師匠・梅野隆太郎(阪神)をオマージュ!山本祐大(横浜DeNA)は「山ちゃんバズーカ」で勝負や!!
(山本祐大、前回「打撃編」の記事⇒2020年シーズンを“あつく”戦う)
■スローイングで勝負できる感覚が芽生えた
昨季は自己最多となる51試合に出場した横浜DeNAベイスターズ・山本祐大捕手。スタメンも33試合、そのうち20試合は試合最後までマスクをかぶった。いずれもキャリアハイだ。
打撃に関しては反省点しか出てこなかったが、捕手としてはどうだっただろうか。
「守備は一昨年からずっと継続してやってきたものが去年は出せた部分も多かったし、自分の中でも勝負できるっていうポイントがあって、自信をもって就けるようになった。そこは自分でも成長したところだし、いい経験になったと思う」。
「勝負できるポイント」というのはスローイングだ。「めちゃくちゃ刺したわけでもないし、安定した送球ができたわけでもないけど、足の速いランナーがいても自分がしっかりとしたことをやれば勝負できるっていう、その感覚がファーム(2軍)じゃなくて1軍で芽生えたのはよかった」と振り返る。
一昨年、イースタン・リーグで.619という驚異の盗塁阻止率を叩き出した鬼肩がストロングポイントだ。昨年、1軍では.368だったが、中には投手や内野手のミスで盗塁が記録されたものもあったので、単純にこれが肩の評価と結びつくわけではない。本人としては手応えもあり、さらなる上積みにも自信を覗かせる。
■送球のバリエーション
送球にもさまざまなバリエーションをもたせた。8月20日の読売ジャイアンツ戦では2つの盗塁刺(坂本勇人、松原聖哉)をマークしたが、いずれもワンバウンドでのスローだった。
「練習から送球が高くいってたのもあったし、人工芝でおまけに体勢も完璧ではなかった。坂本さんのときは浮いちゃダメだと低く投げたのがワンバンになったけど、松原さんのときはスタートもよかったんで、僕もちょっとギャンブル気味に故意に刺しにいった」。
低くというイメージで“狙って”ワンバウンド送球で刺した。
「ワンバン送球の練習ってしないので、自分の感覚の中で投げるしかなかった。もちろんノーバンのほうが捕る側もミスしにくいし、理想はノーバンかもしれないけど、それを追い求めていけばアウトにすることが理想なので、そういう形でアウトにできるのであれば挑戦してもいいのかなとは思う」。
1軍の快足ランナーたちと何度も対峙しているうちに、スローイングの引き出しも増えてきた。投球の球種やコースによって捕球体勢は常に一定ではないが、それでも常に盗塁阻止は頭にある。
■走のスペシャリストたちとの対決
「僕、まだ近本さんを刺したことないんで」と自ら名前を挙げたのが阪神タイガースの近本光司選手だ。2019年、2020年の盗塁王である。一昨年、初めて対決して決められた。昨年は2つの企図で、どちらも成功させてしまった。
「中野(拓夢)さん(2021年盗塁王)は企画なかったけど、やっぱり阪神のその2人は止めたいなと思う。中軸にいいバッターいるし。あ、でも、どのチームも中軸にいいバッターがいるので、足の速い狙ってるランナーがいれば、そこは勝負したいなと思っている」。
近本、中野、さらには塩見泰隆(東京ヤクルトスワローズ)、高松渡(中日ドラゴンズ)、宇草孔基(広島東洋カープ)といった球界の名だたるスペシャリストたちとの対決に胸を高鳴らせている。
■師匠・梅野隆太郎選手は常に足が動いている
さらなるスキルアップを目指して、昨年に続いて今年の自主トレも阪神タイガース・梅野隆太郎捕手のもとに弟子入りしている。さまざまなアドバイスを受けているが、中でももっとも師匠から盗みたい技術がある。
「去年もブロッキング、ボールを止める作業が上達するように聞きながらやってきて、シーズンで活かせた部分が多かった。止めるっていうイメージじゃなくて、全部捕りにいった中で止めるという感覚に変わってきた」。
梅野選手はずっと足が動いているという。足から始動し、どんなボールに対しても足が止まってミットだけでいくということが、まったくないのだと山本選手は解説する。
「僕が逸らしてしまうときっていうのは、足が固まっちゃって手が動かない、それで遅れるっていう状況が多かった。それを全部捕りにいくつもりでいけば遅れることなく勝負できる。去年の後半はそのイメージがよくなってきた。梅野さんが言ってることが『こういうことなのかな』と少しずつわかりだしてきた」。
■試合で掴めた感覚
目の前で手本を見て話を聞いても、それを実際に体現するのは至難である。さらに練習だけで掴みきれるものでもない。試合中、プレッシャーのかかる場面でできてこそ、自分のものになる。
山本選手の場合、試合で失点したことが、その後の成功に繋がった。それは9月4日のバンテリンドームナゴヤでのことだった。
「初回、京田(陽太)さんが3ベースを打って、高松のときにパスボール(記録はフェルナンド・ロメロ投手の暴投)で1点取られた。そのとき、これからは逆に開き直って、全部捕りにいってみようって思った」。
非常に悔やまれる初回の失点だったのだ。
それまでもずっと練習はしてきたが、より「捕る」ことに意識を高めることによって、その後は「ロメロとか球が速いピッチャーでも捕れる」ようになり、そこから自身の感覚が変わりだしたという。
「まず捕りにいく。捕りにいった中で止める、くらいのイメージでいけるようになった。映像とか見返しても『おっ!俺、足動いてるな』とか、『いつもなら遅れてたところを、やっぱ足動いてる感じするから捕れたな』みたいな感覚になった」。
昨年の後半が始まる前、「逸らしての失点は絶対にしたくない」と意欲満々だったが、やっと“その感覚”が掴めたのだ。
■師匠からの助言
その感覚をもって、今年の自主トレではさらにステップアップした“授業”を受けている。
「この感覚は大事だっていう話もしてもらったし、『1つ後ろに逸らしたら固まってしまう』みたいな話をしたときに、『深追いしすぎるな』ということも言ってもらった。『止められることも逸らすこともある。人間だからミスもあるし、ミスしたくてしてるわけじゃないんだから、ミスしても堂々としとけ。止めてる数のほうが多いんだから。普通にしとけば止められるものを、変に考えるから1つが2つになって…みたいな形になる』っていう話もしてもらった」。
心理状態まで師匠はすべてお見通しである。その言葉は心の底まで染み入る。
いかに引きずらず、切り替えるかが重要だ。
「なかなか頭でわかってても、体ってけっこう動かなかったりするけど、そういう部分はもっともっと練習して、自信をつけていかないといけない。梅野さんが言うような意識を持ちつつ、また向上するようにやっていきたい」。
常に今の自分に必要な金言をくれる師匠に少しでも近づけるよう、精進していく。
■ロメロ投手との名コンビ
スローイング、ブロッキング、そしてリード。キャッチャーにはさまざまなことが求められる。昨年はファームで仁志敏久監督、鶴岡一成バッテリーコーチから「祐大の色を出せ」と言われ、独自の色を出すよう努めてきた。そしてそれは徐々に形となって表れだした。
もっとも顕著だったのがロメロ投手とのコンビではないだろうか。昨年9月4日に来日初勝利を挙げたロメロ投手は、その後同20日に完封勝ちも収めて、4連勝を含む5勝1敗と活躍した。
後半戦9試合すべてでリードしたのが山本選手で、その間の防御率は2.09だった。前半の登板5試合でほかの捕手2人と組んだときは防御率5.57と振るわなかったロメロ投手が、山本選手とのバッテリーではイキイキと躍動した。
「ファームで一番初めに組んだの、僕なんですよ。そのとき『すごくいいピッチャーだな』と思った」。動くボールを低めに集めるゴロピッチャーだと気づき、「ロメロが投げたいボールをチョイスすべきだな」と、それを活かすことを考えた。
狙って併殺が取れるのも強みで、計算の立つ投手だ。ファームでも3試合でリードし、トータル防御率は1.20で、ほかの2人の捕手の3試合4.67と比べても相性の良さが際立つ。
■キャッチャー冥利に尽きる
1軍でも通訳を交えながら、日本のバッターのことなどさまざまな話をした。もちろん、いかにいいボールを持っているかも伝えた。ときに通訳が不在で2人きりで話しているシーンも目にするが、何語で会話しているのだろうか。
「通訳さんに『こういうときに、こういうことをしゃべりたい』ってスペイン語を教えてもらって、マウンドとかベンチで話している。ロメロが英語もわかるし、日本語も頑張って覚えようとしてるんで。エンターテイナーなんで日本のギャグもね(笑)。だから僕の下手なスペイン語、英語でも聞き取ってくれて、日本語で返してくれたりもする」。
まさしく日本で成功する外国人の特徴でもある。しかし山本選手も英語が話せるとは!
「あ、いや、単語単語ですよ(笑)。単語を繋げるだけで、会話とかはできない(笑)」。
とはいえ意思疎通はしっかりできているようで、なにより二人の間に信頼関係が構築されている。ヒーローインタビューでも、いつも「ヤマモトサーン」と嬉しそうにその名を口にしてくれる。
「お立ち台もだし、ロッカーでも『ナイスキャッチャー』って言って讃えてくれるし、僕の知らないところでも『いいキャッチャーだ』って言ってくれてるらしい。なかなか目立たないポジションだけど、一番近くにいるピッチャーがそうやって讃えてくれるのは、すごく嬉しい」。
キャッチャー冥利に尽きるというものだ。
■今季もオリジナルカラーを出す
ただ、チームには大勢のピッチャーがいる。正捕手になるためには、どの投手ともいいコンビネーションが必要だ。
「今年もみんなと組みたい。去年もいろんなピッチャーと組ませてもらって、いい勉強になった」。
ナイスコンビが何組もあるということが、チームを強くする。
その中で、さらに自身のオリジナルカラーを出すことにこだわっていく。
「相手バッターに嫌がられる配球だったり、ピッチャーを活かす配球だったり、人と同じようにしてちゃいけないところ。そこは自分の感性とデータを混ぜ合わせて、より鋭く色をだしていきたいと思う。(試合に)出れば出る分だけピッチャーのこともバッターのことも知れるし、状況や相手チームのこともわかるので、出ることに意味がある」。
ベンチから見ることも勉強にはなるが、出場しないとわからない、肌で感じることが山ほどある。今季はさらに出場試合を増やそうと虎視眈々と牙を研いでいる。
■目の前で胴上げを見せつけられること3度
昨年10月26日、目の前でスワローズの胴上げを見た。歓喜に沸くスワローズナインを横目に、道具を片付けながら悔しさを噛みしめた。
「僕、目の前で胴上げを見ることが多い、たぶん独立のときも前期後期のどっちも見た気がする。やっぱ見る度に悔しいですよね」。
人生3度目の相手チームの胴上げ。なかなか稀有な体験だ。
「もちろん見たくない気持ちはあるけど、胴上げをできるチームは1チームしかない中で、それを目の前で見られるのも1チームだけ。ってなったとき、よりほかのチームより悔しいっていうか、『俺らが次、胴上げしてやろう』っていう気持ちにさせられる。それはチーム全員が感じてることだと思うので、あれを見ることはマイナスじゃない」。
テレビの映像じゃない、ネットの速報じゃない。自分たちはまざまざと見せつけられたのだ。
その悔しさは大きなマグマとして溜めこみ、優勝という形で噴火させるしかない。目の前で見たことによって、優勝への思いはさらに強くなった。
■「山ちゃんバズーカ」をヨ・ロ・シ・ク!!
山本選手は、ある希望を抱いている。球界では強肩捕手のスローイングには愛称がついているものだ。「梅ちゃんバズーカ」「甲斐キャノン」が代表的なところか。
山本選手の鬼肩にも昨年、一部で名前がつきかけたが、実はあまりお気に召していない。そこで自ら名乗りたい愛称があると明かした。その名も・・・
「山ちゃんバズーカ」だーっ!
「師匠が『梅ちゃんバズーカ』なんで僕も『山ちゃんバズーカ』がいい(笑)。梅野さんと一緒の呼ばれ方するって、繋がりがあるんだよっていう嬉しい気持ちがあるし、変にダサい名前より、師弟として同じ呼ばれ方したいなと思って。あ、梅野さんに許可はもらってないですけど…」。
そりゃ梅野選手とて、かわいい弟子の望みを無下にすることはないだろう。ただ、山本選手がそれに見合う働きをすることは必須だと思われる。
よし!どんどん活躍して、「山ちゃんバズーカ」を世に知らしめていこう。
2022年、年男の山本祐大選手は正捕手に一歩でも二歩でも近づくため、打撃向上はもちろん、リードもブロッキングも精度を上げ、スローイングでは「山ちゃんバズーカ」を炸裂させる。
それはつまり、チームが優勝に近づくということでもある。
(前回「打撃編」の記事⇒2020年シーズンを“あつく”たたかう)
(撮影はすべて筆者)
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