小泉進次郎氏の「解雇規制の見直し」という自民党総裁選公約について
解雇規制の緩和を公約に掲げる小泉氏
自民党の総裁選が行われることが決まり、続々と候補者が記者会見しています。
9月6日には有力候補と目されている小泉進次郎氏が立候補の記者会見を開いたそうで、多くの報道がなされました。
その中で、総裁選の公約としてどうしても見逃せないものがありました。
実際に話した内容はこちら
実際にどのような言い方をしているのか、調べてみますと、次のように述べておられました。
現在の日本における解雇規制の内容
このように、小泉氏は強い決意で解雇規制の見直しをしようと述べています。
では、ここで現在の労働契約法16条の解雇規制を見てみましょう。
「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」
基本的な解雇規制はこれだけです。
これを緩和するとなると、「解雇は、客観的で合理的な理由がなくても、また、社会通念上相当であると認められなくても、有効である」ということになるのですが、これは事実上、解雇自由を意味します。
解雇が自由になるとどうなるのでしょうか。
- 社長からセクハラをされて抗議をしたら解雇
- 上司に意見をしたら反抗的だとして解雇
- 専務のお子さんの面倒をみることを断ったら解雇
- 有給休暇を申請したら解雇
など、どんな理由でも気に入らなければ解雇になる、ということになります。
小泉氏は何を想定してるか?
もっとも、小泉氏は、記者会見で記者からの質問に答える中で、解雇規制緩和をすることについて、次のように述べています。
この発言を要約すると、
- 大企業に限定して解雇規制緩和
- 会社都合の整理解雇の解雇回避努力を緩和
- 解雇回避努力義務の内容としてリスキリング、再就職支援を義務づける
- 来年国会に法案を出す
ということになります。
ただ、不思議なのは、我が国の労働法と呼ばれる法律の中には、整理解雇についての定めがないのです。
たしかに、整理解雇、つまり、会社の経営都合による人員削減のための解雇においては、次の4つの要件(要素)が必要とされるのが裁判例です。
(1)人員削減の必要性
(2)解雇回避努力の履行
(3)人選の合理性
(4)説明・協議責任の履行
ただ、これは長年積み上げられた裁判例の結果であり、法律ではないのです。
また、我が国の解雇規制は、大企業とそれ以外の企業とで分けて規制がなされているわけでもありません。
そうなると、大企業に限定して、解雇回避努力の内容にリスキリングと再就職支援を義務づけるということは、そもそも法律がないのに、どうやってやるの? ということになります。
そもそも解雇規制の問題でもない
そして、何より問題なのは、解雇規制の緩和と労働市場の流動化とは関係がない、ということです。
小泉氏は、現在の解雇規制について、「大企業については解雇を容易に許さず、企業の中での配置転換を促進してきました。」と述べますが、解雇規制は企業規模で変わるわけではありません。
もっとも、大企業は人員整理するほど赤字になることが少ないので、このような認識なのかもしれませんが、黒字であるのに一方的に労働者のクビを切る方が問題であるに過ぎません。労働者は使用者の駒ではなく、一人一人生活があるのです。
さらに、小泉氏は、現在の解雇規制について、「働く人は業績が悪くなった企業や居心地の悪い職場に縛りつけられる今の制度」と断定しています。
しかし、労働者には職業選択の自由があり、自らの意思で会社を辞めることはできるのです。
したがって、
「会社が解雇してくれないので、私は転職ができないのです」
ということは、起きません。
転職しやすくしたいのなら・・
労働市場を流動化させるのは、労働者が転職しやすいように、退職時のセーフティーネットを拡充することや、新しい技能を身につけるための研修・訓練の充実と、さらには、それに労働者が参加しやすいように労働時間を短縮していくことが必要となります。長時間労働で疲弊していては、転職活動もままなりませんので、そうした社会では労働市場の流動化なるものは起きません。
また、「経済を回す」という意味では、解雇が自由になればいつ解雇されるか分からない労働者は、できるだけお金を蓄える方向に行きます。他方、雇用が安定していれば、労働者は計画的にお金を使っていけるようになります。その意味で、一般的な解雇規制の緩和は、景気を上昇させることはないと思います。
今回、小泉氏が提言する解雇規制の緩和は、そもそも法的に不可能な気がしますが、仮にそれをやったとしても、それが解雇規制の緩和という文脈の話なのか、正直、理解しかねるものです。
いずれにしても、日本をおかしな方向へ導くのだけは、絶対にやめていただきたく思います。