障がいのあった友が遺したプライベートなセックスの記録を映画に。想いは一つ「イケダに出会ってほしい」
いまはもうこの世にいない、池田英彦。映画「愛について語るときにイケダの語ること」は、彼の最後の願いから始まった。
四肢軟骨無形成症だった彼は、40歳の誕生日目前でスキルス性胃ガンステージ4と診断され、「今までやれなかったことをやりたい」と思い立つ。
それは性愛へと向かい、自分と女性のセックスをカメラに収める、いわゆる「ハメ撮り」をはじめると、自らの死をクランクアップとし、その映像を自身主演の映画として遺すことを望んだ。
その遺言を託された池田の親友でドラマ「相棒」などを手掛ける脚本家の真野勝成は、「マイノリティとセックスに関する、極私的恋愛映画」や「ナイトクルージング」などを発表している友人の映画監督、佐々木誠に池田の映像を託す。
こうして池田英彦企画・監督・撮影・主演、初主演にして初監督にして遺作となった映画「愛について語るときにイケダの語ること」は生まれた。
大きな反響を呼ぶ本作については、これまで撮影・脚本・プロデュースを担当した真野勝成と、共同プロデューサー・構成・編集を担当した映画監督の佐々木誠、そしてキーパーソンを演じた毛利悟巳のインタビュー、さらには真野プロデューサーと佐々木監督の対談を届けた。
それに続き、対談に収められなかったエピソードをまとめる番外編の第三回に入る。(全三回)
内容やテーマがおもしろければ、粗は超越してしまうんだなと
最後に、現在まで真野は脚本家、佐々木は映画監督として活躍中。今回の作品が自身の創作へ影響を与えたことはあっただろうか?
佐々木「繰り返しの話になるんですけど、作品ってやっぱり最後は中身なんだよなと思いました。
映像のカッコよさとか、画質の良さとか、もちろん大切な要素ではある。
人にお金を払ってみてもらうとなれば、しかるべきクオリティは必要。
でも、作品の内容やテーマがおもしろくて、きちんと撮りたいものを撮った映像をきちんとした構成でつなげばおもしろい映画になる。
素人のカメラワークとか、画像が荒いとか、どうでもよくなる。
内容やテーマがおもしろければ、そういう粗は超越してしまうんだなと思いました。
映像業界に身を置いているとつい流行や凝った映像技術に走りがちなんですけど、いやまずは中身でしょうと。
中身さえしっかりしていれば、おもしろい映画になって、お客さんもちゃんとわかってくれることを改めて実感しました。
このことは、おそらく今後の僕の創作につながっていくと思います」
あまりに正しさばかり意識すると、窮屈になる
真野「僕も少し繰り返しの話になるんですけど、あまり『正しさ』だけを作品に求めてはいけないなと。
わざとスキャンダラスな方向にしたり、センセーショナルなことをする必要はない。
ただ、あまりに正しさばかり意識すると、窮屈になるというか。
これはクレームがきそうだからとか、これは批判を受けそうだからと、『やめとこうか』と自分で先回りして守りに入ってしまう。
この作品の『障がい者のセックス』というのはタブー視されがちな題材だった。
でも、きちんとその主題に向き合って、きちんと伝えれば、きちんと届くことが作品の劇場公開を通してわかった。
いまどうしても炎上とかが怖くて、問題となりそうなことには手をつけないような傾向が強いですけど、いやいや、きちんと伝えればわかってくれる。
見てくださる側にはまだまだ許容度があるし、お客さんの懐が深いということが今回の劇場公開で実感できた。
自分の考えたことをきちんと打ち出したものを怖がらずに世に出す。
ひとりの書き手としては、そうありたいと思いましたね」
佐々木「いまの真野さんの話につなげると、こういうある種、タブーの題材で、セックスのことが話の中心になると、おもしろくなってしまうというか。
映像の演出でより刺激的にしたりドラマチックにして見せていく方向になりがちで。
実際のところ、いくらでも刺激的にできるところがあるんです。
ただ、僕はそういう過度な演出というのは昔から懐疑的で、そうならないよう心がけていたところがある。
もちろん被写体となる人には、今回だったら池田さんですけど、思い入れが強くなるし、肩入れしたくもなる。
でも、必要以上に彼の代弁をしてはいけないし、よくみえるようにするのも違うと思うんですよ。
で、今回はどうだったかというと、池田さんと友だちになったような気持ちで映像をつなげる、編集をしていったところがある。
それは、みてくださるお客さんにも、池田さんを友だちのように感じてもらえたらなというところがあった。
また、自分が池田さんに感じたことを、みんなも感じてくれたらと、わりと真摯に考えてそうしたんです。
そして、実際に公開が始まったら、以前も話しましたけど、けっこう池田さんに親近感を抱いてくださる方がいて、『イケダさんに会いに来た』とリピートで劇場に来てくださる方がけっこうな割合でいらっしゃった。
このことも、僕としてはかなりの収穫というか手ごたえを感じたことで。
改めて、真摯にモノづくりに取り組むことは大切だなと思いました」
みてくださった方の人生になにか刺さるものがある映画になったのではないか
1年以上続く、ここまでのロングランをどう受け止めているのだろう?
真野「ほんとうにミニマムな映画だと思うんですけど、みてくださった方の人生にちょっとなにか刺さるものがある映画になったのではないかと思っています」
佐々木「正直、ここまで長くやれるとは思っていませんでした。
ただ、ここまでロングランとなったのは、それだけ多くの人の心に刺さったと思うので、それは誇っていいのかなと思っています。
まだイケダさんに出会っていない人は、ぜひ出会ってほしいですね」
「愛について語るときにイケダの語ること」
企画・監督・撮影・主演:池田英彦
出演:毛利悟巳
プロデューサー・撮影・脚本:真野勝成
共同プロデューサー・構成・編集:佐々木誠
公式サイト → https://ikedakataru.movie
山口・山口情報芸術センターにて、
6/18(土) 、6/25(土)、 6/26(日)、7/2(土)、 7/3(日)上映
※6/25 真野勝成+佐々木誠トークイベント 19:00〜 参加無料