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「残業代ゼロ」法案(定額¥働かせ放題)推進派との議論で見えてきたこと その1

佐々木亮弁護士・日本労働弁護団幹事長

3月3日、BS11の報道ライブ21 INsideOUTに出演しました。八代尚宏教授との討論形式の番組で、大変白熱した議論となりました。

これについては、渡辺輝人弁護士による番組宣伝(?)もあり、ちょっとした注目もありました。

渡辺弁護士の記事でも引用していますが、以下の記事をまずは読んでいただくといいかもしれません。

八代尚宏教授の記事

「残業代ゼロ」法案=過労死法案の誤解を解く(ダイヤモンド・オンライン) - Yahoo!ニュース

それに対する私の記事

過労死を促進させる「残業代ゼロ」法案を「過労死防止法案」と呼ぶべきとする珍論について

さて、テレビの議論は時間的制約もありますし、そもそもBSだったのであまり見てない人も多いかと思いますので、おさらいをしつつ、補足していきます。

「成果で報酬」という誤り

まず、番組では、次の内容のフリップが出されました。

BS11 報道ライブ21 INsideOUT 3月3日放送より
BS11 報道ライブ21 INsideOUT 3月3日放送より

このフリップに対し、私からは、「報酬は? 成果で決める」という点について、これは制度に入ってないことを指摘しました。

ここはもう何度も、私だけでなく、多くの人が指摘しているところですので、重ねては言いませんが、今回の新たな制度には「成果で報酬を決めましょう」などという内容は一切含まれていません。

何となく、そういう人に適用されるのだろうな、と思いがちなのですが、書いてないものは書いてありませんので、こういう記載は誤りということになるでしょう。

【この点の参考記事】

<残業代ゼロ制度>「時間でなく成果で評価される」という大ウソ~ただのブラック企業合法化制度

政府が提案する「残業代ゼロ制度」(『定額¥働かせ放題』制度)についてのQ&A

他方、八代教授は、残業代が固定で払われるから、「残業代ゼロ」が誤解だ、などと述べていましたが、今回の新制度にそのような賃金関連の記載は一切ありませんので、事実に反する指摘であると言えます。

健康確保措置のごまかし

八代教授は、残業代ゼロ制度のメリットとして、次のフリップを出しました。

BS11 報道ライブ21 INsideOUT 3月3日放送より
BS11 報道ライブ21 INsideOUT 3月3日放送より

ここに「労働時間の上限が初めてできた」とあるため、私はそのような制度はできていない、と指摘しました。

八代教授は、最初のフリップの「健康確保のために」の措置を「労働時間の上限」だと指摘しているのですが、これは明らかな誤りです。

まず、先のフリップの「健康確保のために」の1~3ですが、その部分をもう一度抜き出すと次のとおりです。

1 仕事の終わりから次の仕事の開始まで一定の時間を設ける

2 働く時間に上限を設ける

3 年休104日

これは、このうち1つを選択すればいいわけです。

この点について、2の「働く時間に上限を設ける」を選択する企業があれば、まだしも、もし1と3を選択したらどうなるでしょうか?

たとえば、「1 仕事の終わりから次の仕事の開始まで一定の時間を設ける」を選択したとします。

この一定の時間を11時間と仮定しましょう。

そうすると、規制はこれだけですので、他の休憩、労働時間、休日などの規制は外れることになります。

ただ、5日間の有給の強制取得はありますので、5日だけは休ませないといけません。

すると、

13時間、休憩なく、360日(5日は有休)働かせてもOK

ということになるわけです。

この点は、民主党の岡本充功(みつのり)議員が塩崎厚労相に質問し、大臣から「理論的に可能」という答弁がなされています。

また、「3 年休104日」を選択したとします。

すると、365日-(104日+5日(有休))ですから、

256日は24時間以内であればいくらでも働かせ放題

ということになります。

果たして、これで健康確保措置といえるでしょうか?

少なくとも「労働時間の上限が初めてできた」などと評価できないのは明らかです。

もう少しまともな議論を期待していましたが、その後も繰り返しこれを「労働時間の上限」と繰り返すので、驚いてしまいました。

(その2へ続く)

「残業代ゼロ」法案(定額¥働かせ放題)推進派との議論で見えてきたこと その2

弁護士・日本労働弁護団幹事長

弁護士(東京弁護士会)。旬報法律事務所所属。日本労働弁護団幹事長(2022年11月に就任しました)。ブラック企業被害対策弁護団顧問(2021年11月に代表退任しました)。民事事件を中心に仕事をしています。労働事件は労働者側のみ。労働組合の顧問もやってますので、気軽にご相談ください! ここでは、労働問題に絡んだニュースや、一番身近な法律問題である「労働」について、できるだけ分かりやすく解説していきます!2021年3月、KADOKAWAから「武器としての労働法」を出版しました。

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