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なぜ<家事使用人>には労基法の適用がないのか? 現代に合わない労基法116条2項は速やかに改正が必要

佐々木亮弁護士・日本労働弁護団幹事長
(写真:イメージマート)

「家事」は労働基準法の適用外?!

 昨年(2022年)9月29日、家政婦兼介護ヘルパーとして住み込みで働いていた女性の労災申請が認められなかったことに対する取り消しを求めた事件の判決がありました。この事件で女性の遺族は、女性が亡くなったのは過重労働が原因であると主張していました。

 ところが、東京地裁は、労働基準法上「家事」は労災の適用外だとして、「介護」のみの労働時間だけを考慮し(当然、労働時間は少なくカウントされます)、この女性の死因はいわゆる過労死ではないと結論付けて、遺族の請求を棄却しました。

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 労働者側の敗訴判決でありながらも、この判決は、家政婦業などに従事する家事使用人が労働基準法の適用がないとされていることのおかしさを、多くの人に気づかせることになりました。

 この判決の反響は大きく、2022年10月14日には、厚生労働省が、家事使用人について労働基準法の規定全てを適用除外とする116条2項の規定に関し、実態調査に乗り出す方針を固め、調査結果を踏まえて必要があれば同規定の見直しを検討するという方針であることが報道されるまでになりました。

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 この問題については日本労働弁護団も声明を出していますが、声明なのでやや難しいところもあるため、以下、ここで少し解説していきます。

労働基準法116条2項とは?

 まず、ここで話題となっている労働基準法116条2項はこんな規定です。

この法律は、同居の親族のみを使用する事業及び家事使用人については、適用しない

 この条文にある「この法律」とは、労働基準法そのものです。したがって、この条文では、家事使用人については労働基準法が適用されないと明確に述べているわけです。

 そのため、この条文にあてはまる家事使用人には、休日、労働時間、休憩、年次有給休暇、労災補償その他もろもろ労働基準法上にある労働者の権利が全く保障されないということになります。

行政解釈では

 ただ、さすがに、家事使用人の全てに労働基準法を適用しないというのは行き過ぎですので、行政での解釈では、ここでいう「家事使用人」には、家事代行業者に雇用されている者は該当しないとされ、業者に雇用されている家事使用人には労働基準法が適用される前提で運用されています。

 とはいえ、業者に雇用されていない家事使用人(たとえば個人が雇う家政婦など)には、全く労働基準法が適用されないということになるわけですから、やはりその影響は強烈です。

 そもそも、誰に雇用されようと労働者であることには変わりはありません。

 言うまでもありませんが、憲法27条2項には「賃金、就業時間、休息その他の勤労条件に関する基準は、法律でこれを定める。」と定められています。この代表的な法律が労働基準法なわけですが、家事使用人にはそれが適用されないとなっているのですから、そもそもこの憲法の要請に応えられていないのではないかとさえ思います。

どうしてこうなっているのか?

 しかし、なぜ家事使用人を労働基準法の適用対象外としているのでしょうか。

 この点について、労働基準法について書いてある文献をみると、家事使用人に労働基準法を適用しないとした116条2項の趣旨としては、次のような解説がなされています。

 まず1つは「家庭内のことに公権力は介入できない」というものです。法は家庭に入らずという昔からの法諺(法格言)がありますが、それが第一の意味ということになります。

 次に「その労働の態様は、各事業における労働とは相当異なるものがあること」という解説もあります。これは、家事労働は工場などでの労働とは大きく違うという意味合いです。

現代にそぐわない規定は改正を

 しかし、こうした趣旨は現代ではもう意味がないといえます。

 まず、家事使用人の労働が家庭内で行われるものであっても、それが労働であることに変わりはありません。その雇用主が個人であろうと、他人と労働契約を結び、家事という労働をさせ、その対価である賃金を払うわけですので、そこに差はありません。

 また、そもそも労働の態様が多様化している現代においては、家事使用人による労働が他の事業と相当異なるとも言い切れないのではないでしょうか。世の中にはいろいろな仕事があり、労働の内容も千差万別で多様化しています。家事使用人の労働だけ特別に特殊なものであるとはいえないと思います。

 このように考えると、現代における家事使用人とその使用者との関係は、通常の使用者と労働者の関係と特に変わるものではない、ということになります。

 そうすると、家事使用人には労働基準法を適用しないとした同法116条2項の趣旨は既にないといってよく、公権力の介入できない労働関係とする理由も存在しないというべきだと思います。

 逆に、家事使用人の労働は、家庭内で行われる労働であるため、外部の目が届きにくいという怖さがあります。そう考えると、むしろ他の労働と比べてより公権力が介入すべき要請は強いといえるのではないでしょうか。

家事使用人に労働基準法が適用されるよう速やかに法改正を!

 以上のとおりですので、政府は、家事使用人に全面的に労働基準法が適用されるよう法改正を行うべきだと考えます。

 調査を行ったうえで、速やかに国会で議論し、労働基準法116条2項の改正をしていただきたいと思います。

弁護士・日本労働弁護団幹事長

弁護士(東京弁護士会)。旬報法律事務所所属。日本労働弁護団幹事長(2022年11月に就任しました)。ブラック企業被害対策弁護団顧問(2021年11月に代表退任しました)。民事事件を中心に仕事をしています。労働事件は労働者側のみ。労働組合の顧問もやってますので、気軽にご相談ください! ここでは、労働問題に絡んだニュースや、一番身近な法律問題である「労働」について、できるだけ分かりやすく解説していきます!2021年3月、KADOKAWAから「武器としての労働法」を出版しました。

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