島根の漁師町のもったいない魚に育まれ 築地もったいないプロジェクト魚治 年100回通うリピーターも
規格外の魚は、我々消費者の目に触れることなく、港や、せりの現場で捨てられている。EUでは、このような生産地での廃棄は「食品ロス」の統計値に含められているが、日本では農産物も含め、年間の食品ロス量にはカウントされていない。
そのような、いわゆる「もったいない魚」をメインに調理して美味しく提供する居酒屋「築地もったいないプロジェクト魚治(うおはる)」。2015年1月に東京・丸の内にオープンしてから4年目を迎えた。
この店を企画した、株式会社エードット(東京渋谷区)の代表取締役、伊達晃洋氏と、店の運営を担当する、株式会社MUGEN(東京都目黒区、代表取締役 内山正宏氏)に勤める、この店の料理長、飯塚雄太氏にインタビューを行なった。この店の魚は築地の株式会社山治(やまはる)から毎日届けられており、この店は三社のプロジェクトである。
ご対応頂いた皆さま:(文章中は敬称略)
株式会社エードット 代表取締役社長 伊達晃洋(だて・あきひろ)氏
営業2部副部長 兼 メディアコミュニケーション部 副部長 金瑞瑛(きむ・そよん)氏
株式会社MUGEN(ムゲン)
築地もったいないプロジェクト魚治 料理長 飯塚雄太(いいづか・ゆうた)氏
副店長 山口邦子(やまぐち・くにこ)氏
「魚治(うおはる)」はエードット・MUGEN(ムゲン)・山治(やまはる)の三社プロジェクト
ーまず、店名の「魚治(うおはる)」の由来について。築地の卸さんが「山治(やまはる)」さんということで、そこから来たのかなと思ったんですけど。
伊達:そうですね。ムゲンさんと、山治さんと、エードットと・・・ロゴを見たらわかるんですけど(三社)全部入ってるんですよ。三社でやろうっていうことで。魚をよみがえらせる、「魚を治す」じゃないですけど。
ーああ、そういう意味もあるんですね。山治さんの「はる」でもあるし、治すという意味でもある、と。
伊達:はい。
ーわかりました。2015年1月から立ち上げて、3年半ということで、どうでしょう。これまでの(調子は)。
伊達:いいようです。
魚同士がぶつかり鱗(うろこ)が剥がれたもの、身色(みいろ)を確認するためちょっと切ったもの・・・
ーいわゆる「もったいない魚」のうち、どんな種類をどんな理由で活用しているか、具体的な事例を教えていただけますか?たとえば、カニの足が1本取れちゃったとか、鱗が剥がれちゃったとか。
伊達:一番知ってるのは・・・
(料理長の飯塚氏参上)
料理長(以下、飯塚):メジャーなところですと、のどぐろや、キンキなんかは、底引き網で漁をした時に、網にかかって魚同士がぶつかっちゃったりするんですよ。そうすると、鱗が剥がれて水揚げされちゃうんで。そういうのは表面がすぐ渇いちゃったり、物持ちが良くないって言うんで、買い手がつきづらい。鱗剥がれの商品とか。
*はまぐりはサイズがバラバラで違うために買い手のつかない「もったいない」ものが仕入れられ、お通しとして調理されながら提供される
カツオなんかで言うと、品質を見るために、ちょっと内側の部分に切れ目を入れて開くんですよ。それを店頭に飾っておいて、買い付けの人間が「この身色(みいろ)だから、このカツオはいいカツオだ」って言って、そのカツオじゃなくて他のカツオを買って行くんですよ。
伊達:相当マニアックな「もったいない」まで入ってますね。
飯塚:そのディスプレイ用のカツオも同じ品質のものなので・・・ちょっとだけ切ってやれば、他の部分は使えたりとか。あと、輸送途中に箱がひっくり返っちゃった時に、ウニが(片側に)寄っちゃったりとか。
ー食品メーカーだと、品質検査の時に、1箱の一部だけ使って、残りは捨てるというのがあるんですけど、魚の場合はそういう類のって、ありますか?
飯塚:ああ。
ー味をちょっとだけ確認して、あとは食べられるんですけど。
飯塚:そういうので言うと、本マグロ、冷凍で流通しているものの品質をチェックする時に、しっぽを切るんですよ。断面の身色で(見て)みんな買い付けしていくんですけど、結構な分量(この店に)来てるんですよ。
ーそうなんですか。
筋肉がしっかりして美味しいしっぽも捨てられている
飯塚:あの(カウンターに置かれた魚の)サイズ見てもらえばわかると思うんですけど、150kgサイズの本マグロなんて、こんなんなんで(両手で大きさを示す)切ったしっぽもこのくらいあるんですよ。こっち(しっぽ)は捨てちゃってたんですね。こっちの部分(しっぽ)を僕らでいただいて、ということで。
伊達:でも、あれ、相当煮込まないといけないですよね。
飯塚:結構・・・そうですね。3時間4時間はコトコト炊いて、味入れて。でも、そういうのもやっぱりインパクトありますし。美味しい部分なんで、一番。しっぽで、動くんで、筋肉もしっかりしてますし、味も濃いので、本当は美味しいですけど、なかなかそういうのは今まで捨てられていて、今まで出回らなかったので。品質チェックというのはそういう感じで。
伊達:ものすごくいい事例だと思います。
ーそんな理由があるんですね。
飯塚:せり場では生きてたんだけど、店頭に持って来たら、あがっちゃった(死んじゃった)海老とか・・・
ーなるほど・・色々な事例、ありがとうございました。
(この日のもったいない魚のメイン5つは、旬で獲れ過ぎた飛び魚、サイズ不揃いのめじな、お腹が打ち身で黒くなったサヨリ、サイズが中途半端なめばる、調査捕鯨で市場に出回って来たくじら)
規格外の方が安くて売れ過ぎる?B級品は出しちゃだめ?
ー先日、大学で講義した時、新潟県の農家の息子さんから「規格外を活かすのはいいけど、逆にそちらの方が安くて売れすぎちゃう心配はないんですか」という質問があったんですけど、どう思いますか?私は「売る方が大変だからその心配はないのでは」と答えたんですけど・・
伊達:実際は大丈夫じゃないですか?そんなこともないと思いますけどね・・
ー魚に関しても、結構、一般消費者の目に触れないところで廃棄が多いかな、と。港や、せりなどで。
伊達:港は多いですよね。
ー生産者さんから「ロスを生かすとなると、B級品を(市場に)出すことになるからやらないでくれ」って言われることがあったりするんですけど、そういうことは・・・
伊達:ありますね。これはちょっと踏み込みますけど、やって欲しくない組織もあるでしょうね。規格内のものを作ってもらって規格内のものを売るっていうのが彼らの商売ですから。生産者が独自にそういうことをやると、新たな販売ルートができたりすることになるんで、ある人々からすると面白くない取り組みにはなってるのかなって思いますね。でも今回のようなもったいない、という取り組みをやりたいって言ってるようなところも、中にはいらっしゃったりして、世の中が動き始めてるのかなって。
島根県の漁師町で「もったいない魚」を頂いて育ってきた伊達氏
ー伊達さんのプロジェクトに興味を持って取材に来るっていうのは「規格外を活かす」ことに共感している人が多いと思うんですけど、全国で見てみると、必ずしもそうじゃない、じゃないですか。ご自身で、なんで、2013年に築地の人に会って、規格外のこと聞いて、取り組もうと心が動いたんでしょう?
伊達:2つあると思ってるんですけど。1つは、僕ら広告代理業なので、1個、自分たちで考えたものが世の中に出て、それが認められるような経験をしたいっていうのは根本としての欲求としてあって。これは根本的な部分なんですけど。そういったものに飢えてたっていうのが大前提としてあるんですけど。
もう1個は、その話(築地の)を聞いて、僕は漁師町で育ってるんですけど、島根県の。歩いたら20秒くらいで漁港があるような。松江市の島根町っていう。吸収合併されて松江市になったんですけど。
ーああ、そうなんですね。
伊達:昔は40隻くらいあった漁師の船が、今、(地元に)帰ると5隻くらいしかないんですよ。うまくいかなくて、あるいは高齢化で(漁師を)辞められるというのがあるんです。僕の一番の地元の親友がいまだに漁師で、船長やってるんですけど、彼らから、うまくいかない話だとか、もっとうまいことできないかっていう話は聞いてたので、この魚の部分で、面白い、世の中にとってインパクトがあって価値のあるようなことが、それ(築地の話)を聞いた時にすごくひらめいたというか。自分のアイデンティティとして「魚」というものがあったので。そこは「グイッと」(アクセルを)踏んだんだろうな、と。
ーああ、そうなんですか。
伊達:一次産業をもっと活性化させたい、みたいなのは、元々の僕の生い立ちみたいなのを通して感じてた部分なので。そういうことにつながるんじゃないかと思ったっていうのが多分あるんじゃないかと。
ーそうなんですか!へえ。一時期、島根県に仕事で通ってたんですよ。
伊達:あ、本当ですか?どちらに行かれてたんですか?
ー松江でも講演を2回くらいやったんですけど、毎月通っていたのは安来(やすぎ)市です。
伊達:へえーー。
ーフードバンクっていう活動があって、商品としては流通できないものを引き取って、児童養護施設とか困窮している方に届ける活動があって、安来の社会福祉協議会(社協)が立ち上げるっていうので。松江の社協さんは進んでるんですよ。私、ちょっとだけ鉄子で、鉄道が好きで、サンライズ出雲・・・
伊達:はい、はい。ありますね。
ー2、3回サンライズで行ったことがあって。普段は(鳥取県米子市の)鬼太郎空港から電車で入って、通ってました。
伊達:なるほど、なるほど。僕も一緒です。鬼太郎空港で帰ります。
ーあ!そうですか。山陰の「もったいない」のお店も立ち上げられてますけど、向こう(山陰地方)で立ち上げる計画はあるんですか?
伊達:いやー、今のところはないですね。
「島根をもっと熱く!」島根の星として地元から期待されて
伊達:島根の支社を作ったんですよ、この前の5月に(筆者注:2018年5月)。
ーえええ、そうなんですか。
伊達:島根のブランディングとか。僕、(2018年)2月に講演して。
ー島根で?
伊達:はい。行政だとか経営者団体の前でさせて頂いたんですけど、すごい反響が良くて。「島根をもう少し熱くしてくれ」みたいな、簡単にそれに乗っかっちゃって。で、支社作りました。
ーえー、すごい!社員の方はいらっしゃるんですか。
伊達:今、一人。
ー常駐で?
伊達:常駐で。
ーへえーー。島根県の方にとっては(伊達さん)島根の星ですよね。
伊達:(笑)ちっちゃな星ですけどねー。小さな、小さな。
ー過去のインタビューの中で、(東京に出て来ての)挫折感(を味わった)とか。それでもUターンとかは考えなかったんですか?
伊達:いや、考えなかったですね・・・やっぱり。まあ、頑張るしかないなって。
ー私の父はいわゆる転勤族で、私も北海道から九州までいろんなところで育ってるんです。九州が一番長くて4年くらいだったんですけど、高校に合格した途端にこっち(関東)に転勤になって。2年生で福岡の県立から千葉の県立に移ったんですけど、関東に馴染めなくて、大学、奈良に行ったんですよ。だから伊達さんのインタビューで(島根から東京へ)出てきた時の挫折の体験を読んで・・
伊達:まあ、でも、挫折っていうか、なるべくしてなってるだけなんですけど。島根県で、進学校で、部活とかもうまくいって、親父が金ないからって行って進学せずに東京出て来て。自分は何かしら持ってる、と思ってたけど、出て来たら何も持ってないじゃないですか、当たり前ですけど。なので、あ、やっぱ何も持ってないんだと気付かされたっていう。挫折っていうよりも。当時は挫折でしたけど。
ーへえー。でもそれからいろんな広告代理店のお仕事とかされて。ご兄弟が三人兄弟の末っ子っていうことなんですけど。
伊達:よく調べて(笑)
ーいえいえ、(広報の方からの前情報だったので)
大好きなおばあちゃんが海の幸を生活の糧にしていたのを見て育った
ー自分は小さい頃からこんなところがあって、今、これに繋がっている、というのはありますか?私だと、5歳の頃から食べ物には関心があって。
伊達:僕、おばあちゃんっ子なんですよ。高校生で、おばあちゃんと二人暮らしをしてたんです。おばあちゃんに息子(伊達さんにとってのおじさん)がいたんですけど、おじさん死んじゃって。おばあちゃんが一人で、僕、そこで高校生の時、二人で住んでたんです。おばあちゃんって、物とか食べ物とか大事にするじゃないですか。そういうのは、言われてみればあったかもしれないですけど。
ーそれは高校の・・
伊達:高校1年生から3年生まで、ずっと。
ーじゃあ、ちっちゃい頃というより、ある程度大きくなってからなんですね。
伊達:ま、でもおばあちゃんとはずっと仲良く。おばあちゃんが大好きなんで。
ー島根のお魚のそばで育ったのと、おばあちゃんっ子だったっていうのと。
伊達:僕の周りってみんな漁師なんですよ。獲れたものが、ガーって(たくさん)くるじゃないですか。水揚げして、トラックで運ばれて。半端なもの(魚)っていうのは、もらうんですよ。そういったものを、残さず食べるみたいな感じで、その魚を食べて育ったので。簡単に言うと、日々「もったいない」を(活かす活動を)やってたって言っても過言ではないですけど。
ーそっか。そこでもう素地ができてたんですね。長野県に身内がいるんですけど、野菜の物々交換・・採れ過ぎちゃうとお隣に持ってったりとか。そんな感覚ですかね?
伊達:そうですね。おばあちゃんは、ワカメをとって、乾燥させて、「めのは」って言うんですけど。ワカメを乾燥させたものなんですけど。めかぶってあるじゃないですか。
ーああ、ありますね。
伊達:めかぶじゃなくて、葉の方を「めのは」って言うんですけど、それを乾燥させたのが板ワカメ、それを大量に担いで、広島に行って、販売してたんですよ。泣けるような話ですけど。水産物のものすごく近いところに(自分が)居た、っていうのは間違いないですね。それを日々食べて育ったので。
ーそうなんですか・・・広島って、あそこって、縦のライン(南北に走る交通網)がないんで・・・
伊達:行ったら、もう1ヶ月くらいは帰らずに、おばあちゃんが。
ーへえ!出稼ぎみたいなものですね。
伊達:そうなんですよ。出稼ぎみたいなもんですよね。完璧に。(僕が)小学校行くぐらいまではやってましたから。
ーじゃあ、日々、見てたんですね。
ー物々交換は、近所の方とか、お友達とか。
伊達:だいたい親戚なんで。ほんっとに、田舎なんですよ。車で25分行かないとコンビニがないところなんで、今だに。島根県の人間からしても「あの地域、田舎だよね」って言われる感じで。
ーそうなんですか。よく松江市と合併しましたね。もう、(この店は)なるべくして。
伊達:なったのかもしれないですね。
ー上京される前にそれがあったんだなって。
伊達:漁師とかそういったものは、ほんと、身近でしたね。僕のおじさんも今だに漁師ですし。
ーへええ。お兄さんたちはどうなんですか?
伊達:完璧に、三人とも上京してて、親孝行を全くしてないっていう(笑)
ーでも、時々は会って。
伊達:たまに会って。
ー(過去のインタビュー)記事だと、そこの(生い立ちの)ところは書かれていなかったので、「なんで魚(のビジネス)なのかな?」っていうのが、腑に落ちました。
MUGEN(ムゲン)さんのお陰でここの店がある
ーここは、今、何店舗でしたっけ?
広報(以下、金):今は、3店舗ですね。
ーここ(丸の内)と、門前仲町と・・・
金:あとは新橋の方に。
ーあの山陰の(お店)。
金:はい。
ーそうですか。ここ(丸の内)は、もう4年目に入っているわけですけど。
伊達:ここはもう、すごいですね。
ー規格外のビジネス、(続く)カギは、何なんですかね?
伊達:やっぱり、運営会社さん(ムゲンさん)がすごいってことだと思います。本当に。間違いなく。結局、その日獲れた、何が来るかわからないのを、美味しいメニューに変えて、料理するわけじゃないですか。これって、取り組みをやってわかったのは、運営会社が力があるとこじゃないと、これ、結構、難しいと思いました。
ーじゃあ、ムゲンさんと組んでるのはここだけ?
伊達:そうなんです。ムゲンさんのPRだとか、うち(の会社)がやらせていただいているので、「もったいない」でいくと、はい。
ームゲンさんが入られているのと入られていないのとで違う?
伊達:違いますね。ここは最初にPRも取材も入ったし、実際に美味い、面白いってなって、それが好循環で来てるんだと思います。
ー立地条件としては、ここのフロアは(どの店も)同じ条件だと思うんですけど・・・
伊達:立地は、2014年の夏ぐらいにここを見た時に、しんどいんじゃないかなと思ったんです。
ーその時は空いてたんですか?
伊達:ここが空いてて。で、運営会社のムゲンの社長から「ここでいく」って言われたんですけど。夜とか、人、全然いないし、「これ大丈夫かな?」と僕は思いました。まあ、でも元々ビジネスマンをターゲットとしようっていうのがあったので、ちゃんとPRだとか、クチコミが広がっていけば、勝てるだろうって、最後は「Go」した。
ーへええ。じゃあ、ムゲンさまさまですね。
伊達:ムゲンさまさまです(笑)
ーメニューを見ると、宴会コースがあって、宴会は食べ残しが多いですけど、こちら(の店)はどうですか?
伊達:他よりも多分その意識は働いてると思いますので、もったいないことをしたらだめだよねっていう。
ーまあ、店名から「もったいない」ですからね。
値がつかないものに値をつけている 一生懸命作ったものが食されるのは当たり前のこと
ーよく男性から言われるのが、食品ロスを減らすと経済がシュリンク(縮小)するから減らさない方がいい、ということなんですが、たくさん作って、たくさん売って、余ったら捨てればいいじゃないか、その方が経済合理性があるって言われるんですけど、そういう質問がきたら、伊達さんならなんて答えますか?
伊達:いや、そんなことないでしょって思いますよ。もったいないものって、値がつかないものに値をつけて展開することに意義があるんで。最終的に生産者の方々が儲かるような形がいいと思うので。今まで捨ててしまっていたものでも値段がついて、それが出荷できるようになるのは価値があることだと思うんですけど。その理屈もなんとなくわかりますけど。
ー回転寿司も何回転かしたら捨てるっていうところが多くて、でも元気寿司さんが、廻らない回転寿司の店舗にしたら、売り上げが1.5倍伸びたというのがあり、ロスを減らしながら売り上げを伸ばしたという事例があるので。
伊達:ああ、それはいい話ですね。元気寿司さんって、廻らない寿司ってどうやってやるんですか?
ー新幹線みたいな入れ物で・・お客さんがタッチパネルみたいので注文したら、向こうから(レーンで)ピューっと来るっていう。
伊達:ああ、じゃあ全部注文型にしてるってことなんですね。
ーちょっとは廻ってるけど、そんなに廻ってないっていうか。
伊達:なるほど、なるほど。
ー去年の5月時点で80店舗以上あって、もっと増やしていくっていう。
伊達:あれ、うちの子どもが「新幹線のがやりたい」って言って行きましたものね。で、行ってみたら、2時間待ちとかで。もう、これ無理だから諦めろって言って。新幹線が見えてるのに・・泣いてましたね、都内のお店で。
ー広島に捨てないパン屋があって、ヨーロッパに修行しに行ったら、働く時間は短くてパンが美味しいから、やり方変えて、休みは増えて、売り上げはキープして・・という成功事例を出して、(前述の人たちに)反論はしてるんだけど、まだまだ「これだけ捨ててもよし」という人もいて・・
伊達:へええ。そんな方々もいらっしゃるんですね。
ー10人以上から言われていますね。直接言われたり、講演の時に言われたり・・・それが主流というか・・・
伊達:ちゃんと一生懸命作られたものが食されるという、(それが)当たり前のことだと思うんですけどね。経済効果なんてあるんですかね。
ーコンビニだとコンビニ特有の会計システムがあるので、売れ残ったものの原価はオーナーさん持ちなんです(コンビニ会計の仕組み説明)。
規格外の魚を活かすのは「パワーが要る」
ーよく質問を受けるんですけど、ボランティアで規格外を利用するのはいいけど、ビジネスで規格外を使うとなると、必要数、必要な量だけが確保できないんじゃないかということについて聞かれるんです。これについてはどうですか?
伊達:(そういうことは)あるはありますけど・・・欲しくないものまで入ってくるっていうのは当然あって。「これ、ちょっと来過ぎだろ」っていう・・でも、それも取るから意味がある。合理的ではない部分はありますけど、しっかり売り切るっていうのでやってますけど。
ーさっき見せてもらったような大きい魚だと、料理人の人がさばききれないというか・・・
伊達:そうなんですよ。なんでそういうのをやらないかっていうと、オペレーションが悪くなるからっていうのがありますよね。半端ものばっかり集めてやるって、相当大変ですよね。毎日同じメニューだったら・・・
厨房から:相当、パワー使います・・
伊達:ここの店ができたとき、始めの一週間くらい、(開店)間に合わなかったです。まだ仕込みが慣れてなくて。開店が遅れて18時30分くらいだったことがあります。電話も鳴るわ、仕込みも追いつかないわで・・
飯塚:電話も鳴り過ぎて・・・電話オペレーターみたいになっちゃって。
伊達:これって相当、努力されたというか・・・(魚が)来た瞬間に、焼く、煮る、刺身っていうのをイメージしてやれているんじゃないかって思います。
毎日2時にメニューが決まり手書きのメニューとイラストを描く
ー何時くらいに(メニューが)決まるんですか?
飯塚:13時くらいに魚の種類と値段と数量が連絡来て、ただ、実際にモノを見てないんで・・13:30から14:00の間に品質チェックして、これだったら・・っていう風に決めるので・・実際に決まるのは14時過ぎくらいです。
伊達:3時間半で(全部)やるんですものね。実はこれも全部廃材使ってるんですよ。
ーそうなんですね。テーブルも?
伊達:はい。でも廃材の方が高かったっていう(笑)最初はてんやわんやしてましたね。
ーお客さんは、安くて美味しいっていう理由で来てらっしゃると思うんですけど、ここが「もったいない」って店名についているし・・・
伊達:やっぱりそこの部分に価値を感じて来て頂いている方っていうのは多いと思いますね。「安くて美味い」っていう単純な部分じゃなくて、「もったいない」っていう。
金:「今日、これがこういう理由で“もったいない”なんですよ」っていう話をして。ムゲンさんの女性の方(副店長 山口邦子氏)が、15時くらいにメニューと価格が決まったら、こういうのを書くんです。
ーそうなんですか!これ「欲しい」って言われません?
金:毎回、来た時にここ(メニュー)が違うのが楽しみで来られる方がいらっしゃいますね。「今日は何がもったいないの?」って。
リピーターチャンピオンは一年間のボトルキープが100本
ー一番すごいリピーターの人っています?どのくらい?
飯塚:オープンして1年間で、焼酎のボトルキープがナンバー100を超えた人がいます。2016年の一年間で。
伊達:ってことは、一日一本使って、3日にいっぺん来ないと無理ってことですよね。一人でも来るんでしたっけ。
飯塚:一人でも来られてましたね。遅い時間にふらっと来ますし、みんなでガッツリっていう時も・・
伊達:愛されてますね。
飯塚:その時のメディア、全部出てますね。テレビ取材でも、お客様インタビューっていったら必ず出てましたね。
ーちなみにどんなキャラクターの方なんでしょう、差し支えない範囲で。
飯塚:もともと、このビルの上の階に会社があって、今は移転しちゃって(来られる)頻度は下がりましたけど、いらっしゃいますね。一人で来られる方、結構いらっしゃいます。一人で来られる常連様が・・カウンターでちょこっと。うちのいいとこって、料理が決まってないんですよね。毎日変わるから、どの食材にも対応できるように、ある程度、調味料も用意してあって、副菜も用意してあって、「メニューにない、何かちょうだい」って言った時にやりやすいんですよ。「こういうの食いたいなあ」って言ったら作れますし。
ーそうなんですか。じゃあ、あつらえ、みたいな感じですね。
飯塚:そういうのをずっとやり続けてるので。お客様に最大限サービスしようっていう。かしこまらないで、フレンドリーっていうか、元気をいっぱい与えるっていうコンセプトで。
伊達:来てもらったら実感してもらえるっていうか。「もったいない理由が何で」って話すことは、他の店ではありえないんで。全身で感じてもらえれば、楽しんでもらえますよね。僕もお客さんを連れて来て言われるのは「美味い」ですし、色々教えてもらって楽しいですし。そういうのは他にはないお店なのかなって思います。それを食べることによって、プチ・プチ社会貢献、じゃないですけど、そんな気持ちも生まれるので。
ー節目っていうことでいうと、もうちょっとでまる5年になられる・・
伊達:もうそんなになるんですか。すごいっすねー(笑)
飯塚:皆様のおかげです。
伊達:こういったお店を体感することによって、そういった(食品ロスの)問題が実はあって、来て頂いた方がそれぞれに思ってもらえれば、よくなるものってあると思うんで。このお店がどれだけ頑張っても世の中の「もったいない」って減らすことはできないと思うんですけど、このお店が発信することによって、そういった活動を世の中に知ってもらうことはできるんで。知った人が何かアクションをして、今よりもちょっといい方向に進んだらいいかな。規格外でも「これでもいいじゃん」っていう人は世の中に多くいらっしゃって。それが選択できるような社会になったらいいのかな。選択できるためには、まずは流通が変わらないと。そういったものを受け取って販売するお店だとか、飲食店が増えないと、選択ができない。選択ができるところまでいったら面白いんだろうなって個人的には思っています。
飯塚:お客様で、たまにいらっしゃるのは、個人的にも「もったいない」っていうことにすごく興味があって、食品ロスって知られてきたので、そういう集まりをするときにうちを使って頂いたりとか。うちのことを自分なりに調べて、チラシ作って持って来たりとか、うちの宴会で配って、料理長の話を聞きたいですって、「こういうのがもったいないです」って(説明する)というのは何度かやって頂いているので。うちの店があって、興味のある方が集まる場にもなってるのかなって感じています。
ー今日はありがとうございました。
取材を終えて
伊達氏への取材を終えてから、開店前のミーティングも拝見させて頂いた。
取材は開店前に行なったが、開店前からスタッフの皆さんが笑顔で温かく迎えて下さった。夕方5時半に開店してから食事を頂いた。5時半といえば、会社員にとっては仕事がちょうど終わったばかりくらいだが、次々、座席が埋まっていったのに驚いた。回転寿司のチェーン店などは、処理された部分しか使わないので、他の部分が余ってしまい、そのようなものも築地から多く届くとのこと。そのようなもったいない食材を、さらに余らせて「もったいない」ことにならないよう、開店前にきっちり時間をかけ、社員全員で、何をいくつ売り切っていくかについて、情報を共有し、共通認識を持っておく姿にも感銘を受けた。伊達氏のこれまでの取材記事を読んでから取材に臨んだが、最初は広告代理店の人が「なぜ魚?」「なぜ規格外?」なのかわからなかった。生い立ちを伺い、なるべくして今の店を立ち上げたという素地が島根県の漁師町で育まれてきたのだということがストンと腑に落ちた。命ある食材を最後まで活かしきる姿勢、お客様の時間を最大限よいものにしようとするサービス精神、ゆるやかで居心地のいい雰囲気。また行こうと思える店だった。
取材日:2018年5月24日