「勝てるキャッチャー」に!横浜DeNAベイスターズの次代の正捕手候補、山本祐大が目指す捕手像とは
東京オリンピックが閉幕し、プロ野球は後半戦に突入した。
プロ入り4年目にして初めて開幕1軍に名を連ねた横浜DeNAベイスターズの若き捕手・山本祐大選手も、より強い意気込みで後半戦に臨んでいる。前半戦に得た収穫と反省を手に…。
そんな山本選手に前半戦を振り返ってもらった。
(インタビューは8月10日)
■スタメンマスクで結果が出なかった4月
今季に懸ける気持ちは非常に強く、昨年までの3年間とは比べものにならないくらいの手応えをもってシーズンに入った。
しかし「自分が思っていた『前半、どういう姿で終わりたい』っていう形よりも悪かった。全然満足していない」と、思い描いた青写真には遥か及ばなかったと明かす。
まず「今年1年間、ずっと1軍にいることを目標にしていた」が、4月25日に登録抹消になったことが、自身にとって誤算だった。
「(4月1日と14日の)2試合、スタメンマスクをかぶらせてもらったけど、けっこう点を取られた。その2試合で結果を残せてたら、もっとしっかり戦力になれたんじゃないかと思う。でも、まだまだだった…」。
今年は、プレーボールからゲームセットまでマスクをかぶり通す試合を1つでも多く増やすこと、さらにそこで勝つことを誓っていた。だから勝てなかった2試合が悔しくてたまらなかった。が、やり返すために再び爪を研ぐ決意を固めた。
■“僕の色”ってなんだろう
ファームで過ごした約2ヶ月間、山本選手は模索した。仁志敏久ファーム監督と鶴岡一成バッテリーコーチから課せられた「“祐大の色”を出してほしい」という命題をクリアするために。
「配球の色。そう言われて、たしかに“僕の色”ってなんだろうなって考えた。そこから、その“色”みたいなものを求めるようにやっていた」。
配球に正解はない。しかしセオリーはある。チームでデータを分析し、ミーティング内容は頭に入れている。その中で独自の色を出すとは、どうすればいいのだろう。「僕も初めは全然わからなかった」という山本選手に、鶴岡コーチはこんな話をしてくれた。
「祐大の配球ってセオリーすぎて、賢い配球っていうよりかは、おとなしくハイハイってきく子どもみたいに見える。『次はこれでいくんだろうな』っていうのがわかる配球。それがいいときもあるけど、面白さがないときもある。一度、セオリーを自分の中で崩していいよ」。
そこで頭をひねった。
「データどおりだけじゃなくて、その日のピッチャーのボールとかバッターの状態っていうのを察知して、その中で攻めるボールのチョイス…それに対しての色を求めていかないといけないんだなと思った」。
これまで以上に感性を研ぎ澄ませ、使いたいボールを生かすためにあえて道を外して伏線を張る。バッターを打ち取るための道程に、これまでと違ったスパイスを加えることにした。
「そういう“遊び”みたなことができれば窮屈じゃなくなるし、自分の色も出せるんじゃないかなっていうのを、より深く考えられるようになった」。
鶴岡コーチが「何やっても文句言わんから、自分の好き勝手やれ」と背中を押してくれたことが大きかった。
試合の中で「このサイン、今までやったら出さなかっただろうな、みたいなときは何回かあった」と、実戦の中で新しい『自分の色』を出せるようになった。
「自分では変わったことをしてるつもりでも、それが意外にうまくハマったりした。バッターの反応で『こういうのが嫌なんだな』とか。自分の中で新しいセオリーみたいなものが少しずつできてきて、見え方も変わってきた」。
ちょうどそんなとき、1軍からお呼びがかかった。
■“自分の色”を携えて1軍へ
6月22日に再登録され、出番はいきなりその日の試合途中にやってきた。先発の伊藤光捕手が腰の違和感で退いたのだ。
急遽のコールにもまったく動じなかった。堂々とマスクをかぶり、六回裏2死から最後までしっかり守りきった。
「一度チャンスを掴めなかった自分がいたんで、パッて出されたときにこじんまりしたくないなっていうのがあった。これまで打たれたときに納得いってなくて、データを言い訳にしてしまっていた。だからデータを取り入れながらも自分の考えで、自分の感性を信じてやってみようと」。
ファームで取り組んできたことは間違っていなかった。そこには山本選手オリジナルの“色”があった。
■スタメンマスクで初勝利、そして3連勝
甲子園球場での阪神タイガース3連戦では、その“色”をいかんなく発揮した。それまで2勝7敗と抑え込まれていた首位のチーム相手に、すべてのイニングでマスクをかぶり、投手陣を懸命にリードして3連勝という快挙に貢献した。
1戦目の25日、先発の濵口遥大投手はすこぶる調子がよく、完封ペースですいすい抑えていた。しかし左脇腹を痛めて五回で降板。それでもその後、4人の投手をリードして完封リレーを完成させた。
「初戦、なにがなんでも勝ちたいっていう気持ちが強かった」と振り返る。
スタメンマスクからゲームセットのハイタッチを交わしたのは、プロ入り初めてのことだ。待ちに待った“初勝利”は「すごい達成感」と白い歯がこぼれた。
「ずっと1軍で勝てない、勝ちたい勝ちたいって思いながらやってたんで、すごく嬉しかったですね、初勝利は」。
自身の中で記念すべき一戦となった。
2戦目は阪口皓亮投手とのバッテリーだ。同じ中学の1学年下で同期。兄弟のような存在だ。
「皓亮と今年初めて1軍で組めた。皓亮も緊張してピンチの場面も出てくるだろうし、昨日は0に抑えたけど阪神もこのままで終わらないから、今日は最悪な状況を覚悟しながら守ろうと思っていた」。
以前から話していたが、阪口投手には特別な思い入れがある。性格も熟知している。ベンチでもしっかり会話を重ね、念願だった二人で組んで勝つことができた。叶いかけて霧消した昨年のことも思い出し、より喜びが増した。
この日は打撃も冴え、プロ初の3安打でバックアップできたことも、嬉しかった。
2連勝したことで気持ちが楽になった。
「もちろん3連勝はしたかったけど、チームでもまだなかったし、簡単にできることじゃない。そんなにはうまくいかないだろうって思いながら試合に入った。『絶対3連勝してやるぜ』みたいな気持ちじゃなくて、『向こうは1位なんだから』って自分へのプレッシャーをなくした」。
いい意味で開き直り、失点しても「うん、そりゃ点取るでしょ。だって1位だもん」と慌てなかった。
その適度な力の抜け具合が奏功し、今季初の同一カード3連勝を収めた。山本選手にとって、そこに貢献できたことが無上の喜びだった。
■同級生に対する意識
この3連勝の要因の一つに、タイガースの怪物ルーキー・佐藤輝明選手を11打数1安打と抑え込んだことが挙げられるだろう。
「僕、キャンプで場外ホームラン打たれてるから」と、アトムホームスタジアム宜野湾でのバックスクリーン越えを思い起こす。「ハマスタの場外ホームランもベンチで見てたし、すごいなって思ってた。同級生やのにって」と、同じ1998年生まれのルーキーには驚くばかりだった。
「佐藤が打てば阪神側がすごい盛り上がる、ファンもベンチも。なので佐藤に長打だけは打たれたくないなぁと思ってた」。
様々な要因もあって抑えたことを手放しで喜びはしないが、「いいしつこさで1球1球攻められたんじゃないかと、ちょっと思う」と、ほんの少し手応えを得たようだ。
ただ、対戦は今後も続く。やってやられての世界だが、次も負けないぞと気を引き締める。「同い年」ということが、意識をより強くさせる。
ちなみに佐藤選手だけではない。坂倉将吾選手(広島東洋カープ)、古賀優大選手(東京ヤクルトスワローズ)らに対しても「同級生が増えてきてるんで、絶対負けたくないって思うし、キャッチャーは特別意識する。出てたり打ってたりしたら、オレも頑張ろうって思うし、勝手に切磋琢磨してる」とバチバチと炎を燃やす。
自チームでも牧秀悟選手、細川成也選手、知野直人選手ら同級生とは、互いに張り合っているという。
■打撃力向上を目指して
この甲子園3連戦を含む7試合連続でスタメンマスクをかぶり、5連勝した。
「前半戦、ちょっとは爪痕を残せたかな」と収穫は得たが、その後、またスタメンマスクは減った。不動のマスクは伊藤選手だ。
「光さんの信頼度は高いっていうのはわかっている。まだまだやらないといけない。光さんを追い越すには打たないといけないし、守れないといけない。課題が明確なんで、出られないのは悔しいけど、プラスにはとらえている」。
冷静に考え、しっかりと前を向く。
なにより急務なのは打撃力のアップだ。「光さんと比べても、打席での落ち着きも投げさせる球数も違う。チームバッティングというところでも、まだまだ信用がない。ただ打てないだけじゃなくて、そこももっともっとできるようにならないと」と自覚している。
1軍の投手は球も速いし変化球の精度も高い。追い込まれる前にと早めに仕掛ける一方で、簡単に三振してしまっているとも省みる。
「僕、打率が1割3分(前半戦終了時.135)。『こんな打てないっけ?』って思うし、こんなに低いのは恥ずかしい…」。
そこで公式戦の中断期間中、宮﨑敏郎選手や桑原将志選手に積極的に教えを乞うた。
「『このピッチャーのこの球はこういう打ち方してるよ』とか快く教えてくれた。少しずつだけど、待ち方とかがよくなってきている」。
試行錯誤しながら、徐々に上向きになってきた。
■梅野隆太郎選手に弟子入り志願
年明けから並々ならぬ意気込みを見せていた。1月の自主トレでは、初めて他球団であるタイガースの梅野隆太郎選手に弟子入り志願し、揉まれた。
チーム梅野のメンバー(岩崎優投手、大山悠輔選手)からは「コツコツやることが大事」と説かれた。
「『なにごとも継続。すぐうまくなったり、すぐ活躍できるようなことはない』って言われて、それを今もずっと思いながらやっている」。
そもそも「コツコツ」は山本選手の身上でもある。コツコツと一生懸命に努力できることは山本選手の才能であり、最大の武器でもある。そして、それに耐えうる強靭なフィジカルとメンタルも有している。これはプロで長くやっていくための大事な資質だろう。
さらに同じ捕手である梅野選手からは守備を教わった。とくにブロッキングに関しては「足が動かないとダメだって言われた。常に足を動かせる状態にもっていく。それはずっと意識してやっている」と、12球団でもナンバー1と言われる“梅野ウォール”の秘訣を包み隠さず授けてくれた。
おかげでブロッキングに自信が持てるようになり、投手陣の落ちる球をことごとく止め、助けている。
「後ろに逸らしての1点だけは絶対にあげたくないんで」。
これこそが、山本選手のキャッチャーとしての矜持だ。
また、教わる一方だと思っていたが、取材を受けた梅野選手が「山本は想像以上に能力が高い。捕ってからの上下動が少ない」と褒めてくれていたことに「ビックリしました!あとあと記事を見て。めっちゃ嬉しかった」と無邪気に喜ぶ。
勇気を出して飛び込んだことは大正解だった。
■「勝てるキャッチャー」に
一歩ずつ前に進んではいるが、正捕手までの道のりはまだまだ遠い。ひたすら邁進するだけだ。
前半戦、過去3年間のトータル17試合を超える18試合に出場した。そこであらためて「勝つこと」の難しさを痛感した。
「(マスクを)かぶればかぶるほど、重圧っていうのは大きくなってくる。でも試合に出たからこそ、わかることが多い。去年も一昨年も1軍に少しいたけど、そのときよりも今、ちゃんと1軍にいるなって感じがする」。
1軍メンバーの中に、“自分の居場所”がしっかりできた。
後半戦では「勝てる戦力になりたい」と気合を入れる。「与えられた出番で自分のパフォーマンスを出すのが、戦力になるということ」と、より一層の奮闘を誓っている。
「遠いけど、なんとか食らいついて3位に入ればクライマックスにいける。人の力じゃなく自分の力で経験したい。後半は1つでも多く勝てるキャッチャーになりたい。ちゃんと1軍にいて」。
「勝てるキャッチャー」―。それが山本選手の目指す捕手像だ。後半戦はクライマックスシリーズを目指して、勝ち星を積み上げるつもりだ。
■おじいちゃんとの時間
キャッチャーとして、自身が座るポジションは神聖な場所だ。毎試合、そこに就くときには必ず土を触る。そして心を落ち着かせながら挨拶をする。
心にあるのは亡きおじいちゃんだ。昨年5月に他界したおじいちゃんは、野球が大好きだった。小さいころから野球に打ち込む孫を、いつも応援してくれていた。そして、そんなおじいちゃんが山本選手も大好きだった。
「でもね、おじいちゃんには生で、目の前でキャッチャーの姿を見せられなかった。そういう思いもあるのと、野球をやらせてもらってることに感謝しながら…」。
おじいちゃんが亡くなって以来、必ず行うこの“儀式”は、おじいちゃんと二人だけのたいせつな時間だ。きっと今、マスク姿での活躍を天国から見守ってくれているだろう。
おじいちゃんに1試合でも多くマスク姿を見てもらいたい。1試合でも多く勝ち星を届けたい―。
「勝てるキャッチャー」を目指し、後半戦も山本祐大はコツコツとやっていく。
(写真提供はすべてK)
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