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【雇用・争点】残業代ゼロ法案は大きな争点であるのに争点化されていないのはナゼ?

佐々木亮弁護士・日本労働弁護団幹事長
投票に行こう!(写真:ロイター/アフロ)

みなさん、参議院選挙ですね。

7月10日なのでぜひ投票へお出かけ下さい。

さて、この選挙、争点で重要なものが落ちているような気がします。

それは、残業代ゼロ法案への是非です。

既に、昨年の通常国会で、与党は、いわゆる残業代ゼロ法案、私たちが定額働かせ放題法案と呼んでいる労働基準法の改正案を国会に提出しています。

ところが、これ、その後、あまり耳にしないと思いませんか?

実は、これは、自民党・公明党が選挙前に審議しないという戦術をとり、しばらく息をひそめている状態なのです。

その点に警鐘を鳴らした渡辺輝人弁護士(通称なべてる先生)が、先日掲載されましたが、私も全く同感です。

高度P制(残業代ゼロ)法案は参院選の重要争点です(渡辺輝人)

選挙前に隠された残業代ゼロ法案

では、なぜ隠すのでしょうか?

それは、自民党・公明党の与党は、実は、この法案の世間受けが良くないことを十分に理解しているからです。

元々、与党はこの法案を昨年の通常国会で通してしまうつもりでした。

安保法案と一緒に通してしまい、国民が忘れた頃に選挙をすれば、影響がないと踏んだのでしょう。

ところが、この法案の前に通さなければならかった派遣法案に、思いのほか、手こずりました。

国会の議席数で圧倒的多数をもっていながら、異例の長さの延長をした国会で、どうにかギリギリ派遣法を成立させることで精いっぱいだったのです。

もっとも、昨年秋に開かれる臨時国会で審議し、通してしまえば、まだ影響を少なくできたかもしれません。

しかし、ご存じのとおり、異例の長さで延長したその年の通常国会で、安保法案を強引に通した自民党・公明党は、その追及を恐れてかどうか分かりませんが、野党の求めがあったにもかかわらず臨時国会を開きませんでした(臨時国会が開かれなかった違憲性については渡辺輝人弁護士(通称なべてる先生)が書いているのでご参照ください)。

そうであるならば、本当は、今年の1月から6月まで開かれていた通常国会で審議するところだったのですが、自民党・公明党は、この残業代ゼロ法案を審議しなかったのです。

それは、昨年の派遣法案のように、野党や国民から批判されることは必至で、仮に会期のギリギリで通したとしても、参議院選挙前にかなり目立ったものになってしまうことが明らかだったからです。

派遣法でさえ通すのに苦労したのですから、それよりももっと評判の悪い残業代ゼロ法案を強引に通したとなれば、選挙に悪影響があると踏んだのでしょう。

というわけで、通常国会で、残業代ゼロ法案は提出はされているものの審議されず、継続審議扱いとなっているのです。

そう、ここがポイントで、自民党・公明党はこの残業代ゼロ法案を取り下げたわけでも、撤回したわけでも、諦めたわけでもないのです。

単に、選挙前だから審議入りしなかったに過ぎません。

要するに、争点化を避けるために隠してしまったのです。

公約にも出て来ない

さて、自民党の公約を見てみると、長時間労働規制をやるかのような記載があります。

まぁ、よく読むと「企業の取り組みを進める」とか、「検討を進める」とか、非常に控えめな記載です。やる気がないことは一目瞭然、とまでは言いませんが、とても控えめな表現です。

これは公明党も同じで「企業における自主的な取り組みを推進」「検討を進めます」という記載ですから、足並みをそろえていることがわかります。

いずれにしても、既に提出されている労基法改正案の目玉である「高度プロフェッショナル制度」という同法の時間に関する規制が適用されない制度や、裁量労働制の規制緩和など、そうした言葉は両党の公約には全く出てきません。

なぜ、そこまで隠そうとするのか?

それとも、法案として出してしまっているので、もう触れないでもいいと思っているのか?

それはよく分かりませんが、公約で触れていないことだけは確かです。

残業代ゼロ法案も考慮に入れて投票しよう!

もちろん、この残業代ゼロ法案には賛成の意見もあることでしょう。

いずれにしても、賛成の人は自民党・公明党に入れることは全くもって問題ないのですが、この残業代ゼロ法案に反対であるにもかかわらず、それが今どうなっているのか分からないままに投票してしまうのは、意思に反した結果となる可能性があります。

ですので、現在もなお、自民党・公明党により残業代ゼロ法案が国会に提出されている状態であること、それが選挙後に審議入りするだろうこと、こうしたことを考慮した上で、支持する政党・候補者に投票してもらいたいと思います。

残業代ゼロ法案の内容は?

なお、与党が出している労基法改正案の内容については、次のマンガや動画、あとは2年前から私がしつこく書いている各記事をご参照ください。

ブラック法案によろしく(マンガと文)

・動画(フルバージョン)

「残業代ゼロ」を考える~ブラック企業撲滅どころか、ブラック企業に栄養を与える世紀の愚策

「残業代ゼロ」制度を考える(その2)~年収1000万円は長時間労働地獄へのカウントダウンの始まり

「残業代ゼロ」を考える(その3)~君はブラック企業が成果に応じた報酬を払ってくれると思うか?

<残業代ゼロ・過労死促進法案>他人事ではない!~年収1075万円は絶対に下げられる5つの理由

<残業代ゼロ制度>「時間でなく成果で評価される」という大ウソ~ただのブラック企業合法化制度

政府が提案する「残業代ゼロ制度」(『定額¥働かせ放題』制度)についてのQ&A

ブラック法案によろしく~残業代ゼロ制度(定額¥働かせ放題制度)は命の問題!

過労死を促進させる「残業代ゼロ」法案を「過労死防止法案」と呼ぶべきとする珍論について

1日24時間働くのと、1年360日働くのと、どっちがいい?~残業代ゼロ制度の笑えない「健康確保措置」

「残業代ゼロ」法案(定額¥働かせ放題)推進派との議論で見えてきたこと その1

「残業代ゼロ」法案(定額¥働かせ放題)推進派との議論で見えてきたこと その2

「残業代ゼロ」法案(定額¥働かせ放題)推進派との議論で見えてきたこと その3

「残業代ゼロ」法案(定額¥働かせ放題)推進派との議論で見えてきたこと その4(了)

ブラック企業にとって即効性のある栄養剤!~裁量労働制の拡大、それはもう1つの「定額¥働かせ放題」制度

【法案版】「定額働かせ放題」制度・全文チェック!~「成果に応じた新たな賃金制度」との誤報も列挙!

【Q&A式】1から分かる「定額¥働かせ放題(残業代ゼロ)」法案の問題点

ブラック法案によろしく(動画あり)(ショートバージョン追記)

弁護士・日本労働弁護団幹事長

弁護士(東京弁護士会)。旬報法律事務所所属。日本労働弁護団幹事長(2022年11月に就任しました)。ブラック企業被害対策弁護団顧問(2021年11月に代表退任しました)。民事事件を中心に仕事をしています。労働事件は労働者側のみ。労働組合の顧問もやってますので、気軽にご相談ください! ここでは、労働問題に絡んだニュースや、一番身近な法律問題である「労働」について、できるだけ分かりやすく解説していきます!2021年3月、KADOKAWAから「武器としての労働法」を出版しました。

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