山本祐大(横浜DeNAベイスターズ)、盗塁阻止率 .619の鬼肩を武器に正捕手争いに割って入る覚悟
(前回記事「山本祐大(横浜DeNAベイスターズ)、正捕手獲りへ向かってターニングポイントの年」からの続き)
■落ち着いていたスタメンマスク
3年目の昨季、ファームで悩み苦しみながらも、大きく成長した横浜DeNAベイスターズの山本祐大。
.619という驚異的な盗塁阻止率で強肩を見せつけ、打撃においても試行錯誤を経て進化した。しかし、過去2年と違ってなかなか1軍からのお呼びがかからなかった。
これまで以上にやれる自信があっただけに歯がゆかったが、それでも“来たるべき日”に備えて、ファームでも常に1軍を意識したプレーを続けた。
そしてようやく昇格できたのが11月1日。その日の阪神タイガース戦で即、スタメンマスクをかぶった。
「ずっと1軍でやることを考えてやってきたんで、1軍に上がったからって何も変える必要はないなと思った。ごはん食べたり寝ることに対しては緊張しないじゃないですか。普段と違うことをしようとしたり、人前でいいプレーを見せつけてやろうとか思ったりしたときって緊張する。だからそれを全部取っ払って、いつもどおりにやろうと思った」。
いつもどおりにやれば大丈夫。そこには、やるべきことをやってきた自負があった。だから過去2年の自分とは全然違うことを自覚していた。
■最後までマスクをかぶりたい
組んだ先発投手は阪口皓亮投手だ。
「同期入団だし、同じ地元だし、よく話すから、皓亮とは意思疎通もしやすい。僕にとっても思い入れの強いピッチャー。あいつも全然勝ててなくて、それこそ『ファームどおりに投げれば抑えられる』っていうのは思っていた」。
そして、そのとおりに投げてくれた。調子もよく、順調に立ち上がった。しかし、四回に1失点したあと2死三塁に、五回には1死満塁とピンチを作った。
「ちょっとバテはじめた。だから『勝ちたかったら最後まで投げろ』『責任逃れすんな』って言った」。
その檄が効いたのか、阪口投手はいずれも内野ゴロを打たせて切り抜け、5回1失点とゲームを作り、勝ち投手の権利を手にした。
しかしそのあと、バッテリーともに交代となった。スコアは3―1だった。
「今から一番楽しいっていうところで代わったんで…キャッチャーはあそこからが醍醐味。ピリピリする場面でどう守りきるか、どう越されないかを考える。そういうときのキャッチャーは頭を一番フル回転で使うし、緊張もする。チームのことを考えて。そこがキャッチャーとしての生き甲斐だと思うんで、あそこからも守りたかった…」。
つまり、そこを任せてもらえるキャッチャーにならなくてはならないということだ。それを重々承知している山本選手は、「そこをほんと渡したくない」と唇を噛む。
七回表にチームは逆転され、しかし最終的にはサヨナラで勝った。もしあのまま山本選手がマスクをかぶり続けていればどうだっただろうか。リードを守りきって勝てたのかもしれない。
今後、その信頼を掴むことこそが、山本選手にとっての最重要課題である。
■盗塁王との勝負
そしてこの試合、「あそこだけは悔しかった」と振り返るのが、一回表の近本光司選手の盗塁だ。先頭でヒットを許し、マルテ選手の空振り三振の間に二塁を陥れられた。
たしかに打者の膝元の、二塁送球に移行しづらい投球でもあった。しかしイースタンで6割超えの盗塁阻止率を記録した、強肩がウリの山本選手にとっては「一発目やったんで絶対に刺しておきたかった、印象づけとしても」と非常に悔やまれるのだ。
「やっぱ盗塁王なんですごいんだけど、そこを刺せないと僕も生きていく術がないんで。今年は頑張って刺したい」。
試合の勝敗もさることながら、2年連続盗塁王との勝負は今季の見どころでもある。
■エンピツからマジックに?
ファームとはいえ打撃を進化させ、守りでも投手陣をしっかりリードし、強肩をアピールするなど存在感は発揮できた1年だった。そんな山本選手を支えてくれたのは、まぎれもなく自身の身体だ。
とくにコロナ禍による自粛期間中、体づくりに努めたことが大きかった。
「体重を増やしてウエイトトレーニング…ほんと体づくりをできる期間だと思ったので、そこをメインにやっていた」。
かつて「エンピツくん」と名づけられたほど細かった体はプロ入り後、みるみる大きくなった。それが昨季の大きくなり方はもう、別人のようだった。もしシルエットクイズを出されたら、正解者は出ないのではないか。
「こんな何ヶ月もトレーニング重視でやれることないから。いつも12月1月にはやるけど、どうしても技術面をしないとっていう緊張や不安があるんで、なかなか追い込めなかった。去年に限っては当分(試合が)できないってわかってたんで、技術面の練習ももちろんやってたけど、体づくりと向き合えてやれたので、それが体に表れたかなって感じ」。
もちろんキャッチャーとして動ける範囲での増量だ。
効果も顕著だった。筋肉量は数字でも明らかだが、それによってパワーが増し、打球も変わった。なによりセカンドスローにも変化を感じられた。
「今まではマックスで投げないといけなかったのが、8割くらいでしっかり足を使って投げられる。下半身をおもにやっていたので、それでいい感じになった」。
自粛前に83キロだった体重が、開幕のころには約88キロにまで増えたという。
「トレーニングでデカくなって安心感というか、不安要素が一つ消えたみたいな感覚になった。自分の中で安定感を持ててやれたんじゃないかと思う」。
これまでにない自信も湧いてきた。
■食に対する意識の高まり
体に気を遣うということは、食に対する意識も高まる。
「去年は食べるものにも気を遣った。寮のごはんを食べていれば問題ないけど、それにプラスアルファって考えた。たとえば魚やサラダを多く摂ろうとか、果物を食べたりとか、プラスアルファを考えた1年だった」。
コロナ禍で外食ができない。寮の食事の中でも栄養素の割合などを考え、より必要なものを選択して食べるなど工夫した。意識することで随分と違うものだ。
さらに12月には断食にも挑戦した。実は春季キャンプ中に杏林予防医学研究所所長である山田豊文先生の講習を聴き、断食に興味を持っていた。オフに声をかけてもらい、二つ返事で参加することにしたのだ。
「体の中を一回きれいにすることで食事の吸収がよくなるし、自分の食べてるものがもっと生きると思ってやってみたかった。実際にやったら体がすきっとして、朝の目覚めもよくなったし、吸収もよくなった気がする」。
いいと思うものには積極的にチャレンジする、向上心の鬼だ。
京都にて二泊三日のファスティング合宿に参加したのは、主力クラスの錚々たる選手ばかりだった。
「すごい先輩たちばかり。そんな活躍している人たちが続けていることを、一つでも学べて肌で感じられたらいいなと思って」。
そういうメンバーに交じっても気後れすることなく、自身に必要だと思うものを貪欲に吸収した。
■チャモさんの心遣い
入団から3年、これまで何かと印象的なことをやってきた山本選手だ。
ルーキーイヤーは5月にプロ初昇格をして初マスクでスワローズの主力選手を三者凡退に抑える好リードを見せ、8月には初打席で本塁打をマーク。
2年目も5月に昇格して初スタメンマスク、7月末に再昇格すると地元凱旋し、8月にはサヨナラ打を記録した。
3年目の昨季は違った意味で記憶に残ることをやってくれた。まず11月14日、ホセ・ロペス選手のNPB通算1000安打達成の表彰式において、登壇したのだ。
場内アナウンスで「帰国しているロペス選手に代わりまして、ロペス選手ご本人の希望により代理として、山本祐大選手にロペス選手の背番号2のユニフォームを着て受賞いただきます」と告げられると、横浜スタジアムは拍手と笑いでドッと沸いた。
「チャモさんはかわいがってくれたし、よく話しかけてくれた。周りがよく見えて気も遣える人だから、たぶん出番のなかった僕の名前がちょっとでも出ればいいんじゃないかっていう気持ちでやってくれたんじゃないかなって、僕は勝手に汲んでいる。そういう人なんで、チャモさんは」。
壇上での神妙な顔が初々しく、また意外にもロペス選手のユニフォームがそんなにダブつかず違和感がないことに驚かされた。
「ウエイトした甲斐があった(笑)」、そう言っていたずらっぽくニヤリとし、「チャモさんの気持ちが嬉しかった」と感謝していた。
■ファンフェスでの謎キャラ
さらにファンの度肝を抜いたのが12月のファンフェスティバルだった。歌う宮本秀明選手、知野直人選手と並んだ真ん中で、“謎のキャラによる謎のパフォーマンス”を炸裂させた。鍛え抜かれた肉体美の披露とともに。
登場からハケた後の舞台裏まで徹底して演じたキャラについて「あれはもう、なんのキャラか僕もわかんないです。誰かのモノマネとかでもなくて…あのときの流れで誕生しました」と振り返る。練習したわけでもなく、なんとなく生まれたようだ。
「僕は歌いたくないですって言ったら、パフォーマンスしろって言われたんでやった。なんかやるからにはやりきろかなと思って、とりあえずやりきりました」。
熱演でファンの気持ちを掴んだのに、チームメイトからの「『気持ち悪い』しか言われていない(笑)」との感想はつらい。しかし自分でも「気持ち悪いだけでした(笑)」と振り返る。
いついかなるときも、やると決めたら本気でとことんやる。「やりきる」というのが身上だ。そして自身の決意どおり、やりきった。
だが、やりきったことでさぞや充実感にあふれているのかと思いきや、「いやぁ、黒歴史ですね」と、そこまで満足度が高いわけではなかったようだ。
しかしチーム随一のエンターテイナーである齋藤俊介投手にも迫る勢いのパフォーマンスだった。「いや、全然もう、齋藤さんは超えられなです」と敗北宣言を口にするが、そこはファンにとっては、今後の“齋藤超え”にも期待が高まっているのではないだろうか。
■鬼肩を武器に挑む
その前に、もちろんシーズンでのプレーだ。1軍に名を連ね、成績を残すことを自身への必須課題とする。自ら「ターニングポイント」と位置づけるシーズンで、チャンスをがっちり掴むつもりだ。
「上のキャッチャー4人(伊藤光、戸柱恭孝、嶺井博希、高城俊人)は経験もあるし、当分勝てないのはわかっている。監督も1年目だから、安定を求めるならそっちを使うと思う。だから、そこに割って入るような“武器”を持たないと僕は勝負できない。来年以降に生きるようにと『我慢して使おう』と思ってもらえるようなところが一つでもないとダメ。そこに目が留まるようにやっていきたい」。
状況は冷静に見えている。
その「武器」とは言わずもがな、強肩である。ただ強いだけでなく、盗塁阻止の技術も向上した。そしてそれを三浦大輔監督は1年間、もっとも近くで見ていてくれた。
「『盗塁を刺すなら山本だろう』という名前が挙がってくることはあると思うんで、そのチャンスが掴めなければ、今後のチャンスはどんどん減ってくると思っている」。
昨季、イースタンリーグで記録した盗塁阻止率.619という驚異的な数字は、間違いなく山本選手の後ろ盾になってくれる。この鬼肩を足掛かりに1軍での経験を積み、正捕手のポジションに限りなく近づいてやる―。
そう多くはないであろうと予想するチャンスを、必ず掴むんだと鼻息も荒い。
「今年に対する思いは強い」と意気込む2021年、山本祐大にとって大きな転機の年になるに違いない。
(撮影はすべて筆者)
【山本祐大*関連記事】
*「勝てるキャッチャー」に!横浜DeNAベイスターズの次代の正捕手候補、山本祐大が目指す捕手像とは
*山本祐大(横浜DeNAベイスターズ)、正捕手獲りへ向かってターニングポイントの年
*やりきる!山本祐大(横浜DeNAベイスターズ)、2020年の誓い
*“ホンマにホンマ”の地元凱旋で山本祐大(横浜DeNAベイスターズ)が今季初ヒット!