Yahoo!ニュース

普通列車も一部は通過、国鉄時代は時刻表に載らなかった! 愛称は「朝礼台」 板切れホームの仮乗降場

清水要鉄道・旅行ライター
宗谷本線 南比布駅(廃止)

 明治以降、全国各地に線路が張り巡らされ、沿線の発展や住民の要望などにより多くの駅が設置されてきた鉄道。現代でも、年に数駅は新規に駅が開業するが、駅の設置は費用面でもシステム面でも容易なものではない。まずは予算を確保し、駅を造るための土地も手に入れ、見込まれる利用者数に合わせた設備を建設する必要がある。また、運賃システムや時刻表も改変しなければならないし、他の駅の掲示も張り替えなければならない。小さな私鉄ならともかく、全国に線路を張り巡らせていた国鉄の場合、その影響は全国に及んだ。

 これらの煩雑な手続きを回避すべく国鉄時代の北海道で数多く生まれたのが「仮乗降場」だ。国鉄本社の認可を受ける必要のあった正式な駅と違い、鉄道管理局(国鉄時代におけるJRの支社のようなもの)の判断で設置できるものだった。

石北本線 東雲駅(廃止)
石北本線 東雲駅(廃止)

 仮乗降場は運賃計算のための営業キロが設定されておらず、降りる場合は一駅先、乗る場合は一駅前の営業キロで運賃が計算されていた。全国版の時刻表にも載っておらず、多くの場合は道内版の時刻表にのみ載っていたが、その表記が間違っていたり、道内版にすら載っていない仮乗降場もあった。

 青函トンネルがまだなかった当時の北海道は、文字通りの離れ小島。線路が繋がっておらず、他地方への影響が少ないからこそ時刻表にない仮乗降場が多数存在できたという面もあるのだろう。

宗谷本線 南美深駅(廃止)
宗谷本線 南美深駅(廃止)

 仮乗降場の設備は基本的に簡素で、気動車一両すらはみ出すような板切れホームの駅が多かった。この板切れホームは鉄道ファンからは「朝礼台」の愛称で親しまれ、時刻表に載らないというミステリアスな面もあいまって一部のファンの注目を集めていた。また、正式な駅と遜色のない土盛りホームの仮乗降場もあった一方で、南幌延駅のように正式な駅にも関わらず仮乗降場のような雰囲気の駅もあった。

宗谷本線 南美深駅の待合所
宗谷本線 南美深駅の待合所

 少ない費用で建設された仮乗降場には最初から駅舎や待合室が用意されていないことが多く、そうした場合には地元自治会や近隣住民が自力で待合室を設置していた。国鉄が建設した待合室と比べると寸法やデザインもマチマチだったが、それだけに手づくり感があって心惹かれる待合室だった。

 待合室代わりに廃バスを置いたものや、老朽化した待合室に替わって市販の物置を設置したところもあり、前者では石北本線の生野駅(廃止)、後者では宗谷本線の糠南駅がよく知られている。

根室本線 羽帯駅(廃止)
根室本線 羽帯駅(廃止)

 仮乗降場が主に設置されたのは、人口の希薄な北海道の田園地帯や牧草地帯。もとより利用は見込めず、普通列車でも通過する列車が多かった。それでも学生の通学や、車を持たない高齢者の通院などの需要があり、今ほど道路整備が進んでいない時代には地域にとって欠かせない存在だった。早期に廃止されたものやのちに正式な駅に昇格したものも含めて道内で200以上の仮乗降場が設置されており、その全容を掴むのは容易ではない。インターネットもなく、駅を趣味対象とするファンも少なかった当時、それらの仮乗降場をすべて訪れることができた人はおそらくいなかったであろう。

宗谷本線 天塩川温泉駅
宗谷本線 天塩川温泉駅

 仮乗降場の中には「仮」のまま正式な駅になることなく、路線廃止や利用者減で消えたものも多かった。一方で、昭和62(1987)年4月1日のJR北海道発足まで存続することができた仮乗降場は客扱いをしていた信号場とともに正式な駅に昇格。時刻表にも載り、晴れて全国にその名を知られることになった。平成2(1990)年3月10日には営業キロも設定されているが、停車本数などは国鉄時代と変わらないままだった。

廃止後の石北本線 生野駅
廃止後の石北本線 生野駅

 こうして正式な駅に昇格した仮乗降場だったが、取り巻く環境は年々厳しさを増していく。過疎化や車社会化で利用者は減少を続け、それによって存在意義を喪失した駅は、元々の正式な駅も元仮乗降場も同じように廃止されていった。

宗谷本線 糠南駅
宗谷本線 糠南駅

 現存する駅のうち、板切れホームなどが残っていて仮乗降場らしい雰囲気を残している駅は、以下の通りだ。

宗谷本線:瑞穂駅、日進駅、天塩川温泉駅、糠南駅、南幌延駅(当初から正駅)

釧網本線:桂台駅

根室本線:東根室駅

留萌本線:北秩父別駅

室蘭本線:小幌駅(元信号場)

函館本線:渡島沼尻駅(元信号場)

 このうち南幌延駅と東根室駅は来年3月での廃止方針が報じられており、北秩父別駅は令和8(2026)年3月末での路線廃止が計画されている。今のところ安泰と言えるのは網走市の中心近くにあって利用の多い桂台駅と、観光地と化している小幌駅のみだ。かつて全道で見られた「朝礼台」のような駅が姿を消す日もそう遠くないのかもしれない。

関連記事

日本最東端の駅、来春ダイヤ改正での廃止検討 根室本線 東根室駅(北海道根室市)

築74年の木造駅舎が残る市街地内の利用僅少駅 来年3月廃止方針 根室本線 東滝川駅(北海道滝川市)

雄信内・南幌延・抜海だけじゃない!一日平均乗車人員3人以下、宗谷本線の廃止危惧駅16

木造駅舎の残る北の秘境駅 来年3月で廃止か 宗谷本線 雄信内駅(北海道天塩郡幌延町)

雄信内駅と共に来年3月廃止へ 板張りホームの秘境駅 宗谷本線 南幌延駅(北海道天塩郡幌延町)

廃止への布石? システム切替により宗谷本線抜海駅・佐久駅の2番ホームが9月24日以降使用停止に

日本最北の無人駅 令和7(2025)年3月で廃止か 宗谷本線 抜海駅(北海道稚内市)

恩根内駅、初野駅、愛山駅、滝ノ上駅、中ノ沢駅 JR北海道の無人5駅の来年3月廃止が確定

JR北海道が42駅の廃止を検討! 来春廃止はそのうち4駅

JR北海道発足後、廃止になった駅はいくつある? 整理が進む利用者僅少駅

鉄道・旅行ライター

駅に降りることが好きな「降り鉄」で、全駅訪問目指して全国の駅を巡る日々。

清水要の最近の記事