山本祐大(横浜DeNAベイスターズ)、正捕手獲りへ向かってターニングポイントの年
■ターニングポイント
「毎年勝負だけど、今年はターニングポイントなんじゃないかと思っています」―。
2021年早々、強い意気込みを見せるのは横浜DeNAベイスターズの山本祐大だ。
今年9月に23歳を迎える。大卒ルーキーと同い年だ。
山本選手の言う「ターニングポイント」とは、どういうことなのか。
「同級生が即戦力として入ってくる年なので。それと三浦さん、新沼さんと去年1年間、一緒にやってきてたんで。もちろんそこにすがる気持ちとか、ゴマすろうとかはないけど、やっぱり僕がどれくらいできるのかを見てもらえているというのはある」。
実際にプレーの中での一挙手一投足をその目で見て評価してくれていた指導者たちが、ファームから1軍に就いた。これは大きなアドバンテージだろう。
三浦大輔監督(ファーム監督から1軍監督)、新沼慎二コーチ(ファームバッテリーコーチから1軍バッテリーコーチ)に間近で見てもらった昨年の山本選手はどんなシーズンを送ったのだろうか。振り返ってくれた。
■1軍キャンプからスタートしたが…
昨年は初めて1軍キャンプのメンバーに抜擢された。
「やっぱ初めてだったんで緊張感もありながらできたし、1軍のピッチャーの球をちゃんと受けて、自分の目で判断できたっていうのはよかった」。
率先して大きな声を出し、多くのものを吸収しようと躍動した。
開幕はコロナ禍で大幅に遅れた。念願の開幕1軍も叶わず、6月20日にイースタンで開幕を迎えた。しかし打撃面で、自身のスタートダッシュができなかった。
昨季初ヒットは14打席目、7月10日の本塁打だった。しかしそこからもなお浮上できず、0割台から1割台をさまよい続けた。ようやくコンスタントに当たりが出はじめたのが8月半ばすぎからになり、同27日に2割に乗ってからは徐々に上昇し、最終的には.274まで上げた。
「はじめはやっぱ苦しんだ」と言い、その要因を自己分析する。
「一昨年まではほぼ全試合に帯同していたのが、去年はコロナの影響で週6日の試合中、キャッチャーは3試合しか行けなくて、あとは残留っていう不規則な感じで。その経験が今までなかったんで難しかった」。
試合に出場しなくても、帯同することで相手を観察できる。相手投手だけでなく捕手の攻め方、さらには雰囲気や流れ…それらが、いざ出場したときに生きるのだ。しかしその機会を奪われたことで、なかなか乗っていけなかった。
結果が出ないと焦りも出てくる。「精神的に…ヒットが欲しいっていう気持ちになって、それでドツボにハマッていった」と述懐する。
途中でその状況が変わった。8月に入って捕手に故障者が出たことで出場できる人数が減り、常に試合に帯同できるようになった。
「その時期らへんから試合の感覚だったり打席の感覚っていうのが自分の中で出てきて、不安要素をなくしながら打席に立てたんで、徐々に上がっていったのかなと思う。それがすべてではないけど、それはあると思う」。
ただ来た球を打つのではない。“キャッチャー脳”での思考は打撃面にも大いに影響するのでる。
■田代コーチに教わった呼吸法
打撃フォームも改良した。昨年オフ、バットを動かしたまま打ちにいくスタイルを試したが、やはり春季キャンプで前年の形に戻すことにした。
「一昨年の形に戻して、そこからさらに良くなるように改良を加えた。どっしりした打ち方に変えよかなという感じになった。トップの決まり方だったり、タイミングの取り方、あとは呼吸法」。
田代富雄コーチ(チーフ打撃コーチから巡回打撃コーチ)から教わった呼吸法がうまくハマッた。人は緊張すると呼吸が浅くなったり乱れたりするものだが、それを打席の中で一定にするという呼吸法を意識することで、なかなか決まらなかったトップも昨年は決まるようになったという。
その呼吸法の極意はとはこうだ。
「腹圧でしっかり呼吸する。打ちたい打ちたいっていうのが強くなったら呼吸が乱れてくる。それを同じタイミングで吸って吐いて、吸ってちょっと吐いて止める、で、打席に立つ。ピッチャーが投げてくるときに(息を)溜めたままで打ちにいって、打つ瞬間に声を出して吐いて解放させるみたいな感じをやっていた、ずっと」。
こうすることで肩に力が入るなど、変な力みがなくなるという。
■高いレベルのピッチャーに対応するために
さらに昨秋からグリップ位置も変えた。「脱力して手が早く出るように」と下げて構えていたのを上げた。構えからトップに移行する距離を短くするためだ。
「1軍でやるには動きは少ないほうがシンプルでバットも出しやすくなるし、いいピッチャーの対応もしやすくなる」。
大村巌ファーム打撃コーチの存在も大きかった。
「いろんなバッティングコーチとも話したけど、最後11月、ずっと大村さんと話しながら今の形を作った。よりシンプルに、でも力強さを出すようにっていうことを教えてもらった」。
順調に取り組め、今季、勝負できる形は固まってきた。
■盗塁阻止率は驚異の.619
守備面に目を移すと、特筆すべきはやはり山本選手の一番の武器である肩だ。盗塁阻止率が.619。42の企図で26刺した。4割超えると超優秀だとされる分野で、驚異的な数字だ。
「スローイングに関しては自信になった。安定性も増したし、夏場に落ちることなく1年間しっかり盗塁阻止ができた」。
1軍と比べてファームの投手のほうが制球力もクイックの精度も落ちる。その中でのこの数字は、なおさら光る。
「僕の強みなんで、そこは。やっぱり誰にも負けないくらいのものは見せたい。どんな状況であっても刺せるキャッチャーであるべきという思いを持ってやっていた。1軍だともっと盗塁技術は上がるから、そこで刺せるようにしたい」。
そして昨年は“画期的”なことがあった。試合をご覧になった方は、これまで見たことのないサングラスをかけている山本選手の姿を目にしただろう。
「僕ね、目が悪かったらしいんですよ…」。
なんと右0.3、左0.5だったという衝撃の事実。そこで度入りのサングラスを導入したのだ。
きっかけは横須賀ナイターだった。暗いと定評があり、選手は「見にくい」と口をそろえていた。山本選手も入団して3年、「見にく!」と思いながらプレーしてきたが、どうやらほかの選手と話しているうちに、見えにくさの度合いが違うことに気づいたという。
「あれ?オレ、人より見えてないぞって思いだして…。ハマスタとか全然見えるし、明るいんで。見えないっていう感覚はなかった」。
目が悪いという自覚はまったくなかったのだ。
視力が1.5に矯正されるサングラスの効果はテキメンだった。シーズン序盤、横須賀で目立った捕逸が、かけはじめてからは一切なくなった。
ただ「ボールが見えすぎたら嫌。気持ち悪い」と、バッティングでは着けず、守備限定での使用だ。
■常に1軍でプレーすることを考えて
攻守ともに成長の一途をたどったが、昨季はなかなか1軍昇格のチャンスが訪れなかった。過去2年は5月に昇格し、また夏場に再昇格していた。3年目の昨季は当然のことながら、これまで以上に1軍でプレーできる自信はあった。
「歯がゆかった…去年が一番、歯がゆかった。1年目、2年目なんてたいした成績も残してないし、自分に対して自信もなくて、やっていけるかどうか不安な状況で上げてもらって使ってもらった。でも、去年に関しては上がれる準備は一番できてた年だったと思ってたんで。僕の中では去年が一番、上がれるやろうっていう感覚でいた年だった」。
しかし一向にお呼びがかからない。そんな中、心がけていたことがある。
「1軍でやるにはどうしたらいいかって、ずっと考えながら試合をしていた」。
目の前の試合で打てたり抑えたりできても、「これが1軍だったらどうだったか」と省みた。
「自分の中でも、ここで抑えて結果オーライではダメだなとか思ってやっていたし、ピッチャーにも『1軍だったら、ここでこの球を投げてたら打ち損じしていない』ということ伝えたりもしていた」。
ファームの試合であっても「1軍で勝てるリード」を自身に求め、目指していたのは「1軍で勝てるキャッチャー」だ。
幸いにもファームにいた投手陣のスキルが高く、「チーム防御率も中継ぎ防御率もよかった。1軍に上がってもいい人、なんで上がれないんだっていう人が何人もいて、そういうピッチャーの方とコミュニケーションも取れたし、僕のリードの意図も汲んでくれていた」と、バッテリー間で互いに高め合うことができたと振り返る。
そしてシーズンも最終盤になって、いよいよ1軍昇格のチャンスが訪れた。
次回は1軍でのスタメンマスク、身体への意識、今季への決意に迫る。あの“謎のキャラ”にも…。
(続き⇒「山本祐大(横浜DeNAベイスターズ)、盗塁阻止率.619の鬼肩を武器に正捕手争いに割って入る覚悟」)
(撮影はすべて筆者)
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