【Q&A式】1から分かる「定額¥働かせ放題(残業代ゼロ)」法案の問題点
「定額働かせ放題(残業代ゼロ)」法案が閣議決定されましたので、統一地方選が終われば、審議入りするものと思われます。
今後、この法案についてメディアで触れられる機会も増えるでしょうから、前にもQ&Aを作りましたが、議論も進んだようですので、改めてQ&A式で解説します!
ちなみに、反対の電子署名をやってますのでよろしくお願いします。
また、4月23日にはブラック企業被害対策弁護団がシンポジウムを開きますので、そちらもよろしくお願いします!
そこでは、「ブラック法案によろしく」のスライド版を放映するので、是非、見に来て下さい!
では、Q&Aスタートです!
Q 今回、新しく導入される「高度プロフェッショナル制度」はどういう制度ですか?
A 労働基準法の中の労働時間規制に関する法律が適用されなくなる制度です。
【補足】
これはどういうことかと言いますと、残業代に関する労働基準法37条が適用されないのは有名ですが、それ以外にも主に次の条文が適用されなくなります。
という1日8時間、週40時間という労働時間制限の規制や、
という6時間を超えて働かせる場合の45分の休憩、8時間を超えて働かせる場合の1時間の休憩を取らせなければいけないという規制や、
という週1回の休日や4週4回の休日に関する規制、
こういった規制の全部が適用除外されるということです。
Q この新しい制度の対象者はどういう人がなるのでしょうか?年収1075万円以上で専門職と聴きましたが?
A 高度の専門職で年収が労働者の平均年収額の3倍程度の人が対象です。最初は。
【補足】
法案では、
一 高度の専門的知識等を必要とし、その性質上従事した時間と従事して得た成果との関連性が通常高くないと認められるものとして厚生労働省令で定める業務のうち、労働者に就かせることとする業務(以下この項において「対象業務」という。)
二 この項の規定により労働する期間において次のいずれにも該当する労働者であつて、対象業務に就かせようとするものの範囲
イ 使用者との間の書面その他の厚生労働省令で定める方法による合意に基づき職務が明確に定められていること。
ロ 労働契約により使用者から支払われると見込まれる賃金の額を一年間当たりの賃金の額に換算した額が基準年間平均給与額(厚生労働省において作成する毎月勤労統計における毎月きまつて支給する給与の額を基礎として厚生労働省令で定めるところにより算定した労働者一人当たりの給与の平均額をいう。)の三倍の額を相当程度上回る水準として厚生労働省令で定める額以上であること。
とされています。
分かりにくいですが、
1)高度な専門職で成果と時間の関連性が高くない業務(←それが何かについては省令で定める)
2)書面などで職務内容が明確になっている(←書面以外の方法は省令で定める)
3)平均年収の3倍を相当程度に上回る(←具体的な金額は省令で定める)
ということです。
ただ、最初はこうして対象者を絞っておりますが、法律ができればそう遠くないうちに対象者は広げられます。絶対に。これは絶対です。
その理由は書きの記事で書きました。
・<残業代ゼロ・過労死促進法案>他人事ではない!~年収1075万円は絶対に下げられる5つの理由
かつては年収400万円と公言していましたし、最近でも「経団連会長、「脱時間給制度」で要件緩和求める」との記事にもあるように、法律ができる前から規制緩和を求めているくらいですからね・・・。
Q 報道では『成果に応じた新たな賃金制度」』とありますが、法案のどこに書いてあるのでしょうか?
A どこにも書いてません。
【補足】
ここは次の記事を読んでいただければ分かります。
【法案版】「定額働かせ放題」制度・全文チェック!~「成果に応じた新たな賃金制度」との誤報も列挙!
法案のどこを読んでも書いてありませんので、メディアの各種報道は誤報ということになります。
これは、イメージ先行なのか、何度も言わないと分かってくれないので、もう一度言いますが、
成果に応じた新たな賃金制度
などというのは全くのウソなのです。
Q この法案が通れば、短時間で成果を上げたら帰宅してもよいとききましたが、本当ですか?
A ウソです。
【補足】
短時間で成果を上げたら帰宅してもOKということ自体は、現行法のもとでも誰も規制していません。
今でも企業がその気になればできるのです。
ですので、何も新しい制度を作る必要はありません。
また、逆に、この制度ができても、Aという仕事で成果を上げたとしても、次にBという仕事を与えられれば、結局早くは帰れません。
この法案には、「追加の仕事を命じてはいけない」などという内容は一切含まれておりませんので。
したがって、「早く帰宅できる」ということは、この法案とは全く関係ないところの話なのです。
Q この制度を導入すれば、残業代狙いのダラダラ残業が減っていいと思うのですが?
A 残業代狙いのダラダラ残業自体がほとんどありませんので、制度を導入しても意味はありません。
【補足】
そもそもダラダラ残業を防止するために、わざわざ法改正をするというのは大げさすぎますね。
もし、ダラダラ残業があるのであれば、それこそ企業が努力して、是正すべきことでしょう。
調査ですが、たとえば、東京都の「中小企業等労働条件実態調査」(2008年)では、時間外労働を行う主な理由はつぎのとおりです。
1位「業務量が多い」(40.4%)
2位「自分の仕事をきちんと仕上げたい」(35.9%)
3位「所定外でないとできない仕事がある」(17.7%)
4位「人員が不足している」(16.2%)
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8位「収入を確保する」(3.9%)
独立行政法人労働政策研究・研修機構の調査(2010年12月)では、所定労働時間を超えて働く理由は以下の通りです。
1位 管理職・非管理職ともに「仕事量が多いから」(管理職63.9%、非管理職62.5%)
2位 管理職・非管理職ともに「予定外の仕事が突発的に飛び込んでくるから」(管理職36.0%、非管理職31.2%)
3位 管理職「自分の仕事をきちんとしあが得たいから」(30.9%)
非管理職は「人手不足だから」(30.2%)
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「残業手当や休日手当を増やしたいから」は、管理職で0.1%、非管理職で3.9%
<独立行政法人 労働政策研究・研修機構「仕事特性・個人特性と労働時間」調査結果(2010年12月7日)より>
最近の調査も
1位 仕事量が多いから 62.4%
2位 予定外の仕事が突発的に発生するから 28.1%
3位 人手不足だから 26.9%
となっています。
(働き方・休み方改善指標13頁より)
民間の調査でも同様の結果です。
たとえば、レジェンダ・コーポレーション株式会社が実施した調査でも
1位 自身に任される仕事量が多い 61.6%
2位 残業時間帯に会議や準備等をしないと仕事が進まない 31.2%
3位 仕事の難易度が高い 25.1%
(2014年 若手社会人「残業に対する意識・実態調査」結果より)
となっています。
残業をする理由の圧倒的多数が業務量が多いからであるのに、ダラダラ残業を減らすために新しい制度を導入しようというのが、そもそも胡散臭い話なのです。
Q でも残業代が出ないなら、長時間働いても意味がないから早く帰ろうとするんではないでしょうか?
A いいえ。逆に長時間労働になります。
【補足】
ある調査で、雇用形態による労働時間の長さを調査したものがあります。
それは、「働く場所と時間の多様性に関する調査研究」というもので、独立行政法人労働政策研究・研修機構が2009年に実施した調査です。
これによると、次の結果が導かれています。
時間管理のない労働者(1カ月の労働時間)
221時間以上が43.4%
281時間以上が21.2%
これは管理監督者扱いをされ、残業代が出ない労働者が該当します。
裁量労働制・みなし労働(1カ月の労働時間)
221時間以上が50.8%
281時間以上が17.7%
こちらも一定の残業時間をみなした労働者が該当します。
この制度の場合、一定の時間以上働いても残業代は増えません。
では、他方で、通常の勤務時間制度の労働者はどうでしょうか?
彼らの時間外労働に対しては残業代が払われます(払わないと違法です)。
通常の勤務時間制度(1カ月の労働時間)
221時間以上が25.2%
281時間以上が 5.6%
このように、通常の時間管理がされている労働者の方が残業時間が短い傾向であることが分かります。
ちなみに、221時間以上は、法定労働時間を基準とすると、およそ50時間ほどの残業時間となります。
281時間以上となると、100時間超の残業時間となります。
Q 過労死しないように健康確保措置があるということですが?
A 名ばかりの健康確保のための制度がありますが、ザルです。
【補足】
これについては、以下の記事に書きました。
・1日24時間働くのと、1年360日働くのと、どっちがいい?~残業代ゼロ制度の笑えない「健康確保措置」
(1) 労働者に24 時間について継続した一定の時間以上の休息時間を与えるものとし、かつ、1か月について深夜業は一定の回数以内とすること。
(2) 健康管理時間が1か月又は3か月について一定の時間を超えないこととすること。
(3) 4週間を通じ4日以上かつ1年間を通じ104 日以上の休日を与えることとすること。
このうちの1つを取ればOKということです。
逆に言えば、それ以外は一切フリーです!
(1)を取れば、360日連続勤務もOKですし、(2)をとってもその時間内であれば休憩・休日なく働かせてもOKですし、(3)をとっても休み以外は24時間働かせてOKとなるのです。
病気になっちゃいますよね。でも、これが健康確保ための措置です。
Q この新しい制度以外にも、裁量労働制の拡大があると聴きましたが?
A そうです。こちらの方が即効性がある分、問題が多いです。
【補足】
これも高度プロフェッショナル制度と同じくらい、いや、それ以上の大問題かもしれません。
以下の記事に詳細を書きました。
・ブラック企業にとって即効性のある栄養剤!~裁量労働制の拡大、それはもう1つの「定額¥働かせ放題」制度
つまり、これまで対象外とされてきた個別の営業活動を行う労働者にまで裁量労働制の適用範囲を広げる可能性のあるものとなっています。
顧客のニーズ・課題・抱えている問題を想定して提案していく営業が含まれるわけですが、このような営業スタイルは特別なものではありませんよね。
なので、店頭販売等の極めて単純な営業業務を除き、非常に広い範囲の個別営業が裁量労働制の対象となりかねないものです。
また、現場で業務管理を行う労働者がすべて対象とされる危険も含んでいます。
これは、企画やプロジェクトを行う場合の係長やプロジェクトリーダー、さらにそれに留まらず、現場で業務管理を行う労働者に広く対象範囲が及ぶ可能性があるものです。
場合によっては、個別の製造業務、備品等の物品購入業務、庶務経理業務等を除く広範な一般業務がその範囲に含まれることになりかねないのです。
おわりに
とりあえず、Q&A形式にしてみました。
国会での議論はこれからが本番になります。
報道などをご覧になる際にご参考になれば幸いです!