やりきる!山本祐大(横浜DeNAベイスターズ)、2020年の誓い
■元旦の恒例行事
今年も一年の始まりはこのグラウンドからだ。(関連記事⇒テッペンとったる!山本祐大の旅立ち)
2020年1月1日。横浜DeNAベイスターズ・山本祐大選手は、子どものころからの思い出がいっぱい詰まった大阪市内のグラウンドにいた。
「一日はいつもこれやってるから、自分の中で消したくないし」。
することは変わらない。ランニング、キャッチボール、ティーバッティング、ノック…。遊びの要素も取り入れながら、本格的な始動というより「楽しく」をモットーに体を動かす。とはいえ、かなりの運動量に汗が滴る。
「『あけましておめでとうございます。今年もよろしく』という意味で練習できるのは、いいかな」。
欠かせない元旦の恒例行事となっている。
■爪痕を残す
ベイスターズに入団して3年目を迎える。
ルーキーイヤーから1軍に上がってマスクをかぶり、初打席ではホームランを放った。
2年目はスタメンマスクのチャンスももらえ、代打でのサヨナラ打も決めた。
1軍昇格時、いつも口にするのは「爪痕を残す」―。ここまでそれは、しっかりと果たせている。
昨年を振り返り、「一昨年より考えて野球ができた」と、ほんの少し手応えが掴めたことに白い歯をこぼす。
「爪痕を残す残すって言ってるだけじゃなくて、そのための過程を自分の中で作れたところはあったので、今年のためになったというか、それはよかった」。
ただしそれはバッティングに関してで、守備面では「スタメンで出て、0点の結果だったのが悔しくて。100点じゃなくても50点60点なら…。去年はそれに尽きる」と、5月6日の初スタメンマスクを悔やむ。
捕手として千載一遇のチャンスだった。投手のコンディションの問題もあっただろうが、「もっとできた」と、己の力不足に歯ぎしりした。
■バッティングの進化がサヨナラ打に
バッティングは確実にステップアップした。「けっこう変化球をヒットにできた」ことは収穫だ。そこには“第3捕手”という自身の立場や試合の状況を考えた上での配球の読みがあった。
「大差で出場するような僕みたいな立場の選手ってほかのチームにもいるけど、僕がキャッチャーやったらどういう配球するかなって、第三者として見て考えた。出番の少ないバッターって『打ちたい、打ちたい』って、どうしてもまっすぐを待つし、そうなったら簡単に変化球でかわせると思うから、その変化球を待って打てた。考えてできて、結果に出たのがよかった」。
自身の打者心理を相手バッテリーが読む、それを逆手にとったのだ。
その最たる結果が8月28日の東京ヤクルトスワローズ戦でのサヨナラ打だった。
人生初のサヨナラの興奮を思い出し、あらためて振り返ってくれた。
ベンチには誰も残っていなかった。最後の打者として打席に向かったのは延長十二回、二死満塁の場面だった。
「プレッシャーとかまったくなくて、僕の中でけっこう気持ちスッキリ。やっと出番くる、みたいな。だって野手の中で僕だけ出番もらってないって、そっちのが悔しくて…。だから絶対に結果残したろうみたいな、ワクワクした部分があった」。
4ヶ月以上前のことなのに、スラスラ出てくる。あのときの心情は鮮明に刻まれているようだ。
初球は変化球が来ると、バッテリー心理を読んでいた。来たのはスライダー。初球からフルスイングだ。
「僕の狙いはスライダー。振れる準備はできてたし、狙う球も絞れていたし、そのとおりのコースにもきて、その軌道を描いて強く打てる球にもなったから…」。
しかしファウルした。
「打ち損じてしまって、『あぁ…』って」。
2球目のストレートはボールと見切って見送ったらストライクのコールだ。
「あのスイングで、たぶんまっすぐが来るだろうとは思ったけど、そんなコースにビタビタにくるよりかはボール気味だろうと。正直、苦しくはなったけど、でもあれで、もういっこ落ち着いた」。
さらに冷静になった。
「絶対にインコースはないと思った」。
満塁だ。万が一、死球で負けたら相手も悔いが残るだろう。つまり内はない。
「僕には打たれる可能性のほうが少ないと思ってるやろうから、絶対に外気味やと思って、めっちゃ踏み込んだ。で、スライダーやったんで、うまく打てた」。
逆らわず右方向に打ったら、打球はライト前で弾んだ。4時間58分のロングゲームに、自分の手でケリをつけた。
■サヨナラのシミュレーション
一世一代の場面でそこまで冷静にいられたのは、常に出番を欲しており、出られることに無上の喜びがあったからだという。
「僕ね、出て緊張して終わるのが、めちゃくちゃ嫌なんですよ。もう1年目じゃないし、人に比べたら(チャンスを)もらってないわけではなし、アタフタして終わって後悔したくない」。
希少な出番で、何をすべきかわかっているのだ。
「冷静さを保って、それでもパフォーマンスが出せなくて打てなかったら、それは『自分の実力の問題だな』ってまた練習できる。そういう気持ちをもってやってきた、京セラの前から。で、京セラでヒット打って、もっと余裕が出た。あれは大きかった」。
このことだ。7月31日に昨季2度目の昇格をした山本選手は、優勝争いをする中で1軍にいた。8月20日の京セラでの同初ヒットは同5打席目だった。(詳細⇒“ホンマのホンマ”の地元凱旋で今季初ヒット)
ただ、サヨナラ打も「打つ前は冷静だったけど、打ったあとはほんま興奮していた」と笑う。
「あの雰囲気も、みんなの喜んでくれてる顔も、ファンの人があんだけ盛り上がってくれたことも、自分で試合を決められたことも、むちゃくちゃ嬉しかった。あんなに嬉しがることってないんですけどね。野球をやってて、あんまり感情を爆発させることがなくて。ああやって自分の中で熱くなったのは初めて」。
どれほどの興奮だったのかが、よくわかる。
随分と早い回から具体的なイメージはできていたという。
「ずっと考えていた、十回くらいから。後ろで振ってるときから『アウトになれば2アウト満塁でピッチャーのとこやな。きたな。オレが決めたらサヨナラや』って」。
頭の中のシミュレーションは完璧なはずだった。
「でも、ヒーローインタビューを考えるまでのシミュレーションはしてなかった(笑)」。
初めてのお立ち台は、興奮で叫びすぎて声がガラガラに嗄れていた。やや意味不明な日本語になったところもある。
それでも「一回からベンチを温めていました!」「今日は早く帰って、明日の試合も見にきてください!」などと、しっかりとファンの気持ちを掴むコメント力を発揮するところはさすがである。
■ハグしてくれた戸柱恭孝捕手とは…
首脳陣やチームメイトと次々ハイタッチをしたあと、大きく両手を広げて待ってくれていたのは、戸柱恭孝選手だった。ギュッと力を込めて抱きしめてくれた。
同じ捕手というポジションでありながら、1年目からかわいがってくれている。
「同じポジションで仲良くするのってどうかって思うけど、馴れ合いでやってるわけじゃないんで。僕のことを一ライバルとして見てもらえてるし、絶対に負けへんっていう気持ちもお互いある。まず人として僕という人間をかわいがってくれているし、僕もほんと人として尊敬してる人」。
アドバイスをくれることはもちろんのこと、後輩である山本選手に聞いてくることもあるという。切磋琢磨できる間柄だ。
この1月の自主トレも、出身のNTT西日本で一緒にやろうと声をかけてくれた。
「僕が自主トレ先に困ってて、もし蹴落とすんなら助けないでしょ。でもそれを人として助けてくれる」。
器の大きな先輩に感謝しきりだ。
■“プーさん打法”を習得中
バッティングには一定の評価が与えられている。アレックス・ラミレス監督も「普通は何年かかかって習得する技術を、彼はすでに持っている」と讃えている。
しかし1軍で打席に立つようになって、さらなるレベルアップが必要だと感じた。
「1球でしとめられる力をつけないといけない。いいピッチャーになればなるほど甘い球は少なかった。来るか来ないかの1球の甘い球をしとめない限り、僕の率も上がってこないし、結果もついてこない」。
そこで今、取り組んでいる打法がある。極意は「動から動」だ。
「バットを動かしてタイミングをとるっていうのを、今やっている。バットが動いている状況で速い球が来ても間に合う」。
これまでの山本選手のバッティングスタイルはくるくるとバットを動かし、トップでピタッと止めるときに同時に足を上げ、打ちにいっていた。つまり「動→静→動」だった。
「止まりたいところを探していた。そのほうがタイミングをとりやすいと思っていた」。
きっかけは12月、2軍の施設「DOCK」でマシンを打っているときのことだ。宮崎敏郎選手が声をかけてくれた。
「タイミングとるのうまいし、せっかく動かしてるんなら、ボールが来たときに動かしたままトップに入ったら?」と。
宮崎選手のバッティングは軸はいっさい動かずブレないが、バットはずっと動かしている。そして止まることなく打ちにいく。
「止まったほうが、まっすぐに対してアプローチがよくなると思ってたけど、逆の発想というか、円を描く感じで打つ。やってみたらすごくよかった」。
どうやら“宮崎打法”は山本選手にもハマッたようで、1月も継続してやっていくという。
「僕の中で引き出しとしてできたんで、うまく当てはめていければ」、
まだバッティング練習だけだが、まっすぐに対しての感覚はとてもいいという。今季、打撃がさらに飛躍する予感がする。
■筒香嘉智選手が残してくれた金言
このように先輩からかわいがられる、気にかけてもらえるのも山本選手の持ち味だ。
筒香嘉智選手からは「ひとりでやる時間、その空間をたいせつにしたほうがいい」との金言を授かった。
「やっぱりいざ戦うのはひとりやから。僕もひとりだと考えるし、自分と向き合えると思う。ひとりでいる、ひとりで練習した、ひとりで工夫したっていうところは自分の財産にも自信にもなる。自分の中の余裕も生まれるから、大事やなって思ってやっている」。
自分でもたいせつに思っていたことを、偉大な先輩が後押ししてくれた。
その主砲がチームから抜ける。そこは「チャンスだと思う」とギラギラと舌なめずりする。
「ポジションとか関係なしに、一つのチームとしてスタメンが抜けるわけなんで。チームとして絶対に必要とされる選手になれるチャンスやし、アピールできるところはあると思う。外野だけでなく、みんながチャンスやと思っている」と、貪欲である。
■ストロングポイントは鬼肩
1軍に食い込むために、昨年のような「第3捕手」でいるつもりはない。
「去年は『オレが出たら絶対もっとやったる』とか、その悔しさはあった。それはそれで持ってていいと思うし、だから出たときに思う存分発揮できた。出られない悔しさや自分に対しての不甲斐なさがあったからこそ、熱くなれた」と振り返る。
続けて「もっともっと活躍したら表舞台に出られるし、一番はじめの“きれいなところ”で座れる。そのためには自分ならこうするというのを去年はベンチで考えられたんで、有意義な時間だった」とも語る。
それを踏まえての今年だ。
「いきなり正捕手っていっても正直な話、無理やし、自分の実力を考えればまだまだ。でも併用する場面はあると思うんで、その併用される2番目の位置を得た状況で今シーズンを終えられるようにしたい。それが僕の目標というか、掲げていることかな」。
決して2番手を狙いにいくのではない。正捕手という高みに向かってきっちりと段階を踏む、その足がかりとなる年にしたいのだ。
そのために頭も体もすべてのスキルアップはもちろんだが、自身のストロングポイントをどんどんアピールしていく。
そこで注目したいのが、昨年の盗塁阻止率だ。伊藤光捕手が.245、嶺井博希捕手が.280。戸柱捕手が.120だった。
リードには経験が必要である。そこはどう逆立ちしても今すぐには追いつけない。となると、何で勝負できるかといえば、「肩」なのだ。
「刺せるっていう武器があるなら、そこを特化したい」。
一番の武器である鬼肩、加えて定評のある打撃。これらを携えて、確固たる居場所を掴むつもりだ。
■やりきる!!!
「#怪我なく #2020 #やりきる」
昨年末、自身のインスタグラムに記したハッシュタグだ。
「去年はちょっとしたケガもあったんでケガなくやりきるのと、自分の中で『やりきる』って決めてたら、なんでもやりきれる。やりきらな意味ないと思って。やりきったなら、結果がどうあれ来年に繋がるから」。
中途半端なことだけはしないと誓う。
山本祐大、21歳。
3年目の今年、2020年はどんな爪痕を残すのか、注目である。
(撮影はすべて筆者)
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