にもつながりかねない。毎日怒られることが多く、褒められることはほとんどない。「あなたの商品、素晴らしい(美味しい)」などとわざわざ電話してくる消費者はほとんどいないからだ。お客さま対応部門は、精神を病んでしまう人もいる。

京都市が作成した使いキリ・食べきりレシピ集のリーフレット(筆者撮影)
京都市が作成した使いキリ・食べきりレシピ集のリーフレット(筆者撮影)

公共交通機関も、「動いて当たり前」。感謝されないどころか、何かのことで運行が止まれば、客から怒鳴られる。でも、「当たり前」の裏側には、実は働く人の努力や技術が結集しているのだ。京都市の「ごみ半減」も、ある人から見れば「当たり前」なのかもしれない。だが、そこには行政である京都市、事業者である飲食店や宿泊施設、関連企業、学界である大学や小中高校、NPO、そして市民の人たちの努力が結集して実現されている。京都市は、多種多様な組織が一同に会する場も設けている。いわばマルチステークホルダープロセスである。

京都市が作成した「2R実践ガイドブック」(筆者撮影)
京都市が作成した「2R実践ガイドブック」(筆者撮影)

京都市が今年の5月22日に発表したプレスリリースは、「今後とも、市民、事業者の皆様とともに、紙ごみの分別徹底、食べ残しや手つかず食品といった食品ロスの削減等を推進し、平成32年度までにピーク時の半分以下39万トンを必ず実現してまいります。」と断言する形の宣言で結ばれている。100%実現できるかどうかは誰にもわからないし、保証もできないと思うが、「必ず実現する」と言いきった、京都市の、その勇気とこれまでの実行力をたたえたい。

食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)

奈良女子大学食物学科卒、博士(栄養学/女子栄養大学大学院)、修士(農学/東京大学大学院農学生命科学研究科)。ライオン、青年海外協力隊を経て日本ケロッグ広報室長等歴任。3.11食料支援で廃棄に衝撃を受け、誕生日を冠した(株)office3.11設立。食品ロス削減推進法成立に協力した。著書に『食料危機』『あるものでまかなう生活』『賞味期限のウソ』『捨てないパン屋の挑戦』他。食品ロスを全国的に注目させたとして食生活ジャーナリスト大賞食文化部門/Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018/食品ロス削減推進大賞消費者庁長官賞受賞。https://iderumi.theletter.jp/about

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