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ビュッフェの残りをなぜ寄付できるか イタリア食品ロス削減の最前線

井出留美食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)
イタリアのドギーバッグの一例(筆者撮影)

ヨーロッパでは食品ロスの意識が高まっている。スローフード発祥国イタリアは、日々の食事を楽しむ姿勢に溢れており、フランスに次いで食品廃棄禁止法が成立し、欧州諸国のモデルにされる国だ。ゼロウェイスト(無駄なし)宣言の自治体が270もある。11日間イタリアを訪問し、イタリア最大手の食品企業などを取材した。クルージングやビュッフェの残りをフードバンクに寄付するなど、日本にはない取り組みが行われていた。

形が悪く色がまだらなパプリカを量り売りで売る、COOPの生鮮食品売り場。筆者撮影
形が悪く色がまだらなパプリカを量り売りで売る、COOPの生鮮食品売り場。筆者撮影

食べ残しを無駄にしない ドギーバックとパーティの残り

真っ赤な色がイタリアらしさを際立たせるドギーバッグ。ドギーバックとは、外食で食べきれなかった食事を持ち帰るための容器だ。イタリア国内で環境配慮に取り組む「エコレストラン」に認定されているレストランは、55自治体にある139店舗(ERICA社による)。そのうちの1店舗Ristorante di carne e pizzaを訪問したところ、ドギーバッグがレジ横に用意されていた。注文し、量が多くて食べきれなかったパスタの残りを「持ち帰ってよいか」と尋ねたところ、快く応じてくれた。写真の赤いドギーバッグは有償らしく、ごく簡素な入れ物に入れ、アルミホイルをかぶせて紙袋で持たせてくれた。

イタリアのドギーバッグの一例。筆者撮影
イタリアのドギーバッグの一例。筆者撮影

日本では外食、特に宴会や披露宴での食品ロスが多いという農林水産省のデータがあるが、イタリアの外食はどうなのだろう。

ピエモンテ州の行政を訪問したところ、イタリアで発生する余剰食品(食品ロス)のうち、64%は「Primary sector」すなわち田畑などの農産物から出ているという。24%が流通、5%が製造、7%がレストランやカンティーン(食堂)などの外食ということで、外食由来のロスは少ないとのこと。

ピエモンテ州でのプレゼンテーションより。筆者撮影
ピエモンテ州でのプレゼンテーションより。筆者撮影

だが、2016年9月14日に成立したイタリアの食品廃棄禁止法は、パーティやビュッフェ、バンケット、クルージングなど、幅広い外食を対象としている。クルージングでは、サヴォーナ、パレルモ、チビタベッキア、ベネツィアなどの港に到着してから集め、フードバンクのバンコ・アリメンターレに寄付するという。

ピエモンテ州の行政の方達と。右端が今回同行して下さったイタリア在住の佐藤友啓(ともひろ)氏、右から2番目が筆者。ピエモンテ州行政スタッフ撮影
ピエモンテ州の行政の方達と。右端が今回同行して下さったイタリア在住の佐藤友啓(ともひろ)氏、右から2番目が筆者。ピエモンテ州行政スタッフ撮影

COOPが余剰食材を提供するレストランMagazzini O’zでも、アルミと紙で出来たドギーバッグが活用されていた。食品用のラップを製造するメーカー、Cuki(クキ)が協力し、パッケージにはフードバンクのバンコ・アリメンターレのロゴマークも印刷されている。

MagazziniO’zで使われているドギーバッグ。筆者撮影
MagazziniO’zで使われているドギーバッグ。筆者撮影

Zero Waste(ゼロ・ウェイスト)宣言

Zero Waste(ゼロ・ウェイスト)とは、無駄がない、ごみを出さない生活や社会のこと。出てきた廃棄物をどう処理するか、ではなく、そもそもごみそのものを出さないようにしようという考え方を指す。食品ロスとは一見、関係なさそうに見えるが、環境配慮のキーワードである「3R」では、最優先が「Reduce(リデュース:廃棄物の発生抑制)」なのは世界共通。日本の食品リサイクル法でも、2015年の改正でReduceが最優先という考えが基本方針に盛り込まれた。

特定非営利活動法人ゼロ・ウェイストアカデミーによれば、日本で「ゼロ・ウェイスト」宣言を初めてしたのが徳島県の上勝(かみかつ)町。他に福岡県大木町、奈良県斑鳩(いかるが)町、熊本県水俣市の合計4自治体が宣言している。

一方、イタリアでは2005年を皮切りに、国内270自治体がゼロ・ウェイスト宣言しており、その自治体に暮らす人口は600万人に及ぶ。イタリアの総人口が6,500万人なので、人口のおよそ10%だ。同行してくれた佐藤友啓氏によれば、ヨーロッパの中でもイタリアは宣言自治体が多い国だという。

イタリアと日本の比較

日本での食品ロスは、平成27年度推計(農林水産省発表)で年間646万トン。うち289万トン(約45%)が家庭由来で、357万トン(約55%)が事業系由来だ。全体の量は東京都民が一年間に食べる量に匹敵するとされている(東京都環境局HPより)。

イタリアと日本の比較表。取材で得た情報を元に筆者作成
イタリアと日本の比較表。取材で得た情報を元に筆者作成

ピエモンテ州の行政に聞いたところ、イタリアの食品ロスは、年間510万トン。うち53%が家庭から、47%が事業系。ヨーロッパでは田畑での農産物などのロスなどを「食品ロス」として含めているが、日本ではこれらを含めていない。日本は、全国で発生している備蓄食料の廃棄もカウントしていない。食品ロスの定義は厳密には国ごとに違い、文化的側面なども考慮すると統一化することは非常に難しく、国ごとに単純比較はできない。だが、日本のロスの数値は、農地でのロスや備蓄のロスを含めれば、さらに膨らむ可能性がある。

イタリアは、2015年を基準年として、2025年までに30%の食品ロスを削減、2030年までに50%の食品ロスを削減する数値目標を立てている。

日本は、2000年を基準年として、2030年までに家庭の食品ロスを50%削減するという数値目標を、2018年6月に国(環境省)が発表した。事業系に関しては、2014年から農林水産省が食品業界に対し削減目標を設定している。が、食品企業の経営陣に尋ねてみると、驚くほど把握していない。一方、家庭向けに限定された数値目標が発表された時の消費者の反応は「は?なんで家庭なの?捨ててるのは企業でしょ」というものだった。

食品廃棄禁止法

イタリア政府は2016年9月14日に食品廃棄禁止法を制定した。2016年2月3日に世界初の食品廃棄禁止法を成立させたフランスと同じ年だ。

フードバンク「バンコ・アリメンターレ」の2017年度活動報告書。ビュッフェの料理を寄付した企業が掲載されている(筆者撮影)
フードバンク「バンコ・アリメンターレ」の2017年度活動報告書。ビュッフェの料理を寄付した企業が掲載されている(筆者撮影)

フランスの法律は、税制優遇もあるのだが、「守らなければ罰則」というペナルティ方式。イタリアの法律は「スーパーや店が余った食品を寄付したら最大20%の税控除を与える」というインセンティブ方式だ。イタリアのフードバンクである「バンコ・アリメンターレ」などを通して、残った食事を、小学校のカンティーン(食堂)やホームレスに寄付している。フィレンツェでは「サルヴァメレンデ」といって、学校給食で余ったもの(パン・フルーツ・スナックなど)を、おやつとして子どもたちが渡された袋に入れて持ち帰るなど、廃棄せずに活用する取り組みがある。

COOPが食材を提供する、障害者が働くレストラン、Magazzini O’z の看板。 カメラマンFrancesca Nota氏撮影
COOPが食材を提供する、障害者が働くレストラン、Magazzini O’z の看板。 カメラマンFrancesca Nota氏撮影

調理済みの食事だけでなく、食材もスーパーから寄贈されている。COOPは、フードバンクのバンコ・アリメンターレやカリタスマーケット、障害者が働くレストランのMagazzini O’zなどに食材を提供している。ゼロウェイストイタリア代表のRossano Ercoliniは「COOPは食品のリカバー(再利用)に尽力している」とコメントしている。

障害者が働くレストランのMagazzini O’z。立っている女性と、その左手で座っている眼鏡の男性の2名が、食材を提供するCOOP職員。COOPから食材を受け取るフードバンクのバンコ・アリメンターレやカリタスマーケットの職員などが集まった。手前右が佐藤友啓氏、その右が筆者。カメラマンFrancesca Nota氏撮影
障害者が働くレストランのMagazzini O’z。立っている女性と、その左手で座っている眼鏡の男性の2名が、食材を提供するCOOP職員。COOPから食材を受け取るフードバンクのバンコ・アリメンターレやカリタスマーケットの職員などが集まった。手前右が佐藤友啓氏、その右が筆者。カメラマンFrancesca Nota氏撮影

イータリーの見切り販売

トリノ発祥のスーパー「イータリー」は、イタリア国内で14店舗を展開する。日本でも、東京駅や日本橋三越に出店している。この店舗を訪問した時、印象的だったコーナーがあった。見切り(値引き)販売のコーナーだ。「ウェイストゼロ(無駄ゼロ)」というイタリア語が掲げられ、その下には資源などを無駄にしないよう、といった趣旨が書かれている。告知や商品の並べ方がお洒落で美しい。

イータリーの店舗での見切り(値引き)販売。「私たちは資源を無駄にしないことを約束します」といった趣旨が書かれている。筆者撮影
イータリーの店舗での見切り(値引き)販売。「私たちは資源を無駄にしないことを約束します」といった趣旨が書かれている。筆者撮影

イータリーでは売れ残りのパンは、捨てずに、まず店内のイートインのスープのクルトンなどに再利用する。それでも使いきれない場合はフードバンクへの寄付に回すという。毎日、全体の廃棄量を計測しており、廃棄はできる限り減らしてリサイクルに回す。トリノの店舗のリサイクル率は65%、ミラノは75〜80%と、日本の小売の平均である55%(農林水産省 平成29年度報告)を大きく超えている(ERICA社のイータリー担当者談)。

イータリーの店内では食事ができるコーナーがある。筆者撮影
イータリーの店内では食事ができるコーナーがある。筆者撮影

COOPの社員の方は「期限が近づいたものは値引きしています」と語っていたが、ミラノの店舗を1時間ほどまわったところ、消費期限など期限の短いものが値引きされている様子は見ることができなかった。ただし、「無駄をなくそう」といったポスターなど、環境配慮を呼びかける掲示物が店内に複数、掲示されていた。野菜や果物の量り売りは多くのスーパーで見ることができた。

ミラノのCOOPの店内に掲げられていた「ゼロウェイスト(無駄ゼロ)」のポスター。筆者撮影
ミラノのCOOPの店内に掲げられていた「ゼロウェイスト(無駄ゼロ)」のポスター。筆者撮影

バリラ社

バリラ社は、イタリア最大の食品企業だ。筆者は2014年7月、二度目の社会人大学院に通っている時、バリラ社から来日した社員による講義を受け、徹底した環境配慮の理念と、公式サイトでの見せ方の上手さに感銘を受けた。

今回、当時来日した社員と同じ部門であるFood and Nutrition Centre(イタリア・パルマ)を訪問し、責任者に話を聞いた。

バリラ社、Operation DirectorのAnna Ruggerini氏(手前)とCommunication OfficerのValentina Gasbarri氏。カメラマンFrancesca Nota氏撮影
バリラ社、Operation DirectorのAnna Ruggerini氏(手前)とCommunication OfficerのValentina Gasbarri氏。カメラマンFrancesca Nota氏撮影

バリラ社は、”Eat Better, Eat Less, Food for All”をキャッチコピーに、10年以上前から持続可能性や、気候変動に加担しない食品製造業を考え始めていた。

FAO(世界食糧農業機関)によれば、世界の食料生産量のうち、重量ベースで3分の1を捨てている。その食料は、世界で飢えている人の4倍もの人に食事を与えることができる。一方で廃棄し、一方で不足している食の不均衡。まさに「パラドックス」だ。

持続可能性を重視していく考え方に拍車がかかったのは2015年9月、国連サミットで採択されたSDGs(エスディージーズ:持続可能な開発目標)だ。ちょうど同じ年の5月から、イタリアのミラノでは食の万博が開催された。その年に審議された法律案が2016年に成立した。

パルマにあるバリラ社の外観。カメラマンFrancesca Nota氏撮影
パルマにあるバリラ社の外観。カメラマンFrancesca Nota氏撮影

バリラ社で発生している食品廃棄量を尋ねたところ、具体的な量は教えてもらえなかったが、94%のリサイクル率を保っているという(2016年の92.6%から増加)。残りの6%は廃棄しており、一部は堆肥化している。

2021年4月1日という賞味期限表示が入った、バリラ社の製品。ミラノのCOOP店舗にて筆者撮影
2021年4月1日という賞味期限表示が入った、バリラ社の製品。ミラノのCOOP店舗にて筆者撮影
バリラ社のオフィスにて、カメラマンFrancesca Nota氏撮影
バリラ社のオフィスにて、カメラマンFrancesca Nota氏撮影

まとめ

イタリアの加工食品には、EUでの賞味期限の表示制度を考慮すると、意外なほど日付が入っていた。イタリア国内に14店舗を構える、トリノ発祥のイータリーや、100店舗を展開するCOOP、量り売りがメインのエコッツェリア、フィレンツェの高級食材店など、国内各地のスーパーで確認したが、どこもそのような感じだった。

ただ、日本と違うと感じたのは、日本のように、スーパーの従業員がしょっちゅう棚で品出しをしている風景はほとんど見ない、ということだ。日付表示は入っているものの、そこまで厳密に律儀に棚卸をしている印象は受けなかった。食品ロスを生み出す商慣習である「3分の1ルール」も、日本では3分の1の納品期限が、イタリアではその2倍もの期間を許容している。

3分の1ルールとは、賞味期間全体を3分の1ずつ均等に区切り、最初の3分の1でメーカーはスーパーなどの小売に納品し、次の3分の1で小売は売り切り、残っていたら棚から撤去する、というルールだ。法律ではなく、1990年代に大手小売が始め、その後、多くの小売も追随した。これにより、年間1,235億円ものロスが生じており、国(農林水産省)は、2012年10月から、食品業界や流通経済研究所と共に、この緩和による食品ロス削減に尽力している。大手は協力し始めているが、全国的には今なお存続している。そのため、2017年5月に、経済産業省と農林水産省が連名で、小売業界に対して改めて通知を出した。イタリアと比べると、消費者の意見を過剰に気にする、日本ならではの特徴かもしれない。

食品業界の商慣習である「3分の1ルール」。日本はこのルールのため年間1,200億円以上のロスが生じている(流通経済研究所調べに基づき筆者作成)
食品業界の商慣習である「3分の1ルール」。日本はこのルールのため年間1,200億円以上のロスが生じている(流通経済研究所調べに基づき筆者作成)

何より感じたのは、イタリアの、食事を楽しむ人々の姿勢だ。同行してくれた佐藤友啓氏によれば、イタリアでは日本のように外で飲んで家では食べないとか、一気飲みなど、いわば義理の飲み会は少ないのでは、とのこと。仕事終わりにバールで一杯引っ掛けて、それから家で食事する。

今回の取材日程のうち3日間同行してくれたERICA社のメンバー、代表、そのほかの社員と。ERICA社スタッフ撮影
今回の取材日程のうち3日間同行してくれたERICA社のメンバー、代表、そのほかの社員と。ERICA社スタッフ撮影

今回の取材中、国内各地を移動したため、昼食が15時ぐらいになってしまい、昼食をどこかで取ってから次の訪問先に向かうことがあった。日本だと、そんな時は「とりあえず」5分程度でパッと昼食を済ませ、そそくさと次へ向かうのではないだろうか。今回、レストランに入り、それぞれパスタやリゾットを頼み、食べ終われば男性もデザートのティラミスを注文した。さすがにエスプレッソの時間はないなと思ったら「時間がないから会計するレジで飲む」と立ち飲みで飲んでいた。

ひるがえって、日本はどうだろう。義理で仕方なく参加する懇親会、インスタグラムで見せびらかすための注文、「仕事だから」仕方なく作る、などの「建前」の行為はゼロではないだろう。食は命。食を愛し、食事を楽しむことこそが、スローフード発祥の国イタリアに日本が見習うべき点ではないだろうか。それが結局は、食品ロスの少ない暮らしに繋がるのだと感じた。

謝辞

取材に際し、訪問先とスケジュールの骨子を作成し、取材日程11日間のうち3日間同行してくれたERICA社と、8日間同行して下さったイタリア・Lucca在住の佐藤友啓(ともひろ)氏に深く感謝申し上げます。

【この記事は、Yahoo!ニュース個人の企画支援記事です。オーサーが発案した企画について、編集部が一定の基準に基づく審査の上、取材費などを負担しているものです。この活動は、個人の発信者をサポート・応援する目的で行なっています。】

食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)

奈良女子大学食物学科卒、博士(栄養学/女子栄養大学大学院)、修士(農学/東京大学大学院農学生命科学研究科)。ライオン、青年海外協力隊を経て日本ケロッグ広報室長等歴任。3.11食料支援で廃棄に衝撃を受け、誕生日を冠した(株)office3.11設立。食品ロス削減推進法成立に協力した。著書に『食料危機』『あるものでまかなう生活』『賞味期限のウソ』『捨てないパン屋の挑戦』他。食品ロスを全国的に注目させたとして食生活ジャーナリスト大賞食文化部門/Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018/食品ロス削減推進大賞消費者庁長官賞受賞。https://iderumi.theletter.jp/about

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