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「残業代ゼロ」制度を考える(その2)~年収1000万円は長時間労働地獄へのカウントダウンの始まり

佐々木亮弁護士・日本労働弁護団幹事長

ついに「新しい労働時間制度」の政府案が明らかになりました。

「残業代ゼロ」対象は年収1千万円以上 政府が方針決定

上記の朝日新聞の報道によると、

田村憲久厚生労働相は会合後、「少なくとも対象者が年収1千万円を割り込むことはなくなった」と述べた。「職務範囲が明確」「高度な職業能力を持つ」との条件もつける。

出典:朝日新聞

とのことです。

「な~んだ。年収1000万円か。オレ、関係ねえや。よかったぜ。ふぅ。」

とか思う方もおられるやもしれません。

しかし!

安心してはいけません。1000万円なんて最初だけです。

「ちょ、待てよ。お、お前、まさか田村厚生労働大臣様が言ってることを、信じないって言うのか?! 正気か?!」

とか思う方もおられるやもしれません。

ここで、山井和則衆議院議員のツイートをどうぞ。

残業代ゼロ制度「年収要件が1000万円以上との議論があるが3年、5年後も変わらないのか」と私。田村大臣は「年収要件が永遠に変わらないことはない」と答弁。1度、残業代ゼロ法案が成立すれば、簡単に年収要件は引き下げられます。

出典:山井議員ツイッター

ほら。このように、年収要件なんて、簡単に下がっていくのですよ。どうですか。もうお分かりでしょう。

「いや、まさか、そんなはずはない。お、お、俺たちの安倍内閣が、そんなご無体なことをするはずがない。そうだ! 年収要件は上がる方に変わるんだよ。そうに違いない。よかった。やっぱり、よかった。ふぅ。とにかく、ふぅ。」

とか思う方もおられるやもしれません。

ここで、2005年の経団連のレポートをどうぞ。

ホワイトカラーエグゼンプションに関する提言(2005年)

*ホワイトカラーエグゼンプションとは、今、まさに議論されている「残業代ゼロ」制度のことです。

彼らの考えている年収はというと・・・

当該年における年収の額が 400万円(又は全労働者の平均給与所得)以上であること。

出典:ホワイトカラーエグゼンプションに関する提言

・・・400万円。

ボーナスなしだと額面で1カ月33万円。手取りだと20万円台半ばから後半といったところでしょうか。

平均以上の所得だと、もう残業代は出さなくてもいいんだ、というのが経団連のお歴々の本音なのでしょう。

「で、でも・・・。まさか、平均より下なら、大丈夫だよね? いくらなんでも平均より下なら大丈夫でしょ。よ、よかった。ふ、ふぅ。強引に、ふぅ。」

と思う方もおられるやもしれません。

ここで産業競争力会議の出している「新しい労働時間制度」をどうぞ。

個人と企業の持続的成長のための働き方改革

ここには、「職務・成果に応じた適正な報酬確保、効率的に短時間で働いて報酬確保」とあるだけで、なんと年収要件さえないのです・・・。

そうです。本音は、年収なんかで区分けしたくもないのです。

結局、本当の狙いは年収に関係なく残業代を払わなくてもよい労働者層を作り出すことです。

初めは1000万円でも3000万円でも何でもいいのです。

あとはカウントダウンを始めればいいのですから。

絶対に実現させてはならない

残業代の制度は長時間労働をささやかに規制するものです。

この程度では長時間労働が規制しきれていないのは、多くの過労死・過労自殺が発生している悲しい事実が証明しています。

このささやかな規制さえも外そうというのでしょうか。

労働法制の規制緩和は、まずはアリの一穴から入り、そこからじわじわ広げて、いつの間にか原則・例外が逆転するというのがパターンです。これは派遣法の改正の歴史を見ればよく分かります。

ですから、1000万円というところに惑わされないで、収入がそれに達しない人もみんなで反対しないと、気づいたら自分も「残業代ゼロ」制度の対象だった・・・なんてことは、冗談ではなく起こり得ると思います。

ですので、こんな制度を絶対に実現させてはなりません。

ぜひ、皆様も、このような制度を実現させないために、声を上げていただければと思います。m(_ _)m

弁護士・日本労働弁護団幹事長

弁護士(東京弁護士会)。旬報法律事務所所属。日本労働弁護団幹事長(2022年11月に就任しました)。ブラック企業被害対策弁護団顧問(2021年11月に代表退任しました)。民事事件を中心に仕事をしています。労働事件は労働者側のみ。労働組合の顧問もやってますので、気軽にご相談ください! ここでは、労働問題に絡んだニュースや、一番身近な法律問題である「労働」について、できるだけ分かりやすく解説していきます!2021年3月、KADOKAWAから「武器としての労働法」を出版しました。

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