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降格は「パタハラ」だと男性社員が会社を提訴 今後どうなる?法規制の内容は #専門家のまとめ

前田恒彦元特捜部主任検事
(写真:イメージマート)

「パタハラ」と呼ばれる父性(パタニティ)に対するハラスメントを巡る裁判が話題となっています。男性社員が子の育児のために深夜業務の制限などを申し出たところ、降格や転籍させられたとして会社に損害賠償などを求めているものです。ネット上では「企業の労働環境の改善が必要だ」という意見が示される一方で、「育児と仕事の両立は難しい」といった声も上がっています。法規制の内容を含め、参考となる記事をまとめました。

ココがポイント

「男性は(中略)始末書を書かされ、社長から『育児したいのなら退職すればいい』などと非難を受けたという」
出典:ytv 2024/11/20(水)

「男性側は、降格や転籍は育児制度の利用などを理由に不利益な扱いを禁じる育児・介護休業法に反し、無効だと主張」
出典:読売新聞オンライン 2024/11/20(水)

「事業主には(中略)『育児休業に関わる言動で労働者の就業環境が害されないよう、防止措置を講じる義務』が課されています」
出典:KEIYAKU-WATCH 2024/2/26(月)

「育児休業制度などを利用しようとした男性の24.1%が、過去5年間に勤務先で嫌がらせ(中略)を受けていた」
出典:nippon.com 2024/10/16(水)

エキスパートの補足・見解

会社側が育児休業などの申し出を拒否したり、降格などの不利益な取り扱いをしたりした場合、育児・介護休業法違反となり、社員は会社側に処分の無効を主張し、慰謝料などを請求できます。罰則こそないものの、会社側が行政指導を受けることもあります。

ただし、(1)業務上、真にやむを得ない場合や、(2)本人が真に同意している場合には、例外的に降格や転籍なども可能だとされています。(1)は経営状況や本人の能力などを踏まえて判断され、(2)も会社側の適切な説明やほかの社員ですら同意するような客観的な理由が必要です。

すでに「パタハラ」を巡る裁判例も複数存在します。病院や社会福祉法人、商事会社、出版社、証券会社、スポーツ用品メーカーなどを巡る事件であり、社員の請求が棄却されたものもありますが、大半が提訴後に和解に至ったり、判決で会社側に損害賠償が命じられたりしています。

今回のケースも、男性社員が主張する社長らの言動のほか、(1)(2)の有無が裁判で問題となるでしょう。(2)については男性社員がサインした始末書や同意書があるものの、男性社員は無理強いされたと主張しているところです。(了)

元特捜部主任検事

1996年の検事任官後、約15年間の現職中、大阪・東京地検特捜部に合計約9年間在籍。ハンナン事件や福島県知事事件、朝鮮総聯ビル詐欺事件、防衛汚職事件、陸山会事件などで主要な被疑者の取調べを担当したほか、西村眞悟弁護士法違反事件、NOVA積立金横領事件、小室哲哉詐欺事件、厚労省虚偽証明書事件などで主任検事を務める。刑事司法に関する解説や主張を独自の視点で発信中。

元特捜部主任検事の被疑者ノート

税込1,100円/月初月無料投稿頻度:月3回程度(不定期)

15年間の現職中、特捜部に所属すること9年。重要供述を引き出す「割り屋」として数々の著名事件で関係者の取調べを担当し、捜査を取りまとめる主任検事を務めた。のみならず、逆に自ら取調べを受け、訴追され、服役し、証人として証言するといった特異な経験もした。証拠改ざん事件による電撃逮捕から5年。当時連日記載していた日誌に基づき、捜査や刑事裁判、拘置所や刑務所の裏の裏を独自の視点でリアルに示す。

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