「コンビニ全製品に電子タグ」の実証実験 食品ロスも削減
昨今、省庁の話題が報道されることが多い。「食品ロス」を専門とする筆者の場合、よくやり取りさせて頂いているのは、農林水産省と環境省だ。4月17日に発表された最新の食品ロスの推計値(平成27年度)は農林水産省と環境省から発表され、双方のご担当者の方から教えて頂いた。
事業者でやり取りの多いのは食品企業だが、2016年に『賞味期限のウソ 食品ロスはなぜ生まれるのか』(幻冬舎新書)という本を出版した後、食品関係より、むしろ経済系のメディアに書評や取材記事を載せて頂く方が多かった。2017年には、りそな銀行から依頼を受けて、ちょっと待った!少しの意識で取り戻せる「6万円」といった、お金と食べ物の無駄を防ぐためのコラムを連載した。経済産業省から「食品ロスに関する意見交換を」とお声がけ頂いたり、ヤフー株式会社とパナソニック株式会社のPR企画、余った作り置き、捨てる罪悪感――家庭の食品ロスをなくすにはという記事のインタビューに呼んで頂いたりなど、経済面に関する仕事が少しずつ増えている。食品ロスの所轄官庁には、経済産業省も含まれている(農林水産省・環境省・消費者庁・文部科学省・経済産業省の5省庁)。
このPR記事の主旨は「日持ちを長く保つことができる冷蔵庫で家庭内の食品ロスを減らす」ことだったが、同じ時期にパナソニック株式会社からお声がけ頂いたのが「電子タグ」に関するプロジェクトだ。パナソニック株式会社が検討している「電子タグ」が、食品ロスに関して親和性が高い、ということで、コンサルティングに呼んで頂いた。
「電子タグ」は、経済産業省が導入実験を始めるということで、すでに2016年から報道されてきている。経済産業省は、「コンビニ電子タグ1000億枚宣言」に基づき、2018年2月14日から23日まで、電子タグから取得した情報を、サプライチェーン(製品やサービスが消費者に届くまでのプロセス)で共有する実験を行なった。
小売店では、すでにバーコードを使っての在庫管理が浸透している。だが、店員自身が賞味期限などの商品情報を確認する必要がある。電子タグであれば、製造段階で付けることにより、多くの情報を書き込むことができる。1個1個でのトレーサビリティ(追跡可能性)が担保できる。また、遠隔でも読み取れるため、どこに在庫があるか、賞味期限がどれだけ残っているかなどが離れた場所でも把握することができる。食品ロス削減にも貢献することが期待される。
パナソニック株式会社は、2016年12月から、株式会社ローソンとともに、経済産業省の支援のもと、次世代型コンビニエンスストアの実験店舗「ローソンパナソニック前店」(大阪府守口市)で、2017年2月、電子タグ(RFID)を導入した実証実験を行なった。両社は、すでに2013年から協業プロジェクトである「BLUE PROJECT」を立ち上げ、ICTや環境、健康などをテーマに活動してきたそうだ。
この実証実験の様子は、動画で公開されている。
食品ロスの観点から、電子タグに関するコンサルティングをご依頼頂いたのは、この動画に登場している、パナソニック株式会社 コネクティッドソリューションズ社の岡田真一さんだ。製造段階で電子タグを付けることでトレーサビリティが担保されるため、過剰生産を防ぎ、食品ロスの防止に繋がるという。
先日、テレビで「食品ロス」を解決するためにタレントたちが議論する様子が放映されていた。一つの意見として、「消費期限に応じて値段が安くなればいいのに」というのがあった。実際、コンビニオーナーへのインタビューでも「パンの鮮度(日付)が3種類あると、消費者は(同じ値段だから)一番新しいものを奥から引っ張り出して取って行ってしまう」という意見があった( 「月60万の廃棄はいい経営」コンビニオーナー2名が語る)。このような問題に関しても、商品1個ごとに電子タグを付けることが可能になれば、消費期限の日付に応じて値段が安くなるよう、自動的に価格が表示できる。従って、安いものから順に売れていくので、古いものが店頭で売れ残る・・という現象が少なくなることが期待される。
平成22年3月に株式会社エックス研究所が発表した、環境省請負業務結果報告書 平成 21 年度 食品廃棄物等の発生抑制対策推進調査 報告書によれば、消費者のうち、「店頭で新しい(日付の)ものを買っているが、インセンティブがあれば考える」という人が、調査対象の25%存在する。値引きがあれば、安ければ、ということだ。
とはいえ、値引きは現在、店員の手作業に任されており、負担だ。あるスーパーの副店長は「見切り(値下げ)作業は、毎日1時間以上かかるので、自分が店員の時は、1時間で終わりにするよう、時間を計って管理していた」と言う。このような店員の負担も、電子タグが普及すれば、解決の一助になるだろう。
また、電子タグが普及すれば、スーパーやコンビニの店員が手作業でバーコードを読み取る必要はなくなり、レジ作業や、店頭での棚卸し作業はラクになる。店の入り口にセキュリティを設け、万引きを防ぐことに貢献できる。消費者にとっても、電子タグが付いていれば、冷蔵庫の中に何があるかを簡単に把握できる。
ただ、電子タグには課題がある。まず、電子タグの単価が高いこと。現時点で単価は10円から20円程度だが、1円から2円程度まで削減しないと、スーパーやコンビニでの普及には至らない。他にも、水や金属などが電波を遮断するため電子タグの読み取りが難しいこと、タグを貼り付けるための技術が完成していないことなどがある(詳しくは下記参考情報、経済産業省の「参考資料」を参照)。
経済産業省は、2020年の東京オリンピック・パラリンピックの開幕に間に合わせる考えだそうだ。電子タグのプロジェクトの今後が期待される。
参考情報:
経済産業省 2018年2月2日 電子タグを用いたサプライチェーン情報共有システムの実験を行います~サプライチェーンに内在する社会課題の解決に向けて~